キヴォトスに来た   作:あいうえおあお

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初執筆&初投稿なので、文章が終わってると思います。すみません。
推敲は一生しちゃうので、えーい! で投稿します。ごめんなさい。




服着たままシャワー浴びたい

 

 

私はシャーレの休憩室のシャワールームにいた。電気はつけてない。暗い部屋の中、シャワーと蛇口の前で佇んでる。

今日は、私がシャーレに来てから一週間くらい。夕方。先生の仕事をユウカさんが手伝ってて、いい雰囲気だったから逃げてきた。

いい雰囲気は耐えられない。泣きそう。シャワー浴びたかったしちょうどいいんだけどね。

 

「ぐす……」

 

わぁ、泣いちゃった! ユウ先尊すぎて泣くから。っていうか生先生*1と生ユウカさんがもう泣く。聖人。純真。光。泣くっていうのはそういう方向の話。尊きかたを見て人のありし姿を見た時に己の穢れを自覚して自然と涙が出るやつ。

ぼろぼろ涙をこぼしながら、内心で神に感謝しておく。この出会いを神に感謝。拝め拝め。

 

 

『先生、ちょっとよろしいですか? セツちゃんのことなんですけど……』

 

 

さっき聞いてた、ユウカさんと先生の会話を思い出す。聞いてると落ち着く声で『先生』に投げかけているのは私の話。

 

 

『あの子は誰なんですか? どうして、ここに?』

 

 

うぐ。泣く。全部泣く。心配そうな声色が優しみすごくてすごい。お出汁にしたら絶対おいしい。

生ユウカさんはほんとにすごいんだ。空想上の可愛い女の子が現実になって現れたみたいなかわいさがすごくて私は耐えられない。視界に入れられない。きらきらのオーラを見て好きになることしかできない。泣く。だって、仕事のことも、ミスしても怒らないで優しく教えてくれるし。大好き。ユウカさんの優しさをお味噌汁にして飲みたい。

 

比べて、私。

やっぱり、突然シャーレに住みだした奴なんて怪しいよね。しかも挙動不審。向こうにいる二人はとっても素敵なのに、私は何なんだろう。

鏡を見ると、べしょべしょ泣いてる美少女が目に入った。高く見積もっても小学校高学年くらいの、白色短髪儚げゆるふわセーラー服姿の美少女だ。クソ、顔がいい……! 何なんだコイツは……!

 

 

『……近くの路地裏で見つけてね。食べかけのご飯を前に、雨の中、膝を抱えて泣いてたんだ』

 

 

そんなこともありましたね。穏やかな先生の声で私は思い出す。

キヴォトスに来たての頃、いきなり環境が激変したことを受け入れられなくて、ぐすぐす泣いてたらヘルメット団にカツアゲされそうになって。

 

涙ながらに家もお金も何も無いことを伝えたらヘルメット団の人たちが慰めてくれて、近くのコンビニが廃棄出すから一緒に行こうって教えてもらえて。

いざ行ってご飯もらおうとしたらほかの人に見つかってバンバン銃撃されて、驚いて怖くて全部捨てて泣いて逃げちゃって。

 

また路地裏で座ってたら、さっきのヘルメット団さんが「これだけしか持ってこれなかったけど」って言っておにぎり一個くれて。

お礼を言う間もなく彼女たちがいなくなった後、嬉しくて泣きながら食べてたら途中で近くの銃撃戦の音でまたびっくりして地面に落として。

「お礼言えてない」+「もらったご厚意を無駄にした」+「くれた相手は子供たちだったのに」+「ご飯を粗末にした」のクアドラプルコンボで大泣きして。

 

しかもバカほど雨降ってきて。超土砂降りで。

 

もう座って泣くしかできなかったんだよね、あの時。

何なら全部諦めてたからおしっこ漏らしてたもん。どうせ雨で流れるしって思って。もう無茶苦茶。

 

 

そしたら、目の前に先生がいた。

 

 

『心配になって声を掛けたら、助けを求められてね。はっきりと、助けてくださいって』

 

 

うん。

 

子供の姿になって見上げた初めての大人は……先生は、すっごいちゃんとしてた。

アイロンをかけたシャツとパンツ。首からかけた身分証と、少なくとも安物じゃなさそうなネクタイ。それでいて安っぽいビニール傘を使ってるのがかわいい。忙しいだろうに衣装も顔面も頭もきちんと整えてて、清潔感と親しみやすさが同居してる。ドスケベの権化。魔性のオトナ。こんなの生徒に襲われても文句言えねぇぞって思った。

 

それと比べて、私は……。

 

前世の事は忘れたい。死ねてよかった。

でもさ、キヴォトスに転生してからのことだけ考えても、いきなり全部無いって泣いて、カツアゲしてきたはずの子供に同情されて、ご飯は落とすし雨降ってるし。

何やってんだろ、本当に本当に情けないっていうかマジで洒落ならんぞって思って。

 

つい、助けを求めちゃったんだ。

本気で人間として助けてほしかった。

子供から譲られた廃棄のおにぎり落としてガチ泣きしながらおしっこ漏らす元大人が人間として助けを求めてた。限界すぎだろ。

 

 

『だから、助けた。それだけだよ』

『そう……だったんですね』

 

 

そうだったんです。はー、先生素敵すぎる。光。この出会いと神に感謝。先生が居なかったら、きっと私はもう一回死んでたに違いない。拝め拝め。

 

私は、先生との出会いを思い出しながら蛇口をひねった。暖かいシャワーが頭上からざあざあ降り注ぎ、髪を濡らして全身に浸み込んでいく。あったかい。あの時の冷たく容赦ない雨とは違って、先生のくれた優しいあったかさが心までしみる。安心する。ほっとする。嬉しいなって思う。

あったかいし、きもちいい。

 

「ふぁ……」

 

思わずあくびが出た。私はぺしゃりと床に座り、膝を抱えて目をつむる。暗いシャワールームに、ざあざあと音が響く。あ、せっかくだからシャンプーとボディーソープもつかおう。洗うのはめんどくさいから、ただ頭と身体にかけるだけ。にゅるにゅる。

 

よし、テンション上がってきた。最高に元気。これで寝て起きたら、全部よくなってるといいな。えへへ。

私なにやってんだろ。

 

 

 

・・・・・・

*2

 

 

 

筆山セツ。一週間前からシャーレに住み始めたらしい少女。所属無し。経歴不明。

現時点で判明している情報は、「白色短髪儚げゆるふわなセーラー服姿(ただしどの学校のものかは不明)の美少女小学生(学歴なし)」ということ、「シャーレの仕事のお手伝いをできる程度に知能がある」ということ。今は本人の希望もあり、先生の仕事をある程度割り振って手伝ってもらっている。以上の二つ。

 

そして、筆山セツに関する第三の情報。

 

「セツちゃん、ちょっといいかしら」

「……はい、ユウカさん」

 

返事をし、席を立ってぱたぱたこちらに来る彼女。椅子に座っている自分と目線が合うくらいに小柄。かわいい。

白銀に光る髪は親友のそれのようにさらりと落ち、身体の細さも相まって、触れれば消えてしまいそうな雰囲気を纏っている。はかない。

その小さな手でぎゅっと握られたパステルカラーのセーラー服の裾。サイズが合っていないみたいで、丈が余っている。いとしい。

 

とてもかわいい。キラキラした髪も相まって、宝石のような子だ。

 

……じゃなくて。

 

薄い水色の目。逸らされている。柔らかそうな唇。きゅっと結ばれている。おまけに小さな肩には力が入り、体は強張っている。表情も硬い。

……明らかに怯えられている。ちょっと呼んだだけでこれだ。

 

筆山セツに関する第三の情報。「人間不信と思われる」ということ。

 

(それも、外的理由ではなく、内面から来るもの。目を合わせようとしないというよりは、人を目に入れないようにしている)

 

考えつつも、刺激しないようにできるだけ優しく、ゆっくりと、セツちゃんに語りかける。

彼女の担当した書類について、文面的には全数加算してもおかしくない表の合計欄の数値が、実は必要箇所だけの小計であるのが正しい、というひっかけ問題のような不備だ。どっちかというと書類側の不備に等しいのだが、こういう通例なのだから仕方ない。

 

「だからこの合計欄は、こことこことここを足すのが正しいの。わかった?」

「わかりました。ありがとうございます。訂正します」

 

彼女はお礼を言うと、結局一度も視線を私の目に向けないまま、そそくさと自分の机に戻って作業を再開した。引き留める暇もない。

 

(セツちゃんは誰にでもそうだ、というのはわかっているけれど……これはちょっとこたえるわ)

 

思わずかくりと肩を落とす。と。別のデスクで仕事中の先生と目が合った。

 

(ごめんね。悪気はないはずだから)

 

先生は苦笑でそう伝えてきた。私も、大丈夫ですよ、と頷いて返す。

だって、こんな雪のひとひらのような子が意味もなく怯えるわけもないですから。わかってますよ、何か事情があるんですよね。

私はうんうんと頷く。

 

今日は、セツちゃんがシャーレに来てから初めての私の当番の日。というわけで、まだまだお互いこれからなのだ。

 

 

……さて。

 

夕方、振り分けられた仕事もひと段落ついたころ。私はまだまだ終わらない先生の仕事を隣で補佐しつつ、セツちゃんが居なくなったタイミングを見計らって、先生にセツちゃんのことを聞いてみることにした。

 

彼女に関する情報は少ない。直接聞けばいいのかもしれないが、あまりにもセツちゃんの雰囲気が希薄すぎて、正体を暴こうとした途端に消えてしまうような気がする……というのが、この一週間でシャーレに立ち入った生徒たちの共通認識だった。その話を聞いて、昨日までは「まるで恩返しに来た鶴か何かのような扱いですね」などと思っていたけど、今日実際に会ってわかった。たしかにあのこは儚い。まもるべき。

 

じゃなくて。

 

「先生、ちょっとよろしいですか? セツちゃんのことなんですけど……あの子は誰なんですか? どうして、ここに?」

 

聞いちゃった。消えないでね、セツちゃん。

 

すると、私の問いに先生は。

何か、溶け落ちそうなものを水中から掬い上げるかのように答えてくれた。

 

「……近くの路地裏で見つけてね。食べかけのご飯を前に、雨の中、膝を抱えて泣いてたんだ」

 

えっ?

 

その瞬間、私の脳内に作り上げられる情景。路地裏。月夜。ざあざあと降り落ちる雨。どこからか拾ってきたのだろうパンが地面に落ち雨に濡れている。そして、今よりもずっとひどい目で、ぼんやりと、ただ時を待つセツちゃん。

 

『……』

 

目の前に、ある。目の前に、居る。

声をかけなければ消えてしまうだろう様子のセツちゃん。薄い水色の瞳が、絶望と諦観に満ちてくすんでいる。

 

はく、と、声にならない声が漏れた。時が止まってしまったかのような感覚が身を支配する。

 

そんな私を見かねたのか、先生は安心させるような笑みを浮かべて続ける。

 

「心配になって声を掛けたら、助けを求められてね。はっきりと、『助けてください』って。だから助けた。それだけだよ」

「そう……だったんですね」

 

どっと汗が噴き出たような気がした。体を満たすこの感情は、安堵だ。よかった……。

 

「大丈夫だよ、ユウカ。ああ見えて、セツは結構元気な子みたいだから」

「どういうことですか?」

「それは……秘密、かな」

 

先生は、口元に人差し指を立てて微笑んだ。その仕草に、さっきとは違う意味で時が止まってしまう。ずるい。

 

「はぁ。わかりました、先生」

 

声の震えを抑えて返事をする。うわずらないよう、一言一言。本当にずるい人だ。

 

 

さ、さておき。

セツちゃんの事について聞いた私は、先生の仕事の補助に戻ろうとして──

 

「……そういえば、セツちゃんはどこに行ったんでしょう?」

「確かに……。ちょっと遅いかも」

 

先生が首をかしげる。つられるように、部屋をぐるりと見渡しても姿はない。

 

『近くの路地裏で見つけてね』

『……』

 

さっきの先生の話のせいか、なんとなく……いや、はっきりと。胸の内にざわつくものが広がっていく。

 

「私、見てきますね。サボらないでくださいよ、先生!」

 

冗談めかして声をかけたものの、内心はどこか落ち着かない。足早に廊下へ出て、オフィスを探す。今日のシャーレには、先生と私とセツちゃんの3人しかいないのだから、すぐ見つかる、はず、なのに。

 

……誰もいない。居た形跡もない。

 

 

おかしい。

 

 

「なんで……」

 

 

何かが起きている。

 

 

想像したくない仮定と解が脳内を飛び交う。私があんな事を聞いたから? 先生に、彼女の正体を聞くようなことをしてしまったから?

 

「……まさか、消えちゃったの……?」

 

彼女が恩返しに来た鶴であるのなら、自らの正体を暴かれそうになって、消えてしまっていても不思議ではない。あるいは、雪のように溶けてしまったのかもしれない。氷のように砕けてしまったのかもしれない。私が気づかないうちに因数分解していたかもしれない。

 

と、とにかく動かないと!

思い当たる節。一部が彼女の寝室になっているという、居住区の休憩室。

 

 

エレベーターで、急ぎ居住区へ。つくと同時に耳をすますと、遠くから音が聞こえた。休憩室の奥、シャワールームのほうだ。

 

 

急いで更衣室に飛び込む。何もない。浴室は真っ暗だけどシャワーの音がするし、給湯器がお湯を焚いている。

 

……?

 

違和感。

 

仮に、浴室をセツちゃんが使っているとする。その場合、電気をつけない理由がない。なにより更衣室に脱衣の形跡がない。

 

 

「セツちゃん! 入るわよ!?」

 

 

一応声をかけ、勢いよく扉を開ける。そこでは……服を着たセツちゃんが座ってシャワーを浴びていた。

制服のまま。靴下も履いたまま。電気は消えて、廊下の灯りだけがうっすらと湯気を照らしている。

 

 

「……」

「……?」

 

 

……ほっ……??

一旦安心しそうになって、安心できなかった。

 

 

えっと、『服を着たセツちゃんが』はわかる。『座ってシャワーを浴びている』もわかる。

……『服を着たセツちゃんが座ってシャワーを浴びている』……???

 

「ゆ、ユウカさん。どうかしましたか……?」

 

座ったままのセツちゃんに心配そうに聞かれて、はっとする。いや、はっ?っとする。

 

「はっ?」

「え……?」

 

よくわからない声を上げて、二人で固まる。その間にも、シャワーはざあざあとセツちゃんに降り注ぐ。きらきら輝く髪とセーラー服、そしてパーカーに、ざあざあと降り続けている。

座ったままのセツちゃん。服を着たままのセツちゃん。

……こういう時は服を脱がせるべきなのだろうか? 着せたままのほうがいいのだろうか? 服を着たままシャワーを浴びてる少女に対してとるべき行動の解とは何だろう?

 

「とりあえず、はやく出なさい!」

「あ、待ってください。シャンプーとボディーソープ、流しますね」

「シャンプーとボディーソープ!?」

 

まずは浴室から出すべき、と思っての行動は、直ぐにセツちゃん本人に止められた。彼女がセーラー服と頭をごしごしすると、出るわ出るわ、泡。濡れた服と髪に泡が現れ、シャワーで洗い流されていく。

 

ごしごし。ざあざあ。

 

……何の時間だろうこれは。白色短髪儚げゆるふわセーラー服姿の美少女小学生が服を着たままシャワーを浴びてごしごし泡を流してるのを見ている時間。え? もしかしてこれ、見続けたらお金が発生するやつ? タダで見ていいものなの?

なんだか、とてもいけないものを見ている気持ちになってきた。だって、服を着ているとはいえ、シャワーシーンだし。服を着ていたらシャワーシーンではないんじゃない? わからない。

 

「おわりました」

 

おわった。

 

私はシャワーを止め、ひとまず質問をしてみる。

 

「何をしてたのか聞いてもいい?」

「シャワーを浴びていました」

「……服を着てるのはどうして?」

「服を着たまま、シャワーを浴びたかったんです」

「なんで……!?」

「したかったから」

「……したかった、の?」

 

困惑に次ぐ困惑。これが同年代あるいは先生の行動なら、私は呆れていたと思う。「どうして」なんて聞かずに、何をしているんですか、とただ叱っていたはずだ。

でも、今回の相手は筆山セツ。白色短髪儚げゆるふわセーラー服の美少女小学生。顔がいいし声もかわいい。彼女がやるのならば、「何か事情があったのかもしれない」と思わせるだけの魅力がある。いいや……事実として、何か事情があったのだろう。そうとしか思えない。だって、まともな受け答えができる子が服を着てシャワーを浴びるなら、絶対に何かあるはずだから。

 

『……近くの路地裏で見つけてね。食べかけのご飯を前に、雨の中、膝を抱えて泣いてたんだ』

 

……もしかして、その時のように泣いていたの……?

 

彼女は、髪からぽたぽたと雫を落としたまま。濡れて虹色に艶めく髪が小さな頬に貼りつき、薄い水色の瞳が、きらりと光って私を映す。……はじめて目が合った気がする。彼女の目が、遠慮がちに私を見ている。

 

「ユウカさん」

「……なに?」

「ユウカさんも、私の服を着てシャワーを浴びてみませんか?」

「え?」

「私の服なので、私が洗濯します。ユウカさんに迷惑はかけたくないので……」

 

……?

 

???

 

 

セツちゃんの服を着て、シャワーを浴びる……?

 

 

理性が否定する。「急に何を言っているの? 今の提案は何? 絶対におかしい。論理的でないし、聞く理由がない」と。本能まで否定する。「ありえない。そんな意味のない無駄なことをする必要がない」と。

しかし、理性でもなく、本能でもない……私の社会性の裏に潜む『子供』が言う。ちょうど、目の前のセツちゃんと同じように微笑んで。

 

そう。セツちゃんは微笑んでいた。

 

「どうですか? 楽しい、ですよ」

 

うん!!!!!!! 絶対に楽しい!!!!

 

小学生の子の服を借りてシャワーを浴びたら絶対に楽しい! シャンプーとボディーソープまで使ったら最高でしょ。楽しくないわけがないわ。

しかも服を貸してくれるのは魔性の白色短髪儚げゆるふわセーラー服の美少女。仮に今、濡れたセーラー服が貼りついている彼女の胸に飛び込んだら、優しく抱きしめて頭を撫でてくれるはず。そんな気がする。かわいい。はかない。いとしい。同時に、彼女はきっとすべてを慈しむ純粋な思いの象徴に違いないとも思う。純粋ぽわぽわセツちゃん。すき。

 

 

問題はない。ただ、彼女の服を借りてシャワーを浴びるだけだ。ルールを破るわけでもない。誰かを傷つける事でもない。しかも楽しい。断る理由がない。

 

「ふふっ……!」

 

笑っていたのは、セツちゃんだけではないようだ。気づけば私は、自分のパーカーに手をかけていた。脱いで、服を借りて、一緒にシャワーを浴びたい。そのために。

 

 

「ユウカ!? セツ!? 何してるの!?」

 

はっ。

 

先生の呼びかけで正気を取り戻した私は、急いで先生を追い払って浴室から出て、セツちゃんを脱がせて身体と髪を拭いて乾かして、彼女を着替えさせてベッドに押し込んで、先生に彼女の服の洗濯をお願いして、荷物をまとめてシャーレを飛び出して家に帰ってご飯を食べてきちんと服を脱いでからシャワーを浴びて着替えて眠った。

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

服着てシャワー浴びてたの見つかっちゃった。今は肌着姿で体育座りして、ぐるぐる回るドラム式洗濯機を見てる。

 

「……」

 

ユウカさんは私をベッドに押し込んで、濡れちゃった私の服の洗濯を先生にお願いしてたけど、でも、私がやったことだから私がすべき。そういうわけで、洗濯機の中では私の服がぐるんぐるん回ってる。

 

あと、まだ晩御飯も食べてないし。寝るには早いし。

 

「……」

 

そういえば、さっきはユウカさんに髪を乾かしてもらったんだよね。髪にはまだドライヤーの温かみと、ユウカさんが触ってくれた感覚が残ってる気がする。手櫛でさらさら梳いてくれた感触。髪をなでてくれた感触。すごい嬉しかったし、温かかった。好き。展開が早すぎて理解が追い付いてなかったけどね。自分で髪に触れて、ユウカさんの手とは違って、むなしくなる。

 

 

ユウカさんも先生も、すごい優しかった。

 

 

私の奇行を発見したユウカさんは、叱るでも呆れるでも見放すでもなく、ちゃんと話を聞こうとしてくれた。私はただ、なんか急に服を着たままシャワーを浴びて身体を洗いたくなっただけだったのに。すごく優しくて、私のバカさが際立つ。私なにやってんだろ。触っていた髪をくしゃっとする。

 

……いやほんと何やってんだろ私。奇行に真摯に対応されちゃったからほんと何やってんだろしか思えないよね。つい「一緒にどうですか」とか聞いちゃったけど意味わからんよね。「楽しいですよ?」じゃないんだよ。何が楽しいですよだよ。ほんっと何やってんだ私。やばすぎだろ。理解が追い付いてたらベッドに寝かされた時も「一緒に寝ませんか」とか言ってたと思う。やばすぎ。

 

「セツ、大丈夫?」

 

ほあ。

いきなり背後から先生の声を聴いて、心臓飛び出るかと思った。私は一度、唾液を飲み込んでから口を開く。

 

「……私は大丈夫です、先生」

 

冷たいのかあるいは熱いのか、どちらにせよ極端な状態だった私の心を解す、人肌程度の湯のごとき先生のお言葉。私の服の洗濯をユウカさんに頼まれても、文句ひとつ言わずに頷いてた先生。私が洗濯しますって言ったら、気にしないでって言ってた先生。光。

対して、もろもろの元凶。しなくていいよって言われてるのに余計なことするやつ。洗濯機を見ながら、botみたいな返答をする私。アホ。私はゴミです。

 

「……」

 

無言で涙をこらえる。

ごめんなさい。私はただ楽しくなりたかっただけなんです。浴槽にお湯をためてボディーソープいっぱい入れてあわあわにしたりしたかった。ていうか今もしたい。だってしたいでしょお風呂で石鹸で盛大にあそぶやつ。あわあわのお風呂でのたうち回りたい。石鹸まみれの床ではしゃぎたい。服着ても楽しい。脱いでも楽しい。今度お金稼いで自分用のやつ買ってきますね。石鹸じゃなくても、お風呂つかりながらご飯食べるのとかしたい。カレーとか食べたら絶対楽しい。うどん食べたい。シャワーヘッドを外して遊びたい。

 

ぐるんぐるん。

 

はぁ……。

 

洗濯機はずっと回ってる。洗濯が終わってくれないと寝れないから、早く終わってほしい。ちょっと寒いし。油断したら洗濯槽の扉に映った白色短髪儚げ美少女小学生と目が合うし。クソ、なんなんだこいつは……!! 顔も整ってるし歯並びもいいし身体も綺麗でおかしなとこないし細くて可愛くて最高。ぎゅっと膝を強く抱く。

 

あ、そうだ。

私はゆっくり口を開く。私は、先生に伝えたいことがある。私は言いたいことがあるんだ。ええと、どう言えばいいのかな。

 

「……先生」

「うん。どうしたの、セツ」

「私、先生に迷惑はかけたくありません。助けていただいたことにも、すっごく感謝しています。でも……」

 

でも。

 

「私はきっと、これからもこういう事をするんだと思います」

 

する。絶対する。100%する。間違いなくする。今の私はおかしいから絶対にやらかす。

せり上がる予感に、より強く膝を抱く。ごめんなさいほんとにごめんなさい。でも、しない選択肢はない。なぜならできるから。

この世界には先生がいて、私は子供だ。だからできる。したいことができる。普通ならしないこともできちゃう。

 

顔を伏せて、膝を抱く。はぁ……何やってんだろ私。はぁ……はぁ、はぁ……!! あああ楽しくなってきた!! このままだと全裸で踊って駆け出しちゃうよ!! なぜならできるから!! ウッヒョアアアアアアアアアアア!!!!!!!! 先生の前で全裸になってもいいですか!?!??! 窓から落ちてもいいですか!??!!?

 

ほあああああああああーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!

 

 

ピーッ。

 

 

「っ……洗濯、終わりましたね」

 

私は立ち上がって、止まった洗濯機に手を入れる。少しつめたいスカートとパーカー、セーラー服、靴下。あと下着。今更だけど、一度に全部洗濯機に突っ込んだのアホ過ぎでは? 生活力のなさが露呈してんね。でもちゃんときれいになってんだからキヴォトスの洗剤と洗濯機はすごいじゃん。服を雑に抱えて立ち上がる。

振り返ると部屋の入り口で佇む先生の姿が目に入って、目を逸らして……いや、心配してくれてるんだから目を見てお礼を言うべき。

 

「あの。ありがとうございました、先生」

「ううん、いいよ。気にしないで」

 

オアー!? 無理じゃん、ね! こんなの目とか見れないに決まってるよ。なんで先生が、ただでさえめっちゃ忙しくて、その上で(私含む)生徒に振り回されて心労もすごいだろうに、なんでこんなにちゃんとした大人で居られるのかがわかんなくて。先生はすごい。本当にすごい。ちゃんとした大人。かんぺき。光。そんなことを考えてたら思わず下を向いちゃった。泣いちゃいそう!!

 

「……では先生、おやすみなさい」

 

震える声で何とか言った。

 

洗濯直後の服の香りとしっとり感を感じつつ、先生の横を通ってシャーレの休憩室(隅っこの一角が私の寝室と化してる)に向かう。今更だけど、なんであんな事しちゃったんだろうな私。服着てシャワーとか、そりゃしたいけど。したいけどなんでやった。したいから。そっかそっか。結局何もよくならなかったな。何が悪かったのかな。よくなんてなるわけないよね。

 

休憩室につくや否や、ハンガーにひょいひょい服をかけて適当に干し、私のベッドに潜り込む。下も上もふわふわでさらさらのベッド。大の字になってね、わさわさ動いたらくすぐったくて気持ちよくて癖になる。はぁー、起きたら朝ごはんより先に服にアイロンかけなきゃ。せめてそのくらいは……何が「せめてそのくらい」なんだろう。う、うるさいな! 悪いのは私じゃない! 悪いのは私を、私なんかをこんな身体でキヴォトスに送り込んだ奴だ! っていうかキヴォトスに来てまでグダグダ悩むのやめろよぉキヴォトスだぞ!? うえーーーーん!!

 

 

っていうか今更だけど、なんでこの世界に転生したんだろう私。

 

 

……まあいっか! 明日も早いから起きるのやめないと。

アラームセットして、おやすみ!

 

 

 

*1
生の先生。

*2
その日の昼間のこと。ユウカ視点。






ブルアカ最近できてないので、アオバちゃん気になってますけど入手だけして見れてないです
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