【旧】皆を救いたいだけなのに、不器用すぎて主人公勢に敵認定されるミステリアスヒロインムーブをしたい!   作:k-san

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自己紹介

 原作が始まる興奮から勇んで家を飛び出した俺だったが、道中は心を落ち着けて、あえて急がずマイペースに進んだ。

 

「すみれも気づいたか? これが塔からの招集であることに」

「ああ」

 

 適当に返事をしておく。俺が余裕をもって移動しているのは、これが塔からの緊急招集だと気づいたからではなく、到着を最後にしたほうがミステリアスヒロインポイントを稼げそうだからだ。

 想像してほしい。7人の魔法少女が揃ったタイミングで、謎の人物が遅れてやって来たらどうなるか。

 第一印象は当然よくないだろう。最悪交戦になるかもしれない。

 だがそれがいい。悪いことをしたわけではないのに、勝手に敵認定されるのが俺の目的なのだから。

 

「だが急いだほうがいいことには変わらない。もう少し速度を上げたらどうだ?」

「そうだな」

 

 ロイがうるさいのでペースを気持ち速くした。

 

 

 

 蒼生円蓋塔に着いた。

 てっ辺の穴からなかに入り、穴の底を目指して下降すると、遠くに7人の魔法少女が俺の接近を警戒して臨戦態勢に入っているのが見えた。

 

 お、揃ってる揃ってる。

 

 思ったとおり魔人と誤解されていそうだ。このまま進むと攻撃を受ける可能性があるが、構わず下降を続ける。

 すると想定どおり向こうが動き出した。7人の魔法少女のうち、ひとりが俺に向かって特攻を試みた。

 

 赤髪の魔法少女――赤羽薫だな。

 

 俺は彼女の進行方向に魔道具を展開した。無数のワイヤーが張り巡らされた空間に、そうと知らない赤羽薫が突っ込む。彼女は全身に切り傷をつくり、地面に落ちた。

 

「薫ちゃん!」

 

 桃色の髪の少女――如月小春が叫ぶ。

 安心しろ、傷は浅くなるよう配慮した。

 如月小春の固有魔法なら難なく治せるだろう。

 

 地面に到着する。

 魔法少女たちは俺が人間であることを認め、驚愕の表情を浮かべていた。このままでは膠着状態が続きそうだ。沈黙を破るべく、俺は彼女たちに第一声を放った。

 

「ずいぶんなご挨拶ね」

 

 決まったあああああああああああああああ!!!

 

 っっっしゃコラァァァッ! いまのめちゃくちゃミステリアスヒロインだっただろ! 第一印象最悪だけど後々誤解が晴れる系ヒロインの第一声としてこれ以上ないくらい完璧だっただろ!

 

 非常に幸先がいい。

 この先も計画は順調に進みそうだ。

 

 小春は呆けた顔でしばらく俺のことを見つめていたが、俺の一言でハッとしたのか、薫のもとへ駆けて、固有魔法を発動した。

 彼女の能力は『回復魔法』。100%優しさでできた彼女の精神性がよく反映されている。

 

「あんた……魔法少女か?」

 

 緑の女が訊ねたので、俺はできるだけ素っ気なく頷いた。

 緑の女はクセっ毛をポニーテールにまとめた眼鏡の成人女性だ。170cmを超えようかという高身長に、ボロボロのロングコートがよく似合っている。孤高のライダーと言った装いだ。

 

「ごめん、てっきり魔人かと」

 

 小春の治療を受けていた薫が素直に謝った。

 こういうのはだいたい傷を負ったほうが自衛した側に延々噛みついて一触即発の空気をつくるのがセオリーなのだが、爽やかイケメン女子の彼女は自分の非をきちんと認められるタイプだった。

 

「え、でもそいつが魔法少女だとしたらおかしくない?」

「魔法少女は7人しか存在しない……ですもんね~」

「あれ、うちら8人じゃないですか!」

 

 金髪、紫、オレンジがそれぞれ発言する。

 早くも異常を察したようだ。

 

「そうだな」緑の女が煙草を咥えて火をつけた。「これじゃ『仲介者(エージェント)』から聞いた話と食い違う。ロッド、魔法少女は8人いるのか?」

「魔法少女は同時に7人までしか存在しない。例外はない」

「ってことは、誰かが魔法少女のフリをしてるってことになる」

「フリって、誰がなんのためにですか」

 

 薫が訊ねる。

 

「あたしが知るわけないだろ。あんたはどう思う」

「ここに来れてる時点でただの人間じゃないですよね。ヘリとかあれば別ですけど。ってことは……魔人?」

「魔人は人間のかたちをしてない。ここにいるのはみんな人間だろ」

「お手上げです」

 

 と薫は実際に手を上げた。

 

「でも、魔人が侵入したときと同じ信号が塔から飛んできたんじゃん。なにか悪いことが起こるのは間違いないわよ」

「魔人じゃないとしても、その仲間ってことは考えられますよね~」

 

 その発言のおかげで、場の緊張感が高まった。

 一触即発の空気が形成される。

 

「あんた、魔人の手下じゃないって証明できる?」

 

 金髪が俺を指していった。

「あんた」とは口の利きかたがなっていない。金髪は魔法少女の衣装の上に、高そうだが趣味の悪い毛皮のコートを羽織っている。幼く小さな肢体(したい)や、内に着た衣装との食い合わせを一切考慮しない外套のまといかたからして、着ているより着られているという言葉がぴったりの有様だ。

 

「わたし? どうしてあなたでも他の誰でもなく、わたしが証明しないといけないの?」

「あんたが最後に来たからよ!」

「まあまあ、落ち着いて」薫が金髪を宥める。「順番はあまり関係ないでしょう」

「ああ!? だったらあんた証明できんの? 魔人の手下じゃないって!」

「うーん、証明になるかは分からないけど、自分はここにいる小春と幼馴染みで、互いに身分は保証できる。よね? 小春」

「う、うん……。私と薫ちゃんは、協力して魔人と戦ってる……」

「あんたは!?」

「あたしか?」

 

 金髪が矛先を緑の女に変えた。

 

「あんたどう見ても少女って歳じゃないじゃない! 煙草も吸ってるし。いったいいくつなのよ!」

「23歳。これでもれっきとした魔法少女……って自分で言うのはきついな。でも、魔法少女だって人間なんだから、12年もやってりゃいつかは成人するだろ?」

「23歳って、おばさんじゃない! あんた怪しいわよ!」

「はあ!? まだおばさんって言われるような歳じゃない! お姉さんと呼べお姉さんと! だいいち、さっきから誰彼構わず噛みついてるお前のほうがよっぽど怪しいわ!」

「はあ!?」

 

 金髪と緑の女がいがみ合う。

 二人がぎゃあぎゃあ喚いていると、小春がおずおずと手を上げて、

 

「あのぅ……。とりあえず自己紹介したほうがいいんじゃないでしょうか……」

「そうですよ。水掛け論で争い合うより、お互いの身分を明かすのが先じゃないですか? ……色々と参考にもなると思うし」

 

 薫が補足した。

 

「そうだ。あたしもそうしたかったんだ」

 

 緑の女が椅子に座り、金髪とオレンジがそれに続いた。白髪は最初から座りっぱなしで、そもそも現状を理解しているか怪しい。

 俺と小春と薫は立ちっぱなしを選んだ。

 

「じゃあいい出しっぺから行きましょうか。自分は赤羽薫っていいます。円座(わろうだ)中の二年です」

 

 薫は胸に手を当て、心地よいアルトの声で名乗った。アシンメトリーのショートカットは燃えるように赤いが、魔法少女でないときの地毛は黒だろう。探偵のようなインパネスコートや膝上のキュロットパンツからは長い手足が伸び、スタイルのよさを見せつけている。

 

「あ、如月小春です。私も円座中学校の二年生です」

 

 ピンクのボブカットにフリルをあしらったドレスは「これぞ魔法少女」といったいで立ちだ。魔法少女アニメの主人公であるわけだから当然だが。俯きがちで、つねに上目遣いの様子からは自信のなさが窺える。

 

「自分と小春は小学生のときから仲がよくて、『仲介者(エージェント)』と契約したのもほぼ同時期です」

 

「ひと月前から、薫ちゃんと一緒に魔人と戦ってます」

「ひと月前? ずいぶん最近じゃない! 怪しい」

「契約して日が浅いから魔法少女じゃないっていうなら、ここの人数は九人になるでしょ」

 

 薫が反駁(はんばく)した。

 いい争いになるのを見越してか、緑の女がすぐさま声を上げた。

 

「じゃあ次はあたしか。あたしは三鷹(みたか)ライカ。見てのとおり、あんたらの大先輩だ」

「大先輩って……成人でも魔法少女は続けられるの?」

 

 薫が小春の『仲介者(エージェント)』に尋ねた。

 

「問題はないよ」

「そういうことだ。ま、あたしは経験豊富だからあんたらより色々知ってんだ。だからって困ったことがあってもあたしを頼るなよ。ほら、次はお前だちびっ子」

「誰がちびっ子よ!」

 

 金髪は怒鳴ってから、その場にいる全員を睨みつけた。

 

「アリスはアリスよ! 11歳! 魔法少女歴は一年! 子供だからって舐めんじゃないわよ! あんたらなんか一生縁のない高級住宅街に住んでるんだから!」

 

 場の全員を見下したようにせせら笑い、毛皮のコートを見せびらかすように両手を広げる。

 品性は金で買えないよレオリオ。

 

 アリスの自己紹介が終わると、みな次の出方を覗うばかりで自分から名乗り上げようとする者はいなかった。なんとなく、オレンジ色の少女に視線が集まる。

 

「あ、もしかしてうちの番ですか? うちは朝比奈(あさひな)しおです。蓬莱(ほうらい)中に通ってます」

 

 蓬莱中という言葉に反応してか、アリスの眉がピクリと動いた。蓬莱中学校といえば屈指のお嬢様学校だ。といってもしおの振る舞いにお嬢様感はない。オレンジ色のサイドテールに、燕尾服をラフにアレンジしたようなトップスとショートパンツは上品という言葉からほど遠い。

 

「歳は15です。うちはもともと病気がちでほとんど病院に住んでるみたいな生活だったから、身体を思いっきり動かせる魔法少女が楽しいです! うちが魔人の手先は絶対ありえないっす!」

「自分からありえないってアピールするのが一番怪しいのよね」

「そうですか? じゃあ、うちが魔人の手先です!」

「聞いた!? こいつが魔人の手先よ! 全員でかかりなさい!」

「お前は馬鹿か。いまの流れだと告白にならんだろ」

 

 ライカが呆れた声でいう。

 

「朝比奈も、あんまり誤解を招くようなことをいわないでくれ」

「すみません」

 

 しおが頭を下げた。

 

 残りは俺、紫、白髪の三人。

 白髪も俺もミステリアスムーブをかましているので、空気を読んだ紫が自分から名乗り上げた。

 

「流れでいうと、次はぼくですかね~。ぼくは(ゆずりは)柚月(ゆづき)です~。円座高校の二年生です」

 

 独特の間延びした口調で喋る彼女は妖艶系ぼくっ娘だ。紫色の髪をゆるいウルフカットにしている。セミロングでボリュームがあるので、中性的というよりは女性的な印象を受ける。おっとりした垂れ目の下には涙ぼくろ。

 早速アリスが噛みついた。

 

「ちょっと! 『ぼく』だって! 怪しいわよ!」

「この子はいったいなんなら怪しくないんですかね……?」

 

 薫が引きつった笑みを浮かべて呟いた。

 滅茶苦茶な理屈で嫌疑をかけられた柚月は、さして意に介した様子もなく笑っている。

 

「あは~」

 

 さて。柚月の自己紹介が終わり、みなの視線が俺に集まったのが分かる。残ったのは俺と白髪だが、白髪は先ほどからいかにも話が通じなさそうなオーラを放っているので、自然と俺の番に決まる。

 

「橘すみれ」

 

 それだけいって、押し黙った。

 すると案の定アリスがぎゃあぎゃあいい出した。

 

「ほかにいうことはないわけ!? それじゃあ、自分が黒ですっていってるようなものよ!」

「…………」

 

 俺が無視すると、アリスはますますヒートアップした。

 しおが「まあまあ」と止めに入る。

 

「名乗ったんだからもういいだろ。ほら、次。そこの白髪」

 

 ライカが白髪に水を向けた。が、白髪はぼんやりと焦点の定まっていない視線を空に向けているばかりで、反応がない。身長よりも長い白髪を野放図に広げたその容姿も相まって、なんだか非現実的な存在だ。

 

「あんたよあんた!」

「おーい、聞こえてますかー」

 

 しおが白髪の目の前で手のひらを上げ下げする。無駄な努力に思われたが、定まっていなかった目の焦点が次第に一個に結ばれていって、我を取り戻したように周囲の人間を観察し始めた。

 

「あんた、名前は?」

「わたし……?」

「そうだ」

 

 白髪は考え込んだ。そんなに悩むようなことか?

 やがて、彼女はゆっくりと口を開いた。

 

「わたし……誰……? 知らない……」

「はあ?」

 

 ライカが困った顔をした。

 

「それじゃあアリスの餌食だぞ」

「なにが餌食よ!」

 

 アリスが円卓を叩いた。

 

「あんた、この状況で名乗れないってんなら魔人の手先ってことになるけど、いいの!? 都合の悪いこと隠すために下手な芝居うってんでしょ!」

「ほら、餌食じゃん……」

 

 だが今回に関してはアリスに理がある。

 白髪の言動ははた目に見てかなり怪しい。アリスを皮肉っていたライカにしたって、白髪に対して警戒を強めた観がある。

 みなの嫌疑を買い、いまにも孤立しそうな白髪の傍らから、立方体が飛び出した。それは『仲介者(エージェント)』だった。

 

「待ってくれ。私から説明させてほしい」

「あんたは?」

「この子と契約を交わした『仲介者(エージェント)』だ。名はロゴスという。

 みながこの子を疑うのも無理はない。だがこの子が自分の名を知らないのは本当なのだ。この子は天蓋(てんがい)ねむりという」

「ねむり……? 誰……?」

「このとおり。自分で自分を認識できていないんだ」

「なんで自分の名前も知らないのよ!」

「契約時、この子が願ったのは『すべてを忘れること』だった。動機はいえない。だが、この子が記憶喪失なのは契約のせいであり、身分を明かせないのは決して後ろめたい事情からではないことを理解してほしい」

「ややこしいな……」

 

 難しい顔でライカがこぼした。

 

 うん、まあ、彼女は登場人物へのミスリード要員としてこれ以上なく怪しいキャラ造形をしているから、初見で戸惑うのも無理はない。

 ねむりに怪しさで負けないよう、せいいっぱいミステリアスアピールをするのが俺の最大の課題だ。

 

 これで全員の自己紹介が終わった。

 

「これでなにかが分かったんですかねー?」

「まあ、これだけじゃあ確かなことは言えんわな」

「いいえ、いまのでアリスには分かったわ。怪しいのはそこの黒髪と白髪! 二人を倒せば全部解決よ!」

 

 お、あの圧倒的不審者な天蓋ねむりがいたにもかかわらず、俺まで容疑者候補のなかに入れてくれるなんて嬉しい。頑張ってミステリアスオーラを醸し出していた甲斐があったというもんだ。

 

 俺は警戒している風を装って、なにも言わず宙に浮いた。上からみなを見下ろす格好となる。

 すかさずアリスが魔道具を展開し、俺を牽制(けんせい)した。

 

「動かないで!」

 

 アリスの魔道具は銃だった。

 

「おい。まだあいつが黒と決めつけるのは早計だろ」

「あいつが逃げるようなそぶりをするからよ。なにも後ろめたいことがないなら、ここでそれを証明したらいいじゃない」

「あのなあ、それじゃ悪魔の証明だ」

「なによ! わざと難しい言葉を使って、アリスを馬鹿にしてるんでしょ!」

「撃ったら戦争だぞ。すみれとお前だけのじゃない。この膠着状態が解けたら、話し合いなんて無用の血で血を洗う殺し合いの始まりだ。お前はその引き金を引くのか?」

「うるさい! 撃てないと思ってんの!?」

「はあ~~」

 

 ライカはため息をついて。

 固有魔法を発動した。

 

 室内が濃い煙で覆われて、誰の姿も視認できなくなる。

 幸い俺は宙に浮いていたので、唯一煙に飲まれることがなかった。

 

 煙の中から魔法少女たちのむせた声がする。煙の中はさぞ苦しかろう。宙に浮いててよかった。

 ――と安堵していたら、乾いた発砲音と共に弾丸が飛んできた。

 

「うおっ!」

 

 小さく悲鳴を上げる。煙の中からは俺の姿は見えないようで、弾丸は明後日の方向に飛んで行ったが、それでも肝は冷える。

 さらに二発目、三発目の銃声が鳴る。

 ここに留まっていたらいつか本当に撃たれてしまいそうだ。

 俺は急上昇し、蒼生円蓋塔を脱出した。

 

 自室に戻り、変身を解く。

 変身を解くと、ドッと疲労が押し寄せてきた。

 

「うは~! やっぱみんなの敵ってのは命懸けだなぁ」

「それがきみの選んだ道だろう。命が惜しければ、いまからでも彼らに頭を下げて、敵意はないと伝えるといい」

「やだよ。ようやく計画が動き出したんだもん」

「それにしても、厄介なことになったな。8人目の魔法少女……その正体は不明だが、我々の敵である可能性は高いだろう。せめて誰が8人目か知ることができれば……」

「あ、それなんだけど」

「なにか分かったのか?」

「俺だれが8人目か分かったんだけど」

「え!?」




2025/11/19 追記
自己紹介時、それぞれの容姿の描写を軽く追加しました。
それに伴い、柚月の髪型がサイドテールからウルフカットに変わっています。
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