憑依先の悪役将軍の立ち回りが地獄過ぎる件 作:Mind β
トリニティ郊外・アリウス地下接続域前面 集結地
トリニティの白い尖塔が遠くに霞む。
その境界線をわずかに越えた荒野に、カイザーの前線基地が形成されつつあった。
ここは本来、学生たちがピクニックに来るような静かな郊外だったはずだ。だが今、地面を踏みしめる重装輪車の振動で、土は断続的に震えている。
空は薄茶に濁り、砂塵が絶えず舞い上がっていた。
その中の、地下通路――トリニティのカタコンベへと続く唯一の侵入路。
その入口は既にカイザー特殊作戦中隊によって完全に封鎖され、警戒線が張られていた。周囲には低出力型の電子妨害塔が等間隔に設置され、遮蔽構造の即席戦術テント群が並ぶ。
兵士たちは寡黙だった。無駄口も、焦燥もない。それぞれが支給装備の腕部・脚部ユニットの分解清掃を行い、トルク確認、サーボ同調調整、センサー再校正を繰り返していた。
設営されていた野営テントの一つ、その内部に、今回のために極秘で用意させたSAR-4 特殊自動小銃“テンダライザー”が並んでいた。
テンダライザーは押収した分離主義勢力の特殊兵器“試作機動兵器1号”から分析した神秘干渉弾を解析し、効果は半減したもののキヴォトス人の神秘に干渉する弾丸を発射可能とした特殊兵器であり、これを用いることで弾薬の消耗を抑えて聖遺物の破壊が可能、とカイザー本社は判断した為、今回の作戦に採用された。
「小隊長、前回の戦闘の損害ですが……」
「分かっている。最大消耗率88.29%、部隊としては壊滅的打撃だった」
小隊長と呼ばれた特殊素体のオートマタが、淡々と答えた。
「つまり、アリウスの連中は子どもだからと油断するなという教訓だ。だが……」
彼は傍らのコンテナから一丁のテンダライザーを持ち上げると、マグウェルを素早く叩き、チャージングハンドルを引いて初弾装填を確認。
銃身のひんやりとした金属に指先を滑らせ、小さく笑いながら言った。
「――今回は返礼の番だ。あの理屈の通らん化け物じみた神秘には、こっちも化け物じみた兵器を用意した。前回の損害は、きっちり利子を付けて返そう」
「「「サー、イエッサー!!」」」
カイザー・コーポレーション特殊作戦部隊第2中隊第2小隊。
以前行われた極秘作戦であるDUSK ANGEL作戦にて、アリウス自治区に突入し、アリウススクワッドと交戦しながらも押収目標を回収した部隊であり、その戦闘経験から素体を交換された上で今回の作戦にも投入されることとなった。
特殊部隊がカタコンベ入り口に布陣している最中、少し離れた野営地では、即応機動旅団の中隊群が点検前最終ブリーフィングを受けていた。
WAV-36 軍用多目的装輪装甲車やIMV-8 装輪式多目的軍用車がズラリと並び、支援中隊の兵士が各操縦手が冷却循環・ハーネス接続・感圧リニアセンサーの応答試験を行っている。その隣にはHRE-88 人型強化外骨格、通称AMPスーツが待機モードとなって並べられ、操縦手達が接続チェックを行っていた。
「リンクテスト良好、エラーなし!」
「負荷テスト、サーボ圧常圧! 全関節、グリーン!」
AMPスーツのシステム担当伍長が、チェックリストを片手に部隊コードと機体番号を読み上げながら指揮官へ逐一報告していく。
さらにその先――荒地には、巨大な鉄の影が並んでいた。
SPA-1 52口径203mmカノン砲やSPA-5 自走48口径152mm榴弾砲、MRL-5 12連装227mm 多連装ロケット砲にSRBM-9 短距離弾道ミサイル“イスカンダル”まで。
現時点では砲門を上げておらず、発射架もまだ展開されていない。
しかし、その周囲では砲兵部隊が測量反射プリズム、レーザー照準センサー、風向・湿度センサーを順に展開しつつあった。
「第4射撃中隊、ゼロ・ワン射点、基準値確定、標準偏差三以下!」
「リレーコンピュータ接続、射撃回路オンライン!」
「通信データリンク全域接続確認、バックアップ回線グリーン!」
これらは現時点では予備戦力だ。
だが障壁さえ破れれば、これら全てがアリウス自治区へ火力を投下できる。
もちろん、ベアトリーチェ拘束とアリウス救出が最優先である以上、無差別砲撃をするつもりはない。だが敵の中枢を三分で更地に変える能力があると分かっているからこそ、突入部隊は安心して前へ進めるというものだ。
その時、ふと上空を轟音が裂いた。
上空からの気流が荒れ、砂煙が舞う。CH-47 大型輸送ヘリコプターが、ローターを唸らせながら三機編隊で接近してきた。
降下――20秒のインターバル。
パレットが落ち、空気を裂いて地面に着弾。防振クレートがはじけ、弾薬箱、通信機材、医療ユニットが滑り出る。
整備兵が走り込み、素早く仕分けと搬送を開始。
「補給ライン確立! カタコンベ前線への搬送、優先ルート確保!」
「第3医療班、ユニット移送完了! 救護騎士団へ引き渡し開始!」
ヘリが再度上昇すると、そのまま方向転換し、既に次の補給便が遠方から近づいてきていた。空輸部隊の動きは寸分の狂いもない。
「こ、これが……民間軍事会社……?」
マシロが声を震わせた。
以前のカイザーとは異質なものを感じ取ったのだろう、無理もない。
俺の改革により新たに構築された先進的な電子戦・砲兵システムに、強固な通信回線、合理化された兵站システム。もはや企業の域を超え、軍隊レベルに達していると言って良い。
「この規模……これほどの部隊を、カイザーはどこから?」
一方で、ナギサは沈黙したまま陣地の全景を見渡しながら、その喉が小さく上下していた。
俺は裏の事情を悟らせぬよう、シンプルに答えた。
「最近、
「………」
俺の発言に、ナギサは若干怪しむような視線を向けたものの、敢えて詮索しないとばかりに黙り込んだ。
実際、これほどの兵器や物資をどこから調達したのか、という疑問はご尤もだろう。
調達先、それはゲヘナである。だが、これを答えてしまうと、少々今後の学園間の関係が拗れかねないので公言は控えるつもりだ。
なぜゲヘナなのか、それはトリニティ会談終了後に遡る。
アリウス自治区に対する秘密作戦で、我々カイザー・コーポレーションは様々な悪事の証拠や機密情報を獲得し、トリニティの協力を取り付けた訳だが、こんな大きなブツを他の外交にも利用しない手はない、と考えた。
そこで目をつけたのがゲヘナだ。
アリウスと共謀しエデン条約を破綻させようとしていた、という事実を知っているのは現状我々を除けば万魔殿だけであり、この情報を公開すれば、ゲヘナのキヴォトスでの信用は失落するどころか、連邦生徒会から何かしらの制裁すらある可能性がある。
俺はそれを利用し、万魔殿に交渉という名の脅しを掛けた。
まず、“我々は極秘ルートで、貴学がアリウス自治区と共謀してエデン条約調印式を襲撃し、トリニティとゲヘナ風紀委員会を排除しようとしていた事実を把握した。同時に、実際にはアリウスは貴学をも裏切り排除する計画であったことも確認した”と事実を突きつける。それを踏まえた上で、ナギサのゲヘナに対しては共謀の追求をしないという意思を利用し、トリニティはまだこの事実を知らないからカイザーのゲヘナ内に対する大規模な経済進出を認めろ、というものだ。
当然、万魔殿はそんな情報を公表されては困るため、我々の要求を呑まざるを得なく、カイザーはゲヘナにカイザーPMCの駐屯地やカイザー・インダストリーの大規模な工場地帯を建設することに成功した。
そして、マコトは相当に焦ったのか、それともアリウスが端から裏切る予定であったことにブチギレたのかは知らないが、今後行われるアリウス自治区突入作戦への協力まで打診してきた。流石に発言に矛盾が出てしまうから拒否したが。
生徒に対して脅しを掛けるのは少し心苦しかったが、そもそも原作で調印式の襲撃と先生負傷の原因の一端を作っておきながら無罪放免というのもおかしな話であったし、これくらいは許されるのではないだろうか。まぁカイザー自体は何もされていないが、アビドスで風紀委員会に攻撃された報復ということでプレジデントには話を通した。
何はともあれ、これがカイザーが潤沢な物資や大規模な戦力を編成できた理由だ。
これは万魔殿とカイザーだけの秘密協定であり、トリニティどころか先生にすら知られていない――というかバレてはいけないものだ。
と、そんな回想をしている内に、作戦開始時刻の10分前になっていた。
「そんなことよりナギサ嬢、作戦開始時刻10分前だ。そろそろ作戦指揮室に移ったほうが良いだろう」
「そうですね、後は現場を信じましょう」
そうして、俺とナギサは作戦司令室に歩き始めた。
ここまで俺は万全な準備をしてきた。これで失敗すれば、アリウスの問題は対処不可能なものに膨れ上がり、今後の軌道修正すら困難となる。
(……頼んだぞ)
あとは祈るしかない。彼らの奮闘を信じて。