嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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記念すべき30話目!ということで今回はたっぷり5000文字オーバーでお届けします。
書き溜め無しで毎日追われるようにして書いてますけど、なんとかなるもんですね。何よりも楽しいので全く苦ではないですが。



パーティ結成

 

 

 薄切りのベーコンを強めに焼く。ふちが黒くなり始め、見るからに香ばしそうだ。

 

「よーし、じゃあ盛り付けるか」

 

 トーストの上に、ベーコン、青菜、ポーチドエッグを乗せ、ソースをかける。最後にパセリを振りかけて完成。

 

「師匠ー、朝ごはんできましたよ〜」

 

 返事はない。いつものことである。リゼは朝が弱いので、聞こえてはいるが、ウトウトとして返事を返せない。

 

 それをカインもわかっているので、特に気にせずに出来上がった朝食を運び、テーブルに並べる。

 

 しばらく経つと、階段からゆっくりと降りてくる足音が聞こえてくる。リゼである。眠そうに目を擦っている。彼女は寝起きのせいで、目が糸かと思うほどに細かった。

 

「おはよう」

「おはようございます、師匠」

「今日は……エッグベネディクトか」

「これだけじゃ栄養が偏っているので、食後にはフルーツを用意してます」

「ふふ、ゴキゲンな朝食じゃないか」

 

 眠そうにしていてもわかるほどに、リゼは嬉しそうだった。

 

「君が弟子になってからというものの、朝が辛いのは変わらないが、朝食が楽しみでね。以前ほど朝が嫌いではない」

「いやあ嬉しいお言葉ですね」

「しかも、前は昼夜二食の外食だったのが、自宅で朝夜の二食になったおかげか、健康的な心地だ」

「師匠に体調を崩されでもしたら敵いませんからね。毎食栄養には気をつけてますよ」

「うーん、弟子じゃなくとも料理人として君を雇ってやろう」

「光栄の至り」

 

 そうやって少しふざけた後、二人は両手を合わせた。

 

「「いただきます」」

 

 ソースのかかったポーチドエッグに躊躇いなく、豪快にナイフを入れる。すると中から、黄身が溢れ出す。完璧な半熟加減だ。

 

 溢れ出した黄身とソースをたっぷりと絡めて一口。濃厚なソースとよく焼いたベーコンの塩気が、卵の黄身でまろやかにまとめられている。青菜のシャキシャキとした食感と、白身の少し弾力のある食感もアクセントになっている。そしてなによりも、それらのソースや旨みをたっぷりと吸い、それでもサクッとした食感を残したトースト。これが抜群に美味しい。

 

「我ながら、めちゃくちゃ美味いですね」

「…………」

 

 リゼの方を見ると、黙々と食べ進めていて、そのほかのことはまるで目に入っていない様子だった。

 

 最近カインが気づいたことだが、リゼは食べることがすごく好きだ。わざわざ自分で料理をしないのは、おそらく外食の方が美味しいものを食べれるからだ。

 

 だからこそ、そんな彼女が外食より自分の料理を選んでくれたことが、それに夢中になってくれていることが嬉しい。料理人冥利に尽きる。

 

「……ふう。ご馳走様。おいしかったよ」

「お粗末さまです」

 

 ナプキンで口元を拭くリゼ。その間にカインは水菓を用意した。

 

「いつも思うが、君は執事か何かをやっていたのか?」

「? やったことないですけど」

「そうか……」

 

 リゼはカインの恐ろしいほどの手際の良さに困惑した。しかし、それで自分が損をするわけでもないし、そういうものか、と思って考えるのをやめた。

 

「ところで、今日はエリスのところに行くのか?」

「ええ、その予定ですね。銀級に昇格したのも一昨日のことですし」

「早く帰ってくるんだぞ」

 

 お母さんのようなことを言いながら、リゼはイチゴや一口サイズに切られたリンゴを摘む。

 

「な、なんでですか?」

「そりゃもちろん、私の夕飯があるだろう。流石に夕飯抜きは泣くぞ」

「ああ……そんなに遅くなることはないと思いますよ。顔を見合わせて多少話すくらいで、今日いきなり迷宮に潜るわけでもないでしょうし」

「それもそうか。第七階層に挑むなら作戦の一つや二つ立てておくべきだしな」

「やっぱりそういうもんなんですね」

「らしいぞ。私は適当に攻略して適当に金級になったが」

 

 やっぱり師匠は参考にならない。そう思うカインであった。なお、カインも大概である。

 

「そうだ。君が金級になったら、空を飛ぶ練習を始めようか。そもそも、君が私に弟子入りしたのはそれが目当てだろう?」

「ほ、本当ですか! うわぁ、マジかぁ……めっちゃやる気出てきました!」

「ふふ、それはよかった。今日の食器の片付けは私がしておこう。もうエリスのところに行くといい。君も飛び出したくて、ウズウズしているようだしね」

「じゃあもう行ってきますね! なるべく早く帰ってきます!」

「気をつけてな〜」

 

 カインは脱兎の如くリゼの家から飛び出した。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 エリスの家は探索者ギルドから歩いて三分程度の、ごく近い距離にあった。

 

「おお……これまた立派だな」

 

 エリスの家は、リゼと比べれば流石に小さくはあるが、豪邸と呼ぶに不足はないものだった。

 

 カインがその豪邸の門の前に立つ。門が閉まっているため、どうやってエリスに来たことを知らせようか悩んでいると、あるものが目についた。

 

「来客の方はこちらのベルを鳴らしてください……か」

 

 門のすぐ横にある、壁がけの小さなベル。指示通りにそのベルを鳴らすが、何とも不思議なことに、何も音が鳴らない。

 

「壊れてるのか……? いや、壊れてても全く鳴らないなんてことはないだろうし……」

 

 そんなことをぶつくさと呟いていると、一人でに門が開き始めた。

 

「お、おお……これは入っていいってことか?」

 

 恐る恐るエリスの家の敷地へと足を踏み入れる。すると、家の中から部屋着姿のエリスが出てくる。

 

「お待ちしていました。カインさん。有言実行というべきですかね、たった三日で銀級に昇格したのですか?」

「ああ。ほら」

 

 カインは右手の人差し指につけている、銀の指輪を見せた。

 

「流石です。こんなところで立ち話も何ですから、ひとまず私の家の中に入りましょうか」

「では、失礼します」

 

 

 

 

 エリスの家の中の光景に、カインは思わず圧倒された。

 

 家の廊下には様々な騎士の甲冑が展示されており、壁には騎士を描いた絵画が数多くかけられている。

 

 さらには騎士が使うであろう多種多様な武器や装備も数多く展示されている。

 

「これは……すごいな」

「お金が貯まったらつい買ってしまって……気づけばこんなことに……」

 

 エリスはカインの想定を遥かに上回るほどの騎士狂いだった。

 

 だがカインは理解のある男である。夢中になれる趣味があるというのはいいことだ。そう思ってサラッと流した。

 

「何でこんなに騎士が好きになったんだ?」

「幼い頃に、王国の騎士に助けられたことがありまして。その時の背中が、この世界のどんなものよりも美しく、頼り甲斐がある。そう思ったんです」

 

 エリスのその言葉には熱がこもっていた。今でもその時の感情を思い出せるほどに、鮮烈な記憶なのだろう。

 

「カインさんは本物の騎士を見たことがありますか?」

「一度もないな。いつかは王都にいって見てみたいが」

「いいですね。是非見るべきです」

 

 そんな風に話していると、リビングについた。

 

「どうぞ座ってください。今、飲み物を用意しますので」

「済まないが、お言葉に甘えさせてもらう」

 

 リビングは綺麗に整えられており、埃一つ見当たらない。エリスの几帳面な性格が垣間見える。

 

 リビングを眺めていると、エリスがトレイに二人分のカップとティーポット、お茶菓子の乗った小皿を乗せて持ってきた。

 

「お待たせしました。紅茶とお茶菓子を用意しましたので、よろしければ」

「ああ、ありがとう。ところで、紅茶というのは……?」

 

 カインにとって紅茶というお茶は、初めて目にするものであった。黒いお茶や緑のお茶はよく見るものではあるが、美しく透き通った濃い琥珀色のお茶は、どこか高級感を感じさせるものがあった。

 

「ああ、そうですね。確かに紅茶はマイナーかもしれません。極東の島国にて取れた茶葉を発酵という手順を踏んで乾燥させると、このようになるそうです。独特な香りが好みで、私はよく飲んでいますね」

「つまり、緑茶と茶葉自体は変わらない……?」

「そうですね。ですが味わいは驚くほどに異なります」

「それは楽しみだ。では早速」

 

 琥珀色のそのお茶を口に含む。緑茶にはない酸味と、気品を感じる香り。面白いな、とカインは思った。

 

「お口に合いましたか?」

「ああ。悪くない。むしろ、かなり美味いな」

「それはよかった。砂糖や柑橘、ミルクを入れても美味しいので、よろしければ準備しますが」

「いいのか?なら頼む」

「わかりました。ふふ、自分が好きなものを人に勧められるのは何だか楽しいですね」

 

 エリスの足取りは軽く、跳ねるように歩いて砂糖などを取りに行った。カインにもその気持ちがわかる。リゼに料理を食べてもらって褒められた時の自分もきっとあんな風だろう。

 

「どうぞ。ちなみに私はミルクをたっぷりと入れて飲むのが好きですね」

 

 そういうエリスの紅茶には、あらかじめミルクが入れられていた。

 

「むむ……選択肢が多くて困るな」

「よければおかわりもありますので、好きなだけ飲んでください」

「ありがとう。そうさせてもらうよ」

 

 二人はゆったりとティータイムを楽しんだ。

 

「紅茶、いいな。よければどこで売っているのか教えてくれないか?」

「そんなに気に入ってくださったのなら、まだまだ私の家にはストックがありますから、一箱差し上げます」

「本当か。ありがとう」

「いえいえ……ふぅ、少し一息つきましたし、そろそろ本題に入りましょうか」

 

 エリスが少し姿勢を整える。それを見て、カインもまた姿勢を整えた。

 

「今回カインさんが私の家に来てくださったということは、パーティを組んでいただけると、そう捉えても?」

「ああ。パーティの件に関しては了承する。これからは共に戦う戦友としてよろしく頼む」

「ええ、こちらこそ」

 

 エリスは胸を撫で下ろした。

 

「正直、助かりました。第七階層の"門番"、ドラゴン。どうすれば有効打を与えられるのか非常に悩んでいたんです。それで特に何も思いつかないまま、気分転換に闘技場に出てみたのですが、こんな出会いがあるとは」

「そういう経緯だったのか」

「ええ、まあ。……ところでどうして了承してくださったのですか? 客観的に見て、私の提案は貴方に特に利益を与えるようなものではない気がします」

「利益はあるさ」

 

 カインの脳裏に思い浮かぶ、闘技場での戦い。彼女はまさに理想の騎士だった。

 

「人と一緒に戦う経験が欲しかった。そして、それが君ならいいと思った。……戦いの中で、理解できることもある。エリス、君はそう言ったな?」

「そうですね」

「俺も同じだ。戦いの中で、君の瞳の真っ直ぐさと揺るがなさを感じたんだ。あの時の君は、俺の想像する理想の騎士像そのものだった」

「……本当に嬉しいことを言ってくれますね」

 

 エリスはその言葉に、少し涙ぐむ。

 

「……そういえば、大切なことを忘れていました」

「?」

「パーティ名です。パーティを組んだ時はギルドにパーティ名を届け出なくてはいけないんです」

「へー知らなかった」

「何か案はありますか?」

 

 少し悩むカイン。いきなり言われてもすぐにいい案は思い浮かばない。

 

「うーん……」

「で、では私からまずは一つ。円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)というのはどうでしょうか」

「流石に却下で」

「ど、どうして……」

「いやあ、二人で円卓名乗るのは流石に面白いだけになるし、そもそも俺は騎士じゃないし」

「むー……」

 

 エリスはしょぼくれた。

 

「ならそっちは何かあるんですか?」

「そうだな……じゃあ少し捻ったやつでもいいか?」

「とりあえず聞かせてください」

矛と盾(パラドックス)っていうのはどうだ?俺が矛で、そっちが盾だ」

矛と盾(パラドックス)……あの故事成語を元にしたパーティ名ですか」

「ああ。全てを貫く矛と全てを防ぐ盾を売った商人がバカにされたってやつだ。でも、そんな矛と盾が同じパーティを組んでいる。だからその二つは絶対にぶつかり合わない。矛盾を矛盾のまま押し通すってわけだ」

「中々いい名前だと思います。この短時間で思い浮かんだとは思えないほどに。ただ……私ではその名前を冠するには少々力不足なのでは?」

「何でだ?」

「実際のところ、私の盾は貴方に一度貫かれていますから」

 

 その発言を聞いて、カインは思わず笑ってしまった。

 

「な、なにが面白いんですか」

 

 真面目な話だというのに、カインが笑ったことにエリスは少し腹を立てた。

 

「いやいや、凄いなと思ってさ。俺が全力で槍を投擲したのを君は防いでるじゃないか。あれは俺の負け。その後は俺の勝ち。だから一勝一敗でチャラだと思ってたのに、まさか君が自分の負けだけを考えてたから面白くて」

「…………」

 

 エリスは、カインの一勝一敗という考え方に衝撃を受けた。そうか、私は一度、勝っていたのか。

 

「パーティ名は、矛と盾(パラドックス)でいきましょう。私も、気に入りました」

「お、そうか。じゃあパーティ結成を記念して、握手でもしとくか」

「ええ。これから、よろしくお願いします」

 

 二人は固い握手を交わした。こうしてここに、たった二人のパーティ、矛と盾(パラドックス)が生まれた。

 

 

 

 

 

 

 





Tips: 門の壁にかけられていたベルは魔道具である。鳴らすと、対となっている別のベルがなる仕組みになっている。

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