嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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金級

 

ようやく自身の恥から立ち直ったカインは、足早に受付から去ろうとした。そんなカインに声をかける者がいた。

 

「あー?お前、新顔だな〜?ちょっとこっち来いよ」

 

 真っ赤な顔でベロベロに酔っ払っている赤髪の大男。初めて見る顔にちょっかいをかけるダメな大人である。

 

「大丈夫デス」

「なんだよ遠慮すんなよ、なあ?それともなんだ、先輩の酒が飲めねえってのか?」

 

 これは拒否する方が長引いて損をするやつだ。そう判断したカインは渋々その大男の隣に座った。

 

「こんな日に来るだなんてお前も運がねえなあ。せっかくきたのに迷宮に潜れなくてガッカリしただろ〜あ、俺はゾルガ、『太陽』って呼ばれてるんだがぁ」

「『太陽』…?あんた、もしかして二つ名持ちか?」

「ハハ、そうだとも。ただの酔っ払いのオッサンだと思ったか?ハハハハハ」

 

 酔っ払いの話は信用できない。カインの人生において学んだことは数多くあるが、その中でも特に大切なことの一つである。

 

 カインは、この笑いながら自分の背中をバシバシと叩いてくるゾルガとかいうやつの言うことを確かめようと周りを見渡す。すると皆がコクンと首を縦に振る。酔っ払いの戯言ではなかったようだ。

 

「はあ…それで、なんのようですか?」

「だから、酒でもどうかっていってんだよ。…いや、でも今日は迷宮に行けねえし身体が鈍るといけねえ。どうだ、ちょっと揉んでやろうか?」

 

『二つ名』持ちとの手合わせ。このギルドにおける頂点に位置する人物の実力を知れるのはいい経験になる。かなり魅力的だとカインは思った。

 

「…わかりました。手合わせしてください」

「ん〜ノリのいいやつは好きだぜ。訓練所はこっちだ。ついてきな」

 

 赤らんだ顔のままずっと立ち上がりスタスタと歩いていくゾルガ。先ほどまではほとんど泥酔していたはずなのに、まるでそれを感じさせない姿勢だった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 訓練所と呼ばれる場所には、古びた武器と防具が壁にかけられており、そこかしこでその武具を使って打ち合っている人々がいた。

 

「おらどいたどいた。おめえら危ねえぞ〜。怪我しても責任取らねえからな〜」

 

 ゾルガの一言で蜘蛛の子を散らすように一瞬で人々が捌けた。

 

「さてと。適当な武器を選べ。どいつもこいつもろくに手入れもされてねえオンボロばっかだからな。俺は…この錆びた大剣だな」

 

 ゾルガが手に取った大剣は持ち上げた途端に錆がパラパラと床に落ちた。同じくカインも槍をとり、その古びた槍からは錆がこぼれる。

 

「よし、お前から打って来い」

 

 ゾルガは至って自然体だった。武器を構えることすらせず、だらけ切った態度でカインの攻撃を待つ。

 

「ならちょっとは焦らせてやるよ」

 

 カインの四肢に淡い光が満ちる。それを見たゾルガは酔いの回った薄ら笑いをすっとやめた。

 

 その瞬間、カインは強く地面を踏み込み、槍の矛先をゾルガへと突き出した。

 

 ゾルガは盾のように大剣を構えてその刺突を防ぐ。甲高い金属音と共に火花が散る。

 

「くっそ…いってえ…」

 

 結果的に、その攻撃はカインの手が痺れるだけに終わった。

 

「いやあ、驚いたな。まさかこのレベルの強化を使えるとはな。お前、もう銀級くらいの実力はあるぜ」

 

 しかしカインの一撃はゾルガの酔いを覚ますのには十分だったようだ。

 

「ここの武器はまともに刃がついてねえ。だけどとんでもなく頑丈だから金級同士ですら打ち合える。思う存分やろうじゃねえか。想像してたよりずっといい運動になりそうだ」

「ふう、やっと真面目な顔になってくれたな」

 

 お互いに武器を構える。カインの身体は淡く光り、ゾルガの身体はバチバチと音を立てながら光り輝いていた。

 

 お互いに息を吐く。はじめに動き出したのはカインだった。強烈な踏み込みでゾルガの懐へ潜り込む。しかしすでにそこには大剣が、壁のようにカインの進む先を塞いでいた。

 

 瞬間、カインは跳躍した。強化した身体能力による跳躍は最も容易くゾルガの頭上を飛び越えた。しかし。

 

「馬鹿が。空に逃げたら避けらんねえだろ」

 

 ゾルガは常に片手で大剣を握っていた。故に、空いた片手で空にいるカインの足を掴んだ。

 

 掴まれた、そう気づいた時にはすでに遅かった。ゾルガは一瞬にしてカインを地面へと叩きつける。頭から地面に叩きつけられたカイン。地面にはひび割れができていた。

 

「チッ、つまんねえ。飛びさえしなけりゃもっとやれただろうに」

 

 ゾルガの闘志は萎えてしまった。あの初撃。あれは相当な気合の入った良い一撃だった。事実、強化で身体を固めていたゾルガでさえも手が痺れていた。けれども、あのミスはまさに致命的だった。

 

 どこか肩を落としてゾルガは訓練所を去る。

 

「…なあ、待てよ。まだ終わってねえよ。勝手に期待して勝手に失望すんな」

 

 振り向くとそこには頭からだくだくと血を流す、けれどもこれっぽっちも闘志の欠けていないカインが立っていた。

 

「ああ、認めるよ。俺のミスだ。アンタを猪かなんかと勘違いしてた俺のミスさ。でもまだ立てるぜ俺は。続き、やろうか」

 

 なんて生意気なガキだ。ゾルガはそう思った。その顔は口が裂けそうなほどに笑っていた。

 

「はあ…強がったはいいけど、正直次の一撃で俺は力尽きる。だからゾルガ。受け止めてみろ。俺の渾身を」

「ハハハ、いいぜ!来いよ。正面から受け止めて、完膚なきまでに叩き潰してやるよ!」

 

 カインは槍を握る右腕を大きく振りかぶる。魔猪を一撃で屠った投擲の構えである。けれど、カインの槍を握るその右腕は。満身創痍でありながら、ゾルガと同じようにバチバチと音を立てながら光り輝いていた。

 

「死に…晒せぇ!」

 

 それは一条の光であった。カインの手から離れたその槍は瞬きする間すらなく、ゾルガが両手で盾として構えていた大剣へと突き刺さる。

 

「ぐおおおおおおおぉぉ!」

 

 大剣にあたってもなおその槍の勢いを止めることは叶わなかった。ゾルガがズリズリと後ろに後退していく。そしてゾルガはその勢いを止めることができず、ついには壁へと衝突した。

 

「…ハ、ハハハ…ハハハハハ!すげえなお前!俺の大剣とてめえの槍が完全にひしゃげてやがるぞ!火力だけなら金級だ!」

 

 立ち上る砂埃。ゾルガは槍を受け止めていた。けれど、その大剣とカインの投擲した槍はめちゃくちゃに曲がっていた。

 

 ゾルガは笑う。たった今探索者の登録をしたばかりの石ころルーキーと少し遊ぶだけのつもりだった。それがまさか『二つ名』を与えられた己を壁にまで押し込むような一撃を放ったのだ。

 

「努力賞をやるよ!俺に一発ぶち込むことはできなかったが、ここまでやったんだからな。…は?」

 

 砂埃が立ち昇っていた。その奥には光り輝く何かがあった。それは、拳だった。

 

「油断したな?」

「てめえ、ッッ!」

 

 光り輝くカインの左腕。その拳は吸い込まれるようにゾルガの腹へと撃ち込まれた。

 

「俺は、狩人の息子だぜ。獲物を騙して…ナンボだろうが…」

 

 カインはそう呟き、それを最後に力を使い果たして倒れ込んだ。

 

「ハハハ…。俺が登録したばっかの石級に一撃入れられちまったぜ…。最高の、拳だった」

 

 ゾルガは服を捲る。カインに殴られた場所には痛々しい大きな青あざができていた。

 

 





Tips:ゾルガは本気95%、全力40%。
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