【旧】皆を救いたいだけなのに、不器用すぎて主人公勢に敵認定されるミステリアスヒロインムーブをしたい! 作:k-san
三鷹ライカが現れ、俺は歓喜した。俺は彼女の到着を心待ちにしていた。
〝あれ〟をやるなら、彼女以上に格好の標的はいない。
ライカは俺の前髪を手でかき上げ、額の傷を観た。
「血だらけじゃないか。もう殴ったのか?」
「ねむりさんが爆弾で吹っ飛ばしたんです!」
「ねむりはコントロールが利かないからなぁ……」
困ったように頭を掻く。
なんというか、まとめ役が板についてるなあ。
「で、首尾はどうだ。『
「それが、いまは『
「
「案内するつもりはないそうです~」
「そうなのか?」ライカはため息をついて、俺と目を合わせた。腰をかがめて、子供にそうするように目線を合わせる。「状況は分かってんのか? いまは協調が大事なんだよ」
協調、というフレーズに自嘲の気配を感じる。自分には似合わない語彙だという自覚があるのか。
「『お前どこ住み?』ってだけの話だ。そう構えんな」
「答えるつもりはない」
「そりゃあ理解はできるぜ。あたしだってほかの連中に寝床を教えられるほど平和ボケしちゃいねえよ。だけどな、あんたに拒否権はないんだよ。四の五の言わずにとっとと吐け。あたしらはただ『
「すみれ、私を出すべきだ」
ロイが横槍を入れる。少し罪悪感を覚えるが無視。
「心配せずとも、『
「……そうか」
ライカは立ち上がった。ケースから煙草を取り出して火をつける。俺と距離を置いて、魔道具を出現させた。
バイクだ。
排気量が確実に4桁あるであろうゴツい見た目の自動二輪車だ。それはひとりでに自立し、エンジン音が遠雷のようにびりびりと地面を震わせている。
「5秒数えたらお前に突っ込む。チキンレースと行こうじゃねえか」
よし来た。尋問だな? 望むところだ。
お前らの知らないことや、本人にしか知りえないはずのこと、いろいろぶちまけて混乱させてやるぜ。
情報の格差は疑心の根を生むからな。持っている情報に差がある場合、普通それは経験か立場の違いから来ている。魔法少女としての経験はライカのほうが圧倒的に上だから、俺がライカの知らないことを匂わせた場合、彼女が疑うのは立場の部分――そう、魔法少女か、そうでないかの違いだ。
だからこそこの未知の情報匂わせムーブをするにはライカが適任なのだ。
内心ほくそ笑んでいると、柚月が立ちはだかった。
「三鷹さん。荒っぽいのはダメですよ~」
「邪魔すんな。必要なことだろ」
そうだ、邪魔すんな。この状況なら多少荒っぽくても尋問は必要だろ。
俺にペラペラ喋らせろ!
しかし柚月は引かない。「すみれに怪我をさせたら、絶対に許しません」と言ってライカの目を丸くさせる。
「なんだお前ら。そういう関係なのか?」
違う。
「安心しろ。死にやしねえよ。その前に音を上げるからな」
「すみれはそんな人じゃない。覚悟に殉じる人です」
いや、マジで明かしたくない秘密があったとしても、本当に死ぬってなったら全部言うぞ。
お前俺のことそんな知らねえだろ。
「落ち着けよ。仲間割れを阻止するためにこうしてるんだろ?」
「三鷹さんが矛を収めるなら、ぼくだって落ち着きますよ」
「話にならねえなぁ」
ライカが殺気立つ。それに合わせて柚月も構えた。
おいおいおい、仲間割れはよせって。それで殺し合いに発展したら俺がつまんないんだよ。お前らには俺のことで純度100%の
はあ……。
本当はライカのカウントダウンが終わる直前に言うのが適切だったんだがな。こうなったら仕方ないか……。
「三鷹ライカ」と俺は言った。
「ああ?」
「『願い』と魔法少女としての能力は密接な関係にあるって、知っていた?」
新情報の開示。殺気立っていたライカの表情から険しさが取れ、代わりに真剣みが帯びていった。どうやら釣れたようだ。
「いや。知らない」
「その魔道具や固有魔法は、あなたの精神の産物なんだよ」
「そんなこと、どうしてお前が知っている?」
その問いは無視。
気を引けたなら次の段階へ移行する。新情報の開示から、ライカにしか知りえないはずの過去を話題に持ち上げ、彼女の動揺を誘う。敵意を刺激する。
「そう……。あなたはそのバイクでお父さんから逃げたかったんだ?」
「な、んで……」
ライカの瞳が大きく揺れた。口から煙草がこぼれる。さて、掴みはばっちりだ。
「煙の固有魔法は、あなたが父親から身を隠すために生まれたものなんだね」
「違う! 固有魔法も魔道具も、たまたまそういう能力なだけだ!」
「あなたは『
「黙れ」
憎しみのこもった低い声だ。
ちょっとビビったが続ける。
「でもそのせいであなたのお母さんは父の後を追ってしまった。あなたのお父さんはあなたやあなたのお母さんをぶったけれど、本当は二人は深く結びついていたみたい。あなたはそのことを気に病んでいる」
「それ以上口を開いたら殺す」
ライカは距離を詰めて俺の胸倉を掴んだ。
こんなことを言われればそりゃそうなる。だが大事なのは、俺はあくまで不器用なミステリアスヒロインだってことだ。こんなことを言うのはなにも相手を煽るためじゃない。ただ、ミステリアスヒロインなりに相手を慰めようとしているだけなのだ。やりかたをめちゃくちゃ間違えているが……。
「あなたはなにも悪くない。あなたはただ、知らなかっただけで――」
「うるさい!」
頬をぶん殴られた。口の中を切って、鉄の味が広がる。喋っている途中だったので、舌を噛まなくてよかった……。
「母さんが死んだのは魔人のせいだ! あいつが死んだこととはなんの関係もない!」
「それが誤魔化しだってこと、あなたが一番よく知っているはず。あなたに罪はない。母親を守りたいという子供の気持ちに、罪があるはずが――」
「だからっ、黙れって言ってんだろ!」
ライカの暴力は激しさを増した。長い脚で俺の胸を刺し、椅子ごとひっくり返す。そしてマウントポジションを取って、何度も何度も顔を殴った。
「ライカさん!」
「すみれ!」
しおと柚月がライカを止めに入るが、怒りでタガが外れたライカを完全に押さえることはできない。俺は相も変わらずされるがままだった。
やばい! めちゃくちゃ痛いしめちゃくちゃ怖いけど……いまの俺最高に輝いている!
殺意と同義の敵意。これこそが俺の求めていたもの。その敵意を、いつかオセロのように罪悪感にひっくり返してやるのが俺の使命なのだ。憎しみが募れば募るほど、ひっくり返したときの変化は壮大だろう。
俺はノリノリで「聞、いて……」なんて言う。害意がないことを精一杯アピールしようとするものの、相手が聞く耳を持たず真意が伝わらないもどかしさを演出しているのだ。
くぅ~、このために生きてる!
「やめてください!」
ちょうどいいタイミングで小春と薫が到着した。薫はしおと柚月に加勢して、俺からライカを引きはがした。小春は俺とライカのあいだに立ち、俺を庇うように両手を広げた。
「どけ! そいつが〝8人目〟で決まりだ!」
「えっ!?」
薫が驚愕の表情を浮かべて俺を見た。
だが、小春の態度は揺るがなかった。
「だ、だとしても、縛られて動けない人に一方的に暴力を振るうのはよくないです!」
「そうかよ。だったら一撃で楽にしてやる!」
離れた場所に停まっていたバイクが発進した。小春もろとも俺を轢き殺すコースだ。だが俺は余裕をぶっこいていた。俺はバイクでは死なない。
案の定、小春の盾が俺と小春を守った。鋼の馬のような破壊的重量感のある自動二輪だが、「不動」の属性を付与された小春の盾を破ることは不可能。
彼女の盾はいちど出現したらその空間に固定され、小春の意思であっても消すまで動かすことはできない。ゆえに、砕け散ることも許されない。
「邪魔あすんなよ!」
ライカが吠えた。それに呼応するかのようにタイヤの回転数が上昇してけたたましい音を立てたが、盾の「不動」は揺るがない。普段のライカならこの時点でコースを変えるだろうが、いまは自棄になって真っ向勝負を挑んでいる。小春の盾が絶対に破れないことを、もちろんライカは知らない。
盾の内側で、俺は小春の『回復魔法』により傷を癒してもらった。少しずつ痛みが引いていくのが分かる。
お、これはいい機会なのではないか。
ライカがいつまでも無謀な勝負に挑み続ける限り、俺と小春には対話の時間が生まれる。
この機を逃す手はない。俺は小春に対してもいろいろぶっこむことにした。
「酷い傷……大丈夫……?」
「平気。それより小春」
「な、なにかな?」
「
小春は困惑を露わにした。記憶の引き出しを丁寧に探るように、視線を中空に泳がせている。だが、結局心当たりはなかったようだ。
「ごめんね。……憶えているって?」
「そう……だよね……」俺は気持ち暗い表情をつくり、俯いた。そして感傷を振り払うように、すぐに顔を上げて「聞いて。〝8人目〟なんかよりもよっぽど差し迫った問題がある」
「え?」
「わたしの話を冷静に受け止めてくれるのはきっとあなただけ。だから、あなたに告げる」
「うん」
「一週間後、結界を破壊する」
小春の『回復魔法』が止んだ。俺の傷が完治したわけではない。俺の言葉に動揺した彼女が『回復魔法』を打ち切ったのだ。
「な、にを……言ってるの……?」
小春は一歩後ずさった。
信頼を裏切られた、という顔だ。
ふふふ、良い表情だ。だが俺が欲しいのはそんなもんじゃない。
俺はなにも気づいていないフリをして、ペラペラと説明した。
「蒼生円蓋塔には地下がある。そこにはかつて『結界の魔法少女』が仕込んだ魔法陣があって、それが街を覆う結界を発生させている。わたしはそれを破壊する」
「結界はこの街を魔人から守っているんだよ? その結界を壊すってことが、どういう意味か分かってるの……?」
「分かっている。結界を失くした街は危険に晒される」
「だったら、なんで……」
「卵を割らなければオムレツは作れない」
なにかを成し遂げるのに犠牲はつきもの、と言う意味だ。中学生に伝わるか心配だったが、杞憂のようだ。小春は絶句した。一歩どころか二歩、三歩と後ずさり、身をすくめる。
「小春……?」
呼びかけると、小春は肩を震わせた。長いこと黙りこくって、やがて、ついに決心したように盾が守る範囲の外に出た。
「ごめんなさい……。あなたがどっち側なのか、私にはもう分からないよ……」
俺は表情だけで渾身の絶望を表現してみせた。後々この表情を思い出していつまでも後悔してくれるよう、彼女の心に深く刻み込むつもりで。もしかしたらアカデミー賞も狙える演技かもしれない。
「小春――っ!」
盾が消えた。行く手を阻む壁がなくなり自由になったバイクが俺に迫る。
見慣れた風景。俺はどっと汗をかいた。大きなため息をついて床に仰向けになる。
アドレナリンでも出ていたのだろうか、感覚はあったが先刻まではさほど気にならなかった痛みが突然、自己の存在を主張し出した。
「あいたたた……。ライカめ、よくもやってくれたな」
おそるおそる頬に触れると、電気のように鋭い感覚が走る。小春が『回復魔法』をかけてくれたとはいえ、まだ腫れは引いていないようだ。
「すみれ」
そこに、ロイの重々しい声が響いた。
あちゃー、と俺は思う。
今回はけっこう大きく動いた。
彼女らの知らない情報をちらつかせ、ライカの過去に踏み入って心を揺さぶり、俺を信じようとしていた小春に疑心暗鬼の種を撒いて動揺を誘った。協調に向かっていたはずの彼女らを、ふたたび混沌のるつぼに陥れたのだ。
潔癖のロイにはさぞかし耐えがたい展開だったろう。
小言のひとつやふたつ(あるいは十かも)、ぶつけられるのを覚悟したほうがいいかもしれない。
「患部は早く冷やしたほうがいい」
「おう……」
そろそろ折り返しかな?と思います。
最後まで書き切って燃え尽きていなければ、大幅改稿したい……。