何か、最後の方が急ぎすぎた感じになってしまいました、すみません。
後一話だけ番外編のようなものをやって、吸血鬼異変の話は終わりになると思います。
―――それは、最早戦闘ですらなく、ただの一方的な蹂躙だった。
数は此方の方が上、種族として見ても、此方の戦力の殆ど、というよりたった今フランドールの迎撃に向かわせた六人は、全員がフランドールと同じ吸血鬼だ。
更に、向かわせた六人は、自分達の王であるヴリアラが認める強さを持っている。
六人で一斉に掛かれば、ヴリアラを倒すことはできなくとも、そこそこ苦戦させられる所までは行ける筈なのだ。
だと言うのに、どうして、そんな六人に一斉に攻撃を受けているフランドールは、あそこまで余裕そうな顔で全てを受け流せるのか?
「………あらら、もう終わり?だらしないなぁ」
あまりの手応えのなさに、一斉に五メートル程後ろに下がった六人の吸血鬼に、フランドールはそんなことをぼやくように言う。
しかし、六人は動かない、いや、動けない。
吸血鬼としてのプライドではなく、妖怪としての本能が告げているのだ。
―――下手に動けば、死ぬのだと。
「………そっか、じゃあ、今度は此方から行ってあげる」
フランドールはへらりと笑みを浮かべながらそう言うと、ふっと手を振り下ろす。
それと同時に、振り下ろされた手の中に、フランドールの身長以上もある、巨大な炎の剣が生み出された。
「さて、と。準備は完了したから、一つだけ忠告してあげる。………距離を取るのはいい判断だけど、今回ばっかりは無駄なんだ。だって、」
そこまで言った瞬間、フランドールの姿は一瞬で消えた。
彼女の思考が追い付いた時には、もう遅い。
彼女が視界に収められたのは、赤く光る閃光と、胴の部分で真っ二つに切り捨てられた、主戦力の一人である吸血鬼の姿だった。
「………は……?」
「距離を取る、なんて、実力が近い相手にしか意味の無い事だから」
呆然と、彼女がそう呟く間にも、蹂躙は続いていく。
赤い閃光と化したフランドールは、あっという間もなく、相手が何かの対応をする暇もなく、吸血鬼達を切り捨てていく。
そして、たった三十秒足らずで、彼女達の主戦力であった六体の吸血鬼は、物言わぬ屍と化してしまった。
「さて、と。これで後はお母様だけだね」
どうする?と聞いてくるフランドール。
それに彼女は答えられない。
「………あり得ない」
「それでも、これが現実だよ、お母様」
口から漏れた言葉に、フランドールは諭すようにそんな答えを返す。
彼女には、それがまるで哀れまれているように感じられて。
―――気が付いたときには、激情と共に口から言葉が溢れていた。
「そんな筈が無いだろう!大体、フランドール!!お前はどうやって出てきた?お前が居た地下には、お前の部屋には、結界が張ってあった筈だ!それに、何故たった一度しか斬られていない筈のあいつらは再生しない!今日は満月、首を飛ばされようが、胴を斬られようが、吸血鬼ならば簡単に再生出来るだろう!」
先程から疑問に思っていたことが、止まらずに口から言葉として飛び出す。
フランドールはそれに、はぁ、と一つ溜め息を吐いた。
「どっちの答えも簡単だよ、お母様。地下の結界も、部屋の結界も、お母様達の再生能力も。全部『壊した』だけ」
「壊………した……?」
フランドールの、簡潔な、それでいて不可解な答えに、彼女はそう聞き返す。
フランドールはそれに、一つ頷いて返した。
「そう、『壊した』の。お母様は知らなかったのかしら?私の能力は『あらゆるものを破壊する程度の能力』。物体、非物体、概念の区別なく、全てのものには緊張している『目』がある。『壊れたい、という願い』と思っても構わないけどね。私はその『目』を潰すことができるの。こんな風にね」
そう言って、フランドールはくっと軽く右手を握る。
それと同時に、彼女の周りで彼女を護っていた、魔法使いと妖怪、そしてフランドールの姉である吸血鬼、レミリア・スカーレットの首に着いていた、『隷属の首輪』が砕け散る。
三人の意識はそれと同時に無くなり、地面へと向けて落ちていった。
フランドールはと言えば、それを見て、「………まぁ、三人とも、落ちても死なないよね?」と少し焦ったように言ってから、彼女の方へと向き直る。
「………そんな力があって、どうして私達を、スカーレットを裏切った?」
「………まさか、お母様からそんな質問が出るとは思わなかったけど、まぁ、良いよ、答えてあげる。………私は、スカーレットを裏切ってないよ。最初にそれを捨てたのは、お母様とお父様。分かってるんでしょ?」
フランドールの返答に、彼女はぐっと言葉を詰まらせる。
フランドールの言った言葉の意味は、彼女とフランドール、そしてヴリアラにしか分からないものだった。
だからこそ、フランドールの言った言葉はどこまでも正しい。
「………本当の事を言えば、この戦いに関わるつもりは無かったんだよ?正直に言って、お父様が死のうが、お母様が死のうが、新しい所を征服しようが、私には興味が無かったから。………だけど、お父様は、お姉様に、現スカーレットの当主に『首輪』を嵌めた。それはスカーレットへの裏切りと同じ。………つまりね、スカーレットを裏切ったのは私じゃなくてあなた達よ、お母様。だから………その名前を、自分のものみたいに言わないで」
「………そうか。あれから470年近くも経ったと言うのに、まだお前は人形のままか、フランドール・スカーレット」
フランドールの答えに、彼女は侮蔑するようにそう返す。
しかし、それにフランドールは、嬉しそうに笑って見せた。
「残念だけど、それも間違い。私は自分で『守人』になることを決めたし、これからだって自分の意志で『守人』で居続ける。全部私が決めたことだから、誰かのせいになんて絶対にさせない。………だから、これで最後。お母様だけには特別に見せてあげる。あなた達が捨てたものが、一体どんなものなのかを」
フランドールは最後に、そう答えてふわりと小さく笑顔を浮かべて―――そのまま、体が炎に包み込まれていった。
◆
「………こんなものかしら。意外と粘ったわね」
炎で囲まれたドームの中。
その中心で、紫はそう呟きながら、自身の足元に倒れている相手に視線を向ける。
「何故だ、何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ……………何故、再生しない………?」
紫の足元に倒れている相手――――ヴリアラ・スカーレットは、消し飛ばされてしまった自身の四肢を意識しながら、そんなことを呟く。
そう、何故か、自身の怪我が再生しないのだ。
他の日なら兎も角、満月の出た夜である今ならば、四肢を消し飛ばされても即座に再生できる筈だというのに。
「あら、気付いてないのね。この炎のドーム、これは結界よ。結界は、中と外を別の世界へと変えてしまうもの。………簡単に言えば、この中では昼も夜も満月も新月も無い、ということよ」
「馬鹿な……そんなことを、一体誰が……」
「あなたの娘の、フランドール・スカーレットよ。正直、ここまで出来るとは思ってなかったから、敵になられてたら少し厳しかったかもしれないわね。本当、あっちから契約を持ちかけてきてくれて助かったわ」
「フランドールに、契約………だと……?」
ヴリアラは信じられないかのようにそう聞き返してくる。
紫はそれに、口元を何処からか取り出した扇子で隠しながら、頷いて見せる。
「えぇ、契約よ。内容は、私達に協力する代わりに『首輪を着けた相手には手を出さないこと』と『全てが終わった後、誰にもフランドール・スカーレットが何をしたのかを言わないこと』。『首輪』さえ着けなかったなら、この争いに参加をする気は無かった、ともフランは言ってたから、貴方が負けた理由は貴方自身にある、と言っても過言では無いわね」
最も、フランが居なくても負けることは無かったでしょうけど、と最後に一言だけ言い残して、紫はヴリアラの心臓に白木の杭を打ち込み、更にだめ押し、とばかりにスキマを使って首を斬り飛ばす。
そうしてから、くるり、と先程からずっと黙っている先代巫女を振り向いた。
「さて、終わったわ。そろそろ出ましょうか」
「………そうだな」
先代の返答に紫は頷いてから、フランを呼ぶために口を開く。
普通の結界であれば、境界がはっきりしているお陰でスキマを使えば簡単に抜けられるが、フランの張った結界は普通のものとは違う。
炎、という実態の無いものが線を引いているせいで、境界が曖昧になっているため、流石の紫でも出るのに時間が掛かってしまうのだ。
だからこそ、フランの事を呼べば結界を解く、という風に、先に相談して決めていた。
「終わったわ、フラン。結界を解いてくれないかしら?」
『は~い、ちょっと待ってね~』
紫の声に答えて結界内に声が響くのと同時に、炎のドームが天井から消えていく。
そのまま、数秒の後には、炎のドームは完全に消え去っていた。
「お疲れ様、紫、巫女さん」
「あなたもね、フラン。………それで、新しい当主を決めてほしいのだけど………あなたがなる?」
結界が解けると同時に紫達の前に現れたフラン。
どうやら本当に、ヴリアラ意外の相手を、首輪を着けていた者以外全て全滅させたようで、辺りを見回しても倒れて気を失っている三人以外に生きている者は見えない。
フランが掛けてくる労いの言葉に返して、紫は本題を切り出した。
別に、紫は吸血鬼を全滅させる気も、幻想郷から拒む気も全く無いのだ。
ヴリアラ達は、幻想郷に害をなそうとしたから排除したまで。
そうでないフラン達を拒む意味は、全くと言って良いほどに無かった。
だからこそした提案に、フランはまさか、と言って笑って見せた。
「新しい当主も何も、紅魔館の本当の当主はまだ死んでないよ。470年近く前から、私達が認めた紅魔館の主はお姉様―――レミリア・スカーレットただ一人だから。だから、今日は一旦帰って、話し合いは後日にしない?私もお姉様達をこんな所に何時までも放っては置けないし、内容が内容だからね」
フランの提案に、紫は少し考えてから頷く。
フラン自身がその姉を当主として認めてるのならば、それはそれで文句は無いし、フランの言っていることは間違っていない。
確かに、今すぐ決められるような話でないのは確かなのだ。
「………えぇ、分かったわ。では、また後日に会いましょう」
最後に、紫はフランの提案にそう答えて、先代を連れたまま、スキマの中へと姿を消した。
◆
「………あら、霧は全部消えたのね」
頭の中での回想を終えて、ふと顔を上げた紫は、赤も白も、どちらの霧も完全に消え去っていることに気が付いた。
………どうやら、それなりに長い間物思いに耽っていたらしい。
「………そうね、そろそろ私もお暇しようかしら」
紫はそんなことを一人で呟いて、最後に人里の方へと視線を向ける。
正確には、人里にではなく、今はどうかは分からないが、先程までは確実に人里にいた筈のライラに、だ。
此処からでは見えないが、それでもその姿を思い浮かべて、その姿にフランドールが重なり――――意外に似ていることに気が付いた。
「………道理であの時の事を思い出すはずね。ぱっと見だと分からなかったけど、他人にしては似すぎてるもの。…………後でどっちかに聞いてみようかしら」
紫は最後にそうとだけ言って、上半身をスキマの中へと入れる。
そのまま、スキマも口を閉じて、最後には紫がそこに居たという形跡は、何処にも見受けられなくなった。
………え?フランが強すぎる?
そうですね、とんでもなく強いです。
どれくらいかと言えば、全力で戦って、紫と互角の勝負を繰り広げた後、ギリギリで負ける、というくらいには強いです。
………まぁ、ほとんど本気を出すことはありませんが。
これも設定なので、ご容赦下さい。