嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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皆様はアニメとか漫画の日常パートって好きですか?私は大好きです♡




食事、そして契約

 

 

 数分後、リゼが戻ってきた。その服装はなんとも可愛らしい、あざとさすら感じるモコモコの部屋着。なんだこの女。服装が極端すぎるぞ。

 

「さて、食べるとしよう。……にしても美味しそうだな」

「ありがとうございます。いい食材ばっかりだったので、料理してて凄く楽しかったです。ささ、師匠。冷めないうちに食べちゃいましょう」

 

 シチューから立ち上る湯気。匂いを嗅いでいるだけでも涎が出てくる。

 

 まずはシチューのスープから一口。うん、美味い。

 

 最初に感じるのは葡萄酒の深みとウサギのダシの旨み。その深みの中には、確かに野菜の焦げの苦味も感じる。その後から追いかけてやってくるのは脂の旨み。うさぎ特有の甘みのある脂と、足りないパンチを補うベーコンの燻製された香りと脂。黒胡椒もよいアクセントだ。

 

 次にスプーンでウサギの肉を掬う。触れたそばから肉が解ける。とんでもない柔らかさだ。

 

 口に入れると、一瞬にしてホロホロと肉が崩れる。しかし咀嚼すると、その肉はプリプリとした弾力とともに歯切れ良く噛み切れる。崩れるほど柔らかいのに、弾力を残した火入れ。完璧だ。

 

 肉の味は淡白ではあるものの、旨みの強いシチューソースが染み込んでいるため、味気なさはまるでない。奥の方にはジビエ特有の野生的な香りがほのかに感じられる。滋味のある味わいだ。

 

「ん……これは、想像以上に美味いな。正直、こんなに美味いウサギを食べたのは初めてだ」

「本当ですか?そう言っていただけると弟子として冥利に尽きますね」

「本当だ。それに、酒にも本当に合うな」

 

 シチューを食べながら、リゼはグラスに注いだ葡萄酒を飲む。酒を飲む時のうっとりとした目つきがどこか色っぽい。カインはなんだがいけないものを見ているような気がして、リゼから目線を外し、目の前のシチューをじっと見つめた。

 

「カイン。君は酒を嗜むか?」

「まあ、それなりに。好きな方ではありますね」

「そうか。好きな酒を飲んでいいぞ。こんなに美味い料理で飲まない方が損だ。どれ、私が注いでやろうか」

 

 リゼは、赤く色づいた顔で少し笑いながらそう言った。その笑顔はどこか悪戯っぽく、普段のクールな印象よりも幼く見える。

 

「では、お言葉に甘えて」

「そこで遠慮しないところが君の美点だな」

 

 カインの目の前に新しいグラスが置かれ、葡萄酒が注がれる。黒みがかった赤色がグラスの中で揺れる。この世の液体の中で一番大人っぽいな、とカインは思った。

 

 口に含んだ瞬間、葡萄の芳醇な香りが鼻を抜ける。葡萄畑が目の前に広がる、なんてことはないが確かに葡萄を目の前に幻視するほどの香りだった。それでいて口当たりが適度に軽い。味にも棘がなく、とても飲みやすかった。カインにとって葡萄酒は特段好きな酒ではなかったが、この葡萄酒なら好きと言ってもいいだろう。

 

「とっても飲みやすいですね、これ。結構高いんですか?」

「そうでもない。私が一番気に入っている安い葡萄酒だ。かなり値の張る葡萄酒が数本私の家にはあるが、それらよりも余程美味いと思ってな。これだけは必ずストックしてある」

「そうする気持ちもわかります。俺もこれ、好きです」

 

 たわいのない会話。ゆったりとした時間が流れる。こんなふうに人と話しながら食事を楽しむことが、ひどく久しぶりであることにカインは気づいた。そもそも、人と一緒に食事をとること自体が久しぶりだ。

 

「師匠、人とご飯を食べるって楽しいですね」

「ん?……ああ、そうだな。私もこんなふうに人と一緒に食事をとるのは久しぶりかもしれない。今日は美味いシチューを振る舞ってくれてありがとう。おかげで手袋は消えたが、結構幸せだ」

「なら、よかったです。よければまた振る舞いますよ」

 

 その言葉を受けて、リゼは少し考え込む様子を見せた。そして真面目な顔で口を開く。

 

「なあカイン。君、私の家に住まないか?」

「え?」

「実は、君を弟子にすることを了承した時から考えていた。私の庭はかなり広いだろう?あれは体を動かすのに丁度いい広さなんだ。一々訓練所に行くためだけに私がギルドに出向くのも面倒だ。君がここに住んでくれれば色々教えるのも楽になる。そっちもわざわざ宿に泊まり続けるよりはいいと思うんだが」

「その提案は願ったり叶ったりなんですが……色々と大丈夫なんですか?部屋とか、あと家賃は……」

「部屋は有り余っている。最悪増築すればいい。金も有り余っているしな。そして君が払う家賃に関してだが、金はいらん」

「それはなんというか、申し訳ないですよ」

「そこでだ」

 

 ビシッとカインの目の前に人差し指と中指が突き出される。

 

「一日二食。私のために食事を用意してくれ。それがここに住む条件だ」

 

 食事を用意するだけ。なんという好条件。あまりにもこちらに有利すぎる。

 

「本当にそれだけでいいんですか?」

「ああ。正直、この料理を食べるまではどうしようか迷っていたが、ここまで美味い料理を出されたらな。毎日でも食べたくなる。それに君も言ったが、人と共に食べる食事は、いいものだ」

 

 グラスを揺らしながらそう言うリゼ。その微笑みから本心の言葉であることが伝わってくる。

 

「……わかりました。是非とも、住まわせてください」

「よし、よく言った。この提案を飲んでくれなかったらどうしようかと思っていた。……ところで、おかわりはあるかな?」

 

 ふとリゼの皿を見ると、シチューに添えられたマッシュポテトまで綺麗に食べ切っていた。カインの料理がよほど気に入ったのだろうか。

 

「ありますよ。すぐにお持ちしますね、師匠」

「頼む」

 

 そんなこんなでリゼとカインはお互い2回ほどシチューをおかわりし、最後はバゲットで一滴残さず食べ切った。いや〜バゲットにマッシュポテトとカリカリベーコン、シチューソースをかけて食べるのは流石に犯罪的だったな……

 

「いや〜食べた食べた。こんなに満腹になるまで食べることになるとは思わなかったな」

「ほんとですね……シチュー結構量あったんですけど、食べ切っちゃいましたよ」

 

 二人のお腹は風船のように膨らんでいる。これが幸せ太りか。

 

「それに、葡萄酒が異常に合うせいで3本も開けてしまったからな。んふふ、流石に酔ったよ」

 

 上機嫌に笑うリゼ。その顔は綺麗に紅潮していた。幸せそうに目を閉じて、彼女は体を右へ左へゆらゆらと揺らしている。メトロノームみたいだ。

 

「それに比べて、弟子カイン。ふふ、君は全然酔ってなさそうだな。顔が白いぞ」

「実はこう見えて結構酔ってますよ。顔に出ないだけで」

 

 心地の良い酩酊感。世界と自分が軽くなったような感覚。これもある意味自由なのかもしれない。

 

「なら良い。酔いに温度差があるとつまらないからな。また飲む時も付き合えよ?」

「是非。こちらからお願いしたいくらいです」

「ふふふ、いい弟子を持ったものだ」

 

 ふぁ〜っとリゼは大きく欠伸をしながら伸びをする。

 

「眠くなってきたな。私はもう寝る。移動するのも億劫だし、ここのソファで寝るとする。カインは……適当に寝室を探すのもいいし、ソファは大きいからな。別に私と一緒にソファで寝ても構わない」

「正直俺ももう眠いので、ここのソファで寝かせてもらいます」

 

 二人で縦に革のソファに寝転ぶ。それでもなお、まだいくらかゆとりがある。ゆっくりと沈み込む感触からはこのソファの高級さがどことなく窺い知れる。

 

「ではおやすみ。良い夢を」

「はい、師匠。また明日」

 

 二人は満腹感と酩酊感に身を任せて、そのまま眠りに落ちていく。二人が寝息を立てるのはほとんど同時だった。

 

 

 ちなみに、翌朝カインは寝ていたリゼの足に蹴られて床に転がっていた。リゼは寝相が、少し悪い。哀れなるかな、カイン。

 

 

 

 

 

 

 





Tips:リゼは笑い上戸。飲んでて楽しいタイプ。

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