僕の一発ネタ   作:ナオ3

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KOTYにノミネートされそうなクソゲーを作ってみました


どぎドキメモリーズ 天上院ルート

 

 

「……おい、やめろって!!」

 

 

中学三年の初夏、昼下がり。 くぐもった空気の中、教室の隅でその声は響いた。

 

高槻宗谷。 普通の男子、どこにでもいる少年。 ただ一つ違うのは――“間違っていることを、見過ごせない”という一点だけ。

 

宗谷の視線の先には、数人の女子に囲まれた少女がいた。

 

伏せがちな前髪。肩までの黒髪。地味な制服。 背は小さく、顔立ちも目立たない。

 

だが、その目は――どこかすべてを見透かすように静かだった。

 

 

「……あのさ、お前ら最低だぞ。人一人、追い詰めて楽しいのかよ」

 

 

囲んでいた女子たちは面倒そうに舌打ちをして散っていく。 宗谷は、その少女に駆け寄った。

 

 

「大丈夫か? 立てる?」

 

 

少女は、ゆっくりと頷いた。 だが、その唇はほんのわずかに震えていた。

 

宗谷は、そっと手を差し出した。

 

 

「先生に言おう。こんなのおかしいって」

 

 

そのまま教師の元に向かった二人。 だが、待っていたのは“理不尽”だった。

 

 

「……ああ、あの子たちねぇ。うーん、でも……あの子たちの家庭って、ちょっと……その、ね? 名門でさ。あまり事を荒立てると推薦が……」

 

 

教師はそう言い濁した。 それを聞いて、宗谷の顔が赤くなる。

 

 

「はぁ? そんなの関係ないだろ。俺が推薦もらえなくなるなら、そんなのこっちから願い下げだよ!」

 

 

教師は冷笑した。

 

 

「正義感は立派だけどね、現実を知らない子は損をするよ?」

 

 

その瞬間、隣の少女が小さく呟いた。

 

 

「……いいの。私のことは気にしないで」

 

 

だが、宗谷は声を荒げた。

 

 

「よくないだろ!!」

 

 

教室が静まり返る。

 

 

「我慢するのが正しいわけない! ツラいことを黙って耐えるのが“えらい”なんて、おかしいんだよ! ……間違ってる!」

 

 

彼の言葉は、空気を震わせた。 だが教師は嘲るように笑う。

 

 

「夢見がちだな。お前、将来苦労するぞ」

 

 

宗谷が反論しようとした、その瞬間。

 

 

「……は?」

 

 

少女の声だった。

 

振り返ると――

 

彼女の目が、開いていた。 大きく、真っ直ぐに。 瞳孔は開き、表情はまるで能面のように無機質。

 

教室の空気が、凍った。

 

 

「…………こんな所から、出ましょう」

 

 

無言のまま、宗谷の手を取る。 その小さな手は、信じられないほどの力で彼を引っ張った。

 

 

「お、おい、ちょ、まっ……」

 

 

教師が何かを言おうとしたが、少女の視線が彼を射抜く。 その圧に、教師もまた凍りついた。

 

 

◆◇◆

 

 

校舎の裏手、誰もいない静かな場所。

 

少女は、宗谷の前に立つ。

 

 

「……ありがとう、助けてくれて。私は……ずっと、誰にも言えなかったの」

 

 

その声は先ほどとは違い、芯があり、静かで、まるで別人のようだった。

 

 

「この恩は、絶対に返します。……必ず」

 

 

宗谷は言葉を失っていた。 その場の空気が、あまりにも違いすぎたから。

 

彼女はスマートフォンを取り出し、何かを言葉少なに伝える。

 

数分後――

 

高級外車が校門前に滑り込んだ。

 

運転席から降り立った女性が、駆け寄ってくる。

 

 

「お嬢様……ついに、ですか?」

 

「ええ。これから本家に向かいます」

 

 

少女の表情は、既に“地味でいじめられっ子”のそれではなかった。

 

 

「名前を教えてくれる?」

 

「高槻宗谷。君は……?」

 

「玲香。……まだ、姓は名乗れないの」

 

「……?」

 

「高槻宗谷さん。あなたがいてくれて、本当に良かった」

 

 

そう言って、女性が宗谷に頭を下げる。

 

 

「お嬢様を助けてくださって……ありがとうございました」

 

 

もはや、宗谷の思考はついていけなかった。

 

 

「ま……まって! 君はどうするの……?」

 

 

彼がそう問いかけようとした瞬間。

 

ドドドドドド……!!

 

空から、ヘリがやってきた。

 

玲香は、スカートを押さえてヘリに向かって歩いていく。

 

振り返らずに、一言だけ。

 

 

「…………それでは、また」

 

 

そして空へ―― 風とともに、彼女は舞い上がった。

 

その横で、残された女性が微笑む。

 

 

「さあ、ご自宅へお送りします。お母様が心配されていますので」

 

 

何も言えないまま、高級車に押し込まれる宗谷。

 

ぼんやりと、空に浮かぶヘリを見つめていた。

 

彼女は誰だったのか。 何を背負っていたのか。

 

それを、まだ誰も知らなかった。

 

 

◆◇◆

 

 

高級外車は、静かに住宅街を滑るように走っていた。

 

助手席に座る高槻宗谷は、窓の外を無言で見つめていた。 遠ざかっていく校舎。残された教室。 そして――空へ飛び立った、少女の背中。

 

あれからまだ十数分しか経っていないのに、 現実が遠く感じられるのは何故だろう。

 

 

(……なんなんだ、あれは)

 

 

ヘリ。外車。スーツ姿の女性。 玲香の瞳孔が開いて、能面になった瞬間。

 

 

(あれ、本当に同じ人間だったか?)

 

 

「……高槻さん」

 

 

運転していたスーツの女性が、ようやく口を開いた。

 

 

「ご自宅までお送りしました。お母様には私からご挨拶を……それと、これまでの経緯について、お話しさせていただければと思います」

 

「え? え、ちょっと、あの……いや、あの……」

 

 

頭が追いつかない宗谷。 だが車はすでに、彼の家の前で停まっていた。

 

住宅街の中にある、どこにでもあるような一軒家。 だが、そこに並ぶには異質な存在感の高級車。

 

しかも――

 

 

「……え?」

 

 

家の前、別の方向からもう一台、黒塗りの外車がゆっくりと現れる。

 

そして降りてきたのは――

 

 

「……父さん!?」

 

 

ネクタイを緩めたスーツ姿の男性。 間違いなく、宗谷の父だ。

 

普段ならこの時間はまだ働いている。 この時間にいるはずがない父が、 その場にいた。

 

そして父は、車から降りた宗谷に向かって言った。

 

 

「……事情は聞いた。よくやったな、宗谷」

 

 

そう言って微笑んだその目は、なぜか哀しげだった。

 

 

「父さん……? 何で……?」

 

「お前は間違ってない。本当に、よくやったよ」

 

 

そう繰り返しながらも、父の表情はどこか曇っていた。

 

まるで、 これから“運命に巻き込まれる人間”を見つめるような目で。

 

 

「母さんと一緒に、少しこの方と話をする。……お前は部屋に居なさい」

 

「……え?」

 

「心配いらない、大丈夫だ。決して悪いことにはならないから」

 

 

そう告げる声は、どこまでも優しい。 だが、その優しさの奥には、諦めに近い静けさがあった。

 

 

「な、何の話をするの……?」

 

 

宗谷の問いかけには答えず、 父は静かに扉を開け、女性と共に家の中へ入っていった。

 

宗谷は、玄関の前で立ち尽くす。

 

そして――

 

 

(……なんで、父さん、あんな顔してたんだ)

 

 

答えのない疑問と、胃の奥に残る微かな不安だけが、 彼の中に残った。

 

 

◆◇◆

 

 

静かな部屋の中、宗谷は座ったまま動けずにいた。

 

ベッドに突っ伏しても、スマホをいじっても、頭は空回りするばかりだった。 何も、分からない。 分かるのはひとつ――あれは現実だったということ。

 

あの少女は確かに、 玲香だけと名乗り、 空に飛び立った。

 

 

(……なんだったんだ、今日……)

 

 

深く長いため息とともに、 部屋のドアが、ノックもなく静かに開いた。

 

 

「宗谷……ちょっと、来てちょうだい」

 

 

母だった。

 

けれど、その表情にはいつもの明るさがなかった。 疲れが滲み、どこか魂が抜けたような笑み。 そして――なにより、その目が。

 

哀れみに満ちていた。

 

 

(……父さんと、同じ目だ……)

 

 

宗谷は背筋をぞわりと震わせた。 けれど、逆らう理由もなく、立ち上がる。

 

ゆっくりとリビングへ向かうと、 スーツの女性がまだ座っていた。

 

だが彼女は立ち上がると、宗谷に深く一礼する。

 

 

「改めて、ありがとうございます。……お嬢様にとって、あなたとの出会いはかけがえのないものでした。今後とも、どうか……」

 

 

それだけ言い残すと、彼女は家を出ていった。 まるで任務を終えた兵士のように、背筋を伸ばして。

 

扉が閉まる音が、異様に重く響く。

 

残されたのは、三人の家族だけ。

 

そして父が、口を開いた。

 

 

「……今日のことは、全部聞いたよ」

 

 

宗谷はうつむいた。

 

 

「……ごめん。推薦……たぶん、取り消しになるかも」

 

 

だが父は、ふるふると首を振った。

 

 

「それはいい。いいんだ。お前は……正しいことをした。なあ、母さん」

 

「ええ。宗谷、あんな教師の言葉なんて気にすることないわ。胸を張りなさい」

 

「母さん……」

 

 

思わず胸が熱くなる。 正しいって言ってくれた。 それがどれだけ救いだったか。

 

けれど、その後に続いた父の言葉が―― 空気を変えた。

 

 

「……そもそも、こうなってしまえば、もう……」

 

「えっ?」

 

「……高校進学について、何も考えなくていい。何もだ」

 

「いや、それはさすがに変だろ!? 今からでも──」

 

「いいんだ、いいんだよ」

 

 

優しさにも見える口調。 だが、それは明らかに“有無を言わせない”音だった。

 

父の目は、現実を悟った者の目。 その奥底に、静かな諦めの色。

 

 

「お前は……選ばれてしまったんだ」

 

 

その言葉が、 まるで死刑を言い渡すようなトーンで語られた。

 

ぞわ……と背筋を冷たいものが這う。

 

 

(選ばれた……?)

 

 

母が横からフォローするように言葉を添える。

 

 

「とにかく、中学卒業までは普通に過ごしなさい。ああ、友達と遊ぶのもいいわね。毎日遊びまくって。勉強のことは……うん、気にしなくていいのよ」

 

 

笑顔だった。 けれどその笑顔は、まるで余命宣告を受けた子に贈る慈愛のようで。

 

 

(……え?)

 

 

胸の奥がざわつく。 なぜ、何も言わずに勉強しなくていいと言うのか。 なぜ、遊べ遊べと勧めるのか。

 

まるで、 「今のうちに最後の贅沢を味わいなさい」 そう言われているようだった。

 

宗谷は、その場に座ったまま、言葉を失っていた。

 

壁の時計が、秒針だけを響かせる静寂の中で回り続けていた。

 

 

◆◇◆

 

 

翌朝。

 

食卓には温かい朝食が並んでいたが、宗谷の箸は進まなかった。

 

それでも両親は、どこか気丈に振る舞っていた。 特に父は、いつもならとっくに会社へ向かっている時間なのに、今日は妙にゆっくりしていた。

 

 

「父さん、会社は?」

「いいんだよ、宗谷。今日は……いいんだ」

 

 

優しく微笑むその顔に、不安が募る。

 

 

(なんで、そんな顔するんだよ……)

 

 

朝食を終えて一緒に家を出た。 玄関先で別れ際、父がぽつりと呟いた。

 

 

「宗谷、元気でな」

 

 

それは、まるで永遠の別れを告げるような声音だった。

 

気が重いまま、学校の門に近づく。

 

だが――

 

 

「……え?」

 

 

門の前には、大人たちが列を成して待ち構えていた。 校長、教頭、その他の教師たち(クソ教師を除く)。

 

何事かと訝しんでいると、ひとりの教師が宗谷を見つけて叫んだ。

 

 

「見つけたぞ!!!」

 

 

そのまま校長室へ連行される宗谷。

 

扉の向こうで、目にしたのは――大人たちの土下座だった。

 

 

「高槻君、申し訳なかった! あの教師の推薦取り消しの件は完全に我々の落ち度だ!」

 

 

校長の謝罪を皮切りに、教師たちが頭を下げていく。

 

 

「推薦取り消しは無効とします! 代わりにこちらを……」

 

 

差し出された封筒には、信じがたい名前が書かれていた。

 

――天壌学園。

 

世界中の大富豪の子息が通う、天上院グループが運営する超エリート校。 東京都近郊の海上に築かれた人工島に位置し、その島全体が天上院本家の支配下にある。

 

人工島そのものが“天上院の王国”と称されるほどで、 一般人が通うことなど原則として不可能。 唯一の例外は――天上院本家の推薦を受けた者のみ。

 

当然、宗谷が自力で願書を出すことすら不可能な学校である。

 

 

「……え? いや、無理です。絶対無理です。行きたくありません」

 

 

宗谷が断ろうとすると、大人たちが一斉に説得にかかる。

 

 

「頼む! どうか受けてくれ!!」 「これは我々の誠意なんだ……!」

 

 

あまりにも必死すぎる大人たちの圧に、宗谷はついに折れる。

 

 

「……わかりました。受けます」

 

 

その瞬間――

 

 

「ありがとう……ありがとう……!」

 

 

教師たちは涙を流して喜んだ。

 

宗谷はただ、天井を仰いだ。

 

 

(……もう何も考えたくねぇ)

 

 

どこで道を踏み外したのか。 いや、踏み外したんじゃない。 “選ばれた”のだ。

 

――あの少女に。

 

そして、運命に。

 

 

◆◇◆

 

 

東京都近郊・人工島 天上院本邸――

 

世界でも指折りの財閥、天上院家の本家。

その重厚な屋敷の一室に、異様な緊張感が漂っていた。

 

三人の人影――

 

中央に座る少女、玲香。

その向かいに、父と母。

 

その場の空気を裂くように、玲香が口を開いた。

 

 

「お母様、私……今日から“天上院”を名乗ります」

 

 

一瞬の沈黙。そして――

 

 

「……ええ。今日からあなたは、正式に天上院よ。私たちの誇り、そして未来」

 

 

母の声には、抑えきれない喜びがにじむ。

対照的に、父は深く、重たいため息をついた。

 

 

「……ああ、ついに選ばれしものが……」

 

 

だが、当の玲香は静かに背筋を伸ばしたまま――まるで王女のような気品すら漂わせていた。

以前の地味で陰気な少女の面影は、完全に消えていた。

 

瞳には鋭い光。

それは、獲物を見据える獣のような輝き。

 

 

「……高槻宗谷さん、ですね?」

 

 

母が尋ねると、玲香は微塵の迷いもなく頷いた。

 

 

「はい。高槻宗谷さん。ごく普通の家庭に生まれながら、文武両道、学年上位、他者への思いやりと寛容性を持ち、自己犠牲的精神に富み、教師や同級生の信頼も厚く、個別行動においても常に主導性を発揮しており――」

 

「玲香、長い」

 

 

父の震えた声が割り込んだ。手が震え、胃がきしむ音が聞こえそうだった。

 

だが玲香は構わず、凛とした口調で言い切る。

 

 

「宗谷さんは、私が知る限り世界で最も高貴な一般人です。

彼は選ばれし存在。そして――私が彼を選びました」

 

 

母は感嘆の吐息を漏らした。

 

 

「……素晴らしいわね」

 

 

それが玲香のことか、宗谷のことか。あるいはその両方か――判別はつかなかった。

 

父は、すでに敗北した将軍のような表情で、最後の質問を絞り出した。

 

 

「……で、玲香。君は、その宗谷君と、どうなりたいと思っている?」

 

 

知っている。答えは最初から分かっていた。

だが、親として、聞かねばならない。

 

 

「彼の妻になります。そして、子を産みます」

 

 

まるで「今日は天気がいいですね」と言うような自然さで。

 

母は目を細めて深く頷いた。

 

 

「……よく言ったわ。それでこそ、天上院の女」

 

 

父は机に突っ伏しそうになりながら、懇願するように叫んだ。

 

 

「せめて、せめて高校を卒業してからにしてくれ! 彼に猶予を与えてやってくれ……!」

 

 

母は穏やかに、しかし異様な確信を持って微笑んだ。

 

 

「ええ……自分の欲望を優先するのは、いけないことだわ。性交も、高校を卒業してからにしなさい」

 

「なぜですか!!」

 

 

それは雷鳴のような叫びだった。

 

玲香の顔が鬼の形相へと変わる。

 

 

「なぜですか!! なぜ、いけないのですか!!」

 

 

母は静かに応じる。

 

 

「一度でもしてしまえば、歯止めが利かないのよ。何度も、何十回も、止まらない。そして妊娠する。……ソースは私」

 

「やめてえええええええええええええええええええ!!」

 

 

母はため息をついた。

 

 

「貴女を宿してお腹を大きくしたまま卒業式に出た伝説。私は誇りに思ってるけど……彼には背負わせたくないでしょ?」

 

 

玲香は、唇を噛み、俯き、そして――

 

 

「……はい」

 

 

声は小さかったが、意志の力はこもっていた。

 

それは敗北ではなかった。

ただの“延期”。

 

燃えるような執念の炎は、消えてなどいない。

 

その夜、

玲香は正式に“天上院”となった。

 

そして――

彼女の、愛と執着と計画に満ちた「宗谷攻略戦」は、静かに幕を開けたのだった。

 

 

◆◇◆

 

 

「……すげぇ……」

 

 

高槻宗谷は立ち尽くしていた。

 

目の前にそびえ立つのは、豪奢を極めた白亜の門――天壌学園正門。

黄金の装飾、完璧な曲線で描かれたアーチ。

美術館と間違えるほどに荘厳な校舎が、門の向こうにそびえ立っている。

 

ついさっきまで、

宗谷は中学の卒業式でクラスメイトと笑っていた。

 

だが、突如校庭に**VTOL(垂直離着陸機)**が着陸し、メイド服を着た女性にこう言われたのだ。

 

 

「――高槻宗谷様、学園へお連れいたします」

 

 

そして、呆然とする同級生たちの目の前で連行された。

 

父は、目元に涙を浮かべながら笑っていた。

 

 

「……元気でな」

 

 

母は、無理に笑顔を作って手を振った。

 

 

「頑張ってね」

 

 

それが、“普通”の人生との決別だった。

 

 

(俺、マジでここ通うのか……)

 

 

全身から気圧されながらも、宗谷は門の前でしばし茫然と立っていた。

だが、そのとき――

 

 

「……貴方が、高槻宗谷さんですね?」

 

 

清らかで、よく通る声。

 

振り向いた瞬間、

宗谷の目に入ったのは、まさに“異次元”の存在だった。

 

艶やかな黒髪を揺らし、

完璧なプロポーション、170センチはあろうかという長身。

絵画の中から抜け出したような絶世の美女。

 

しかも――なぜか制服を着ている。

この学園の、生徒だ。

 

 

(え、待って、誰だこの超人……?)

 

 

初対面のはずなのに、

どこか既視感があった。

 

視線を合わせる。

微笑みを浮かべる美女。

そして――

 

 

「……君は、あの時の娘?」

 

 

宗谷の口から、思わず漏れた曖昧な言葉。

 

次の瞬間。

彼女の瞳が、大きく見開かれる。

 

 

「……っ!」

 

 

そして、破顔するように微笑んだ。

 

 

「……はい。あの時、貴方に助けられた女です」

 

 

まさに歓喜の声だった。

 

宗谷は、脳内で大声ツッコミを入れていた。

 

 

(いやいやいやいやいやいや!!

ちっちゃくて地味だった中学生が……なにこの美少女進化は!!?)

 

 

確かに印象的な目は、あの時のままだ。

だが、あまりに変わりすぎていた。

 

地味でおとなしかった“彼女”は、

今や誰が見ても一国の王女クラスの美女。

 

 

(成長ってレベルじゃねぇぞ!変態の域だよ!?)

 

 

ぽかんとしたままの宗谷に、彼女――天上院玲香は、静かに言った。

 

 

「……場所を移しましょう。お話したいことがたくさんあります」

 

「……あ、うん。わかった」

 

(今この人に「いいえ」って言える奴、たぶんいない)

 

 

玲香は優雅に踵を返す。

まるで舞台の幕が開くように。

 

高槻宗谷は、静かにその背中についていった。

 

それは、運命の中で再び出会ったふたりの、

本格的な開幕の一歩だった。

 

 

◆◇◆

 

 

これが、玲香との二度目の出会いだった。

 

……そして、それが地獄の入口でもあった。

 

いや、天国に偽装された地獄かもしれない。

 

 

天壌学園への入学と同時に、

俺――高槻宗谷は、「寮」なるものに入ることになった。

 

だが、連れて行かれたその建物は――

 

 

「……え、これ一軒家じゃね?」

 

 

見上げるような豪邸。庭付き。石造りの門。

セキュリティは指紋・声紋・虹彩認証。

 

全然“寮”じゃない。

 

 

「宗谷さん、この家が今後の住居になります。私の実家が所有していたものですので、使って構いません」

 

 

玲香は、当たり前のように鍵を開け、俺の前を歩いた。

 

俺はもう、この時点で何も言えなかった。

言っても無駄だと知っていたから。

 

だが、事態はさらに進む。

 

 

「部屋? 一緒でいいですよね?」

 

「……いや、いやいや!? 一緒って何!? 部屋数めちゃくちゃあるよね!?」

 

「ええ、でも共有したほうが管理がしやすいので。安心してください、ちゃんとカーテンで仕切りますから」

 

(いや、そのカーテンたぶん意味ないやつだよね!?)

 

 

そして始まった、玲香の管理下生活。

 

――朝。

 

 

「おはようございます、宗谷さん。朝食はこちらに」

 

 

完璧に整えられた食卓。和洋中全対応。

出されるたびに俺の好みを1mmずつ更新して最適化されていく。

 

――夜。

 

 

「お風呂、沸かしました。湯温は宗谷さんの好みに設定済みです。なお、洗髪は私が行いますか?」

 

「いやそこは自分でやるからあああああああ!!!」

 

――そして何より恐ろしいのは、

 

ラッキースケベの発生率の高さだった。

 

風呂場、部屋、廊下、着替え、寝起き。

まるでイベントフラグのバグかと思うほど自然に、しかし圧倒的に偶然を装って何かが起こる。

 

にもかかわらず――

 

 

「ごめんなさい、宗谷さん。タオルが……ふふっ、顔赤いです」

 

 

なぜか一切、不快にならない。

 

むしろ「ごめん俺が悪いんだ」みたいな空気になって終わる。

これが玲香の恐ろしさだった。

 

 

そして、学園生活。

 

当然のように、学園内の誰もが玲香の存在を知っている。

 

だが、それだけではない。

 

 

「おい高槻、お前って……マジで玲香様とどういう関係?」

 

「俺? いや、なんか気づいたらこうなってて……」

 

「くっそ、うらやま……いや、尊いな……俺たち、応援するわ」

 

 

なぜか学友たちが俺と玲香のカップルを全面推ししてくる。

しかもその面々は全員、世界的財閥の御曹司や王族の子弟。

誰一人として玲香を狙わず、モブとして“二人を盛り立てる”役に徹していた。

 

 

「今度の学園パーティー、ペアダンスは……やっぱ天上院様と高槻でしょ!!」

 

「文化祭の主演も当然この二人で!」

 

「デートスポットは全部予約しておいたよ!」

 

行く先々、

振り返れば常に玲香、玲香、玲香。

 

何かの罠か? 催眠か? そう疑った時期もあった。

 

でももう、俺は考えるのをやめていた。

 

これは――

そういう世界線なのだと。

 

玲香一色の学園生活。

どこまでも俺を囲い、封じ込める完璧な檻。

 

なのに、不快じゃない。

むしろ――ちょっと心地いいのが、怖い。

 

 

こうして俺は、

玲香と過ごす天壌の日々に、

少しずつ、しかし確実に染まっていった。

 

これは恋なのか?

洗脳なのか?

それとも、ただの敗北なのか?

 

……わからない。

 

ただひとつ、はっきりしているのは、

 

――逃げられない、ということだけだった。

 

◆◇◆

 

卒業式。

人工島に吹く風は穏やかで、

空は信じられないほど青かった。

 

天壌学園、最上級の制服に身を包んだ高槻宗谷は、式が終わっても校舎から動けずにいた。

 

 

(……終わったな)

 

 

ずっと遠くに感じていた“この場所”が、いつの間にか日常になっていた。

朝食は玲香と、

昼食も玲香と、

放課後も、イベントも、日々の生活も、すべて。

 

気づけば、天壌学園で過ごした三年間は、彼女と共にあった時間の積層だった。

 

そして今。

 

静かに歩み寄ってくる少女。

 

誰もが振り返る美貌、

けれどその目は今だけ――あのとき、出会った地味な少女と同じ色をしていた。

 

天上院玲香。

 

彼女は、凛とした足取りで宗谷の前に立った。

 

 

「宗谷さん」

 

 

その声も、変わっていない。

宗谷の心に、少しだけ波紋が広がる。

 

 

「……今日で、学園生活は終わりです。

けれど、私は――これからが本番だと思っています」

 

「……うん」

 

「ずっと、言おうと思っていたことがあります」

 

玲香は小さく息を吸い、

それから、笑った。

 

それは“計算されていない”、本当に素の笑顔だった。

 

 

「――好きです、宗谷さん。私は、貴方が、好きです」

 

 

花が咲くような声音。

その告白は、もはや誰も驚かない“完成された関係性”の最後の一欠片だった。

 

だが宗谷は、

なぜだろう。

どこか**“今さら感”**が拭えなかった。

 

 

(いや、ずっと前からそうだったよな……)

 

 

正直、告白されたところで驚きもしなかった。

 

この三年間、ラッキースケベも、共同生活も、謎のラブイベントも、

全部玲香とだけだった。

 

むしろ、このタイミングでようやく“自分の思いを言葉にされた”ことに――

 

 

「……今さら、かよ」

 

 

思わず、そんな言葉が漏れる。

 

玲香の顔が、わずかに曇る。

 

 

「……ごめんなさい。もっと早く、はっきり言えばよかった」

 

「いや、違う。俺が、だよ」

 

 

宗谷は、静かに目を伏せた。

この三年間、ずっと“圧”に流されて、戸惑って、呑まれて――

でも、確かに嬉しかった。

 

こんなにも一途に求められて、

誰よりも自分を理解しようとしてくれて、

どこまでも自分を見つめてくれた相手。

 

 

(困ったとこは……あるけど)

 

「……俺も、玲香のことが好きだよ」

 

 

それは、偽りなき事実だった。

 

玲香の目が、ほんの一瞬、大きく見開かれる。

そして――静かに潤んでいく。

 

 

「……嬉しいです。これ以上に、望むものはありません」

 

 

宗谷は苦笑する。

 

 

「望んでたのは、とっくに手に入ってたろ……」

「ええ。でも、“答え”はまた別です」

 

 

そして宗谷は――腹をくくった。

 

どれだけ騒がしくても、

どれだけ強引でも、

この娘はきっと、自分の一番奥に踏み込んで、

そのまま笑ってくれる。

 

だったら、逃げる理由なんてない。

 

 

「……覚悟決めたよ。俺、玲香と添い遂げる」

 

 

その一言で、玲香の目が一層輝いた。

 

 

「――はい。必ず、幸せにします」

 

(あ、逆なんだ……俺じゃなくて、される側なんだ……)

 

 

このとき宗谷は悟った。

 

自分はヒロインを攻略したわけじゃない。

ヒロインに攻略され尽くして、EDに到達しただけなんだ――と。

 

それでも悪くない。

悪くないどころか――たぶん、最高だ。

 

青空の下、

誰にも邪魔されず、

ふたりは静かに並んで立っていた。

 

その足元から、

未来という物語が、音もなく広がっていった。

 

――完

 

 

 

 

 

 

 

 

天上院とは

 

天上院(てんじょういん)とは、バイオテクノロジーによって世界トップの地位を築いた巨大財団にして、閉ざされた名家である。

その実態は「愛し続けること」を追求した、ある種の恋愛宗教的・生命工学的集団でもある。

 

 

 

・起源と目的

 

天上院のバイオテクノロジーは、元々――

**「天上院の女が、選んだ男と永遠に愛し合うため」**に生み出されたものである。

 

この技術は老化を止めるだけでなく、若返りや細胞再生すら可能とし、

肉体的な時間の制限を超越する愛の実現を目的にしていた。

 

その極めて高度な生命技術の一部が商業化され、

医療分野、特に再生医療・若返り医療において圧倒的な地位を築いている。

 

 

 

・影響力と支配構造

 

天上院の医療技術を必要とする国家首脳や財閥、要人は世界中に存在する。

つまり――

 

「天上院に逆らうこと=命と若さを手放すこと」

 

という公式が成立しており、事実上の世界影の支配者とも言える。

 

 

 

・天上院の女とは?

誕生と宿命

 

天上院の家系に生まれた女性は、生まれながらに圧倒的なポテンシャルを秘めているが、

それが開花するのは**「恋に落ちた時」**である。

 

この恋こそが、彼女たちの**“天上院姓”を正式に名乗る資格”**となる。

 

 

 

・恋の解放

 

恋をした天上院の女は、内に秘められた全能力が開放される。

 

身体能力、知力、感性、判断力、情報処理力すべてが超常的な域へ到達

 

容姿も進化し、**“人類の理想形”**のような魅力を放つ

 

執着心と愛情が極限に達し、選んだ男を逃さない

 

金・権力・法・武力、あらゆる手段を行使し、彼を囲い込む

 

すなわち、選ばれた男は“終わる”。

良くも悪くも、運命は決したのだ。

 

 

 

・後継者と血統

 

天上院の女が産む子の多くは女性である。

これは遺伝的特性として知られ、稀に男子が生まれた場合は外に出されることも多い。

 

表向きの運営者は男性であるが、

それは世間体と対外的な緩衝材としての存在であり、

実際の実権や未来の中枢は常に**“恋に目覚めた天上院の女”**にある。

 

 

 

・女の在り方と男の恐れ

 

天上院の女たちは、選んだ男に尽くすことを誇りとし、悦びとする。

その献身は、時に狂気的で、暴力的なまでに純粋だ。

 

故に、外部の人間――特に男たちは、

本能的に天上院の女を“恐れている”。

 

「選ばれたら最後」

「惚れられたら人生が変わる」

それは噂でも誇張でもなく、事実なのである。

 




ギャルゲーで大倉〇子さんがバグで最終形態から高校生活スタート!をイメージしましたw

んでもってヤベー要素を加えたいなと思ったら天上院の女というクリーチャーが出来ちゃったww
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