【旧】皆を救いたいだけなのに、不器用すぎて主人公勢に敵認定されるミステリアスヒロインムーブをしたい!   作:k-san

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計画

 12年前。俺は死に、生まれ変わった。

 どうして死んだのかはこの際どうでもいい。大事なのは、生まれ変わった俺が住むこの世界のほうだ。

 この世界は俺が前世で視聴していたアニメ『魔法少女は殺し合う』の世界だ。

 物騒なタイトルから察せるとおり、某名作を発端に増えたダークファンタジー路線の魔法少女アニメのひとつである。

 

 蒼生円蓋町(そうせいえんがいちょう)を舞台に、7人の魔法少女が魔人との戦いを繰り広げている世界。

 主人公の如月(きさらぎ)小春(こはる)は、街の中央に聳える蒼生円蓋塔に緊急招集を受ける。塔に着いた小春を待ち受けていたのは、小春を含めた8人の魔法少女たち。

 しかし、魔法少女は同時期に最大7人しか存在しない。話はすぐ、集った8人のうちに、魔法少女に化けた魔人の手先がいるという結論に至る。

 そして疑心暗鬼に駆られた魔法少女たちによる、血で血を洗う争いが繰り広げられ――。

 

 とまあだいたいそんな感じのあらすじだ。

 要するに魔法少女モノに人狼要素とバトロワ要素を加えたダークファンタジーである。

 

 ここが『魔法少女は殺し合う』の世界だと気づいたきっかけは、自分に付けられた名前だった。

 橘すみれ。

 如月小春の幼馴染みのひとりで、主人公勢に位置するメインキャラクターである。

 穏やかクールな雰囲気を持ち、中学生らしからぬ大人の包容力で主人公のメンタルヘルス要員を務めるのだが、それが理由か中盤で鬱展開をつくるために死亡してしまう。

 

 そんな人物に転生したのだと気づいた俺だったが、悲観はこれっぽっちもなかった。

 だって、好きな作品の世界に転生できたのだ。こんなにワクワクすることがほかにあるだろうか?

 あのキャラクターやこのキャラクターに実際に会ったら……という夢想を散々してきた俺にとって、ダークファンタジー路線であるとか原作死亡キャラに転生したとかのマイナス要素は些細なことだった(たぶん、自分は死なないだろうという正常性バイアスもあったと思う)。

 

 それに橘すみれに転生したことで、俺は胸の奥底にあったとある願望を自覚できた。

 願望と言うのは、『皆を救いたいだけなのに、不器用すぎて主人公勢に敵認定されるミステリアスヒロインムーブ』をすること。

 ちょっと言ってることが難しいかもしれない。

 説明しよう。

 

 とあるアニメがあると仮定してほしい。バトル、ファンタジー、サスペンスなど、ときに登場人物が死亡する展開もありうるジャンルがいい。

 そのアニメには、主人公勢と敵対するミステリアスなキャラクターが存在する。

 そのミステリアスさんはだいたい孤立していて、つねに主人公勢の陰で暗躍している。ときには明確に対立することもあるため、いつしか主人公勢に敵と認識されるようになる。

 だがその実、ミステリアスさんに主人公勢への敵意はない。

 裏で暗躍しているように見えたのは、単独行動をしているがゆえだ。その行動も、主人公勢を陰で手助けしたり、誰よりも早く危機を察知して事態解決に動いているだけの悪意ゼロのものである。

 対立にしたってすべては主人公勢から仕掛けたことで、ミステリアスさんにとってはただただ降りかかる火の粉を払っただけに過ぎない。

 腹を割ってちゃんと話せばそれらの誤解は解けるだろう。しかしミステリアスさんは不器用で、その本心を上手く伝えることができない、もしくは伝わっていると勝手に思い込んでいる。

 そんな不器用さがミステリアスな雰囲気をつくり、そのミステリアスな雰囲気が主人公の警戒に拍車をかける。

 もちろん最終的にミステリアスさんの真意は発覚する。そのうえで、和解が成立する場合もあれば、ときに後の祭りだったりすることもあるが……。

 

 俺はそのミステリアスさんになりたかった。

 そしてそのロールプレイをするのに『魔法少女は殺し合う』の世界はうってつけだった。

 そこで俺はミステリアスヒロインのロールプレイをするべく、0歳の時点で人生計画を立てた。

 まあ要するに俺の手で如月小春とその仲間たちを曇らせたいだけだ。

 

 できれば主人公勢に殺されたあとでその真意が発覚し、主人公勢を絶望のドン底に叩き落とすという展開をやってみたいではあるが――さすがにそれはやりすぎか。

 せいぜい憎しみがピークに達したタイミングで負傷し(意識不明がいいな)、決着がついたと思ったときに真意を知らせるくらいがちょうどいい。曇らせたいと言っても、俺が死ぬことで修復不能の心の傷を負わせるのはちょっと後味悪いし。

 あと死にたくねえ。

 

 それから、『魔法少女は殺し合う』のストーリーはけっこう悲惨だ。

 最終的にほとんどの登場人物が生き残らない。俺はこの結末を変えようと思う。

 情もそれなりにある。が、それ以上に問題なのは、人がバンバン死にまくって鬱展開が量産されているときに、実はミステリアスヒロインに敵意はありませんでした……という種明かしをしても、その他の鬱展開によって印象がかすむだけだ。

 できる限り死者はゼロに抑えて、俺と敵対してしまったことを主人公勢最大の過ちとしたい。

 

 幸い俺は『魔法少女は殺し合う』の視聴者なので、誰が8人目なのかは知っている。

 努力次第で原作に描かれた悲劇を回避できるはずだ。

 

 心赴くまま、ロールプレイに徹しよう。

 

 

 

 というようなことを、転生だの原作だのの事情は伏せてロイに語った。

 

「きみは――おかしい!」

 

 それがロイの感想だった。

 

「はー!? 俺がなにを言っても否定しないって言ったじゃん」

「確かにそう言ったが、いくらなんでも想定の範囲を――『俺』?」

「まーまー、小さいことは気にすんなって。ほら、多様性多様性」

「先ほどまでのきみは猫をかぶっていたというわけか……」

「まーね。それもロールプレイの一環」

 

 ロイのディスプレイにドットで怒りが表現された。かわいい。

 

「いいか、きみがやろうとしていることは少女たちの健全な精神に取り返しのつかない傷跡を残す行為だ。それも、『自分のことで他人が後悔するところを見て、自らの有用性を確認したい』という勝手で浅ましい欲望のために。そんなことが許されると思うのか?」

「か、勝手で浅ましいって……そこまで言わなくていいじゃん……」

「す、すまない」

 

 わりと結構傷ついた。

 いちおう後ろめたい自覚はあるのだ。

 

「まあいいや。その勝手で浅ましい欲望のために、ロイにも計画を手伝ってもらうんだからねぇ」

「くっ――!」

「そんな悔しそうにすんなって。俺は魔法少女としての務めはまっとうするつもりだからよー。裏でちゃんと善行を重ねないと、誤解が解けたときの衝撃が弱くなるからな」

「誤解を生じさせる必要はないだろう」

 

 いまだ非協力的なロイの態度は無視する。

 

「そんなこと言わずにさ。ロイにやってもらうことはそう複雑じゃない。

 まず、俺の本性を誰にも明かさないこと。これは当然だよな? んで、(きた)るべきときが来たら、俺が実は魔法少女全体の利益を考えて行動していたことを明かす。ほかにもその時々でお願いすることはあるかもしれないが、大枠はこんだけだ。単純だろ?」

 

 原作開始は2年後だ。街の魔法少女たちがひとところに集ったとき、物語は開始する。上手く立ち回ることができれば、本来は死亡するはずの魔法少女たちも救えるはずだ。俺の計画は結果的に皆の利益になる。

 もちろん、そんなことはロイには言えない。

 

「どうして私が打ち明ける係なんだ?」

「こういうことには疎いんだな。そのときの俺は負傷していて話せない状態なんだ。それに、自分の善行をペラペラ語るのはあんまり不器用キャラって感じじゃない」

「む。そういうものなのか……」

 

 いつの間にか流されている自分に気づいたのか、ロイはハッとした表情をディスプレイに映した。

 それから取って付けたようなセリフを足す。

 

「いや、私は手伝わないからな!」

「なに言ってるんだ? もう契約は完了したんだから、ロイに拒否権はないだろ?」

「契約する相手を間違えた!」

 

 ロイの叫びはあたり一帯に大きく響いたが、むなしいかな、その声を認識できるのは俺ひとりだった。

 

 ◇◆◇◆

 

 ふてくされるロイを連れ。俺は愉快な気分で家路についた。

 

 ようやく12年来の計画を実行に移す目途が立った。

 橘すみれに転生できたとは言え、実のところ俺が魔法少女になれるかどうかは未知数だった。俺が《俺》であるがゆえに物語の運命がねじ曲がり、橘すみれが『仲介者(エージェント)』に選ばれない可能性もあったからだ。

 12年もの長きに渡り俺を苦しませてきた不安要素が取り除かれたことで、気分はこれまでにないくらい晴れやかだった。

 軽やかな足取りが、いつしかスキップになるまでそう時間はかからなかった。

 

「こうして見ると無垢な少女だな」

 

 皮肉たっぷりにロイが言う。

 ロイの言うとおり、はた目には俺は無垢な子供だ。その胸中でどれだけ薄汚い欲望が渦巻いていようが、人にスキップを笑われるようないわれはない。

 

 人生最高の気分なのだ。スキップくらい好きにさせてほしい。

 

 だが――。

 自宅を目前にして、俺の足は止まった。

 

「嘘だろ……?」

 

 思わずそうつぶやくのも無理はない。

 

 家に帰ると、家がなかった。

 

 俺の家だったものから轟々と火の手が上がり、周りを消防車と野次馬が囲んでいる。

 消防士たちが懸命に消火活動に取り組んでいるが、その努力が実を結ぶ気配はいまのところない。

 

 なんだこれ……?

 

「すみれ!」

 

 呆然と立ち尽くしていると声をかけられた。

 母だ。

 両親が俺のもとに駆け寄る。

 母は目に涙を溜めながら俺を抱きしめた。

 

 ああ、燃えている……。

 12年もの時間を共にしてきた我が家が……。

 かけがえのない思い出が……。

 

「武器の強化に支払った代償は、この家だったのか?」

 

 ロイの冷静な問いかけに、俺は首を横に振る。

 代償に指定したのは、俺がコレクションしていたレアカードだ。

 ただ、一番のレアカードを失くすのは惜しい気がして、五番目くらいにレアなカードを指定したのだが……。

 家がこれでは、どのみちすべて灰の中だ。

 

「なるほど。別件の可能性はゼロではないが、タイミング的に偶然と考えるのは不自然だな。おそらくすみれが払った代償が魔法の威力に見合っていなかったのだろう。その場合、すみれの意思とは無関係に支払う代償が選ばれるのではないか。

 ……まあ、とにかく、同情する」

 

 俺は母に倣って泣いた。




お読み下さりありがとうございます。
一話共々あんまり納得いっていないので、あとで書き直すかもしれませんが、しばらくはお話を進めることを優先したいと思います。
次回は原作開始時点からスタートする予定です。
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