【旧】皆を救いたいだけなのに、不器用すぎて主人公勢に敵認定されるミステリアスヒロインムーブをしたい! 作:k-san
蒼生円蓋塔での顔合わせの翌日、俺はふたたび塔に足を運んだ。
俺にヘイトが集中するよう仕向けたので大丈夫だとは思うが、俺が退場したあとで戦闘が激化し、すでに死傷者が出ている可能性もある。死人が出ると計画が狂ってしまうので、こうして確認に来たわけだ。
蒼生円蓋塔に備え付けられている座席の数は、魔法少女の人数と一致している。原作ではあくまでライカの推測に過ぎなかったのだが、その後、魔法少女の死によって裏付けられる。つまり、塔に来ることで少なくとも魔法少女の生死は確認できる仕組みになっているのだ。
原作だと誰かが死ぬたびに椅子がひとつずつ減っていって、回を重ねるごとに「また〝8人目〟じゃなかった」という絶望感が増していくんだよなー。
塔の中に入り最下層に近づく。遠くから椅子が7つ揃っているのが見えた。もし〝8人目〟が殺されていないのであれば、死者はゼロに抑えられたと分かる。
だが安堵する気持ちは湧いてこなかった。
なぜなら先客がいたからだ。
朝比奈しお、楪柚月、天蓋ねむりの三人が、俺が現れるのを待ち構えていた。
三人なのにはちゃんと狙いがあるのだろう。おそらく魔法少女と〝8人目〟を一対一にしない配慮だ。
待機が一人だと、俺が〝8人目〟だった場合に待機側が危険だし、待機側が〝8人目〟であれば俺が危険に晒される。これは二人組でも同じことで、待機組の内どちらかが〝8人目〟だった場合、もう片方の魔法少女が俺を待つあいだ〝8人目〟と一対一になってしまう。
〝8人目〟に対して常に数の優位に立てるのは、待機組が三人以上のときだ。三人の内に〝8人目〟が紛れていても、魔法少女と〝8人目〟は二対一になるし、俺が〝8人目〟の場合は三対一だ。
たぶんライカの発案だろうな。次点でアリス。
「どうする? 昨日、すみれが去ったあとに彼らのあいだでどういう話し合いがあったか我々には分からない。もしかするときみを〝8人目〟と断定し、抹殺することが決まったかもしれないぞ。やはり〝8人目〟を教えるべきでは?」
「言っただろ。〝8人目〟が分かったのは『代償魔法』のおかげだ。だけど、論理的な推理に基づく指摘ならともかく、固有魔法による犯人当ては客観的な証明にはなり得ない。俺が〝8人目〟でないことが証明されない限り、やつらは俺の言葉に耳を傾けないよ。根拠もなく人を犯人扱いする人間が、他人の目にはどう映るのか、アリスを見れば分かるだろ?」
「むう……。難しいな」
昨日、〝8人目〟の正体をロイに明かした。表向きは『代償魔法』を用いて〝8人目〟を特定したのだと説明しているが、実際はただの原作知識だ。『代償魔法』、めちゃくちゃ便利。
「それに、あいつらは問答無用で俺を殺したりしないよ」
三人組であることがその証拠だ。俺を〝8人目〟と断定しているのなら、別に二人組でもよかったはずだ。だって、待機組に〝8人目〟は存在しないはずなのだから、二人組でも数の優位は保てる。そうではなく、わざわざ三人組にしたのは彼らの側に〝8人目〟がいる可能性を排除しきれていないからだろう。
まあ二人では心もとなくて三人にしたという可能性もあるが……だったら七人全員でかかるべきだ。わざわざ安全に待機できる最低ラインの人数で組んでいるのは、この作業をローテで続けていくこと、そして俺のことをまだ脅威と断定してはいないことを意味している……はず。
う、うん。このロジックで大丈夫だよな!?
急に襲い掛かったりしないよな!?
俺はおそるおそる地面に降り立った。
「お久しぶりですね~」と柚月が言った。
「お待ちしておりましたー!」としおが言う。
「…………」なにも言わないねむり。
俺は無言で引き返した。できる限り最大速度で天を目指す。だが、あくまでポーズだ。俺には彼女たちから逃げ切れないことが初めから分かっていた。
俺に一歩遅れて動いたしおが、一瞬で俺との距離を詰めた。勢いあまって俺を追い抜いたあと、しばらく空中で静止して減速中の俺を受け止める。
そう、彼女の固有魔法は『加速魔法』。彼女は通常の魔法少女の何倍ものスピードで活動することができるのだ。
固有魔法と魔道具は、大抵の場合『願い』と密接に繋がっている。
なぜなら固有魔法や魔道具、そしてパーソナルカラーなど、魔法少女としてのステータスは本人の精神性に強く影響を受けるからだ。
そして『願い』にはそれを願う者の想い、思想、生い立ちが現れる。
つまり『願い』とは精神性の一種の象徴のようなものであり、ゆえに『願い』と能力は不可分なのだ。
例えば俺の場合、他者を曇らせたいという想いが『代償魔法』となり、謎めいた攻撃手段を持つミステリアスなキャラになりたいという趣味がワイヤーのかたちをとって魔道具となったのだろう。
半生を病院のベッドで過ごしたしおの『願い』は「健康な身体」だった。彼女は誰もが当たり前に授かる「自由」を欲し、それが固有魔法にも表れて、『加速魔法』というかたちになったのではないか(こういう場合『飛翔魔法』とかになりそうだが、魔法少女はデフォで空を飛べるので)。
「えっへっへー! 大人しくしてくださいねー!」
俺を羽交い絞めしながら、実に楽しそうに笑うしお。
遅れて柚月が追い付いて、俺を魔道具の鎖で拘束した。
「捕獲」柚月は少し間を置いた。「完了。です~」
うーん、遠目にメンバーが見えたときからこうなる気がしていたよ。
俺は円卓の上で椅子に縛られた。ここの椅子は外に持ち運ぼうとする意思があれば全く動かないが、そうでない限りは普通に移動できる。
柚月の鎖を破ることはできなかった。どんなに力を込めても鎖はビクともしない。ワイヤーで千切れるわけもない。
まあ、べつにいい。
その気になれば『代償魔法』で逃げることもできる。しかしそんなことはしない。これはむしろチャンスなのだ。
この機にめちゃくちゃ思わせぶりなことを言いまくってミステリアスヒロインポイントを稼いでしまおう。
「あっ! ライカさーん! ねずみが網にかかりました!」
しおが連絡をかけている。相手はライカだけではなく、小春や薫も含んでいるようだった。が、アリスにはかけていなかった。ハブられている……。
「あは~。橘さ~ん、ぼくたち訊きたいことがあるんですよ~」
「契約した『
やはりそれか。
こうなったときどうするか、ロイにはすでに言ってある。
『
ロイには俺が許可するまで他の魔法少女たちに姿を見せないよう言いつけていた。原作どおりであれば『
俺は目をそらすことで後ろめたい事情を抱えているかのように演出した。
「…………」
「あれ、言えないんですか~?
「…………」
「ダメですよ~。人と話しているときはちゃあんと目を合わせないと~」
鎖の拘束が強まった。鎖はまるで生きているみたいにひとりでに俺の身体に巻き付き、キリキリと肌を締め上げ、普段は意識しない骨の存在を意識させた。
「くっ! うぅ……」
「ふふふふふっ、ふふふふふふふふ……」
俺は脂汗をかくほどの苦痛に苛まれた。
一方の柚月は、上気する頬を両手で押さえ、うっとりとした笑みを浮かべていた。
「……『
「『
俺は肯いた。
「だから『
「そうですね~……。橘さんの拠点へ行けば、『
「案内はできない」
「う~ん。もしかしてぇ……ク・ロ?」
次の瞬間、轟音と共に俺の身体が椅子ごと吹っ飛ばされた。火薬のむせかえるような臭いが立ち昇る。爆発か?
幸い、衝撃は背後から発生したため椅子の背もたれに助けられたのだが、顔面が壁に激突して鼻血が出た。もしかしたら額からも血が出ているかもしれない。クソ痛え。
思わず声が出そうになったが、根性でなんとか耐えた俺を誰か褒めてくれ。
「黒は……抹殺……」
それはねむりによる攻撃だった。ねむりの魔道具は手榴弾。それを俺に向かって投げたのだろう。
「ダメですよー! ライカさんが〝8人目〟の判断は慎重にって念を押してたじゃないですかー」
「…………そうだった」
次の手榴弾のピンに指をかけていたねむりは、臨戦態勢を解いて大人しく椅子に座った。
それより、爆風に吹っ飛ばされた俺のほうをなんとかしてくれー。
そう祈っていると、柚月がやって来て俺を起こしてくれた。柚月と顔を見合わせる格好になる。
「……っ」
「?」
柚月の全身が硬直した。俺の顔に視線を固定し、呆けたような表情で口を閉じることもせず沈黙を続ける。
なんだ、血が苦手なのか?
戸惑う俺。表情には出さない。
「あは」柚月はにっこりと笑い、俺の顔の血に触れた。心なしか鎖の締め付けが緩んだような気がする。俺が怪我を負ったことで幾分か警戒が解けたのだろうか。
「ライカさんが来るまでどうします? 拷問します?」
「ダメですよ~。下手なことは慎むべきです~」
柚月がしおを睨んだ。
さすがに拷問は堪える。俺は内心焦っていた。しおのキャラ的に思いついたことを適当に言ってみただけで本気ではないだろうし、いまは柚月が止めてくれているが、万が一のことを考えると安心はできない。俺はミステリアスロールを崩さない程度にやんわり牽制する。
「拷問なんて意味ない。わたしは敵じゃない」
「ええ、ぼくもそう思います」
はあ?
いや、敵だろ。
こんなに敵っぽいムーブを頑張ってるんだから、そこは否定してくれよ。
疑え! あんま素直に受け取んな!
「え、なんでそう思うんですか? どう見てもこの人が怪しいです!」
「ふふふふっ。ぼくには分かるんです~」
「なんで、なんで!」
「ぼくの『願い』だからです」
「『願い』? 柚月さんの『願い』ってなんですか!?」
柚月は人差し指を立てて口元に添えた。
「それは乙女の秘密ですよ~」
俺はその「乙女の秘密」を知っている。
彼女の『願い』は――。
「運命の恋……」
あ。
口が滑った。
もし両手が自由だったら口元を押さえていただろう。それはさすがにうっかりさん過ぎるので、縛られていたことは不幸中の幸いだった。
が、現時点でも充分な失言だ。
柚月が目を大きく見開いて俺をじっと凝視している。
やばいやばいと思っていると、その端正なツラを俺の顔ギリギリまで近づけ、まぶしい笑顔で口を開いた。
「やっぱり通じ合っているんですね!」
通じ合っている?
誰が?
誰と?
「うふふふ、嬉しいです……」
熱い吐息が顔にかかってくすぐったい。甘い香りが鼻腔を
「すみれは、ぼくの運命の相手は誰だと思います……?」
なにかを期待するようなまなざしで謎の確認を行う柚月。
もちろん俺は分かっている。
そんなの……。
「小春……?」
彼女以外にいない。
だって、原作アニメがそうなのだから。
ボロボロになりながらも皆を守るため懸命に戦う小春の姿が、彼女の心を射止めたのだ。
タイミング的に小春に惚れるのはもっと後のはずだが、昨日のできごとでなにかが大きく進展したのかもしれない。すでに小春のことを好きになっている可能性は大いにある。
「はあ?」
すさまじい形相で睨まれた。
これまでの人生で(前世も含め)感じたことのないような濃厚な殺気に全身が粟立つ。魔人との戦いでもここまで背筋を凍らされたことはない。しおも引いていた。
鎖の締め付けが急にきつくなった。
え、俺なんか間違えた?
「くふっ……!」
「おしおきです~」
尋問を受けていたときよりよっぽど強い力で締め付けられる。俺は身をよじって苦痛を表現するが、拘束が和らぐ兆しはない。
ドSだこの女!
いや、見様によってはこれでいいのか? のちのち俺が敵でないことが判明したとき、この件で罪悪感を覚えてくれるかもしれない。
うーん、それはなさそうだな。俺のこと敵と思ってないって言ってたし。
しお、助けてくれ!
「なるほどー! 柚月さんが彼女を信用する理由が分かりました!」
しおは俺と柚月を交互に見て、目を輝かせた。
「つまり『愛』なんですね!」
なるほどってなんだよ!
なにを納得したんだよ!
「そういうことです~」
柚月はにこりと笑った。
頼む……。
誰か話が通じるやつを連れて来てくれ……。
そのときだ。
俺の祈りが通じたのかはたまた通じなかったのか。
「ずいぶん仲良くなったようだな」
三鷹ライカは、天の遣いが地上に降臨したかのような、あるいはエレベーターで降下する人物のパントマイムをしているかのような動きで登場を果たした。