「………さて、と。一通り情報は集めたんだけど…………まだ博麗の巫女さんは動かないのかな」
紫が依頼をしてきてから約一週間。
幻想郷中を文字通り飛び回り、今回の異変についての情報を集めて回っていたライラは、湖に近いところにある森の中でふとそんなことを呟いてみる。
その言葉通り、この一週間の間に、ライラは今回の異変―――春が来ない、という異変に関して、現在集められるだけの情報は一通り集め終わっていた。
それは、異変の黒幕の名前であり、異変を起こした目的であり、黒幕がいる場所であり………とにかく、異変解決に必要で、更に現段階で集められる最大限のものであり、正直に言って、ライラとしてはこれ以上情報を集められるとは思っていなかった。
「博麗の巫女さんが動いてくれないと、私もこれ以上動きようが無いんだけど…………後はどんな情報が必要かな?」
「………あら、あの巫女にそんなに情報なんて必要ないわよ?何時も異変解決は勘だけでやってるらしいもの」
なんとなく、といった表情のまま、独り言として呟いたライラの言葉に、上空から返答が返ってくる。
ライラがそれを聞いて、声のした方向に顔を向けると、そこにはメイド服に身を包んだ、銀髪の人間の女性が宙に浮きながらライラの方を見ていた。
「そうなんですか?凄いですね、博麗の巫女さんって。私には間違いなく出来ない芸当です。………それはそうと、初めまして、私はライラです。種族は一応吸血鬼で、今は人里で『何でも屋』をやってたりします。それで、何か用事でしょうか?」
「……………十六夜咲夜よ。貴女は色々知ってそうだったから、異変について聞きたかったのだけど………貴女を見て、聞きたいことが増えたわ」
何時ものように笑顔を浮かべながら自己紹介をしたライラの顔を見て、メイド服の女性―――咲夜は驚いたような表情で一瞬だけ固まる。
だが、驚いたのは本当に一瞬だけだったらしく、すぐに表情を元に戻すと、ライラに声を掛けた理由を話す。
ライラはその言葉に、少しだけ首を傾げる。
異変について聞きたい、という事の方は分かるが、自分のことを見て、聞きたいことが増えた、というのがどういう事なのかが分からなかったからだ。
「………分かりました。それで、何を聞きたいんですか?」
「異変に関しては一つだけで良いわ。首謀者が何処に居るのか、という事だけよ」
「あれ?それだけで良いんですか?」
ライラに促されて、簡潔に聞いてきた咲夜に、ライラは意外そうに聞き返す。
恐らく、もっと色々と聞かれると思っていたのだろう。
しかし、咲夜にとっては、異変については本当にそれ以外の興味は無いのだ。
そもそも、今ここに咲夜がいる理由は、自分の主である吸血鬼、レミリア・スカーレットが咲夜に異変解決を命じたからである。
なら、やることは異変の首謀者とそこに行くまでに邪魔をする相手を全て弾幕ごっこで叩き潰していくだけのシンプルなものでいい。
だからこそ、咲夜としてはそれ以上のもの―――例えば、異変を起こした理由やそれがどんな人物なのか、を知る必要も無く、知る意味も無いのだ。
「ええ、それだけで良いわ。………それで、答えてもらえるのかしら?」
「はい、勿論良いですよ。今回の異変の首謀者は冥界にいます………って言って、場所が分かりますか?」
ライラの答えの途中で、気が付いた様に咲夜に投げ掛けてきた問い掛けを、咲夜は首を横に振って否定の意を示すことで答える。
「………やっぱりですか。じゃあ私が冥界の入り口までは案内しますね」
笑いながら、当然のようにそう言ったライラに、咲夜は首を傾げる。
確かに、場所が分からない冥界とやらの入り口まで案内してもらえる、というのはありがたい事ではある。
しかし、先程のライラの独り言を聞く限り、このライラ、という名前の吸血鬼が情報を集めているのは、自分で異変を解決する為ではなく、博麗の巫女が動いた時に、そのサポートをする為らしく、更に言えば、言動からして、博麗の巫女がつい先程異変解決に乗り出した(と、行く前にレミリアに言われた)事は知らないらしい。
そして、そうだとするなら、無駄に争わない為に集めた情報を渡すという事は分かるが、首謀者が居る所まで案内する、というのは、どう考えても無駄な行為でしかない。
それなのに、どうして案内する、と言い出したのだろうか。
そんな咲夜の疑問を、咲夜が首を傾げた段階でライラは察したらしく、あはは、と笑って少し困った様な表情をする。
「まぁ、何て言えば良いんでしょうね?なんとなく、咲夜さんから懐かしい感じというか、なんというか…………そういうのが感じられまして。つい、困ってるなら手伝いたいなぁ、みたいな事を思っちゃって」
困った様な、自分でもよく分からない様な微妙な表情をしながら笑うライラ。
咲夜はその顔が、一瞬だけ自分の『友達』と重なったような、そんな気がした。
―――そう、元から、顔はそっくりだった。
顔がここまで似ていて、同じ『吸血鬼』であるのなら、何の関係もない筈が無い、とは思っていた。
でも、それでも、こんな顔までされたら、まるで―――――
「!………そうね、じゃあ案内してもらえるかしら。それで、もう一つの質問なんだけど、貴女はお嬢様―――レミリア・スカーレット、という名前に聞き覚えはあるかしら?」
頭の中にちらりと過った思考を無理やりに頭の隅に押し込めてから、咲夜はもう一つの質問を投げ掛ける。
これは、ライラの顔を見てから出てきた疑問。
ライラの顔は、あまりにも、自分の主に似すぎているのだ。
「ありますよ。直接会った事はありませんし、顔を見たことも無いですし、レミリアさんからしてみれば、私の存在さえ知らないと思いますけど、名前だけなら聞いた事はあります」
「………ただ似てるだけ、なのね。吸血鬼、って種族はみんな顔が似てたりするのかしら?」
「さぁ?それは分からないんです。正直に言って、産まれてから十年間は地下に閉じ込められてた上に、その後は家を追い出されて吸血鬼の全く居ない所に飛ばされたので。私の知ってる吸血鬼は家族だけなんです。………まぁ、その人達だけでいいなら私と似てましたけど」
どこか少しだけ不可解そうに一応の結論を出した咲夜の、ふと思いついた様に投げ掛けてきた質問に、ライラはへらりと笑顔を浮かべて、肩を竦めながらそう答える。
咲夜はその答えを聞いて、一瞬だけ驚いたような表情を浮かべてから、すぐに納得したように頷いた。
「確かに貴女、吸血鬼らしくは無いものね。見た目的には完全に天使よりの何かにしか見えないもの。プライドだけ無駄に高い吸血鬼から見たら、追い出したくなるのも分かるわ」
「あははは………プライドだけ無駄に高いって、否定はしませんけど。咲夜さんの言う『お嬢様』と同じ種族をそこまで言っちゃって良かったんですか?」
「良いのよ。私は『お嬢様』だから従者になっているんであって、『吸血鬼』だから従者になっているんじゃないもの。………寧ろ、個人的には大体の吸血鬼は嫌いなの」
ライラの指摘に、咲夜はさらりと言葉を返す。
ライラはそれを聞いて、「そうですか」と少しだけ嬉しそうに言葉を返してからふわりと宙に浮く。
「それじゃあ、ここで何時までも話してるのもあれですし、そろそろ冥界に案内します。………良いですか?」
「ええ、勿論よ」
ライラの問い掛けに咲夜は頷いてそう答えると、ライラの隣に移動する。
ライラはそれを見て、「それじゃあお願いしますね、咲夜さん」とだけ伝えると、冥界の入り口のある方向―――魔法の森へと向けて飛び始めた。
咲夜の口調が分からない………