遅くなってすみません。
大体こんな感じ、という風には固まってたんですけど、いざ書くとなると色々と「ここ、どうしよう」という部分がありまして………
厳しかったですが、何とか完成したので投稿します。
それでは、どうぞ。
「………へぇ、やるじゃない。まさか十分も無傷でやり過ごせるとは思って無かったわ」
太陽の畑から少しだけ離れた平地。
そこで、手に持った日傘を横に振り切った体勢で止まりながら、幽香は自身の攻撃を後ろに跳んで避け、少し離れた場所に着地したライラに声を掛ける。
「当然です。まだ幽香さんだって本気は出してないし、これくらいが避けられないなんて、幽香さんを楽しませられる、とか言えませんよ。………まぁ、阿求さんには少しだけ厳しかったみたいですけど」
幽香の言葉に、ライラは当たり前のようにそう返すと、ちらりと自分が片腕で抱えている、一度も幽香の攻撃は当たっていないが、それなりに激しくライラが動いているせいでぐったりとして沈黙している阿求を見てそう付け加える。
「あら?丁度良いわ。貴女もその人間が静かな方が集中出来るでしょう?」
「………まぁ、否定は出来ないんですけど」
「なら良いわね。ほら、続きよ。身体も暖まってきたし、そろそろギアを上げていくから、気を引き締めなさい」
幽香はライラに向かってそう言うと、言葉が終わるのとほぼ同時に強く地面を蹴って一気に加速し、たったの二歩で八、九メートルはあった距離をほぼ零に詰める。
その勢いをそのまま乗せて繰り出された拳を、ライラは身体を少し逸らす事によって避けた。
幽香もそれは読んでいて、身体を逸らしたライラに合わせるように、繰り出された拳とは別の手に持った日傘をライラの頭目掛けて横薙ぎに振るう。
その日傘はライラの頭に真っ直ぐに吸い込まれていって――――途中、何故か微妙に進路を変え、ライラの頭の上を過ぎていった。
「………またか」
幽香の攻撃の隙に振るわれた木刀を避け、ライラとの距離を取った幽香は、少しだけ怪訝そうにそう呟く。
戦闘が始まってからも何度か、幽香の攻撃が何故か幽香の狙った場所から外れたところを過ぎていく、という現象が起こっているのには気付いている。
その現象の全てが、ライラに直撃するコースから外れ、ライラの横や頭上を通り過ぎていくコースになった事から、ライラが関係しているのは間違いないが、どうしてもまだ、その種が分かっていない。
………いや、そうじゃない。
分かっていない、のではなく、分かりかけてはいるが納得出来ない、のだ。
………そう、思い返してみれば、どの時も、あの現象が起こる前にはライラが振るわれた日傘に合わせるようにして木刀を振るっていた。
単純に考えればそれで逸らされたのだろうし、事実そうなのだろうが、問題は、それを何度かされないと気付かない程、全く音も衝撃も無かったことだ。
逸らす時に日傘と木刀がぶつかっている以上、何の音も帰ってくる衝撃も無い、ということは基本的に有り得ない。
あるとしたらそれは、相手の力を全く衰えさせること無く、ただ力の向きだけを変えさせる、ということが出来る場合だけだ。
だが、果たしてそれは、技術でどうにかなるものなのだろうか?
「………ふ、ふふふふ…………良いわ。見込み以上よ、ライラ」
幽香は笑みを浮かべ、先程までのつまらないことを考えていた自分を消し去り、ライラをそう称賛する。
技術ででどうにかなるものか?
目の前にどうにかしている妖怪がいるだろう。
納得出来ない?
そもそも、妖怪や神など理不尽の塊だ。
目の前で起こった以上、全て受け入れて納得するのが当たり前だ。
だからこそ、そんなことはどうでもいい。
今はただ、愉しまなければ。
「それじゃあ………行くわよ?」
幽香はそう告げると、再び一気にライラとの距離を詰める。
違うのは、その速さ。
先程までの倍以上の速度で距離を詰め、更に加速しながら、日傘と拳を使い、息も吐かせぬ連撃を放つ。
攻撃する側もする側なら、受ける側も受ける側。
ライラは一発でも当たれば骨が折れるでは済まないその暴力の嵐を、避け、逸らし、一瞬の隙に反撃をする。
そして振り下ろされた日傘の上に乗り、一瞬動きの止まった幽香に攻撃を仕掛けようとして、くるり、と自分の視界が反転した。
………どうやら幽香が、ライラの乗った日傘を、力ずくで横薙ぎに振ったらしい。
「………少し不味いかな?」
少し惚けた様に呟いたライラに、横から襲ってくる日傘。
ライラはそれに木刀を軽く当てて、その反動で身体を更に反転させ、体勢を立て直す。
そのままもう一度振るわれた日傘に足を着け、振り切られる向きに跳んで、一気に距離を離した。
「………ふふふ。まるで曲芸師ね。面白いわ、ライラ」
「………一応、誉め言葉として受け取っておきます。本来の目的は達成出来てるみたいで光栄ですよ、幽香さん」
抑えきれない笑い声を口から漏らしながら声を掛けてくる幽香に、ライラは肩を竦めながらおどけた様にそう返す。
幽香はそれを見て、更に笑みを深くした。
「………えぇ、認めましょう。私と貴女では、接近戦で勝負を着けきれないわ。それに、十分愉しんだし………だから、最後にこれを防いで、私に一撃を当てて見せなさい。そうすれば終わりにしてあげるわ、ライラ」
幽香はそう言うと、日傘を、真っ直ぐにライラの方へと突き付けてくる。
突き付けられた日傘の先端には、どんどんと妖力が集まっていき、巨大な光の球体となって収束した。
「これを防げ、と。………十分愉しんだにしては要求がハードなんですけど………まぁ、仕方ないですね」
その様子を見ながら、一つ溜め息を吐いたライラは、木刀を腰に戻すと人指し指と中指を伸ばして腕を真っ直ぐに伸ばす。
並べて伸ばされた二本の指の間には、いつの間にか一枚のカードが挟まれている。
「あら?それは何かしら?」
「スペルカードです。幽香さんも聞いたことはありますよね?『弾幕ごっこ』で使うものです」
「そう言えば聞いたことがあるわ。興味がなかったから忘れてたけど。………それで?そんなものでどうにか出来るのかしら?」
「さぁ、どうでしょう?やってみないと分かりませんよ?………と言っても、これがこの状況だと最善なのは間違い無いんですけどね」
幽香の問い掛けにライラはへらりと笑ってそんな答えを返す。
幽香はそれに口の端を吊り上げると、日傘の先に収束させていた妖力を解放した。
解き放たれた妖力は巨大な光線となり、地面を抉り飛ばしながらライラを飲み込もうと真っ直ぐに向かってくる。
それを見ながら、ライラは焦ること無く、詠う様にその手に持ったスペルの宣言をした。
―――生与『空咲(からさき)』
宣言と同時に指の間に挟まれていたカードは光となって消え去り、それと同時に一輪の花のような透明で巨大な盾が展開される。
それは、幽香の放つ光線を受け止めるのではなく、ぐいぐいと全てを吸収していき、それに比例して透明だった盾は花で言う花弁の端から少しずつ色付いていく。
完全に色付いた花弁は色付いたものから本体から離れていき、残りが一枚となり、それも殆どが色付いた所で、漸く幽香の放つ光線が終わりを告げた。
「………やるじゃない。本当に防ぎきれるとは思って無かったわ。取り敢えず、条件の一つ目は合格。さぁ、後一つよ。貴女はどうするのかしら?ライラ」
「………どうするも何も、私のスペルは此処からが本番なんですよ?」
感心したように言葉を投げ掛け、その後に問い掛けてきた幽香に、ライラは笑顔を浮かべてそう答えてみせる。
その返答に、一瞬怪訝そうな表情を幽香が見せるのと同時に、ライラの前に展開されていた最後の花弁が空へと舞い上がった。
咄嗟にそれを追った幽香の視界に映り込んだのは、先程離れていった筈の花弁達全てが空に舞い上がり、自身を取り囲んでいる光景。
花弁の一枚一枚は次の瞬間には光の柱となって幽香を取り囲み、そして、その柱の中ほどから頂点にかけて、一気に大量の薄桃色の弾幕が展開され、風に乗って散るように、不規則に揺れながら落ちる。
弾幕は柱に展開されたものが全て無くなるまで続き、最後に幽香を取り囲んでいた光の柱がすっと消えることで終わりを告げた。
その終わりを見て、幽香は自分の姿―――弾幕に何度か当たり、所々服にその跡がある自分の姿を見てから、ライラに向けて笑顔を見せ、
「………本当にやるじゃない。まさかこんなに簡単に一撃を当てられるとは思わなかったわ。合格よ、ライラ。ほら、さっさとその抱えてるのを起こしなさい」
ライラに向かってそう言った。
◆
「………質問はこんな所ですね。今日はありがとうございました」
「礼なんて要らないわ。それは私じゃなくライラに言いなさい。あの子が頑張ったから、今貴女は此処にいるのよ?」
「はい、そうします」
幽香の言葉に頷いて、三十分程前に起こされて、そこから始めた質問をし終えた阿求は少し離れた場所に居るライラの方へと向かう。
自分の居る場所に阿求が向かってきている事に気付いたライラは、阿求へと笑顔を浮かべて見せる。
「終わりましたか?阿求さん」
「はい、終わりました。今日はありがとうございました、ライラさん」
確認をするように聞いてきたライラに、阿求はそう言って頭を下げる。
それにライラはあはは、と笑って、阿求の頭を上げさせた。
「まだ帰りがあるんですから、その言葉は早いですよ、阿求さん。………じゃあそろそろ帰りましょうか」
ライラそう言って、阿求に先に行く様に促す。
阿求はそれを、
「はい!」
と了承してから、人里へと向けて歩き出した。
………因みに、人里に戻って来てみると、阿求が人里から誰にも何も言わずに居なくなったのがそれなりに大きな騒ぎになっており、帰ってきた阿求と、一緒にいたライラが事情を聞かれた後、慧音に説教をされた、というのは、まぁ関係の無い話だったりする。