嗚呼、なんと素晴らしき自由(強制)   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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評価と感想お待ちしてまーす。もらえたらモチベ爆上げです。




『黄金』という男

 

 

「お前……勇者だったのか……」

「うーん、やっぱりこの顔は知られているか。変装しておいてよかったよほんと」

 

 眉の辺りで切り揃えられた白髪と、黄金の瞳。優しげな笑顔。それは小さな村出身のカインですら新聞で見た事がある、勇者の顔そのものであった。

 

「君の言う通り、僕が勇者イクスだ。エクサという名は所詮偽名ということになるね。ずっと騙してしまって申し訳ない」

「い、いや、大丈夫だけど……にしても、金級最強とか言われてたが、金級どころじゃなくてガチの人類最強じゃねえか」

「まあ、そうなるね」

 

 おそらく、当代の勇者は世界で最も有名な人間の一人である。齢二十五にして成し遂げた数々の偉業と、名実共に認められている『人類最強』という事実が故である。

 

 三年前、彼はその純粋な実力のみで、禁忌(アンタッチャブル)の一つである黒龍の単独討伐を果たした。人類が禁忌を滅ぼしたのは初めてのことであり、この事実をもって勇者は人類の守護者であるにもかかわらず、敬意を込めて禁忌指定された。

 

「で、なんで勇者ともあろうものが身分を隠してまで探索者として迷宮にいるんだ?」

「……それはね」

 

 左腕をまくるイクス。その腕は極限まで引き締まった筋肉に覆われ、理想的な戦士の腕と言えた。

 

「秘匿解除」

 

 パキパキッとガラスにヒビが入るように腕に亀裂が走る。やがて全てがヒビに覆われ、皮膚が砕ける。

 

 その下にあったのは、ドス黒い赤が這いずり回る悍ましい肌であった。魂が震え上がるその赤は、渦を巻き、捻じ曲がりながらイクスの腕を駆け上る。しかし、肘のあたりまでその赤き痣が伸びると、それを防ぐように黄金の炎が肌から噴き出し、痣を焼いていく。痣はその炎を嫌悪するように悶え、手首の辺りまで戻っていく。なんとも奇妙な金と赤の均衡である。

 

「なんだそれ……」

「黒龍の呪いだ。討伐に成功したはいいものの、それ以来ずっとこの調子だ。僕の【起源】は全てこの呪いを抑えるために使っている」

「あんたほどの男が【起源】を使えないだなんておかしな話だと思っていたが、なるほどな。使えないんじゃなく既に使い続けていたのか」

「そうだ。だからこそ、僕一人ではどう足掻いてもドッペルゲンガーを倒すことはできなかった」

「……にしても話の流れがわからないな。その呪いがどうして探索者エクサとして迷宮を攻略することに繋がるんだ?」

 

 至極当然な疑問である。呪いを受けたのであれば、然るべき場所において解呪するか、療養するべきだ。

 

「理由はいくつかある。この呪いは極めて悪辣だ。僕の知る限り、これを解呪できる人間はいない。そして、この呪いに全身を犯されれば僕は黒龍の如く生命を殺戮するだけの存在に成り下がる。だから、万が一僕が呪いに支配されたとしても、すぐに隔離できるよう迷宮に潜り続けていたんだ。それに、勇者がそんな状態だと知られれば世間の混乱は避けられない」

「お前……」

「もう一つはね」

 

 イクスはそこで少し言葉を切った。その顔には喜びが浮かんでいる。

 

「第十階層にその答えがある。ついてきてくれ」

「……随分と勿体ぶるな」

 

 前方と後方にそれぞれ門がある。後方の門はここへ入る際に通った、無骨で巨大な黒い門。

 

 そして、前方の門。今まさにカインとイクスが潜り抜けようとしている門。これは今まで見てきた迷宮の門とはまるで違った。

 

 巨大な石でできた門。様々な装飾と像があしらわれており、何か宗教じみたものを感じる。そして何よりも目を引くのは。

 

「文字……か?まるで読めないけど」

 

 上から下までびっしりと刻まれた見覚えのない模様。規則性と独特の形からなんとなく文字であることは窺い知れる。

 

「この門の本質は、まさにこの刻まれた文字にある。この門は歴史そのものだ」

「なんだお前、これが読めるのか?」

「ああ。何が書かれているのか知りたいかい?」

「……また今度で。今は第十階層の方が気になるね」

 

 門をくぐり、階段を降りる。長い、長い、階段。明らかに他の階層と比べても長い。降りていけば降りていくほど、魔素が濃くなっていくのを感じる。

 

 そんな階段もやがて終わり、ようやく第十階層に着く。

 

 第十階層は、第一階層と同様の石造りでできたシンプルな内装であった。だが、一つ明らかに異質なものが階段を降りてすぐに目に入った。

 

 階段を降りた直後の大広間。その中央にて巨大な黒い球体がふわふわと浮かんでいる。殆ど光を反射しない球体。それは世界に開いた穴のようであった。

 

「これが僕が迷宮に潜る理由だ。まあ、これ以外にも第十階層は面白いことだらけだけどね。横を見てごらん」

 

 カインは言われるがままに左右を見た。そこにあったのは果てすら見えない通路。通路には無数の扉が一定の間隔で並んでいる。どれひとつとして同じ扉はなく、色とりどりな上に、典型的なデザインからあまりにも歪で前衛的な扉も存在した。すぐに視界に飛び込んできた黒い球体は驚愕に値するものではあったが、この光景もまた驚くべきものであった。

 

「第十階層、通称無限回廊。ただ一つの大広間と、無限に続く通路。通路に存在する扉一つ一つが異界へと繋がっている。文字通り永遠の時があってもなお探索し尽くすことができない、探索者の理想郷だね」

 

 カインはずっととある疑問を持っていた。ゾルガやリゼのような『二つ名』を与えられた探索者は一体何を目的に迷宮を探索しているのか。迷宮を制覇したと言われている彼らが何故未だに迷宮に潜っているのか。第十階層はカインの疑問に対する答えそのものであった。

 

「何かのために探索をするんじゃなく、探索自体が目的になってるような奴は、そりゃ永遠に迷宮から離れられないわけだ」

「その通り。ここは最高の遊び場なんだ。……と、本題に移るとしようか」

 

 勇者イクスが、その呪いに蝕まれた手で黒き球体にそっと触れる。その手つきは、赤子に触れるようであり、宝物を磨くようでもあった。

 

「ようやく……ようやく一つだ。待たせて、ごめん」

 

 側にいるカインにすら聞こえないほど小さな声で、イクスはそう呟く。

 

 蠢き続けていた赤黒い痣が、ピタリと何かに気づいたように動きを止めた。そしてそのまま、その痣はイクスの手を伝ってゆっくりと黒い球体に流れていく。

 

 ゴポ、ゴポリと、痣が水音とともに球体に飲み込まれる。やがて、イクスの腕にはあの悍ましい痣があった痕跡は一つもなくなっていた。

 

「これは一体、なんなんだ?」

「これは、封印だ。世界で最も強固な封印であり、そして迷宮の始まりでもある」

「……何が封じられている?」

 

 その問いにイクスは目を閉じ、一度深く息を吐いた。しばしの沈黙。カインはその沈黙に重さを感じた。

 

 しかしその沈黙も決して長いものではなかった。イクスは意を決して口を開いた。

 

「……魔王。ここにいるのは、魔王だ。初代勇者の最大の敵であり、遂には真の盟友となった、魔物と魔族を統べる者。そして、歴代勇者の全ては、彼女の封印を解くことを目標としているんだ」

 

 

 

 

 

 





Tips:水晶のペンダントを使用することで、第十階層の異界から好きな時に脱出できる。
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