【旧】皆を救いたいだけなのに、不器用すぎて主人公勢に敵認定されるミステリアスヒロインムーブをしたい! 作:k-san
私の人生には、本来あるはずだったなにかが欠けている。
そんな漠然とした感覚がつねにあった。
「小春っ! 盾!」
と
すると翼のモチーフが装飾された大きな盾が出現し、魔人の攻撃を防いだ。
危なかった。少しのあいだ、ぼんやりとしていた。
私は
「ナイス小春!」
なんだか部活をやってるようで、少し笑いそうになる。
けれど、いまは魔人との戦闘中だ。油断は禁物。
魔人は三角や四角などの図形を組み合わせたような無機質な姿をしている。
見た目からは生き物のような印象は受けないものの、明確な意思を持っていることは分かる。
敵意。
あれだけの敵意を放っていれば、誰だってそこに意思を感じずにはいられないだろう。
先ほどから無数の光線を受けている。薫ちゃんは俊敏なのでたいてい回避できるし、もしものときは私の盾で防ぐことができる攻撃だから、大事には至っていない。けれど、あの光線が一本でも当たることがあれば……その先は想像したくもない。
「いま!」
掛け声のあと、薫ちゃんが魔人に接近して剣を振るった。剣は薫ちゃんの魔道具だ。刀身の短い片手剣。余計な装飾はなくて、ただ敵を斬るためだけに存在するような、冷たい鉄の塊。
先ほど私が防いだ攻撃は、魔人の大技のようなもので、いちど放つとほんの少しのあいだ隙が生まれる。その一瞬を見逃さなかった薫ちゃんの特攻により、魔人の身体はバラバラになった。
丸、三角、四角。魔人を構成していたさまざまな図形が砕け、周囲に散った。
薫ちゃんが爽やかな笑顔を私に向ける。
緊張感から解放された私は、その場に膝をついて――。
「まだだ!」
『
顔を上げると、散った図形の一部……三角の先端が私めがけて迫るところだった。
薫ちゃんの表情は先ほどの笑顔と打って変わって凍り付いている。
「あっ……!」
盾を向けようとしたが、頭がパニックになっていて身体が追い付かない。
――ああ、もう間に合わない。
死を覚悟して目をギュッと瞑る。
しかし痛みはいつまで経ってもやってこなかった。
おそるおそる目を開けると、私を貫こうとしていた魔人の一部は、賽の目状になって地面に転がっていた。
なにがあったのか理解する間もなく、魔人の欠片が音もなく消滅する。
「小春!」
薫ちゃんが駆けつけて、私の両肩に手を置いた。
「平気?」
「うん。薫ちゃんが助けてくれたの?」
「自分じゃない。勝手にバラバラになったんだ」
じゃあ、どうして私は無事なんだろう?
「魔人は死体を残さない。逆に言えば、完全に消滅するまで警戒を怠ってはいけないということだ。前にも言ったが」
「ごめん、ロココ……」
「今回は薫の攻撃ですでに致命傷だったんだろう。力を振り絞って玉砕覚悟の特攻をしたが、途中で力尽きた。そんなところじゃないか?」
「そうかな。自分の印象だと、力尽きたって感じではなかったように見えたけど」
いくつか考えを述べてみるものの、結局それらしい答えは出なかった。
そのとき。
私は気配を感じて空を見上げた。ここは周辺に雑居ビルが立ち並んでいて、その屋上から誰かの視線を感じたような気がしたのだ。
「どうしたの、小春?」
心配そうに顔を覗き込む薫ちゃん。
「ううん、なんでもない」
たぶん、気のせいだ。そこには誰の目もなかった。
◇◆◇◆
「せっかくの同胞なんだ。挨拶はいらないのか?」
「いらない。なんたって俺は孤立無援のミステリアスヒロインだからな」
「窮地を救ったのは自分だと名乗り上げたらいいじゃないか。きっと感謝されるぞ。結局のところ、きみは感謝されたいだけなんだろう?」
「まあ究極そうなんだけどさ。感謝にもいろいろあって、俺の場合は申し訳なさそうに感謝されたいんだよ」
「よく分からない……。けっこうな時間が経つというのに、きみの言葉はいまだに理解不能だ……」
まったく時間ってやつはいつだって過ぎてみればあっという間だ。
なんやかんやありつつ、ロイと契約を交わしてから2年もの月日が流れていた。
俺は中学校に進学し、現在14歳。
この2年で何体もの魔人を単独撃破し、着々と実力をつけてきた。
懸念していた『代償魔法』のさじ加減も把握しつつあるし、だいたいの魔人は固有魔法を発動するまでもなく魔道具のワイヤーで片が付く。
魔法少女が板についてきたこの頃、ようやく原作が動き始めた感がでてきた。
というのも、最近になって主人公・如月小春とその幼馴染みである赤羽薫の活躍がちらほら見受けられるようになったのだ。
画面でしか見たことのない二人が魔人と戦う姿を目撃し、興奮したのは言うまでもない。
原作どおり、二人は協力して活動しているようだった。
攻めの薫と守りの小春。攻守のバランスが取れた、良い連携である。
しかし二人は魔法少女としてまだまだ日が浅く、ときどき危なげな瞬間があるので、こうして裏で手助けしている。これもまたロールプレイの一環だ。
時期的にそろそろ原作開始が近い。
『魔人との戦闘中じつは助けられていた』ポイントを稼ぐならいまだろう。
ロイの小言を適当に捌きながら、現在住んでいるマンションに帰る。
室内は殺風景で、とても子供がいる家庭とは思えないくらい生活感がない。
2年前の火災を経験してからというもの、両親はなにかを所有することが怖くなったようだ。
まあミステリアスヒロインの住む部屋と考えるとちょうどいい。
両親とは違い、俺にはいちおう趣味がある。
ベランダに出て、じょうろを手に取る。水を入れて、ベランダを埋め尽くす花壇に水を与える。
俺の趣味は園芸だ。
俺の手ですくすくと育つ草花を眺めていると、心が癒される。
とはいえ観賞用に始めたわけではなくて、ちゃんと実利を兼ねている。
手間暇をかけ、充分な愛情を持って育てた植物は『代償魔法』にもってこいなのだ。
最初はただ『代償魔法』に利用するべく始めた趣味だが、育てているうちに愛着が湧いた。
いまは、この植物たちがいつか『代償魔法』の犠牲となって失われてしまうことが怖い。
俺は自室に戻った。
「なあ。前にこの街は魔人除けの結界で覆われてるって話をしたよな? 蒼生円蓋町って名前は、結界がドーム状に張られてんのが由来と思ったんだけど、どうかな?」
蒼生円蓋町の境界はきれいな円になっており、その円に沿って魔人の侵入を防ぐ結界が張られている。侵入を防ぐと言っても完全ではなくて、ある程度強力な魔人は結界を破ることができる。その際、どういう機構かは分からないが、魔人の侵入が第六感を通じて周辺の魔法少女に知らされる。
「私には町名の由来など分からないが、その可能性は充分あり得ると思う。となると、蒼生の部分は『創世の魔法少女』が由来だろうか」
創世の魔法少女とは、この世界を創造した最初の人類。
早い話が神様だ。
創世の魔法少女は世界を創り、その心臓を世界の中心に収めた。
その場所こそが蒼生円蓋塔だった。
魔人が蒼生円蓋町に侵入するのも、ひとえに世界の心臓が狙いとされている。
やつらが世界の心臓にたどり着いたが最後、なんかめちゃくちゃヤバいことが起きて世界がすんごいことになるらしい。
だから俺たち魔法少女は魔人と戦わなくてはならない。
「創世の魔法少女かぁ。まだ生きてんのかな?」
「私見だが、彼女はこの世界のシステムそのものとしていまも生き続けているのではないだろうか」
「ってことはロイも創世の魔法少女の一部かもしれないなー」
あー、ネタバレしてえ。
こういう設定の話になると、だいたいは俺のほうが知識量で優位に立っているから、《教えてあげたい欲》が湧いてきてなにもかもぶちまけたくなる。
だけどそんなことをすれば「どうしてきみがそんなことを知っているんだ」という話になってややこしいので、我慢する。
だけど、もういいかな……。
ロイは俺の完全な協力者だ。裏も表もすでにロイにはさらけ出している。いまさら転生うんぬんの事情を隠し続けるのは、少しばかり水臭いんじゃないだろうか?
そうだ、言ってしまおう。
隠し事を抱え続けるのも、いい加減めんどうになっていたのだ。
「あのさあ、俺、実は――」
そのとき、俺の第六感がなにかを警告した。
それは魔人が街に侵入したときに走るあの感覚と似ていたが、発信地がいつもと違う。
「馬鹿な!」
ロイが珍しく叫んだ。
警告の発信地は、蒼生円蓋塔だったのだ。
魔人が塔に現れた?
それはあり得ない。魔人が塔にたどり着くには、必ず結界を破る必要がある。結界が破られれば魔法少女に知覚される。万が一にも見逃しはありえない。
ということは……。
ぶわりと全身が粟立った。
それは塔に魔人の侵入を許してしまった恐怖ではなく、喜びによってだ。
ついにきた!
蒼生円蓋塔からの発信――これは緊急招集だ!
とうとう原作が始まったのだ。
「行くぞ、ロイ!」
「もちろんだ」
俺はすぐさま魔法少女に変身して、帰って来たばかりの家を再び空けた。
※※※※
私の人生にあるはずだったなにか。
たぶん、それは〝なにか〟ではなく〝だれか〟だったんじゃないだろうか。
私の隣にはいつも薫ちゃんがいる。でも、もう片方の隣にもだれかがいたような気がする。
薫ちゃんがそばにいることで、その分私の心は満たされる。だけど、満たされれば満たされるほど、かえって欠落が目立つ。完全に近づけば近づくほど不完全が許せなくなる。
渇きが強くなる。
あなたはいったいだれなの?
蒼生円蓋塔からシグナルが発信され、薫ちゃんやロココが動揺しているこの大変なときに、私はそんなことを考えていた。
「――る! 小春!」
「え?」
薫ちゃんに肩を揺さぶられ、我に返る。
「大丈夫!? ぼんやりしていたみたいだけど」
「あ、うん」
「小春も感じたよね? 塔に魔人が侵入したこと」
「うん」
「急がないと大変なことになる!」
私と薫ちゃんは再び魔法少女に変身して、蒼生円蓋塔に向かった。
道中、ロココが落ち着き払った口調で語る。
「魔人が結界を避けて塔にたどり着くすべはない。おそらくこの信号は魔人侵入のそれとは似て非なるものじゃないだろうか?」
「似て非なるものって……そうだとしたら、なんなんだろう?」
「単に魔法少女の招集を目的としたものかもしれない。過去に例がある」
そうだとしても、急いだほうが良いのは間違いない。
蒼生円蓋塔には屋上がなく、全体が巨大な煙突のような構造になっている。
地上に入り口はないため、空高く昇り、てっ辺から穴の中へ飛び込むしか塔に侵入する方法はない。
塔に対して水平になり、地面に向かってどんどん下降していくと、出口のないトンネルを進んでいるような気分になった。
やがて塔の底にたどり着く。
そこは巨大な一室となっていた。光源は太陽の明かりのみで、夜には壁面に備え付けられたランプが灯るのだろう。
室内には円卓があって、7つの椅子が用意されている。
そこに5人の先客がいた。
「きみらで最後か」
最年長と思われる緑髪の女性が言った。
見ると、2つの席が空いている。
ここに集まっている人たちはみんな魔法少女なのだろうか?
7つの椅子。同時期に7人しか存在しない魔法少女。状況証拠だけだが、そう推測するには充分だった。
「これってなんなんですかね?」
「さあね。あたしが知りたいくらいだよ。魔人の気配を感じてすっ飛んできたけど、現れたのは同業だけだった」
オレンジ色の髪の少女が問うと、緑髪の女性が肩をすくめて答えた。
そこに薫ちゃんが口をはさむ。
「発言いいですか? さっきそこの『
「そうなの?」
「ああ」
ロココはうなずいた。
すると金髪の少女が吠えた。
「じゃあなにもすることないんじゃん。帰っていいよね?」
「招集がかかっているのであれば、なにかしら議題があるんじゃないですかね~。もう少し待ったほうがいいかと~」
紫髪の少女がやんわりと制す。
このなかでまだ発言していないのは、私と白髪の少女だけだった。
白髪の少女は椅子に座ってぼうっと中空を見つめている。状況を把握できているとは思えない。
「待つっていったいなにを待つのさ?」
「さあ……。とりあえず自己紹介でもするか?」
緑髪の女性が提案したとき、上空に新たな気配を感知した。
白髪の少女を除く、この場の全員が臨戦態勢に入った。
「魔人か!」
魔法少女は揃っている。
この状況で新たに現れる者がいるとすれば――それは魔人に他ならない。
私たちは空を見据え、やがて現れるであろう〝それ〟を待った。
やがて遠くに影が見えるようになる。
影は少しずつ大きくなって、その輪郭をはっきりとさせながら私たちに接近した。
ほんの短い膠着状態。
まっさきに動いたのは薫ちゃんで、どこからともなく剣を出現させると、その影目掛けて突撃した。
――が。
影と接触する寸前に全身から血を噴き出して、地面に落下した。
「薫ちゃん!」
「ずいぶんなご挨拶ね」
〝それ〟が地面に到着すると、皆が驚愕の表情を浮かべた。
驚くのは無理もない。
〝それ〟――いや〝彼女〟は、異形を基本とする魔人たちとは異なる姿……長い黒髪、漆黒のドレス、そして美しい少女の顔を持つれっきとした人間だったのだから。
でも、私が受けた衝撃はそれとは違う。
――私の人生には、本来あるはずだったなにかが欠けている。
そんな漠然とした感覚がつねにあった。
だけどいま、私の人生に欠落していたピースがようやく埋まったという実感があった。
彼女は――。
私がずっと探していた人だった。