レイ・ミラージュ 鏡の中の子爵令嬢は冒険がしたい   作:山下敬雄

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第13話 窮地、砕けて

「さきほど、ビッグアルミラージをよろめかせたのは……?」

 

 大物を討った興奮と喜びを抑え、冷静さを取り戻したアマリア・ベルショは、そう呟いた。さきほどの隙を演じさせたのはきっと自分だけの力ではない。ビッグアルミラージと至近に角と刃を交え相対していた時、たしかに何かが横から光り、自分のことを勝利の糸を操って見せたように、最後の必殺の刃へと導いたのだ。アマリア・ベルショは疲れた頭と体で考えるも、やはり、そう思えてならなかった。

 

「たしか、あちらの方角から──」

 

 アマリアが気になった横の方に首を振り向いた、そのとき──

 

 石が飛んできた。体の真正面から飛んできた。大きな石の塊がいきなり風をどかし、余所見をしていた金毛の彼女に襲いかかったのだ。

 

 いや、襲いかかったのはよく見ると石ではなく獰猛な虎のようだ。そう、石の虎が獰猛な肉食獣たる迫力で、押し倒したアマリアに乗り掛かり噛み付いて来ていた。

 

「ナッ!? まだ、魔獣が!! 重ッ──!!」

 

 見たこともない石の魔獣がアマリアの体に乗り掛かる。なんとか欠けたムーンソードで噛み付く牙を受け止めたが、その石虎を跳ね除けられない。まるで石の体それ自体が合理的な、獲物の動きを封じる重しとなり、それを熟知した狡猾な狩り方を石虎は同時に仕掛けてきているのだ。

 

 このままでは──重くのしかかり痛む体、欠けた刃は押し込まれていく。アマリア・ベルショの喉元寸前に大きく迫る石の虎顔の迫力と重圧に────

 

 またも光の筋が横から差し込んだ。突然横腹に受けた衝撃と熱さに、右を振り向いた虎顔は──白い長物に突き飛ばされた。

 

 石の顔を鋭く穿ったのは、白い杖。疾風の如き一突きに、そこにいた精巧に彫られた虎の石の重しは豪快に吹き飛ばされた。

 

「お見事ですが、まだ終わってません! そして遅ればせながらここからは、私も参加させてもらってよろしいですか!」

 

「──!? は、はいです……わ!」

 

 アマリア・ベルショの窮地を救ったのは、遠方からの白い光の魔光弾、狙い澄ました六発と、至近に炸裂した石虎の顔を砕き退けた白い一突き。

 

 美しい白杖を携えたその背、白と黒の長髪が勇ましく揺れている。あふれる魅力を放つその背が振り返り、後ろ見る。

 

 黒とクリーム色のオッドアイ、その一度見たら忘れられない眼光が、地に寝そべったアマリア・ベルショにその澄んだ声で強く問う。

 

 子爵令嬢レイ・ミラージュが遅ればせながら、協力な魔獣の集う危機の場に、堂々の参戦を果たした────。

 

 

 

 

 

 

 現れた石虎は橙色をしたトパーズの瞳で、横槍を入れ飛び出てきた白黒髪の人間のことを睨みつけながらも、警戒して遠く間合いを取る。

 

 やがて、石虎はダメージを受けた穿たれひび割れた虎顔を、周囲の森の土に落ちていた石を吸い集めて修復していく。

 

 そんな奇妙で厄介な行動をし始めたのは、レイとアマリアの見たことのない石の魔獣だ。睨む魔獣に警戒するのは、人間たちも同じ。危機するシチュエーションに身を投じ、急遽飛び入り参戦したレイは、白い得物の先端を向けながら石虎のことを牽制する。

 

 そしてじりじりと後退していく石虎との間合いを測りながら、周囲の状況を一瞬確認したレイは同時に気付いた。そこの背後ろに居合わせていた二人の怯える子供達の周りを固めないといけないことを。

 

 ミックとチュミ少年少女二人は、縮こまり一本の木の幹を背にしその前に置かれていた盾に身を隠していたのだ。

 

 しかしそそくさと後ろに駆け寄った金髪の女が、その置かれていた大盾をいま軽々と持ち上げて手にした。大盾はアマリア・ベルショの物、ミックとチュミの前に構えてみせ守る姿勢を振り返っていたレイへと見せた。

 

「では、陣形はそのように!」

 

「も、もちろんですッ……わ!」

 

 そしてアマリアの見つめる白黒髪の彼女がもう一度、半分ほど見せていた面を、正面に向き戻ったそのとき──

 

 石虎が素速く飛び付いた、と同時にレイは横薙ぎにプロトロッドを振るっていた。まるで来ると決め打ちしていたかのように、飛び付いてきたら強烈なスイングを合わせてやろうとレイは頭の隅で戦闘プランを既に画策していたのだ。

 

 白い杖の大振りは、鋭く風を鳴らし、石の鼻先を砕いた。ボロボロと崩れ滴る鼻をしながら後ろへと飛びのく。石虎は白い杖がクリティカルヒットし顎まで砕かれる未来を、間一髪で回避した。重厚な石の身でありながらも、素速い俊敏性を見せる。

 

 さらに、石虎は吼えた。低く唸るように吼えながら、その口部から礫弾を不意に飛ばした。

 

 不意をつく石の飛び道具に、しかし、レイは反応してみせる。

 

「石を投げられる覚悟は、──あいにくゥ!!」

 

 プロトロッドをバトントワリングでもするように回転させ、かつ魔力を杖から垂れ流し、レイの身の前方を流れ続ける円形の簡易シールドを形成する。

 

 ぶち当たる礫弾を寄せ付けない高速回転する光の魔力盾となり、ぶつかる石の音色を奏でていく最中、不意にレイは真っ直ぐに白杖を前へと鋭く突いた。

 

「ヤァッ!!」

 

 無意味な動作でかっこつけたわけでもない、届かぬ攻撃を披露したわけでもない。その先端である白杖の石突部から、練り上げた魔光弾をいま、空を貫き示した方向へと撃ち放った。

 

「──!? なっ、なんたる……!! ベストッ…タイミング……!!!」

 

 あんぐりと開けた前方の虎穴に、差し込んだのは一筋の白き閃光。命中精度は一級品、石の雨の中でも迷わず選び撃ち抜いて、貫く威力は後頭部まで一瞬に穿ち尽くし。 

 

 空を突いたプロトロッドから、白い魔力の閃光は疾った────。やがて刹那に虎の口をくぐり抜け、威力鋭く差し込んだ。熱き光がその先の並び立つ樹々をも抉り揺らす。

 

 石虎へとお見舞いしたレイ・ミラージュの一瞬にて狙い澄ました魔光弾、その華麗なる芸当に、彼女の戦い様をただ後ろでじっと見つめていたアマリア・ベルショは驚きを隠せない。

 

 称賛の言葉をゆっくりと漏らしながら、開いた口が塞がらない。

 

 アマリアの目に映る、白と黒の髪が混沌と交わり荒ぶる──勇ましきその背姿は、美しい。

 

 そして、同時に懐かしい。あふれる冒険の汗と匂いとあの頃の熱が、懐かしく蘇るように。幼き記憶に重なる成長した背姿、夢に何度も憧れ見ていた彼女の背姿が、伯爵令嬢アマリア・ベルショの手を伸ばす目の前、そこに燦然と輝きあった────。

 

 

 

 

 礫を吐いていた口をその後頭部までを、レイの放った一筋の魔光弾により見事に撃ち抜かれた石虎が、やがてどすりと音を立て地に倒れる。

 

 狙い澄ました一弾の手応えは上々だ。後ろのことも気になるがまずは目の前の状況を完全にクリアすべく。今ので致命傷にいたり魔獣を倒せたのか、レイは確認と破鏡の回収作業をしようと、地にへばる石虎の元へと一歩一歩近付いて行く。

 

 地にボロボロに散る石粒に、だらりと踏ん張る力もない様子の四脚。横倒れの石色の獣は、完全に沈黙している。まるで動かぬ、ただの壊れた虎の石像のようだ。

 

 倒れる石の魔獣のことを念入りに観察し終え、レイが構えていた白杖の警戒を緩めた、次の瞬間──

 

 伏していた石の瞼を開きあらわれたトパーズの活きた眼が、近づいた白黒髪の者を睨みつけた。

 

 号令をかけたかのように、地に落ち転がっていた何の変哲もなく見えた石の数々は、レイを目掛けて一斉に飛びかかった。

 

「虎が狸寝入りを!?」

 

 石の雨が襲い掛かる。目を閉じ死んだふりをしていたのも、演出していた地に転がる石のセットも、人を欺き騙し討ちをするための布石だった。

 

 レイは石虎の魔獣がすばやく見せた魔獣らしからぬ戦略に驚くが、心の準備ができていなかったわけではなかった。レイは握る白杖の構えを解いてみせたが、それは実はこれ見よがし、レイの演じた行動であり。寝転がる魔獣に対する警戒心を最後まで完全に解いていたわけではなかったのだ。

 

 レイはプロトロッドをさっきの戦闘でも見せたように手に回転させ、同じ要領で、襲う石の雨を防いだ。杖を流す魔力と共に回転させ、小規模の魔光シールドを発生させ身を守りながら、レイは同時に後ろへとステップし飛びのいた。

 

 だが石の雨の中をものともせず駆ける虎は、自分の身を削り、かつ石のパーツを走りながらはめ込み修復していく。横殴りの雨、嵐のように激しい石粒の弾幕を展開しながら、駆ける石虎は、レイの首筋を目掛けて飛び付いた。

 

 息を止めんばかりの勢いで、密かに研いでいた石牙を剥きだしに飛び付いた石虎の魔獣は────不意にはしった鋭い風音と共に、バランスを左に大きく崩した。

 

 前のめりの殺気と獣の本能を漂わせ、宙に浮いていた虎の右腹に刺さらんとしたのは、三本の矢。虎の胴体を組織する石と石のちいさな隙間を穿ち、一本だけ深くめり込んでいた。

 

「そこのC級魔獣狩り!! ミオ・アコットン慧眼職員さんを、お忘れよ!! ──ヤレ!!」

 

 またも参戦したのは誰か。見晴らしの良い木に登り、名乗り上げたのはグレーの制服を纏うミラー協会の女性職員。レイのことをこっそり追いかけていたミオ・アコットンが荒れ模様の森にその声を張り上げた。

 

「アタレそこッ!! まだッ──ヤァッ!!」

 

 耳に今聞こえた聞きなれた声の在処よりも、レイは今生じたその隙を逃さず。回転させていた勢いと、防御と同時に循環させ練り上げていた魔力をいざ借りて、プロトロッドを前方へと鋭く突いた。

 

 鋭く突いた杖の勢いそのままに、魔光弾が石突部から発射された。しかし石虎は身をばらけさせて、一回り小さくなりレイの狙い澄ました一発の計算を狂わせ、上手く躱す。

 

 それでも放った鋭き閃光が石虎の懐をじわりと焼いた。

 

 しかしレイの攻撃はまだ終わらない。好機はまたすぐに巡ってくるのを彼女は知っている。やがて、地に落ちるように降りた石の魔獣に向かい、前に出て肉薄したレイは白杖を叩きつけた。

 

 思いっきり地に叩きつけた一撃は、逃げる虎の尾を砕き千切った。

 

 

 

 石の虎の尾は千切れ、蜥蜴が危機を脱するようにレイの一撃はまたしても寸前で躱された。

 

「ッ、素早い!! ────あ、ミオ・アコットン職員さーーん!? もしかして、気を利かせて来てくれたんですねーー!!」

 

 石虎を仕留め損ねたレイは、先ほど矢継ぎ早に放った三本の矢で援護射撃をしてくれたミオ職員に、いま返事をした。

 

「もしと言われれば、その通りなんだけど! ベオ・ギルト職員並みに気を利かせてついて来たまでは、いいものの……。あなたが向かっていったあの魔獣、もしかしなくても【ストーンイェルガー】よ!」

 

「ストーンいぇるがー?? それは、一体……?」

 

 レイたちの元に隙を見て駆け寄って来たミオ職員は、レイたちが相手をしていた魔獣のことを知っているように話し出した。

 

「ストーンイェルガー、その魔獣一体にミラー協会が課している脅威度はH級……つまりハイクラス以上の強魔獣に区分される! ミオ・アコットン博識職員さんがコンソールの記録映像でもほんのちょびっとしか見たことがない、存在まことしやかなヤツよ! なんたって兎の憩い場ラビの森にいるのかは知らないけどね!」

 

 ミオ職員はつづけて、その石の魔獣【ストーンイェルガー】なるものの脅威度を周りの者に聞かせるように詳らかに語る。

 

「H級、ハイクラスの強魔獣……? ストーンイェルガー、──弱点は?」

 

「石の隙間に矢は偶然通ったけど! 他に何か!」

 

「空いていた口に魔光弾をお見舞いしましたが、狸寝入りからの先ほどの石の雨を決められました!」

 

「素早い動きに、狡猾な動きに、仕留める動き。纏う重量も自在に変化・ビルドできるみたいですわ! アレにのしかかられると……さらに厄介と思いまして!」

 

「つまり、ここに偶然集った麗しの三人の見識を博識職員の頭にまとめると……この魔獣は石頭じゃなくて狸でもなくて、変幻自在かつタフでクソ厄介ってことね!! おまけになんか霧がかってきてる!」

 

 染まる森の霧の中に身をひそめた魔獣ストーンイェルガー。ミオ職員が属するミラー協会が危険視するそのハイクラスの強魔獣は、ただ倒すだけでもきっと厄介。さらにこの突如、暗雲のように漂いだした霧中の森のステージで、武器を構える三人の自分の身の世話だけではなく、子守をしながら戦わなければならないのだ。

 

 弓師のミオは視界不良の霧を嫌い、されども矢を弓に番える。よく目を凝らし耳を立てる。霧中に蠢く素早い影と気配を見逃さず、あちこちを這う足音を聞き逃さずに追う。

 

 レイは近距離、中距離、遠距離戦ともにできないことはない白杖を集中し構え、ミラーウェポンを持つ女性三人の内の先頭に立つ。

 

 そして、後ろで破損の目立つ大盾を構えミックとチュミの子守役を率先するアマリアは、その表情を強張らせる。

 

(ムーンソードが、パレットシールドが破損していなければすぐにでも〝彼女〟と前で肩を並べて、戦えるというのに……。あの背、あの髪、あの声! きっとそうに違いないのに……いえ、いけませんわアマリア。今は集中…ヲ──!?)

 

 白いミラーウェポンを操る白と黒の髪、その勇ましき彼女の背をアマリアはつい熱入る視線で見つめてしまっていた。今もなお、なかなか姿を現さないとはいえ、凶悪な魔獣との戦闘の最中であるというのに、そんなことを自ずとしていたのだ。

 

 アマリアは己の首を横に幾度か、何かを振り払うように振った。

 

 前で戦えないもどかしさに己が無駄に思考を巡らせていたことを悟り、アマリアが欠きかけていた集中をもう一度高めようとしていた、その時──

 

 森の奥、霧の中から突如噴き出した激しい水流が宙を一直線に伸び、アマリアのことを襲った。

 

 あまりに突飛のない激水流が何故、霧を裂いていきなり吹いてきたのか。そんなことを考える暇もない。反応したアマリアは、大盾で避けず水の流れを防ごうとするが、その流れは太く激しく荒々しくとめどなくアマリアのことを襲い続ける。

 

 とてつもない水圧に、構えた盾を上へと剥がされないように踏ん張るアマリアはそれでも水砲の流れに押し込まれていく。

 

「さすがに……イキナリッ、ふざけていいとは言って──ナイっての!!」

 

 アマリアがやられているのを一瞬振り返り見たミオ職員は、ふざけた派手な水砲をこれ以上やたらに放ちつづけることを許さない。

 

 今、弦にかけ待機させていた矢を弓から放ち、視界が他よりクリアになっていた風の吹いてきた道に走らせる。凝らした慧眼に標的の魔獣のシルエットを一瞬一秒でも捉えたならば、そこが彼女の得意とする射程距離。

 

 ミオ・アコットンは迷いなくその仕返しの矢を放った────。

 

 

 

 背にしていた後ろの大木の幹にアマリアは強く背を打ちつけられた。そして、水砲の水圧に押し飛ばされたびしょ濡れの姿で、首を左右に振った。真っ先に探していたのは背に守っていたはずのミックとチュミの姿。その行方を痛む体をおしながら、瞼についた邪魔な雫を払い、アマリアは慌てた様子で探した。

 

 水飛沫に滲んだアマリアの視界が鮮明になると、誰かがアマリアの後ろにいた二人の子供のことを両脇に抱えて、水砲の威力の及ばない場に既に脱していた。

 

 誰かとは白黒髪の彼女ひとり、左方を向いたアマリアの目にはすぐに分かった。

 

 そしてよく見ると子供たちのことを今降ろした彼女は白杖を持っていない。アマリアが真正面に向き直ると、そこには一本、白杖が地に突き刺さっていた。

 

 アマリアはその白杖を見て同時に気付いた。注意散漫であった自分が耐え切れずにやられた水砲の威力を、途中で二分するように和らげたのはその今突き刺さっていた一本の白杖、彼女のミラーウェポンがやってくれていたことなのだと。

 

 アマリアの心配もよそに、レイ・ミラージュは既に機転を利かせアマリアと子供たちの双方の助けに入っていた。

 

「大丈夫ですかー!」

 

「えっ、ええ……大丈夫でしたわ! ほんの軽く背を打っただけで済みました。ミックとチュミ、子供たちをもう一度こちらに! ミラーウェポンを気にせずお取りになられて!」

 

 アマリアは胸に寄せていた盾を掲げてみせ、心配し問うレイにそう健在ぶりをアピールし答えた。

 

 あのいきなり吹いてきた水砲の不意打ちを受けても、金髪の彼女はまだ動ける様子だ。さらにレイの役に立つことを逆に気遣い言ってみせた。レイは彼女が大丈夫というのは嘘でないと思い、首を縦にし頷いた。そして子供たちのことをもう一度アマリアの元に誘導し任せて、急いで自分のミラーウェポン、地に置いていたプロトロッドを取りに戻った。

 

 そして一方、ミオ・アコットン職員がその目に睨んだ先の状況は────既に遠く霞むそこに敵はあらず。当たり貫いた矢は、不自然にしおれたようにも見えた木に突き刺さり。矢に射られ千切れた石の尾が、ぶらぶらと何故かそこに揺れていた。やがて、一本の矢が突き刺さっただけの木がゆっくりと崩れ落ちていく。軋む嫌な音が遠くに鳴り響いた。

 

 そしてまた一本の大木の元に集いだし、護衛対象の子供たちの守りを優先する陣形を敷いた三人の女戦士たちは、あの姿をなかなか現さない敵がさっき何をしたのかを、もう一度各々に口にし考えてゆく。

 

「ストーンイェルガーがストーンイェルガーじゃない? こんな水の砲を使うなんて噂にも聞いたことないんだけど……。だとすると、ミラー協会は随分と名付け方を間違ってくれたみたいなんだけど……どうおもうこれ?」

 

「ええ、冗談ではなく口から今度は石ではなく水を吐いたように遠目に窺えましたが、その慧眼で何か他にお気づきに?」

 

「運よく命中したのはまた生えてきた尻尾のようだけど、なんでか今日はミオ職員さんアタシの矢の調子のほうがすこぶる良くて、逆にラビの木の元気がしおれたようになかったのよねぇ。──って、いくら調子が良くても、矢の一本で木が倒れるわけないじゃない?」

 

「あ、分かりましたわ! その石の尻尾の役割はホースで、木から吸い上げられた水を勢いよく吐いたのではなくて?」

 

「木にそんな量の水が!? どばっとぉ?? ははーん、あるのか疑問ねミオ懐疑職員さんは?」

 

「森の木や大自然には人の知り得ない利用できない魔力がまだまだ宿っていると、ジラルドの父はよく私に言ってくれていました! そして、破鏡を生まれ持つ魔獣ならば、それらを利用して石の排水溝になるのも自由自在! おそらくそんな戦法も可能なのかと!」

 

「さっ! さすがですわ、お姉さま!! ワタクシもそのように思います!! やはり、そうにちがいありませんわー!!」

 

「「へ? お姉さま??」」

 

 お上品な所作で口に手を当て、うっかり興奮気味に放った今の一言はもう訂正できない。レイとミオ職員はそんなしまった顔をしたアマリアの方につい振り返る。さっき後ろから耳に入った、思わぬ関係性を飛び越えた一言に、驚いた様子のレイとミオ職員は、互いの顔を指差し合った。

 

 アマリアは「気にしないで」といった様子で、口元に当てていた手を左右に揺らし扇いでみせる。ふざけている場合じゃない三人はそれ以上脱線せずに頷き合い、また集中し直し、各々のミラーウェポンを構え直していく。六つの凝らしたその目を、また濃度の一段と上がってきた霧の森の景色へと散りばめていく。

 

 果たして、ミラー協会も知らないハイクラスの強魔獣ストーンイェルガーの正体とは────。

 

 目を欺くよう揺れる影と、人の耳を翻弄する四足の足音が、唸り太い産声を上げた水流と共に、レイたちをまた襲いだした。

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