帰宅部の王子様   作:カービィ6

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アンタに帰宅を教えてやるよ

4月のある日。

見渡す限りの快晴。

熱くもなく寒くもない、絶好の帰宅日和。

誰もが平穏な心持ちで帰宅していることだろう。

しかし……。

 

「その時言ってやったんだよ。そんな帰宅力で恥ずかしくねえのか? ってな!」

 

「ハハハ! 佐々部サイコー!!」

 

高校生4人が談笑しながら自転車を漕いでいた。

道を塞ぐように横に広がりながらゆっくりと走行している。

桜乃は何度も横を通り抜けられないかチャレンジしていたが、ことごとく失敗していた。

 

(うぅぅ……通れない。このままじゃ一生帰れないよぉ……)

 

そんな情けない事を心の中で呟いていた。

引き返して別の道を通った方がいいか、そんなことを考えていると……。

 

「おい、何見てんだよガキ?」

 

突然高校生に話しかけられ、ヒッと声が出てしまう。

情けない顔もしていたのだろうか、怯えている桜乃を見てゲラゲラと笑い出す高校生たち。

今にも泣き出しそうになる桜乃。

 

桜乃に非はない。全ては道路を塞ぐように走行している高校生が悪いのだ。

ただ横を通り抜けさせてもらいたいだけ。怖いことなんて何もない。

そう自分に言い聞かせ、勇気を出して高校生に話しかける。

 

「あ、あのーーー」

 

「ーーーねぇ、邪魔なんだけど」

 

桜乃の後方から突然男の子の声が割って入った。

桜乃が振り返ると、そこには学生服を着た男の子が立っていた。

 

「佐々部のやつ、中学生に注意されてやんの!」

 

「う、うるせぇ! ガキのくせに生意気なんだよ!」

 

目の前の光景を見てオロオロする桜乃。

そんな桜乃と対照的に、佐々部に怒鳴られている少年はまるで動じていなかった。

 

「ノロノロ帰宅する上に他人に迷惑をかける。偶にいるんだよね、自分の帰宅力を勘違いしてるやつ」

 

「このガキ……! 俺に帰宅を語るなんざ100万年早ぇんだよ!!」

 

少年の鋭い視線が佐々部を突き刺す。

 

「だったら勝負しようよ」

 

一瞬の静寂。時間の動きと比例するようにその場の空気が張り詰めていく。

高まった緊張感の中、堂々とした少年の声が響く。

 

「アンタに帰宅を教えてやるよ」

 

男のプライドをかけた帰宅勝負が始まりつつあった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「マジでやんのかよ佐々部?」

 

「当たり前だ! コケにされたまま黙って帰れるかよ! さっさとドローンを飛ばせ!」

 

審判役の高校生が帰宅勝負観戦用のドローンを飛ばす。

映像と音声をリアルタイムで届けられる優れものだ。

 

「おい中学生! あの丘の上の公園まで帰宅勝負だ!」

 

「ふーん、ざっと5kmってところか」

 

「俺が勝ったら土下座させてやるからな! 逃げ出すなら今のうちだぞ!」

 

「さっさと準備したら?」

 

「舐めやがって……!」

 

学生服を鞄に仕舞い、赤と白のスポーツウェアに着替えた少年がストレッチを始める。

それぞれが準備を進める中、あることに気付いた桜乃は審判に抗議の声を上げた。

 

「え、あの人だけ自転車を使うんですか!? ズルい……」

 

「帰宅で自転車を使うのに何の問題があるってんだ」

 

「でも、あの男の子は徒歩なのに……」

 

「自転車を用意していない方が悪い。自転車の無い状態で帰宅勝負を仕掛けてきたあの中学生の準備不足だ」

 

ニヤニヤしながら答える審判に桜乃はそれ以上何も言えず、黙るしかなかった。

桜乃が審判と話している間に両者の準備が整った。

自転車に乗った佐々部とクラウチングスタートの姿勢をした少年が横並びになる。

審判が声を上げる。

 

「ザ・ベスト・オブ1セットマッチ、3カウント」

 

「3」

 

「2」

 

「1」

 

 

「ーーーGo!」

 

開始の合図と同時に、2人の男がスタートラインを飛び出して行った。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「あ、あの中学生、佐々部の自転車と並走してやがる!?」

 

「す、すごい……」

 

「まだまだ先は長いのに飛ばしちゃって。あの中学生、いつまで体力が持つか見ものだな」

 

***

 

開始地点から2km、5分の2を過ぎたにも関わらず依然として涼しい顔で並走を続ける少年に対し佐々部は焦りを覚えていた。

佐々部の計画では序盤に引き離すことで相手に精神的負荷をかけ、圧倒的大差で悠々と勝利する青写真を描いていた。

しかし、計画とは違い8割ほどの力を使って自転車を漕ぎ続けていても、引き離すことも抜かれることもない現状に、逆に精神的苦痛を感じさせられていた。

 

「ねぇ、そろそろペース上げない?」

 

「……ハッ、強がり言ってんなよクソガキが」

 

「そ。じゃあそろそろ先に行かせてもらうよ」

 

徐々に速度を上げて前へ出る少年。

先ほどのセリフがハッタリじゃなかったことに驚いた佐々部も、既に疲労を感じ始めていた足を動かしペースを上げる。

2人の帰宅勝負は加速していく。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「おい、嘘だろ。佐々部のやつ、このまま負けちまうんじゃねぇか?」

 

「あの中学生、全然ペースが落ちねぇ……。どんな体力してやがんだよ」

 

「野良の中学生に負けるなんて恥でしかねぇ。佐々部のやつ、もしかしたら禁断のアレをぶちかましちまうかもしれねえな」

 

(禁断のアレ?って何のことだろう……)

 

高校生たちの会話を聞いていた桜乃は、聞こえてきた不穏な言葉にえも言われぬ不安を感じるのだった。

 

***

 

開始地点から4.5km、視界の先にはゴールへと続く上り坂が見えていた。

上り坂になってしまっては自転車では追いつけない。

負けるかもしれない不安に、佐々部のイライラはピークに達していた。

 

(このままじゃ……負ける!)

 

そんなことは神が許しても佐々部のプライドが許さない。

どんな手を使ってでも勝たなければならない。

だからこそ。

 

「くたばれ!」

 

疲労により痙攣しかけている足で最後の力を振り絞り、力強くペダルを踏む。

一瞬の加速により速度を増した自転車の前輪が、少年の背中へとぶつかった。

あっけなく吹き飛ぶ少年。衝突の衝撃で自転車から振り落とされる佐々部。

 

「ハァ……ハァ……ワリィな。お前が遅過ぎて、つい、ぶつかっちまったよ」

 

少年はゆっくりと立ち上がり、佐々部に視線を向けた。

睨みあう2人の男たち。少年が口を開く。

 

「ブレーキの握りが甘い」

 

「……」

 

「ノロノロした動きでぶつかって、他人に迷惑をかける」

 

「くっ……」

 

「まだまだだね」

 

少年は佐々部へ背を向け、つい先ほど自転車にはねられたとは思えない速度で坂道を登っていく。

一拍遅れた佐々部も自転車を投げ捨ててゴールへと駆け出す。

そんな2人をドローンだけが見つめていた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「あ……げ、ゲームセット。ウォンバイ中学生」

 

佐々部の敗北に青ざめた顔をした審判がドローン越しにジャッジを下す。

 

疲れ果てた佐々部は荒い息を整えながら大の字で寝そべっていた。

少年は軽く息を整えながら佐々部を見下ろし、一言放つ。

 

「まだまだだね」

 

そう告げると鞄を開き、ファンタ缶を取り出し一口飲む。

帰宅勝負にて勝利した後に嗜む勝利の味。

至高のファンタを味わうことが少年のルーティーンとなっている。

そんな勝利の余韻に浸る少年に見惚れていた桜乃がドローン越しに声をかける。

 

「あの、助けてくれてありがとうございました!」

 

「……別に」

 

素っ気なく返事をすると、背中を向けて歩きだす少年。

 

「……そうだ! 名前! 教えてくれませんか!」

 

「青春学園中等部1年、越前リョーマ」

 

「リョーマ君……」

 

少年ーーーリョーマは振り返ることなく自宅へ向け歩を進めるのだった。

 




ひき逃げ犯を追い越してドヤ顔した後にファンタ飲んで帰る中学生がいるらしい。
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