帰宅部の王子様   作:カービィ6

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帰宅部レギュラー桃城現る

午後のHRが終わり、教室の空気が和らぐ。

放課後の予定を話し合う者や授業の愚痴を言い合い騒ぐ生徒たち。

そんな穏やかな雰囲気を意に介さず、誰よりも早く教室を出た男がいた。

 

 

そう、越前リョーマである。

 

 

教室の扉を素早く閉め、下駄箱へ向かわんとする。

出来れば走りたいところだが、廊下を走るのは校則違反である。

良識のあるキタクニストとして、廊下を走るわけにはいかない。

 

 

ゆえに、リョーマは廊下の窓を開け、中庭へと降り立った。

 

 

『廊下がダメなら外を走ればいいじゃない』

かのマリー・アントワネットが王城の廊下で早歩きしている臣下に放った言葉である。(諸説あり)

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。

人類の歴史には帰宅への近道が潜んでいるのだ。

 

脳内のマリー・アントワネットへ感謝を述べつつ下駄箱への最短ルートを行かんとするリョーマの背中に、声がかかった。

 

 

「待てよ越前!」

 

 

「……誰だっけ?」

 

 

「同じクラスの堀尾だよ! ……その身のこなし、もしかしてお前も帰宅部入部希望か?」

 

 

「違うけど」

 

 

「えー、もったいねぇ……。絶対向いてるって! 帰宅歴2年のこの堀尾聡史が保証してやるよ! ……って話聞けよ!」

 

 

ダラダラと話しかけてくる堀尾を無視して走り出すリョーマ。

クラスメイトとの会話よりも帰宅を優先する。

そんなストイックなリョーマを追いかけた堀尾が下駄箱に着くと、リョーマが謎の男に話しかけられていた。

 

 

「入学早々だってのに中々早いな。もしかして帰宅部に興味があるのか?」

 

 

背が高く、ワックスで髪を上げた快活そうな男だ。

いかにも運動が得意という雰囲気が体から滲み出ていた。

誰? という顔を浮かべて外履きに履き替えるリョーマの代わりに、堀尾が話しかけた。

 

 

「もしかして、帰宅部レギュラーの桃城先輩ですか?」

 

 

「よく知ってるねぇ。俺のことは桃ちゃんって呼んでいいぜ」

 

 

「レギュラーの方をそんな気安く呼べないっすよ……って越前!どこ行くんだよ!?」

 

 

「帰る」

 

 

なおも帰宅を続けようとするリョーマ。いくら先輩とはいえ、見知らぬ男と雑談する気は全くないのである。

こんな状況でも帰宅を止めないリョーマの姿を見て笑い出す桃城。

 

 

「活きのいい1年坊じゃねぇの。 ……誰が帰っていいって言ったよ」

 

 

「俺が帰るのにアンタの許可がいるわけ?」

 

 

「いらねぇなぁ、いらねぇよ。ただまぁ、こんだけ帰宅に力入れてるお前を見てたら帰宅部に誘いたくなっちまった」

 

 

桃城は笑っていた顔を収め、真剣な表情へと変化させた。

 

 

「つーわけで、俺と帰宅勝負しねぇか? 俺が勝ったら帰宅部に入部してもらうぜ」

 

 

帰宅勝負という言葉を聞いたリョーマは足を止め、桃城へと振り返った。

 

 

「……いーよ、やろうか」

 

 

本来ならリョーマが帰宅を止める義務などない。

だが、帰宅勝負となれば話は別だ。

リョーマはとある男を倒すため、帰宅勝負を渇望しているのである。

 

自身の帰宅を一時中断し、制服を脱ぎ鞄へと仕舞う。

 

 

「越前のやつ、桃城先輩と勝負できるなんて羨ましいぜ! ……では、不肖帰宅歴2年の堀尾が審判を務めさせて頂きます!」

 

 

リョーマと桃城の帰宅勝負が始まろうとしていた。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

校門に並び立つリョーマと桃城。

お互いに入念なストレッチを行っている。

そんな2人を横目にドローンを飛ばし、地図を見せながら勝負のルールを説明する堀尾。

 

 

「今回のコースは商店街、駅前のハンバーガー屋前を通り校門まで帰宅する約5kmのコースです。ルートは自由ですが、チェックポイントは順番通り必ず通過してください」

 

 

堀尾の話を聞き、頭の中でルートを想像する両者。

2人のルートが必ずしも同じになるとは限らない。

自身に合ったルートを選択すること、それは帰宅勝負において重要なファクターなのである。

 

 

「越前だっけ? 準備はいいか?」

 

 

「負けても恨まないでね」

 

 

「口の減らねえ1年だぜ」

 

 

ストレッチを終えたリョーマと桃城がクラウチングスタートのポーズをとる。

まばらに帰宅し始めていた生徒たちも足を止め、緊張感の漂うスタートラインをじっと眺めている。

ギャラリーが集まってきたことに緊張した堀尾が、ゴクリと唾を飲み込んで開始の合図を出す。

 

 

「んっ、んん……ザ・ベスト・オブ1セットマッチ、3カウント!」

 

「3」

 

「2」

 

「1」

 

 

「ーーーGo!」

 

 

2人の帰宅勝負が今、始まった。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

校門→商店街→駅前のハンバーガー屋前→校門

 

 

「おいおい、2人ともいきなり違う道で行くのかよ……」

 

 

校門を出て目の前の分かれ道で2人のルートは分岐した。

桃城は足の長さゆえの歩幅の大きさを活かして平坦な大通りを利用して商店街へ向かうようだ。

それに対し、リョーマは持ち前の小柄さを活かし細道の多い裏通りを利用するようだった。恐らく通行人の少なさにも目を向けたのだろう。

 

 

現状、歩幅の大きい桃城が少しだけ有利といったところだろう。

だが、帰宅勝負とは持って産まれた身体能力だけで決まるものではない。勝負はまだまだこれからだ。

堀尾はクラスメイトのリョーマの方を応援しつつモニターを見ていた。

 

 

「君、こんなところで何をしているんだい? これは……桃城と誰だ? 帰宅勝負をしているのか?」

 

 

いつの間に近付いたのか、坊主頭の男がモニターをのぞき込んできた。

周りを見回すと、気付けばお揃いの白と青のジャージを着た集団が堀尾の後ろに立っていた。

 

 

「帰宅部レギュラー陣だ……」

 

 

「ああ。すまないが、どうして桃城が帰宅勝負をしているのか教えてくれないか?」

 

 

堀尾は帰宅勝負をすることになった経緯について話した。

 

 

「つまり、帰宅部への勧誘のために帰宅勝負をしている、と」

 

 

話を聞いた坊主頭の男、大石は少し難しそうな顔を浮かべていた。

何か不味いことでもあるのか怖くなった堀尾が問いかける。

 

 

「あの、何か問題があるんですか?」

 

 

「青学帰宅部のルールでね、帰宅部ではない素人と帰宅勝負をするのは禁止されているんだ」

 

 

「え、じゃあこの勝負って駄目なんじゃ……」

 

 

「いくら勧誘とはいえ駄目だね。桃城も知らないわけじゃないはずなんだけど……。そうしてまで勧誘したい相手だったってことか……?」

 

 

手塚にバレたら大変そうだ、と大石が呟いているのを尻目に、この勝負に関わってしまったことにちょっとだけ恐怖していた堀尾だった。

 

 

◆◆◆

 

 

それぞれの道を走り抜き、桃城とリョーマは商店街へと突入していた。

商店街では人混みをかき分け前へ進んでいく必要があるが、小回りの利くリョーマの方が有利に進むことができる。

商店街に着くまでの道でリードをとっているとはいえ、商店街を出るころにはリョーマに追いつかれているかもしれないと、桃城は若干の焦りを覚えていた。

 

 

(本気を出してないとはいえ、俺の少し後ろを走れてるってマジか……?)

 

 

桃城は内心リョーマの帰宅速度に舌を巻きつつ、自分の見る目に間違いがなかったことにニヤリと笑った。

 

 

リョーマは前方にいる桃城を視界に捉え、追い抜かす方法を考えていた。

商店街をただ走るだけでも差は縮まりはするだろうが、最善策を考えることを止めない。帰宅に妥協は許されないのだ。

 

少しでも有利になるためのきっかけを探していると、前方に駄菓子屋を見つけた。

放課後すぐということで、ランドセルを背負った小学生で賑わっている。

それを一瞥した越前は胸ポケットに手を入れ、小銭を数枚手に取った。

 

 

そして、右手で桃城の前へと投げつけた。

 

 

◆◆◆

 

 

気付けばその場にいた帰宅部レギュラー陣全員で帰宅勝負を観戦していた。

入部前にレギュラーに囲まれた堀尾の緊張もひとしおである。

 

 

「あのおチビ、焦って小銭落としちゃってるよ。初心者丸出しだニャ」

 

 

「……いや、これはまさか」

 

 

何か思い当たることがあるのか、大石はモニターを凝視していた。

 

 

「どったの? 大石……あ! 駄菓子屋の子供が小銭を追いかけて桃城の進路を塞いでる!?」

 

 

小銭を追いかけて走る子供を見て眼鏡をかけた長身の男、乾がボソッと呟く。

 

 

「『ツイストサーブ』」

 

 

「ツイストサーブ?何それ乾?」

 

 

「小銭を投げる際に任意の回転をかけることによって進行方向をコントロールし、小銭に釣られた子供をおびき寄せることができる帰宅勝負のテクニックだ。強力な技である反面、自身の金銭を消費してしまうデメリットがある。まさか、学生レベルの帰宅勝負で見ることになるとはな」

 

 

「へぇー、1年生でここまで出来るのか。 来るナ……アイツ」

 

 

「ああ」

 

 

興味深そうにモニターを見ているレギュラー陣だった。

しかしーーー

 

 

「お前たち、何をしている」

 

 

帰宅勝負の終わりが迫りつつあった。

 

 

◆◆◆

 

 

ツイストサーブによって足止めをくらった桃城にリョーマが追いついた。

金銭的な痛みなど微塵も感じさせないクールな顔を横目に見て、桃城はまたニヤリと笑う。

 

 

(このヤロウ……! 先輩相手に容赦ねぇな、だが、勝負はこれからだぜ!)

 

 

商店街を抜けた後のタイミングで自分の技をお見舞いしてやろうと桃城が考えていると、目の前にドローンが近付いてきた。

 

 

「止まれ、桃城」

 

 

「て、手塚部長! ……見てたんすか」

 

 

怪訝な表情を浮かべていた桃城だったが、聞こえてきた声に驚き足を止めた。

審判側に何か問題でも起きたのかと気になったリョーマもまた、足を止めた。

 

 

「帰宅部以外の人間と帰宅勝負をすることは部内のルールで禁止されている。規律を乱すやつは許さん。ペナルティとして自宅と学校、往復10回だ」

 

 

「い、いや、有望な1年に帰宅勝負の面白さを教えてやろうと思って……」

 

 

「20回」

 

 

「……行ってきまーす。悪いな越前、勝負はお預けだ!」

 

 

平謝りした桃城は帰宅20回コースへと向かっていった。

帰宅勝負に水を差されて釈然としないリョーマであったが、ため息を1つ吐いた後、改めて鞄を担ぎなおし自宅への道を走り出した。

 

観測対象の居なくなったドローンだけがその場で飛行していた。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

「ただいま」

 

 

「おう、今日は一段と遅かったじゃねえの、青少年」

 

 

「ちょっと帰宅勝負が長引いてね」

 

 

「ほーん? ……浮かない顔してんな。負けたのか?」

 

 

「負けるわけないじゃん。……勝負が中断したせいで不完全燃焼なだけだよ」

 

 

「中断? 何でだ?」

 

 

「さあ、帰宅部のルールがどうだかだってさ」

 

 

「なるほど。しかしまぁ、帰宅部ねぇ……強かったのか?」

 

 

「……まだまだだね」

 

 

「ほう、中々手強かったみたいだな。次は勝てよ」

 

 

「いつかオヤジも倒すから」

 

 

「おう、期待しないで待っててやるよ」

 

 

部屋に荷物を置いて風呂に入った後、ファンタを片手に自室のベッドに腰かけていた。

その場で目を閉じて、先ほどの帰宅勝負を思い出す。

 

商店街に着いた時点で少し先を行かれていたが、ツイストサーブでイーブンまで持っていくことができた。しかし、リョーマの中では桃城が何の技も使ってこなかったことが気がかりだった。何より、桃城の態度に余裕を感じたのだ。

 

サラサラ負ける気はないが、仮にあのまま帰宅勝負を続けていたら勝負の行方はどうなっていただろうか。

 

 

「青春学園帰宅部、か……面白そうじゃん」

 

 

ファンタを一口飲む。

今日のファンタはいつもよりほんのちょっとだけ甘かった。

 




帰宅勝負について考えれば考えるほどよくわからなくなる。
どっかに有識者いないかなぁ。
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