今回は、皆知ってる博麗の巫女視点。
紅霧異変は、基本的に一話毎に視点が変わっていく仕様となっています。
あと、何時もより少し短いです。
次回は………多分、一面ボスの視点になるかな、と思います。
………短かったら他の視点も入れるかもしれませんが。
――――その少女は、ただぼんやりと空を見上げていた。
場所は人里から少し離れた所に存在している、周りと比べると背の低い山の頂上にある、お世辞にも大きいとは言えない大きさの神社の裏手にある縁側。
巫女服と洋服を合わせて、そこから腋の部分を取り除いた様な奇妙な服を着た少女はそこに座り、手にお茶の入った湯呑みを持ったまま、まだ昼間だというのに紅く染まっている空を眺めていた。
「………もう四日になるけど、まだ消えないのかしら」
特に期待した様子もなく、少女はただそんなことを呟いてみる。
勿論、待っていればこの紅い空が元に戻るとは思っていないし、誰かがこの紅い空を作り出した張本人―――迷惑にも幻想郷中に紅い霧を撒き散らしてくれた相手を叩きのめしてくれるとも思ってはいない。
と、言うよりも、基本的にそれは少女の、博麗の巫女である博麗霊夢の役目なのだ。
幻想郷で異変が発生した場合、真っ先にそれを解決しに行くのが、博麗の巫女の役目の一つである。
そんな博麗の巫女である霊夢が、幻想郷中を紅い霧が覆い尽くしてから四日も経っているというのにまだ神社でぼんやりしているのは、はっきりと言ってしまえば深い理由等全く無い。
ただ単純に、自分のやる気の問題であり、何だかんだで紅い霧が発生した少し後に発生し、今は人里を完全に覆い隠してしまっている白い霧の柱のお陰で人里に全く被害が無いということもあり、人体に多少有害であるこの霧が、霊夢には全く害を及ぼしていないこともあり………纏めてしまえば、ただの怠慢だった。
「…………別に空が紅くても、困る事なんて無いのよね」
ぼんやりと空を見上げ続けたまま、霊夢はそんなことを呟く。
………困る事なんて、精々、紅い霧が太陽まで隠してしまったせいで、洗濯物が乾きにくくなってしまった事くらいだろうか?
ついでに言えば、あの白い霧のせいで人里に入れるのかどうかが分からなくなったことと、お茶が少し不味くなった事も有るかもしれない。
後は、昼も夜もずっと空が紅いせいで、段々と目が疲れてきた事――――と、そこまで考えてから、霊夢は、自身が困る事が思っていたよりも多いことに気付く。
「………意外と有ったわ、困る事。仕方無いわね、ちゃっちゃと片付けちゃいましょうか」
そう呟いた後、霊夢は漸く縁側という名の博麗の巫女にとっての玉座から、その重たい腰を持ち上げ、ゆったりとした緩慢な動作で準備を始める。
と、そこで外から聞こえてくるとん、という小さな着地音と一拍遅れて聞こえてくる聞き慣れた霊夢の名前を呼ぶ声。
………どうやら、丁度良いタイミングで、丁度良い人物が来たらしい。
「お~っす、霊夢。遊びに来た………って、何やってんだ?」
「いらっしゃい、魔理沙。見てわからないかしら?そろそろ鬱陶しくなってきたから、この紅い霧を出してる原因を叩き潰しに行こうと思ってた所よ」
来て早々、何かの準備をしている様子を見て、怪訝そうな顔で問い掛けてきた、お伽噺の魔女のような格好をした金髪の少女――――霧雨魔理沙に、霊夢は今しようとしていることを簡潔に伝える。
少し遅れて、漸く霊夢の言っている言葉を理解した魔理沙は、まるで信じられないものを見たかのような表情で霊夢の事を見つめる。
「………嘘だろ?あの霊夢が自分から異変の解決に乗り出そうとしてる………?これは夢か?それとも明日は槍でも降るのか?どう思う霊夢」
「取り敢えずあんたが私を普段どう思ってるかは良く分かったわ。魔理沙、異変の元凶の前に、あんたから叩き潰してあげましょうか?」
「遠慮させてもらうぜ。大体、昨日まで私が何言っても動こうとしなかったんだから、これくらい言われても仕方ないだろ?」
あまりにも的を射た魔理沙の反論に、霊夢はぐっと言葉を詰まらせる。
確かに、あの紅い霧が出始めた四日前から、魔理沙は毎日霊夢の元を訪れては、異変解決を霊夢に促していた。
それでも、やる気の無かった霊夢は適当に聞き流してテコでも縁側から動こうとしなかったので、確かに魔理沙の言っている事はあながち間違っているわけでも無いのだ。
………まぁ、恐らく、魔理沙の霊夢に異変の解決を促していた理由が、魔理沙自身が異変解決をやってみたかったから、というだけの理由であったとしても、だ。
「………まぁ、良いわ。行くわよ、魔理沙。付いて来れるかしら?」
霊夢ははぁ、と一つ溜め息を吐いた後、目の前にいる親友の魔法使いにそう言葉を掛ける。
魔理沙はそれに、一瞬だけぽかんとした表情を見せた後、「勿論だ、馬鹿にすんな」と満面の笑みを浮かべながら、親友の巫女にそう返した。
霊夢もそれを聞いて、ふっと微かに笑みを浮かべると、最後に棚の上に置かれていたお祓い棒を手に持ってから、外へと足を向ける。
「そんじゃ、行くか………っと、そういや、紅い霧と白い霧、どっちの方から行くんだ、霊夢」
「紅い方よ。あれのせいで洗濯物が乾かないし、お茶は不味いし、空も見飽きてきたしで良いことなんて一つも無いもの」
「………急にやる気出してたから、何か有ったんだろうとは思ってたが、そういうことか」
ふと気が付いた様に魔理沙から漏れた疑問の言葉。
それに対する霊夢の返答にごく自然に紛れ込んでいた霊夢の本音に、がっくりと魔理沙は肩を落とす。
詰まる所、霊夢はそれらの要素が無ければ、いまだに博麗神社のあの縁側でぼんやりとしていたに違いない。
大体そんなことだろう、と魔理沙も予想は付けていたが、やはり実際に言われてしまえば気持ちと一緒に力が抜けてしまうものである。
………最も、こいつはこういう奴なんだ、ということは、恐らく人間の中では最も付き合いの長い魔理沙には分かりきっている事でもあったが。
「よし、そうと決まったらとっとと行こうぜ。元凶が何処に居るかは分かってるのか?」
「知らないわ。けど、多分湖の方よ。勘だけど」
「よし、霊夢の勘なら信用できるな」
魔理沙の質問に対しての、不安にも程がある返答に、あっさりと魔理沙は頷いてそう言う。
何を隠そう、この博麗霊夢という少女は、他は兎も角として、勘と実力に関して言えば折り紙付きなのだ。
実力に関して言えば、魔理沙は霊夢が負ける姿、というものがどうしても想像出来ないほどであり、勘に関しては最早一種の未来予知、と言われても納得出来るレベル。
そんな霊夢の勘が湖の方に元凶が居る、と言っているならば、魔理沙がどうこう言う意味は無いだろう。
「じゃ、最初は湖だな」
魔理沙はそう言ってから、ひょいと軽やかに自身の持っていた箒に飛び乗り、ふわりと宙を浮く。
それと同時に、霊夢も当然、といった顔で軽く地面を蹴り、宙に浮き上がる。
そうしてから、二人は一度も顔を見合わせる事無く、同時に湖の方向へと飛んでいった。