嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制) 作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)
寝坊しました…
翌朝。昨日カインがすぐに寝てしまったので、改めて闘技場とその後の出来事についてリゼとカインは話していた。
「ほう。パーティを組むのか。相手は誰だ?」
「エリスという人です。俺と最後に戦ったあの騎士です」
「おお!なるほどな!……ちなみに何故だ?」
「彼女が金級になるため、だそうです。俺としても彼女ほどの実力者なら損はないと思ったので、パーティを組んでもいいかなと。人と連携して戦う経験も必要でしょうから」
「そうだな。どんな経験もあるに越したことはない。それにしても、金級になるため、か」
「どうかしたんです?」
リゼは眉間に皺を寄せて少し悩んでいる様子だった。
「いや、彼女の戦い方を考えるに、確かに第七階層の"門番"との相性はかなり悪いだろうと思ってな。彼女が君に協力を求めるのも頷ける」
「第七階層の"門番"ってどんな相手なんですか?」
リゼがニヤリと笑う。そんなにも強敵なのだろうか。
「……ドラゴンだ。それも、巨体と火の息吹を特徴とするレッドドラゴンだ」
「ドラゴン……ほとんど御伽話の存在じゃないですか」
ドラゴン。厄災の象徴の一つ。生物でありながら、災害として扱われる、恐るべき魔物。自由自在に空を飛び、地を這う有象無象を蹂躙する暴の化身だ。ただし、目撃例はほとんどない。
「まあ、迷宮にいるドラゴンなんぞ、天井があるせいでろくに飛べないからな。ただのでかいトカゲだ」
「なるほど……ちなみにそんなドラゴンと、何故彼女は相性が悪いんですか?」
「純粋に火力が足りない。ドラゴンの鱗は硬いのさ。だから彼女とドラゴンが戦えば、お互いに有効打を与えることができず、そのまま消耗戦になるだろう」
「あ〜だから俺なんですね」
「そうだな。むしろ君は相当相性がいい。というか既に一人で攻略可能だと思うぞ」
「……てことは俺って、もう金級くらいの実力があるんですか?」
「ん?ああ、あるぞ。身体強化もかなり効率がいいし、付加魔術も最近使えるようになった。おまけに金級でも使えないものの方が多い【起源】も習得している。ほとんど全ての水準が金級に届いているな」
「それでも師匠に全く勝てる気配がしないんですけど?」
カインはリゼとの模擬戦でいまだに指一本触れることすらできていない。明らかに実力の差がある。
「……弟子カイン、もしかして君は普通の金級と会ったことがないのか?」
「言われてみれば、金級は『二つ名』を与えられている人としか会ったことないですね」
「はぁ……呆れたな。君が出会った金級は、全員探索者の頂点に位置するもの達だ。『二つ名』持ちというのは、格が違う。参考にするな。具体的に言うと、『二つ名』持ちとただの金級の実力差は、一般的な銀級と鉄級の実力差と同じくらいだ。当然例外もあるが」
ちなみに例外とは『黄金』と『全知』のことである。『黄金』は他の『二つ名』持ちですらまるで相手にならないし、『全知』は直接の戦闘力は鉄級にも劣るが手段を選ばなければ国すら滅ぼした実績がある。
「なんでそんなに差があるのに、おんなじ級の中に押し込められてるんですか……」
「周りから見れば、ある程度の実力より上ならば、ほとんど変わらないように見えるからだ。金級ともなれば、みんな凄い。そう思われてる」
「なんというか、雑ですね。ちなみに『二つ名』持ちとそれ以外ではなんの違いがあって、そんな差が生まれているんですか?」
「【起源】だ。【起源】に覚醒していることが必要条件と言ってもいい。【起源】の自覚とはそれ即ち、自身の理解。そうやって自分を理解したものだけが真に強くなれる」
「なら、俺は『二つ名』持ちになれるポテンシャルはあるってことですか?」
「……これは身内贔屓かもしれないが、十中八九お前は『二つ名』持ちになる。ちなみに『二つ名』のほとんどは【起源】の名を冠することになるから、お前の二つ名は『自由』になるだろうな」
「……めっちゃ、かっこいいじゃないですか」
自分が『自由』を冠するところを想像し、カインは興奮した。
「だがその前に、まずは銀級にならないと話にならないな。エリスとかいう新しいパーティメンバーのためにも、さっさと攻略してこい」
「わかりました」
「と、その前に。カイン。君に渡すものがある。手を出せ」
指示通りに手のひらを差し出す。リゼはその手に何かを握らせた。
「これ……リゼ師匠が指につけてるやつと同じやつじゃないですか」
「そうだ。収納の指輪と言ってだな、何か一つだけものを指輪の中に収容することができる魔道具だ。非常に便利だから、銀級以上ともなればほぼ全員がこれを使って武器を収納している。使い方はわかるな?魔素を流して
「あ、ありがとうございます。なんでこれをくれるんですか?」
「前々からあげようとは思っていたんだが、機会がなくてな。バトルロワイヤル優勝記念だとでも思っておけ」
「おおー」
銀の指輪に赤い宝石が映える。実用性と芸術性を兼ね備えた優れた指輪だ。
「これ、高いんじゃないんですか?」
「それなりだな。大体50000オンだ」
「たっか……俺の槍と同じ金額じゃないですか」
「馬鹿言え。君の槍は本来、もう二つ桁が上でもお釣りが来る代物。それほどまでに安いのはデーモンの角を自分自身で持参したのと、鍛冶屋からの好意だ。大切に扱うことだ」
槍を改めて見る。洗練されたデザイン。手に馴染む感覚。ほんとうにいい買い物をしたとしみじみと思った。……なんだか槍が不満げにカタカタと震えている、気がした。腹に穴を開けられたことを思い出し、イラッとしたカインは思いっきり槍を握り締め、魔素を流し込む。槍の震えが怯えるようなものに変わった。たぶん。
「とりあえず、この指輪はありがたく受け取ります。どうやって武器を収納すればいいんですか?」
「赤い宝石に武器を当てるだけでいい」
コツン、と槍に宝石を押し当てる。すると、宝石が光り始め、気がつくと武器は消えていた。
「流石にこれは便利ですね」
「迷宮ではあまり使うなよ。あくまでも安全な場所や街中で武器を持ち運ぶために使え。指輪から武器を召喚するのには多少の時間がかかる。その数秒で奇襲に対応できずに探索者は死ぬからな」
「はい、師匠」
「いい返事だ。さあ、迷宮に行ってこい。良い知らせを待っている」
こうして、カインの三度目の迷宮探索が始まるのだった。
「まあ、私の弟子だ。あっさり銀級になるだろ」
去っていくカインの背中を見ながら、リゼはそう呟いた。
Tips: 収納の指輪は、カインに賭けて勝った金で買った。弟子のために、弟子で得たお金でプレゼントを買うだなんて、なんてできた師匠なのだろうか。