今回は、一人目の主人公?八雲紫視点でした。
………いえ、あのですね?最初は此処まで紫さんに一人で回想させる気は無かったのですが、なんというか、成り行きでこうなってしまいました。
後、此処から独自設定がどんどん入ってきます。
紅は薄れていき、それに呼応するように白も消えていく。
ここ数日、幻想郷で発生していた異変は、その象徴とも言える二色の霧が完全に消え去った事により解決した。
その光景を、二色の霧が消え去っていく様子を、八雲紫は地上から約五十メートルほど上空に開いた空間の裂け目―――スキマから上半身だけを覗かせて、見届けていた。
「………漸く終わったわね。あんまりにも霊夢が動かないものだからヒヤヒヤしたわ。…………それにしても」
紫は一人でそんなことを呟いてから、先程まで白い霧の柱が立っていた方向、人里の方へと視線を送る。
頭の中にあるのは、その白い霧の柱の事と、それを作り出した妖怪の事。
あの白い少女―――ライラ、と名乗った吸血鬼らしくない吸血鬼は、自身の式神である八雲藍の話によれば、半年前に幻想郷に引き込まれて来たらしい。
………まぁ、その頃紫は冬眠をしていたせいで春になるまで全く気付かなかったのだが…………それはともかく。
吸血鬼、と言えば、十年前に幻想郷を侵略しようと侵攻してきた妖怪達であり、幻想郷に住む存在からしてみれば、基本的には警戒こそすれども、そう簡単に信用出来る相手ではない。
そんな訳で、藍は紫が冬眠から目覚めるまで、ずっとライラを警戒し続け、怪しい動きがあればすぐに退治出来るように見張り続けていたそうだ。
…………その結果は、監視していた時間のほぼ全てが無駄になっただけだったが。
まぁ、兎に角、そんな報告を藍から受けた紫は、そのライラ、という妖怪の元へと、その危険性を見極める為に向かったのだ。
…………茶目っ気のある悪戯は軽くあしらわれ、手を踏まれて、怒らせようとした相手より先にカチンときてしまった、等という事もあったが、取り敢えず省略しておく。
まぁ、それはともかく、紫のライラに対しての第一印象は、『吸血鬼らしくない吸血鬼』だった。
吸血鬼、というのは、総じてプライドの塊が形になった様な性格であることが多い。
簡単に言えば、自分達の種族が至高、後はゴミ、と考えるような輩が非常に多い種族なのだ。
だと言うのに、そのライラ、という見た目から天使のような姿をした吸血鬼は、あっさりと自身と紫の実力差を認めた。
そんな吸血鬼は、紫の知る中では、ライラの他には一人しか知らない。
「………あぁ、そういえば、『彼女』もあの白い霧と似たような結界を使っていたわね。異変の首謀者に刃向かった、という点でも同じ、かしら?」
紫は思い出すようにそんな事を呟く。
………彼女の頭の中には十年前の記憶が浮かび上がってきていた。
それは、今回と同じく、吸血鬼が起こした異変。
今の博麗の巫女―――博麗霊夢の前、先代博麗の巫女の時に起こった異変。
そして、たった一人の吸血鬼のせいで、首謀者側が壊滅に陥る事になってしまった異変。
現在まで、幻想郷史上最大の規模であるその異変の名を、人々は吸血鬼異変、と呼んでいる。
◆
彼らの本拠地である屋敷――――紅魔館が幻想郷に突然転移してきたのは、雲一つ無い空に、不気味な赤い月が上がってきた時のことだった。
八雲紫は紅魔館が幻想郷に転移してくるのと同時にその現場へと向かい、時間稼ぎのために即座に紅魔館の中にいる妖怪達が外に出てこられないよう、結界を張り、その後博麗神社へと向かって、博麗の巫女―――十年後で言う先代の巫女、を連れて再び紅魔館へ向かった。
二人は紫自身の張った結界をするりと抜け、その紅い屋敷の門に手を掛け、押し開ける。
紫の張った結界は、中にいる存在を閉じ込めるためのもの。
外から入ってくる存在を拒む事は無いのだ。
「…………多いな」
先代は門の先に広がった光景を見て、そんなことを呟く。
紫も内心その言葉に同意していた。
目の前に広がるのは、まるで蟻の大群の様に固まった妖怪の群れ。
どの妖怪も幻想郷では見たことの無い姿であることから、その全てが紅魔館と共に転移してきたことが分かる。
―――だが、所詮は西洋の妖怪の中でも木っ端なものでしかない妖怪達。
単体処か、複数でかかって漸く先代の足止めができる程度の相手でしかない。
紫からしてみれば、何匹束になろうが足止めにさえならない程度の相手だ。
………だからこそ、注意を払うべきは目の前の木っ端ではなく、その奥、屋敷の中央の屋根の近くに浮いている貴族のような姿をした男と、屋敷のその少し前の辺りを飛んでいる一団だろう。
「………ふむ、よくぞ来た客人よ。我々が転移をしてから、結界を張っての足止め、そして迎撃までのこの速さ。見事だ、敵ではあるが褒めておこう」
貴族風の姿をした男がそう言葉を掛けてくる。
この男が、今回の襲撃の首謀者だった。
ヴリアラ・スカーレット。
西洋で今生きている吸血鬼と言えば、まずこの男の名が上がるほどには、有名な吸血鬼だった。
曰く、千に近い時を生きている。
曰く、あの吸血鬼の祖と言われる、ヴラド・ツェペシュの末裔である。
曰く、振るわれる拳は山さえも砕く。
曰く、近隣の全ての集落に住む者達を、全て眷属にして従えている。
………なんと言うか、眉唾ここに極まれり、といった感じである。
そもそも、ヴラド・ツェペシュ自体が多く見積もっても精々六百年前の人物である時点で、噂に信用性が皆無なのは言うまでもない。
………まぁ、それでも、吸血鬼の中でも特別強い力を持っている以上は、油断など出来ないのだが。
「あら、お褒めに与り光栄ですわ」
ヴリアラのそんな言葉に、紫は口元を扇子で隠しながら、幻想郷中の誰もが『胡散臭い』と口を揃えて返すような口調で礼を言って見せる。
その返答を、自身を馬鹿にしている、と取ったヴリアラは、多少不機嫌そうに眉を歪めるが、それでもなお、余裕を持った態度のまま、紫達の方へと視線を向ける。
「………だが、少しばかり時間が足りなかった、いや、少し焦りすぎて準備を怠ってきた事は落第点だな。我々上位種である吸血鬼に、それも満月の夜に、たった二人で、それも下位種でしかない人間と、多少知能が回る程度でしかない妖怪だけで挑もうなどとは。………一応聞いておくが、本当に二人だけで勝てると思っているのかね?」
あくまでも自分達の勝利を確信して止む事の無い、絶対的な自信を持っての問いかけ。
ヴリアラにとっては当たり前でしかないその問いかけに、遂に堪えきれなくなった紫は声を上げて笑い始めた。
「………ふむ、何か可笑しい部分があったのかね?」
「えぇ、ありましたわ、貴方の言葉の中に沢山。『準備を怠ってきた』?『下位種でしかない人間』?『多少知能が回る程度でしかない妖怪』?ふふふっ。………こんな木っ端妖怪しか纏められないお山の大将にはお似合いの、三下の台詞、あなた以外に言ってる妖怪何て見たことがありませんでしたから、つい笑ってしまいましたわ」
頭に青筋を浮かべながら聞いてきたヴリアラに、紫は笑いを必死になって堪えながらそんな返答を返す。
それと同時に、何処かで何かがぶちん、と切れたような音が聞こえた、ような気がした。
「………そうか、そこまでして死にたいか。ならば良かろう。貴様の言う木っ端妖怪とやらを全て倒して、私の元へと来るがいい。その時は、私が直々に相手をしてやろう。………行け」
ヴリアラの低い声での号令と同時に、ヴリアラの手下の妖怪達はゆっくりと紫達の方へと進んでいく。
それを見て、紫は、全く緊張も警戒もせずに、何かを思い出した、とばかりに手を打った。
「あら、そうでしたわ。そういえば、一つ、貴方が勘違いしていることを教えるのを忘れていたわ」
「………何だ?今更我々の軍門に降る、等と言っても遅いぞ?」
「いえ、そんな馬鹿馬鹿しいものではありませんわ。………貴方は先程、『本当に二人だけで勝てるのか?』と言っていたけれど――――少なくとも、誰も『私達が二人だけしかいない』とは言っていないのよ?」
紫がそう告げたのと同時に、紅魔館の壁が轟音を立てて爆発する。
ヴリアラは驚いて一瞬動きを止め、近くに居た吸血鬼の一団も突然の事に動けない。
そしてそれは、爆発を起こした者にとって、この上ない隙だった。
「紫!」
「えぇ、分かっているわ」
先代の声にそう答えて、紫は先代と自分を入れるようにスキマを作り出し、一瞬でヴリアラの目の前にまで移動する。
それと同時に、爆発した紅魔館の壁の中から、炎を纏った光の球体が飛び出してくる。
光は一気に加速すると、ヴリアラの真下にいた妖怪を消し飛ばし弾き飛ばしながら、ヴリアラと紫達を中心とした炎の線による円を描く。
そして、その円が完成した瞬間、炎の線から吹き出した大量の炎はそのまま半円状のドームとなり、ヴリアラと紫達をその中に閉じ込めた。