【旧】皆を救いたいだけなのに、不器用すぎて主人公勢に敵認定されるミステリアスヒロインムーブをしたい! 作:k-san
「これで二体目っ!」
掛け声とともに薫ちゃんが炎の剣を振るうと、魔人の身体が真っ二つになった。二つに裂けた肉体に火が燃え移り、魔人が完全に消滅するまで燃焼は続く。
「ふう」と大きく息をついて首を振る薫ちゃん。赤いショートカットの毛先から飛び散った汗が日差しに当たりキラキラと輝いた。
「は~あっつい! 真夏に炎剣の取り合わせは厳しいなぁ」
「『納涼魔法』があればいいのにね」
「言えてる。指先からかき氷が出たらいいのに」
私たちは冗談を言い合って笑った。
先ほどまで私たちは市立図書館で宿題をしていた。魔法少女の仕事とか〝8人目〟のこととかは関係なく、ただの友達としての予定だ。
そんな折、近場に魔人が出現して対応を迫られた。
それだけならいつものことだけど――。
一体目の魔人を倒したすぐあとに、二体目の魔人が現れた。
一日に二度も魔人と戦闘になったのは初めてだ。
『――ここ最近、魔人の出現頻度が高すぎる』
三鷹さんのそんな言葉を思い出した。
私と薫ちゃんが魔法少女になったのはここ最近のことなので、過去と現在の出現頻度の差のことはよく分からなかったのだけれど、魔法少女としての年季が長い三鷹さんがそう感じているのならそのとおりなのだろう。
今日、二体の魔人と連戦したことで、初めて三鷹さんの言ったことを実感する。
三鷹さんは続けてこんなことも言っていた。
『この異常に、橘が絡んでいる可能性もある』
異常とも言える魔人の出現数増加と、突然現れた謎の〝8人目〟。
因果関係を疑うなというほうが難しい。
それに――。
『一週間後、結界を破壊する』
というすみれの宣言もある。
魔人の侵入を防いでいるのは結界だ。魔人の出現が多くなったと感じたのなら、原因は結界にあると考えるのが妥当。
やっぱり、すみれは何かを企んでいるのだろうか。
ああ、ひとまず信じるって決めたのに、またすみれを疑う方向に思考が偏ってしまう――。
「そうだ!」
「へ?」
薫ちゃんが急に大きな声を出して我に返った。
「ぜんざい食べに行こ!」
ぜんざい?
「こんなに暑いのに……ぜんざい?」
「このへんに沖縄風のぜんざいを出すお店があるんだって。沖縄のぜんざいは冷たいんだよ」
「そうなんだ」
私は魔法少女の変身を解いて、薫ちゃんの案内でお店に向かった。変身を解くと装いが変わり、髪の毛も地毛の黒色に戻る。
沖縄風ぜんざいは確かに私の知るぜんざいとは違った。
使われているのはあずきじゃなくて金時豆だし、その上にはかき氷が乗っている。かき氷の比率からして、「ぜんざい風かき氷」と呼ぶのが正しそうな見た目をしていた。
味は……金時豆を甘く煮詰めているようだ。黒糖の味がする。かき氷は雪のようにきめ細かくてふわふわで、今日のような暑い日には生き返るような心地がした。
「美味しい!」
「ね」
付け合わせにせんべいがある。甘いぜんざいの後にせんべいの塩っ気がうれしい。
薫ちゃんはニコニコと私を見ていた。ある程度食べ進めると、薫ちゃんがテーブル上の紙ナプキンを手に取り、私に「動かないでね」と声をかけて口元を拭いた。口の端に黒蜜がついていたようだ。
「ふふふ」
「わ、笑わないでよ」
「ごめんごめん。小春、ずっと難しい顔してたから。なんかホッとして」
「え……?」
「自分に何か言いたいことがあるんじゃない?」
薫ちゃんに隠し事はできないみたいだ。
すみれの件を薫ちゃんに話すべきか、ずっと迷っていた。
すみれの予告した日、防御特化で攻撃能力の一切ない私ひとりでは彼女を止められないのは目に見えている。だから薫ちゃんに協力を仰ぐのは必須――なんだけど……。
怖かった。
こんな大事なことを皆に隠していたのかと責められるのが。
「塔の見張りのローテを決めるときにさ、予定があって入れないって日があったでしょ? でも、本当は予定ないよね。そのことと関係してるんじゃないかって思うんだけど」
一昨日、塔の見張りについて改めて三鷹さんから相談があった。
すみれが朝比奈さん、楪さん、ねむりちゃんの三人からなる塔の見張りに引っかかったことで、今後同じ手は通用しないかもしれなくなった。次からは街中を散策してすみれを探すことに集中するべきでは、という提案だ。
それに対し、アリスちゃんが塔の見張りはマストだと主張した。結局のところ、私たちとすみれを繋ぐ接点は塔しかないのだ。ここを押さえない手はない。
実のところ三鷹さんにはすみれを探す手がかりがあったようなのだが、アリスちゃんの言い分はもっともということで、塔の見張りは継続。
すみれがほぼ黒で確定となり、三人体制は必須ではなくなったので、再びローテーションを組みなおすことになった。
一週間後、すみれは蒼生円蓋塔を訪れる。そのことを知っていた私は、予告当日に塔の見張り番が当たるよう順番を調整したかったが、直接「一週間後に塔の見張りをしたい」と言うと疑われるので、いくつかの日は予定があることにして上手く一週間後に見張りが回るよう誘導した。
誘導は上手く行ったが、結果的に薫ちゃんに疑いを抱かせてしまったようだ。
ちなみに、塔の見張り以外で予定のない人は、三鷹さんが提案したとおり街を散策してすみれを捜索することになっている。
蒼生円蓋町をやみくもに駆け回ってもすみれたった一人を見つけるのは難しいんじゃ……そう思ったのだけれど、三鷹さんにはとある考えがあった。
それは魔法少女の分布からすみれの活動範囲を絞る方法だ。
魔法少女は塔を中心としてそれぞれがバラバラに分布するようになっているのではないか、という仮説が三鷹さんの中にあったらしい。
確かにこれまでの活動の中で、薫ちゃん以外の魔法少女にエンカウントしたことはなかったし、それはほかの人たちも同様だった。
それに、魔人がどのエリアから街に侵入するかは分からない。魔法少女の活動範囲に偏りがあると、空白のエリアに魔人が現れたときに初動が遅くなる。だから魔法少女はそれぞれのエリアを管轄するように町内で広く分布するのが合理的だ。
そこで、それぞれの活動エリアを共有し、空白のエリアがないか確かめた。
三鷹さんの考えは合っていた。私と薫ちゃんの行動範囲が重なる(いつも二人で戦っているのだから当然だ)こと以外、活動エリアの被りはなかった。皆がきれいにバラバラになるように分布していた。
そして一か所、どの魔法少女も活動していない空白地帯があった。
そこにすみれがいる。
三鷹さんが一瞬難しい顔をしていたから、もしかしたら一筋縄ではいかないのかもしれないけれど……とりあえずそれが唯一の手掛かりだ。
できるなら塔で会うより街を捜索してすみれが見つかるほうがいい。それなら薫ちゃんに結界の件を話さないで済むかもしれないし……。
そういう楽観もあって、結界のことを薫ちゃんに伝えるのをズルズル引き延ばしていた。
けれど、すでに薫ちゃんは私の
「実は……」
私はすみれとのやり取りを伝えた。
結界を破壊するということ。
五日後に蒼生円蓋塔にすみれが現れること。
隠し事がこれほど重大だとは想定していなかったのだろう、薫ちゃんの目が大きく見開かれた。けれど、取り乱すようなことはなくて、落ち着いた声で「三鷹さんには言ったの?」と確認を取る。
「ううん」
「そっか……。そうだよね。三鷹さんにそんな話をしていたら、問答無用で橘さんを排除って方向になってるだろうし」
「怒らないの?」
「え?」
「こんなに大事なことを隠して……。皆の不利益になるかもしれないのに……」
「うーん。正直、皆にも言ったほうがいいと自分は思うけど。でも、小春らしいなあって思ったよ。橘さんを助けたいんでしょ? 小春はいつだって誰かを守るために頑張ってるもんね」
「違うよ……。私はすみれを見捨てたんだよ……。誰かを守るために頑張ってるなんて、そんな良い人じゃない」
「そうかな? 小春を見ていると、魔法って使う人の性格が出るんじゃないかなーって思うよ。小春の魔法は誰かを守ったり傷を癒したり……小春の優しさがにじみ出ているね。剣と炎で攻撃特化の自分とは大違い」
違う。
たしかに私の魔法は攻撃力ゼロで、虫一匹と傷つけられない。盾は動かないからそれで叩くとかもできないし……。
でもそれは『命を奪う』という責任から逃げた結果だ。臆病者の私は、魔人にとどめを刺す汚れ役をいつも薫ちゃんに押し付けている。魔人と言えど生命であることに変わりはなくて、それを斬るのが気持ちいいはずがない。
私はそもそも薫ちゃんのようなアタッカーがパートナーについていないと戦うことすらできないお荷物。魔法少女として欠陥なのだ。どうして私なんかを魔法少女に選んだのか……きっとロココにもこうなることが予測できなかったのだろう。
「それにしても」
と薫ちゃんはニヤリとした。
「小春が同年代の子を下の名前で呼び捨てって……珍しいよね。いつの間に仲良くなったの?」
「えっ!」
薫ちゃんの指摘に不意を突かれた。
顔が熱くなって、赤面しているのを自覚する。
「いやっ、それはっ。仲良くなったとかじゃなくてっ」
あれ、どうしてだっけ?
確かに彼女のことはいつの間にか「すみれ」と呼んで違和感がなかった。むしろそれ以外の呼び方に引っかかりがある。まるで気の置けない仲のような……でも、実際にはすみれと私は出会って間もない。同年代、もしくはそれ以上の年齢に見える人のことをいきなり下の名前で呼び捨てにするのは珍しい……というか初めて……というか失礼だ。
「ふふふ、分かってるよ。小春が守りたい人なんだよね?」
「違っ! 私はただっ」
「みなまで言うな、みなまで言うな」
「も、もうっ!」
からかわれたのはちょっと複雑だけど……少し胸のつっかえが取れた気がした。私がいつまでも思い詰めないように努めて明るく振舞ってくれてるのだろう。薫ちゃんのそういう気遣いや優しさがちょっと申し訳ないけど嬉しい……私なんかに釣り合わないくらいの良い友達だ。
なのにどうしてか、ここにすみれが加わっていたら……というようなことを考えてしまうのだ。
◇◆◇◆
暑すぎてエアコンの効きが悪い。
そうだ、アイスを食べよう!
ってなわけで近所のコンビニでアイスを買った帰り、天蓋ねむりに遭遇した。
ねむりはふよふよと宙に浮きながらぼんやりとその辺を散策しているように見えた。その瞳が見据える先はどうにも曖昧で、目的らしい目的をもって移動しているわけではなさそうである。
うっかり「げええええっ!」と大きな声を出しそうになったが、なんとか堪えた。だが、息をのむ俺の微妙な気配を感じたのだろう、ねむりと目が合う。
ねむりは見えない何か――『
すわ戦闘か!? と身構えたが、その気配はない。
「ほら……違うよ……橘すみれじゃない……。だってドレスじゃないもん……。え……? 顔……? どうだろ……」
どうやら『
なんでだよ。
魔法少女にはそれぞれパーソナルカラーがあり(これもまた精神性が反映されているっぽい)、変身の際には髪の毛や服の基調がその色に統一される。だから通常時と変身時で見た目の印象が大きく変わるのだが、俺のパーソナルカラーは地毛と同じ黒なので、印象がほぼ変わらない。
もしかしたら他人の顔とかいちいち憶えないのかもしれない。自分のことすら憶えていないし……。
「もういい?」
と訊ねてその場を立ち去ろうとする。
「アイス……」
ねむりは俺が手に提げているレジ袋をじっと見つめ、よだれをダラダラと垂らした。ばっちい!
そして期待するように俺の顔を見つめ、視線をレジ袋と行ったり来たりさせる。
うっ、すさまじい圧力だ……。
俺はその〝胆〟に圧倒され、アイスを差し出した。
二つに折ってシェアできるシャーベットアイス。だけど半分こしたわけではなく、全部食べさせてやった。
ねむりみたいなふしぎ系ミステリアスヒロインはものを食ってるところを見せても問題ない。だいたいが汚い食い方を見せて「この子はどういう環境で育ったんだろう」と謎めいた印象を与えることができるから。
だが俺みたいなタイプのミステリアスヒロインは食べてるところは見せないほうがいい。あまり人間味のない感じを演出するためだ。
クソ暑い中わざわざ外出して買ったアイスは名残惜しかったが、ミステリアスヒロインを全うするためには仕方ない。
ロイは感動に震えていた。「他の魔法少女と友好を築くのは素晴らしいことだ」といつになく嬉しそうに言い、はしゃいでいる。『
それにしても……思ったとおりあんまきれいな食いかたじゃないな。
容器の口を吸ってチューチュー音を立てるのは構わんが、吸いながら手で引っ張ったりしゃぶったりするのでチュパチュパ鳴って気になる。容器ごとかじって、中身をボトボト落とすし……。
まあ、大変な人生を歩んでいる子なのだ。これくらい大目に見よう。
代々『結界魔法』の使い手を輩出してきた一族――天蓋家の唯一の生き残りである彼女の背負う業は並大抵のものじゃない。
この世界の神様は底意地が悪いのだ。アニメ放送時に「より悪い方向」で展開予想をすれば的中率が漏れなく上がったという逸話があるくらいには。
〝8人目〟の正体も、「その人物が〝8人目〟だったときに
ねむりはアイスを食べ終わると空の容器を俺の持ってるレジ袋に入れた。手が溶けたアイスでべとべとしてる。
「ありがとう……お姉さん良い人……」
礼を言うと、俺の背後から肩に腕を回しがっちりホールド。
え? なに? と困惑していると急に身体が上昇する。
突然のことに驚くが、空中遊泳には慣れているのでそこの恐怖はなかった。
「お礼……空を飛ぶと、気持ちいい……」
このままライカのところに連れて行かれるんじゃないかと
適当なところで降ろしてもらい、再びコンビニでアイスを買って帰った。
嵐の前の静けさ的な地味回。
次回、結界破壊の予告当日になると思います。
それと、感想返信が滞ってすみません。
更新を優先しているのと、ネタバレに気を使いながら返信するのが難しくて悩んでいたらすごく溜まってしまいました。
感想、お気に入り、評価すごく励みになってます!
後で直す前提で書いているので、ご指摘もありがたいです。