嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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息ぴったり

 

 

 三体のリザードマンが、カインに襲いかかる。一体は槍、二体は剣を振りかぶってカインへと振り下ろす。

 

 カインはその攻撃を剣のみ器用に避け、槍は同じく槍で弾き返した。

 

 リザードマンの後方からさらに二体、弓を構えたリザードマンの姿。番えられた矢には、たっぷりと毒が塗られている。

 

交代(スイッチ)!」

 

 そう叫ぶとともに、カインは後ろへと飛び退く。入れ替わるようにエリスが前方へ。

 

 矢が放たれるが、エリスの大盾の前には無力である。傷一つつけられず、盾に弾かれた。

 

 エリスは前へと飛び出した勢いのまま、三体のリザードマンへと突進する。その速度は凄まじく、人の形をした砲弾のようであった。

 

衝撃(インパクト)

 

 盾がリザードマン達に当たる瞬間。衝撃の魔術が彼らを襲う。圧倒的な質量と速度による殺人的な破壊力。エリスの突進は三体のリザードマンの全身の骨を粉砕し、吹き飛ばした。

 

 残った二体のリザードマン。彼らは勝ち目がないことを理解して、逃げ始める。しかしそれを逃すようなカインではない。狩人とは、逃げた獲物をしっかりと仕留めるからこそ狩人なのだ。

 

 カインの槍から魔力が放たれる。一条の黒い光はリザードマンの胸に風穴を開けた。続け様にもう一発。リザードマンはカイン達に襲いかかったことを後悔する時間すらなく、息絶えた。

 

「うん、完璧な連携だったんじゃないか?」

「ワームは連携なんてする余地ががありませんでしたから、今ここでしっかり連携を確かめられて良かったです」

 

 カインとエリスが拳を突き合わせる。完全勝利だ。

 

 夜、二人で交互に仮眠を取ったのち、日が出るとともに二人は再び第七階層の階段を探し始めた。その間、何度か魔物と遭遇したが、それら全てを難なく退けている。たった二週間の練習期間ではあるが、彼らは息ぴったりと言っても良いほど、戦闘においては以心伝心していた。

 

「エリス、魔物食に抵抗はあるか?」

「いえ、特には。……リザードマンを食べるつもりですか?」

「そうだ。こいつらの尻尾はいい肉質をしていて、焼くだけでかなり美味い」

「まあ、貴重なタンパク源ですし、ありがたく貰っておきますか」

 

 カインが手際良くリザードマンの尻尾を剥ぎ取る。迷宮での食糧問題は深刻だ。探索者にとっては、魔物を食べるのも実に一般的なことである。

 

「これでよし。今日の夕飯はステーキだな」

「昨日より豪華ですね。ワームはなんで剥ぎ取らなかったんですか?」

「ワームは肉質がガチガチな上、砂も食ってるせいで食えたもんじゃないらしい。本に書いてあった」

「なるほど。まあ見るからにゲテモノですしね」

 

 ワームは遠目で見れば完全に芋虫である。いくら竜といえど、食べたい見た目はしていない。

 

「……なあ。あれ、階段じゃねえか?」

「どこですか?」

「ほら、あれだよ、あれ」

 

 カインが指を指した方向を見ると、気温の高さのせいで少し景色が揺らめいて見えるものの、明らかに砂ではなく石畳で舗装された道と、階段らしきものがあった。

 

「……想定以上の早さでしたね。3日位は彷徨うことを想定していたのですが」

「運が良かったってことだな。他の探索者も見かけてないし、俺たちは相当早い方だと思うぞ」

 

 事実、第六階層は非常に広大なだけではなく、変わらない景色に蜃気楼などの要因によって、階段を見つけるのにかかる時間は平均して4日である。

 

「このまま行きますか?」

「うーん……」

 

 カインには若干の躊躇があった。というのも、第七階層は第六階層よりも小さなフィールドではあるものの、より劣悪な環境である。少し心の準備が必要だった。

 

「少し休憩してからにしないか?第七階層に降りたら、時間との戦いになる。今のうちに出来るだけ疲労をとっておきたい」

「一理ありますね。ちょうどお昼時ですし、先ほどの尻尾をもう食べてしまいますか」

「いいね、それ」

 

 というわけで、料理の時間だ。

 

「よっこいせっと」

 

 カインが真っ平らな鉄板と小さな脚立を取り出した。

 

 第六階層ではろくな可燃物がないため、焚き火ができないというのは既に示した通りだ。しかし、肉を焼くとなれば方法はいくらでもあるのだ。

 

「この暑さならしばらく鉄板を日に当てるだけでも肉を焼けそうだな」

「ですが、時間がかかりすぎます。というわけで、火球(ファイア)

 

 鉄板に火球の魔術を用いて、熱を与える。手を近づけと、確かな熱を感じる。そろそろ良さそうだ。

 

「じゃあ焼くぞ」

「お願いします」

 

 輪切りにしたリザードマンの尻尾を並べていく。鉄板に置いた途端に、肉の焼ける音がする。なんとも食欲のそそる音だ。

 

 両面を軽く焼いたあと、火球から遠い場所へと肉を移す。肉を休ませる工程だ。

 

「仕上げ行くぞ」

 

 休ませた肉を思い切り焼く。これによって焦げ目をつけて香ばしさを出る。

 

「こんなもんだな。熱いうちに食べよう」

「ふう、待ってました」

 

 こんがりと焼けたリザードマンの肉。切ってみると綺麗なピンク色。ミディアムだ。

 

「ふむ……美味しいですね。鶏のような味ではありますが、より肉の旨みが強い。それにかなり弾力のある食感で、パツンと肉の繊維が弾けるような噛み心地ですね」

「やっぱり尻尾っていう部位がいいのか?脂の乗りも程よいし、肉汁も溢れてくる。俺、相当好きかもしれないな」

「これはスタミナがつきますね。惜しむらくは、調味料の不足ですね」

 

 と言いながらも、エリスの顔は綻んでいる。昨日の食事はなんだかんだ味気なかったようだ。

 

 焼いた肉はものの数分で消えた。やはり肉はいいものだ。

 

「いやあ、美味かった。もう少し焼くか?」

「……いえ、遠慮しておきましょう。あまりお腹いっぱいになるのも良くないでしょうし」

「ごもっともだな」

 

 いそいそと後片付けをする二人。これまた息ぴったりである。

 

「さて、腹ごしらえも済んだことだし、行くか」

「ええ。ここからが本番ですね」

 

 二人が階段の方を見る。第七階層は、偵察にも行ったことはない。よって知識はあるものの、経験はない。その点だけでも第六階層とは段違いの危険度だろう。

 

 しかし、それでも進むしかない。二人は階段を降りていくのだった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 しばらく階段を降りていくと、強い熱気を肌に感じ始めた。カインは、冷風の魔術の出力を上げる。

 

 階段を降りた先。そこに広がる景色は、目も眩むような赤であった。

 

 ドロドロと煮えたぎる溶岩。それは時折噴き出して、周囲を焦がす。足場は、黒くゴツゴツとした岩のみである。

 

 第七階層、火山地帯。凄まじい熱気が探索者を襲う、まさに竜の寝床にふさわしき場所である。

 

「流石にこの気温じゃ冷風の魔術でもキツイな。さっさと進むしかないか」

「魔物と接敵しても、出来る限り無視しましょう。身体強化を使って走れば振り切れるはずです」

 

 ここからは時間との勝負。ドラゴンを殺し、金級となるため、二人は第七階層を疾走するのであった。

 

「……盾、一つ持とうか?」

「……気が利きますね」

 

 やはり、持つべきものは友人である。エリスは心の底からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





Tips:リザードマンの肉は美味しいが、市場ではあまり出回らない上に、安価である。足が早く、味の劣化が著しいためである。
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