【旧】皆を救いたいだけなのに、不器用すぎて主人公勢に敵認定されるミステリアスヒロインムーブをしたい! 作:k-san
すべてを思い出した。
すみれのこと。
出会った日のこと。
その姿に憧れたこと。
どうして記憶を失ったのかも。
全部ぜんぶ、思い出した。
頭が割れそうなくらいの頭痛はパッタリと止んだ。
それでも精神的に耐え切れず、周囲の耳目も忘れてみっともなく叫んだ。
「小春!」
薫ちゃんが後ろから抱きしめた。
それでも私は叫び続けた。
いちばん大切な人だったのに。
私が殺した。
守りたかったのに。
私が殺した。
「うっ――」
猛烈な吐き気に襲われた。
私は薫ちゃんの腕を払って駆け出し、すみれのそばを離れた。
途中、耐え切れずに胃の中のものをすべて吐き出す。
汚い。
汚くて当然だ。
私は親友を殺した人間なのだから。
「まさか、思い出したのか?」
ロイが訊ねた。
「どうしていまさら――いや、そういうことか」
「思い出したって……?」
「実は、彼女は一年前にすみれと出会っていたのだ」
「どういうこと!?」
「彼女はすみれと親交を深めていたが、ゆえあってその記憶を失っていた。――が、この様子だと思い出してしまったようだ。……最悪のタイミングで」
「そんな……」
薫ちゃんとロイがやりとりをしている。その言葉はハッキリ聞き取れるのだが、意味は頭に入ってこなかった。なんというか、音の上っ面しか認識できなくなっていた。
私の頭を占めていたのは、生前のすみれの姿。
一年前の彼女との思い出。
落とした本を手渡してくれたこと。
一緒に喫食したこと。
私のことを下の名前で呼んでくれたこと。
次々と思い浮かんでは、血にまみれて消えていった。
「私がっ、私のせいでっ」
「違うっ! 小春のせいじゃ――」
「やめて!」
私の肩に置かれた手を振り払った。
「優しくなんかしないでよっ! 私は――人殺しなんだよ!?」
「やめろ。お前のせいじゃない。もちろん、アリスのせいでも。責任はあたしにある」
「三鷹さん……」
「この場のまとめ役はいつもあたしだったし、唯一成人してる。いちばん影響力のあるあたしが、個人的な感情から人の生死に関わる判断を性急に行ってしまったんだ。責任の所在は明らかだろ。それに……だいぶ圧力もかけたしな」
「いや、そもそも私がすみれと契約しなければ彼女が死ぬことはなかった。こんな、過酷な世界に誘ってしまった……」
「そんな……悪いのは全部〝8人目〟ですよ! そもそも〝8人目〟さえいなければ……」
薫ちゃんが言い、「そうですよ!」と朝比奈さんが同調した。
「〝8人目〟……」
怨嗟のこもった声は、ねむりちゃんから発せられた。
「そうだ。橘は魔法で情報収集をしていたんだろ? 〝8人目〟の正体も知っていたんじゃないか?」
「そういえばそうですね……。橘さんから聞いてませんか?」
ロイからの反応は鈍かった。
「どうしたんですか!?」
「あ、ああ……すまない。確かに聞いていることは聞いている」
「じゃあ知ってるんですね!」
少し興奮気味に薫ちゃんは言った。そしてその熱は一部の人間にも伝播しているようだ。
私はと言うと、〝8人目〟の正体にはまったく興味が持てなかった。
だって、もうすみれは死んでしまったのだから。
いまさら事態を好転させたいという考えも気力も湧いてこない。
だからといって〝8人目〟を放置して全滅していいとは思わない。
だからその件は私を除く皆で対応してほしい。
なんというか、私は疲れてしまった。
「誰なんだ、〝8人目〟は」
「それなのだが……。ひとつ約束してほしい」
「……なにを」
「〝8人目〟を攻撃しないこと。すべては終わったことなのだ」
「どういう意味だ……? 全部水に流せっていうのか? そんなことできるわけ――」
「約束できないのなら話すつもりはない。無論、きみたちを陥れるためにこう言っているわけではない。私は〝8人目〟側の『
「……分かった。約束しよう」
三鷹さんはしぶしぶ了承した。
「感謝する。……〝8人目〟は――」
ロイは一呼吸おいてその名を告げた。
「如月小春だ」
◇◆◇◆
「俺だれが〝8人目〟か分かったんだけど」
「え!?」
何気ない風を装って爆弾をぶっこんでやると、あまりに想像通りの驚愕の声をあげるから笑ってしまいそうになった。
ロイのそういう素直なところ、好きだぜ。
当然、ロイは目の色を変えて食いつく。
「いったい誰なんだ!」
「まーまー焦んなって。ちゃんと教えてやるから」
なんて言いつつロイの反応を楽しみたい俺は、わざと焦らしに焦らしてやった。
「〝8人目〟は……」
ロイが固唾をのんで見守っている。
「…………」
「〝8人目〟は?」
「あーー……」
「誰なんだ!?」
「そう、彼女だ」
「彼女とは誰だ!?」
「ほら、あいつ」
「だ・か・ら! あいつとは誰なんだっ!」
ここら辺が引き時か……。
「小春だよ」
「あの子、なのか……」
ロイの口調には大きな動揺が混じっていた。
無理もない。俺と小春の関係を傍から見ていたのだから。純朴なロイならショックを受けるだろう。
「一年前、きみと友人関係にあったあの子が……どうして……。良い子だったじゃないか」
「良い子だからだよ」
「……どういう意味だ?」
「〝8人目〟は俺たち魔法少女をせん滅するために投入される。そのためには、可能な限り最後まで生き残ったほうがいい。良い子は疑われにくいだろ」
「つまり、すべて演技だったということか。きみのように」
「違うよ。本当に良い子なんだって。あの『回復魔法』を見ただろ? 使う魔法は本人の性格が反映される」
「しかしそれでは彼女が我々のせん滅を目的にしているという先ほどの話と齟齬が生じるではないか」
「それは
「まさか……」ロイの声が震えた。「彼女には〝8人目〟の自覚がないのか?」
「ピンポーン」
「なんということだ……」
ロイは天井を仰いだ。
「魔法少女は常に死と隣合わせだからな。そこに〝8人目〟なんて現れてみろ、本人にその気がなくたって場が荒れるに決まってるさ。
まあ、殺し合いにまで発展するのは時間がかかるだろうが――きっかけがあればどんどん悪い方に転がるだろうよ。誰かが魔人との戦いに敗れたり、うっかり事故に遭ったりで死んだりしたらなー。魔法少女が消えたときに、それが〝8人目〟由来なのかそうじゃないのか判断できる状況にあるとは限らないわけだから」
まあ、そこはアニメなので事態はすぐに悪化しますがね。
何も起きない時間を何週も放送できないし。
「そうなったとき、小春はあの性格だから疑われにくい。それにああいう気質の魔法少女は防御型の魔法に目覚めやすいから、自分の身を守る手段を得ることで生存率が上がる。だからこそ小春が〝8人目〟に選ばれたんだろう」
「なるほど」
「もっと言えば、防御特化の〝8人目〟が最後のひとりとして生き残った場合、人類は魔人に対して一切の攻撃手段を失うことになる。つまり、世界が終わるのを指をくわえて見てるしかないわけだ」
ロイは絶句した。
〝8人目〟が存在する目的、そしてその選定理由にいたるまで、すべてが「世界の破滅」に直結しているのだ。その猛烈な悪意に、言葉を失ってしまうのも無理はない。
……まあその悪意は全部アニメスタッフのもんなんだけどな。
そもそものタイトルからしてあれだし。
――魔法少女
殺し合うのは
〝8人目〟は誰も殺さない。
殺す手段もその意思も有していないのだから。
最終話、すべての魔法少女が死に、たったひとり残された小春が、塔の椅子がすべてなくなっているのを目撃する。
空っぽの蒼生円蓋塔で小春は膝をつき、慟哭するんだよなー。
小春は《願い》を保留にしているので、最終話でその件が回収されるのではないかと考察勢のあいだで囁かれていたが――けっきょくその件が回収されることはなく、街に新たな魔人が出現したことを示すカットで物語の幕は閉じる。
おそらく小春は《願い》で自殺したのではないかと考察されている。
正真正銘のバッドエンドにネットはかなり荒れたが、俺は嫌いじゃない。
ぶっちゃけると小春が膝をついて慟哭するシーンでかなりゾクゾクしたのを憶えている。
その瞬間、俺は自分の〝癖〟が無理やり捻じ曲げられる音を聞いた。
その日から俺は小春曇らせSSを書くようになったのだが、それはまあどうでもいいか。
大事なのは、この設定は更なる曇らせの高みを目指すのに利用できるということだ。
※※※※
「〝8人目〟は――如月小春だ」
「え……?」
私はロイに目を向けた。
彼は何を言っているんだろう……?
私が……8人目……?
全員の視線が私に集まる。
視線が銃弾ならいまごろ私は穴だらけだ。ねむりちゃんの視線など大砲だろう。
「何を言ってるの? 小春が〝8人目〟だなんて、そんなわけない。自分は小春のことを小学生のときから知ってる。小春はそんな人間じゃない」
「違うんだ。そもそも〝8人目〟は裏切り者じゃないんだ。そして、彼女に〝8人目〟だという自覚はない」
「そういうことか……」
三鷹さんがこぼした。ひとりで何かを納得したようだが、私には分からない。
「あたしは橘が黒でなければ、次に怪しいのは赤羽か如月だと思っていた。魔法少女はこの街に居住地が重ならないように分布しているという説が正しいなら、被っている赤羽か如月のうち、どちらかが余りだからな」
以前、楪さんが言っていたことを思い出す。
『一週間前、すみれを逃した後です。二人がちょっと怪しいなって思ったんです。これ、おそらくライカさんも同じように怪しんだと思いますよ~』
あのときの私は、見張り番のローテーションを調整するための嘘がバレたのだと解釈したけれど、本当はいましがた三鷹さんが説明した理屈から私と薫ちゃんを疑ったのではないか。
ただ、三鷹さんはすみれの不審すぎる挙動と彼女へ憎しみのせいで目が曇り、楪さんは私たちを尾行したことでかえって信用してしまった……。
「赤羽か如月のどちらかが黒なら、怪しいのは赤羽だと思っていた。前の橘の発言によると、魔道具には本人の内面が現れる。だから魔道具も魔法も攻撃的な赤羽がより〝8人目〟の可能性が高いと踏んだ。
だが、そもそも〝8人目〟にその自覚がないんだとしたら……」
三鷹さんはちらりと私に一瞥をくれた。
そして舌打ちをして目を伏せた。
「そんな……本当なの、ロココ? ねえ! 私が〝8人目〟なの!?」
私はロココに問いかけた。
だけどロココは応えてくれない。
そしてその無反応こそが何よりの答えだった。
「なんで……?」
もう
周囲を見回すと、ねむりちゃんを除く全員が同情するような目で私を見ていた。
それもそうだ。
だって。
ロイの言葉が本当だとすると、すべてのきっかけが私にあるのだから。
最初から私がいなければ皆が疑い合うことも、傷つけあうことも、すみれが死ぬこともなかったんだから。
『そんな……悪いのは全部〝8人目〟ですよ! そもそも〝8人目〟さえいなければ……』
薫ちゃんの言っていたとおりだ。
全部ぜんぶ――。
「私の……せい……」
「小春?」
私は薫ちゃんを見上げた。
「私さえいなければ……」
「ち、違う! そんなつもりじゃ――」
「危ない!」
叫び声が聞こえたと思ったら、何者かに超速で突進された。
次の瞬間、爆音が轟いて身体を芯から揺さぶる。
突進した者の正体は朝比奈さんだった。彼女は両腕に私と薫ちゃんをひっかけて移動したのだ。
爆発から私たちを遠ざけるために。
「天蓋!」
三鷹さんが睨んだ。
だが、ねむりちゃんは三鷹さんを見ていなかった。
彼女の目は私に向いていた。
「〝8人目〟……許さない……」
「話を聞いていただろ! 如月に悪意はない! 争う理由はなくなった!」
「関係ない!」
ねむりちゃんの目は据わっている。濃厚な殺意が私に注がれている。
本来なら怯えるべき場面かもしれないけど、私は――なんというか、丁度いい、と思った。
彼女の好きにさせてあげようと。
だって、私には生きる資格なんてない。ねむりちゃんが私の首に手をかけることで満足するというなら、それが一番いい。これは贖罪じゃない。ただの自己満足だ。
だけど、朝比奈さんが私を抱えて飛んだ。なぜかロイもついてきた。
すぐさま私たちを追いかけようとねむりちゃんが宙に浮くが、楪さんの鎖に捕縛される。
先ほどまで泣いて死を望んでいた楪さん。その顔はまだ涙でぐちゃぐちゃのままだったが、目は決意に燃えていた。
しかし縛られていたはずのねむりちゃんはいつのまにか地面に立っていて、その拘束を解いている。どういう魔法を使ったのかは不明。瞬間移動だろうか。
結果的にねむりちゃんは出遅れた。朝比奈さんの方が速いので距離が縮まることもない。
皆が私を逃がそうと努力している。
でもそれは見当違いな努力だ。私はねむりちゃんに殺されてもいいと思っているのだから。
「やめて……」
「なんですか! 小春さん!」
「私をねむりちゃんに差し出して。そうすれば全部解決だから。もう皆が争うこともなくなる」
「なに言ってるんですか! そんなのダメで――」
次の瞬間、私の身体は宙に投げ出された。
朝比奈さんは相変わらず天に向かって進んでいたが、なぜか私だけつい数秒前までの地点に戻っている。
私と朝比奈さんは離ればなれになっていた。
「えっ!?」
空いた両腕に気づいた朝比奈さんは、ややあって後方に私の姿を見つける。
しかし彼女の直進は速すぎて、勢いを殺して方向転換するのに時間がかかった。
その隙をねむりちゃんが見逃すはずがない。
一気に距離を詰め、その手が私の首に伸びる――。
銃声が鳴った。その音に弾かれるようにねむりちゃんがよろめく。血飛沫。遠くでアリスちゃんが銃を構えていた。
ねむりちゃんより早く、朝比奈さんが私を捕まえた。再び塔の脱出を試みる。ねむりちゃんは私を追いかけようとしたが、迫りくる白煙に飲み込まれた。
私と朝比奈さんは塔を脱出した。