海馬瀬人は異世界転生でも全速前進DA!   作:Red_stone

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第1話 異世界転生

 

 海馬瀬人は宇宙ステーションにいた。海馬瀬人は海馬コーポレーションと言う世界的企業の社長、彼を知らぬ者などよほどの未開部族に違いない。その成功者の顔とは別に、デュエルにこそその魂を燃やし、彼の支配する街ではデッキを持たなければ住民登録すら叶わないという独裁者の側面を持っている。

 良くも悪くも絶対的に君臨者する彼ではあるが、デュエリストの本能がどうしようもなく戦いを求めるのだ。――闇遊戯、名前も知らぬアテムという宿命のライバルに闘志を燃やすがために。

 

「兄サマ、本当に行くの?」

「これが完成すれば、新たなデュエルの幕開けだ」

 

「でも試作システムのテストはあまりに危険だよ。次元領域エミュレータが、どれほど危険なシステムか分からない……!」

 

「木馬、後は任せたぞ」

「――兄サマ、必ず帰ってきて」

 

「デュエルディメンションシステム、作動!」

 

 海馬が乗るシャトルが地球に向かって射出される。それは落下エネルギーとニューロンネットワークを利用した次元上昇のテクノロジー。

 宇宙ステーションに直結された軌道エレベーターが黄金に輝いて、光が舞い――

 

「この反応は……!? 兄サマッ!」

 

 舞い散る光の粉がぎこちなく動きを止める。黄金のメッキが剥がれていく。これは、そう……どこからどう見ても不具合だ。

 

「おのれ――この俺のロードを阻もうと言うのか! だが、俺は止まらん! 苦難、失敗、そんなものは踏み越えてくれるわ!」

 

 だが、海馬瀬人は構わずに突き進む。戻るどころか止まることも知らない男だ。ならばこの結果も当然のことだったのかもしれない。

 

「ダメだ。テストを中止――」

「――ッ!」

 

 木馬の悲鳴をよそに、シャトルが消える。次元上昇が成功したのかは誰にも分からず、ただ海馬はこの世界から消え去った。

 

 

 

 そして、海馬は気が付くと荒野に立っていた。

 

「……ここはどこだ?」

 

 宿命のライバルがいれば、海馬のデュエリストの魂が導かれるはずだった。しかし、何も感じないということは失敗したのかと落胆する。

 が、海馬はそこで止まりなどしない。失敗したのなら、次の手段を考えるまで。方角すらわからないが、とにかく足を動かす。

 

「――」

 

 ぺちゃくちゃしゃべる趣味などない。先をにらみつけながら歩いていたのだが……

 

「きゃああああ!」

 

 甲高い悲鳴が、聞こえた。

 

「……ッ!」

 

 足を向ける。聞こえてきた悲鳴は子供のものだ。海馬とて、さすがに自己責任で済ませることはできなかった。

 

「や……やめて!」

「うるせえ! テメエの雑魚カードどもはオデが使ってやるって言ってんだよ!」

 

 水色の髪、杖を持った少女がゴブリンに襲われていた。まあそう書くと危ないことを想像しがちだが、ようは強盗だ。

 カードを暴力で奪おうと、髪を引っ張っている。その少女は水霊使いエリアだと言うのだが、無力な少女は懸命にカードを守ろうとデッキを胸に抱え込んでいた。

 

 その場に走って到着した海馬は蔑みもあらわに、おもむろにゴブリンを蹴りつけた。

 

「……まともにカードを扱えもしないクズめが。貴様ごときはそこらの石でも拾って遊んでいるがいい」

 

 ゴブリンは敵意も露わに海馬のことを睨みつける。今にも手にもった斧を振るいそうだが。

 

「なんだと!? オデ様はここらじゃ名の知れたデュエルギャング、〈ゴブリン突撃部隊〉! てめえみたいなモヤシじゃオデのパワープレイに耐えきれねえ!」

「ふうん。ならば、見せてみるがいい――貴様のパワーとやらをな!」

 

 海馬がデュエルディスクを構えると、ゴブリンもまたカードを構える。決着はカードで、それが当然の成り行きというものだろう。

 命とプライドとを賭けた、闇のデュエルだ。

 

「いいぜ、まずはテメエからぶちのめしてカードを奪ってやる!」

 

「「――デュエル!」」

 

 風が吹く。海馬のコートの裾がゆらめいた。ゴブリンが鋭くカードを5枚引いた。……遅れて海馬がゆうゆうと5枚のカードをドローする。

 

「先行は貴様に譲ってやろう!」

「馬鹿にしやがって! オデのターン。ぐはははははは。さっそく最強のカードを引いたぜ、コイツを超える攻撃力を持つモンスターなんかありゃしねえ!」

 

「くだらん、さっさとデュエルを続けろ。……弱い犬ほどよく吠える」

「テメエ! コイツを見て仰天しな――オデは〈ゴブリン突撃部隊〉を召喚!」

 

・ゴブリン突撃部隊 ATK:2300

 

 ヘルメットと斧を持ったゴブリンが何体も走ってきてゴブリンの前に整列する。各々の手に持った武器を舐めたりなどして威圧している。

 海馬の横にいたエリアが、その圧倒的な攻撃力の前に身をすくませる。

 

「そ、そんな――1ターン目から攻撃力2300のモンスターを召喚するだなんて。に、人間さん。サレンダーしてください。あんな攻撃を喰らったらひとたまりもない……!」

「ぐへへへ。いいぜ、お前らのデッキを置いて行くなら見逃してやるよ」

 

「デュエルとは、モンスターだけでは勝てはしない! 攻撃力だけの雑魚でこの俺を倒そうなどとは、貴様は凡骨とすら呼べんカス。カードを持っているだけの素人に過ぎない! やることが終わったならターンの終了を宣言するがいい!」

「……なんだとォ。オデは、伏せカードを一枚伏せてターンエンド!」

 

 ゴブリンは屈辱に顔をゆがめながらも自信満々な顔でターンを終える。彼の準備は完了したということだろう。

 高い攻撃力を持つレベル4だが、致命的な弱点を併せ持つモンスターだ。その弱点をそのままにしておいて、それで狩れるのは素人だけだろう。

 

「ふぅん。そいつは攻撃すると守備表示になる、壁にしかならん情けないモンスター。――貴様に、本当に強いモンスターと言うのを見せてやろう」

「――は、知ってたか。だが、本当に攻撃ができんと思うか?」

 

「貴様の戦術に興味などない。俺のターン、ドロー。俺は、手札から魔法カード、〈召喚師のスキル〉を発動。デッキから、レベル8〈青眼の白龍〉を手札に加える」

 

 見せたカードに、エリアが息を飲む。

 

「ブ、ブルーアイズ……! 攻撃力3000の、幻のレアカード。す、すごい。これなら……」

「げはははは! 馬鹿め! 攻撃力3000ならば確かに突撃部隊すらも倒せる! 倒せるが、召喚できなければ意味はない!」

 

「そ、それはどういうことですか!?」

「教えてやろう。レベル5,6は一体の、レベル7以上のモンスターは二体のモンスターをリリースしなければ召喚できない! 人間、貴様のフィールドは0! レベル8のブルーアイズを召喚できるのは3ターン先だ!」

 

「そ、そんな――」

「それも、この攻撃力2300の突撃部隊が攻撃しなければの話だ。強力モンスターが手札に居ると分かった以上、リリース要員を貴様の場に残しておくものか!」

 

「に、人間さん……!」

 

 エリアが海馬を不安げに見上げる。起死回生だと思ったレベル8も今は召喚できず、攻撃力2300の敵を前に耐えねばならないのだから。

 

「貴様、名を何と言う?」

「え?」

 

「名は何だ?」

「わ、私は水霊使いエリアって言います。でも……」

 

「ならばエリアよ、そこで見ているがいい。――この俺のデュエルは、ルールすらも超越する!」

「なにをしようと――」

 

 轟、と風が吹いて海馬のコートがたなびいた。

 

「俺は更にこの魔法カードを発動する! 〈古のルール〉! このカードで、手札のブルーアイズを降臨させる! 我がフィールドに舞い降りるがいい、〈青眼の白龍〉!」

 

・青眼の白龍 ATK:3000

 

「ば、ばかな……1ターン目に、レベル8のモンスターを召喚するだとォ!? そ、そんな戦術が――人間などに!?」

「さあ、哀れな小鬼を踏み潰してしまえ。ブルーアイズ!」

 

◆青眼の白龍 ATK:3000 VS ゴブリン突撃部隊ATK:2300

〇ゴブリン突撃部隊 LP4000⇒3300

 

 青眼の白龍が、目を白黒させながら逃げ惑うゴブリン突撃部隊を踏み潰していく。その衝撃がゴブリンまで届いて彼の体は吹き飛んだ。

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド!」

「……オ、オデは」

 

 膝を付いたゴブリンはデッキに手を置く。彼の戦術は攻撃力の高いレベル4デメリットモンスターによるパワー押し。ただのレベル4ではこの攻撃力は超えられないはずだった。……1ターン目からレベル8を出されなければ。

 伏せたカードも〈最終突撃命令〉、攻撃すれば守備表示になってしまう突撃部隊のサポートだったがこの場では意味がない。諦めるか、という思考がよぎるが。

 

「オデのターン! ドロー! ここで逃げれば、オデはあの方に殺されちまう!」

 

 冷や汗を滴らせながら、恐怖に押しつぶされるようにドローする。どうにかしなければと震える手で、必死に手札を確認するゴブリン。

 

「……これだ! これなら――ブルーアイズにだって勝てる!」

「勝てるだと!? 俺のブルーアイズに敵うモンスターなど居ない!」

 

「いいや、それは違う! 小鬼だって、ドラゴンを倒せるんだ! オデは〈ゴブリンエリート部隊〉を召喚!」

 

・ゴブリンエリート部隊 ATK:2200

 

「フハハハハ! 貴様の矮小な脳みそは何も学んでいないようだな! その情けないモンスターで何ができるという?」

「武器があれば別だ! オデは装備魔法〈デーモンの斧〉をエリート部隊に装備、攻撃力を1000上げる!」

 

・ゴブリンエリート部隊 ATK:2200⇒3200

 

 鎧を着たゴブリンたちが剣を捨て、恐ろし気な斧を手にする。悪魔的な黒いオーラが立ち上り、呻き声を上げる。あまりの力がゆえに暴走している。

 頼もし気に仲間を見る彼は、満足げに頷いている。前のターンに伏せていた永続罠があれば、攻撃しても守備表示にならない。例えブルーアイズが復活してもエリート部隊は倒せないのだ。

 

「そ、そんな……! 攻撃力3300、こんな攻撃力のレベル4モンスターが存在するだなんて……!」

 

 恐怖に震え、顔を手で覆うエリア。だが、海馬は余裕どころか相手を馬鹿にした態度を崩さない。

 

「……魔法カードを使う程度の知能はあるか。だが、その程度でデュエリストを名乗るなど片腹痛いと知れ!」

「黙れ! オデのエリート部隊の攻撃力はお前のブルーアイズを上回った! 今こそ下剋上の時だ、ブルーアイズに攻撃【デモニック・エリートアサルト】!」

 

 ゴブリンは声高らかに攻撃を宣言する。……だが、エリート部隊は動かない。

 

「な……なんだ? なぜ動かない?」

「首元を見てみるがいい」

 

「――ッ! これは、首輪……だと!?」

「俺は既に罠カード〈破壊輪〉を発動していた! その情けないモンスターは破壊される! ワハハハハ!」

 

 首輪が爆発し、エリート部隊自身も爆弾と化して吹っ飛ぶ。そして、その衝撃は二人のプレイヤーすらも襲う。

 

「だ、だがお前にもダメージが行くはず……!」

「速攻魔法〈防御輪〉! これで俺へのダメージを無効にする!」

 

 出現した回る輪が海馬へのダメージをかき消した。そして、ゴブリンへのダメージはそのまま彼を襲う。

 

「ぐおおおおおお!」

 

〇ゴブリン突撃部隊 LP3300⇒1100

 

「さあ、どうする? 貴様の頼りの綱の装備カードは露と消えた。貴様もデュエリストを名乗るのならば、次の策を張ってみるがいい!」

「――オ、オデは」

 

 ゴブリンは手札を見る。だが、どこをどう探してもこの状況を打開できるカードは存在しない。泣く子も黙るデュエルギャング、だが結局のところこのゴブリンも使われる立場でしかなく。

 ……ミラーフォースのような一発逆転のカードを手に入れる伝手などあるわけもないのだった。

 

「戦う意思のないデュエリストにターンは回ってこない。俺のターン、ドロー!」

 

 恐怖にそのデカい身体を縮こませるゴブリンに対し、海馬は情け容赦など一切ない。その断罪の刃を振り下ろす。

 

「ひ……ヒィィィ!」

 

 手札すらも捨ててゴブリンは逃げる。攻撃力3000、そのダイレクトダメージは想像を絶するものとなるゆえに。

 

「プレイヤーにダイレクトアタック! 【滅びのバーストストリーム】!」

「ギャアアアアア!」

 

〇ゴブリン突撃部隊 LP1100⇒0

 

 ゴブリンは消し飛ばされ、散らばるカードと布にコインを入れただけの簡素な財布だけがそこに残った。

 

「……なに? 消えただと」

「これは闇のデュエルでした。それに負けた者は、この次元から追放されます」

 

 エリアがとてとてと駆けて行って散らばったカードと財布を集める。それを海馬に手渡すのだが、海馬は怪訝な表情でエリアのことを見返してしている。

 海馬はとても”科学的”な人間だ。オカルトだろうが何だろうが、確認されれば”ある”ものなのだ。現象を前にすれば紐解ける。

 

「なんだと……? 次元から追放。それは下へ、と言うことか?」

「ええと。……そうですね、多分そうです」

 

「ふん、まあいい。エリアよ、ここはどこだ?」

「はい。ここは『アイアンフォール』の地、兵器の精霊たちの拠点『兵器帝国』とデュエルギャング達が争う危険な場所です」

 

「兵器……だと。そんなものが……」

「噂があるんです。『聖杯』を見つけた者はどんな願いでも叶えてもらえる、と。帝国もギャング達もそれを探して日夜争ってます」

 

「……聖杯。それは本当か?」

「分かりません。でも、実際にこうして争いが起こっています。人間さんは、聖杯を探してここに来たのではないのですか?」

 

「知らんな。だが、それを手に入れるのも良い」

「迷い人ですか? この次元に迷い込んできたのなら、聖杯に願えば帰れる……かもしれないですけど」

 

「くだらん。せっかくの願いをそんなことに使うものか。俺には宿命のライバルがいるのだ」

「ライバル。えと……その人に勝てるように、とか?」

 

「愚か者め!」

 

 怒鳴った。

 

「きゃっ」

「聖杯などというまがい物に頼った決着に何の意味がある!? 己の力で超えてこそライバル! 奴と決着を付けるためには僅かな夾雑物すらも許されん! 聖杯に願うのは、ただ奴に会うためーーそれだけだ!」

 

「……そ、そうなんですね」

「エリアよ、お前は土地勘がありそうだな。近くの街に案内しろ」

 

「あ、はい。それは当然……あ、そうだ。人間さんの名前を教えてください。私は名前を教えたけど、あなたの名前は聞いていませんよ」

 

 あくまでも傲岸不遜な海馬の態度にエリアはちょっと頬を膨らませるも、しかし彼に付いて行くことに決めたようだ。

 実際、危険だからエリア一人でここに残されたらどうなるかわからない。

 

「ならば、良く聞け。俺の名はーー海馬瀬人だ」

 

 海馬はエリアを連れて歩いて行く。

 

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