【旧】皆を救いたいだけなのに、不器用すぎて主人公勢に敵認定されるミステリアスヒロインムーブをしたい! 作:k-san
ねむりとの遭遇から日常の中でも警戒を怠らないようにしていたが、幸いそれ以降はほかの魔法少女と出くわすような事態は起こらなかった。
あの遭遇は偶然だったのだろうか……。
そう思いたいが、これまでニアミスなどなかったし、けっこう広い街でたまたまばったり出くわすなんてどれくらいの確率なんだろうかと考えると……あんまり無視できないことの気がしてくる。
まさか居場所がバレた?
どうやって?
まあ、居所が割れているのならとっくに交戦しているだろうし、やはり偶然……あ、いや、待てよ。もしかして分布か?
たったいま思いついたばかりの仮説だが、もし魔法少女は行動範囲が被らないようバラバラに分布しているのではないか。そしてライカたち7人もそれに気づき、お互いの活動エリアを明かし合って誰も活動していない空白のエリアを見つけたら……。そこが俺の居場所と判断するだろう。
魔法少女たちの分布図など知らない。アニメでもその辺の話はなかったし……。
ただ、俺の居所を特定する方法があるとすれば、「魔法少女の活動範囲バラバラ説」を持ち出して空白のエリアを洗い出すくらいしかないよな……。
まあなんだかんだ予告当日を迎えたし、もうそんな心配は不要だ。
日付が変わったのとほぼ同時に、俺は蒼生円蓋塔へ向かった。
地下への行き方はそう難しくない。まず塔の中に入る。時間帯は夜が望ましい。夜は月明かりと壁にかかっている燭台の火だけが室内の光源になっている。燭台の火をすべて消すと、一部の地面からうっすらと明かりが漏れているのが見える。そこに触れると、地下への階段が現れる。
まあ塔に寝泊まりでもすれば気づくだろうが、そんなことをする人間はほぼほぼいないので、地下への行き方を知っているのは天蓋家の人間くらいだ。
しかし天蓋家の人間はねむりの手によって一族郎党皆殺しの憂き目に遭っている。
つまり知っているのは俺だけ。
いや、たしかねむりはホームレスで、塔に寝泊まりすることもあったはずだから、もしかすると気づいているかもしれない。しかし地下の存在に気付いたところで、それを自らアピールするタイプでもないだろうし……結局は誰も知らないのと同義だ。
真っ暗な大穴に吸い込まれていくように塔の奥へ進んでいく。
「やはり、〝8人目〟の正体を明かしたほうがいいのではないだろうか……」
「まだそんなこと言ってんのか。だから、それは無理なんだって」
「無論、『代償魔法』によって得た情報では根拠にならないことは理解している。だが、〝8人目〟の正体から逆算して証明の手立てを考えることはできないだろうか」
ちょっと考えてみる。
「んー。やっぱ無理じゃねえかなぁ。〝8人目〟は魔法少女のせん滅を目的として投入されている関係上、厳密には魔法少女じゃない。つまり『アンチ魔法少女』って感じの存在なんだけど……」
さて、『創世の魔法少女』の話に踏み込まず説明できるだろうか。
「なんつーのかな、力の原理は魔法少女と同じなんだ。『
「原理が同じ……? どういうことだ……」
つまり『創世の魔法少女』さまは意地悪なんです~。
「そこまで俺らが知る必要はないだろ。ま、ってなわけで証明は無理なんだ」
「む……」
いちおう納得してくれたようだ。
実を言うと説明しながら俺は〝8人目〟を証明する方法を思いついてしまったのだが、それは俺の計画とはなんの関係もないことなので言わなかった。
さて。
塔の中にはどれくらいの人数が待ち構えているだろうか。
全員が俺を待っていたら面倒だな。ねむりと柚月の固有魔法はトリッキーでやりづらいだろうし。
特にねむり。彼女の固有魔法は厄介だ。
『時間魔法』――自分を含めた任意の対象を5秒前に戻すことができる能力。
この能力にもまあまあなバックボーンがあるんだよな……。
もともとねむりは五人姉妹の末っ子だった。
長女から四女は年子で、ねむりだけ彼女たちとは歳が離れていたが、5人は仲の良い姉妹。
4人は『結界魔法』の使い手として幼いころから情操教育を受け、『結界魔法』を得るにふさわしい人格を備えていた。
そのおかげで、ねむりだけは次代『結界の魔法少女』の使命を背負うことなく伸び伸びと育てられた。四人の姉は、そんなねむりを妬むことなく純粋に愛した。
『結界魔法』に限らないが、何かを守ることに特化した能力を得るのはかなり難しい。魔法少女は魔人と戦う使命を背負っているので、攻撃手段を持たない魔法少女はいわば例外的な存在なのである。
心優しく、大きな利他の心を持った少女だけが防御に特化した固有魔法・魔道具を得ることができる。
そして天蓋家が導き出した法則によれば、『結界魔法』の取得確率は契約時に願いを保留することで大幅に上昇するらしい。利他の心を示すためには、無欲をアピールしなければならないのだろう。
そうしたギリギリの条件を4人の姉妹はクリアしていた。後継問題は安泰。ねむりは「普通の女の子」として育った。
ところが事故が起き、4人の姉が死亡した。
天蓋家の人々は急遽ねむりを次代の『結界の魔法少女』に仕立て、これまでのマニュアルにもない厳しいしつけを彼女に課した。
大好きだった姉の死と、厳しくなった親族。そして、とつぜん背負わされた大きな使命。
世界のシステムが抱える歪みを一身に引き受けた彼女の中で激しい破壊願望が育ち――ねむりは『結界魔法』を得ることはできなかった。
ねむりは失望・憤慨する家族をその魔道具で爆殺すると、保留した『願い』によってすべての記憶を消し去った。
『時間魔法』は幸せだったころに戻りたいという願望の表れか。
如月小春が天蓋家に生まれていたならすべては丸く収まっていただろうに。小春は『結界魔法』の使い手としてこれ以上ない素質を自然に備えていた。優しい心に利他の精神。無欲からくる『願い』の保留。
天蓋家に生まれなかったがゆえに『結界魔法』は得られなかったが、『治癒魔法』と盾という防御特化の能力を得ているところからして、彼女の『結界の魔法少女』としての素質がうかがえる。
うへー、すべてが皮肉で成り立ってる嫌なアニメだこと。
まあそこは俺がハッピーエンドに変えてやるよ。
お前らの曇らせと引き換えにな!
塔の奥は暗かった。
燭台の火がすべて消えていたのだ。
闇に乗じた奇襲作戦か?
その瞬間、風切り音とともに何かが飛来する気配があったので、咄嗟に回避した。が、完全には回避しきれず、ふくらはぎに痛みが走る。
いってえ!
「惜しい!」
その声は薫のものだった。
ここまで接近して初めて顔が見えた。さらに地上に向かって目を凝らすと、小春の姿があった。
ほかに誰かがいる気配はない。どうやら小春と薫の二人だけで来たようだ。
うーん、役者は少ないけどまあいっか。予告しちゃった手前、引くわけにもいかないし。
たったいま到着したばかりの俺に対し、あっちはこの暗闇にずっと潜んでいたわけだから、夜目が利いている。つまり視界の差で言うなら俺が不利なんだけど――。
闇に乗じるという観点で言えば、俺の武器ほど活躍してくれるものもそうないだろう。
再び突進してくる薫を迎え撃つべくワイヤーを張る。
が、それは見透かされていた。薫は前方に向かってめちゃくちゃ剣を振るという実に単純な方法でワイヤーを突破した。さらに、斬撃を避ける直前に剣身に炎をまとわせ攻撃のリーチを伸ばした。俺の横っ腹が炎で
熱い!
そういえばお前の固有魔法は『火炎魔法』だったな。
少し頭に来て攻撃的になった。鞭を振るうようにワイヤーで薫を打擲する。それは小春の盾によって防がれた。
うう。悔しいが、いい連携だ。
薫は経験が浅いがもともとの身体能力が高い。空手・柔道・合気道などの武道を修め、常日頃からナチュラルな身体性を磨いている。そして攻撃特化の能力に加え、「もっと強くなりたい」という『願い』によって単純な戦闘センスがほかのどの人物よりも優れているため、経験を積めば単騎でも充分厄介な存在となりうるだろう。
そんな薫に防御力最強の小春が付けば、もはや鬼に金棒だ。目の届く範囲であればどこでも盾が出せるって、される側になるとだいぶやらしいなぁ。
それから長いこと決着がつかなかった。
薫が特攻を仕掛けてくるので、避ける。最初こそちゃちなトリックでいくつかの攻撃がかすったけど、万策尽きたのかいまは単純な剣撃しかやってこない。かといって俺から攻撃しても避けられるか盾で防がれるだけだし……。
そんな繰り返しで、お互い決め手に欠けた。
さてどうしようか。そろそろ俺も疲れてきたんだが。
そう思っていると、薫が話しかけてきた。
「あなたはどうして結界を破壊しようとするの? 敵なの、味方なの?」
「わたしは自分がするべきことをしてるだけ。敵か味方は、あなたたちの利害で勝手に判断すればいい」
「するべきこと? 皆を破滅に追い込むことがあなたのするべきことなの?」
「破滅? いいえ、これは救済だよ」
「噛み合わないなぁ」
剣を構えた。突進の気配。
「まるで崇高な目的で世界を破壊しようとするラスボスみたいだ――ねっ!」
単調な突進。
ふふっ、「死は救済」とか言うタイプの悪役に見えてるか?
残念、俺は本当に皆を救いたいだけなんだよ~ん。
迫る薫の剣撃。それはもう見慣れたよ。
横に思いっきり薙いだ剣身をバックステップで避け――
られないっ!?
横に振ったはずの剣が横向きのまま俺に向かって一直線に進んでいた。柄を離して投げたとしても、剣は明後日の方向に飛んで俺のところには来ないはず。
だが実際には摩訶不思議な動きで俺めがけて迫っている。
なんだこれは。
ああ、からくりが分かった。
火炎だ。
炎を噴射しているんだ。
曲芸じみた攻撃。仕組みは分かったが身体のほうが咄嗟に反応できず――。
俺は仕方なく『代償魔法』を使った。
瞬間移動で薫の背後を取り、全身を鞭打つ。悲鳴を上げる薫の顔を掴んで、後頭部を壁に打ち付けた。そのまま内壁をグルリと半周する。
うーん。これ使うと簡単に終わっちゃうからできるだけ使いたくなかったんだがなぁ。
意識を失っているのか、手を離すと薫は重力に負けて地面に落ちていった。
「薫ちゃん!」
小春が薫のもとに駆け寄る。俺は地面のぼんやり光っているところへ向かうが、薫が落ちたのはちょうどその直線上だった。
小春と対峙する。
「なんでっ、こんなことっ……!」
小春は泣いていた。まるで買い替え前の歯磨き粉を絞り出すように、全身からなんとか悪意や敵意を一か所に集めて、俺のことを精一杯睨みつけている。
全然似合っていなくて可愛い。
が、俺は後ろめたさを感じている演技をして俯き、彼女の問いに答える。
「だって……仕方ないから……」
「仕方ないって、どう仕方ないの……?」
「あなたたちが邪魔だから」
はい。
正確には「あなたたちが邪魔をするから仕方なく振りかかる火の粉を払った」という話だが、この言葉足らずな言いかたでは「魔法少女は邪魔だから排除する」と受け取ってしまっても無理はない。
ほら、小春の顔が暗くなった。
いまのいままで俺のことを信じようと努めてきたんだろう。「本当に敵なのか」「なにか理由があるんじゃないか」、きっとその言葉を何度も反芻して。内なる疑念の声と必死に戦いながら。
俺はその努力をぶち壊した。
小春は薫の胸に顔をうずめて泣いた。その肩が大きく震えている。
俺は地下への入り口を開けようと歩く。
「だめっ!」
すると小春が起き上がって腕を広げた。
それで俺を止められると思っているのだろう、小春の小柄な肩を手で押すと、あっけなくその場に倒れた。
入り口を開く。
地下への階段が現れた。
俺は小春のほうを振り返ることなく階段を降りた。
階段を降り切った先には――魔法陣。
そして、如月小春。
「え……?」
俺の頭はフリーズした。
なんでここに小春が?
だって、さっき上で――。
そこで思い出す。あいつの固有魔法を。
だとすると、どっちが本物だ?
そうだ。そういえばさっき小春は薫に対して『治癒魔法』を使っていなかった。それに、こんなことをしてメリットがあるのは、上の小春が偽物だった場合だ。攻撃手段を持たない小春に扮し、油断したところで一撃をかます算段だったんだろう。
盾は地下で本物の小春が出していたのだ。監視カメラを上に仕掛ければ盾を出せるのかもしれない。
つまりこの小春が本物。
俺は魔法陣に向かって移動し、手で触れようとしたところで。
「残念でした~」
小春がそう言って俺を鎖でがんじがらめにした。
いや、この声は小春じゃなく――。
「うふふ、二回目の捕獲です~。そんなにぼくが恋しかったですか?」
そう嘯く柚月の声を聞きながら、俺は判断の誤りを悟り――。
階段から勢いよく現れた薫の突撃によって。
腹部に剣が突き立てられた。