東方廻現想   作:リーグルー

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はい、遅くなりました。
申し訳ありません。
それでは、どうぞ。


23; 白玉楼庭師は苦労人

――――満開の、桜並木の中を歩く。

季節はもう春だと言うのに、最早殆ど春の無い顕界とはまるで正反対であるかのように、特殊な結界で囲まれた冥界であるこの地には春が溢れている。

そんな春に溢れた冥界の、自分達が住んでいる屋敷のさらに奥にあるまるで森か林かと見間違うかのような桜並木の中を、此処の主でもある自身の主人に命じられ、最近になって何度も何度も顕界と冥界を往復している少女―――魂魄妖夢はしっかりとした足どりで奥へと進んでいく。

顕界と冥界の明らかな違いについて、妖夢は疑問に思わない。

その理由は何よりも単純だ。

他でもない自分自身が、顕界から春を奪って、冥界に春を振り撒いているからである。

これは自身の主人に命じられた事であり、詳しい事はよく分かっていないが、詳細については特に考える必要も無いと思っている。

自身は従者であるのだから、主人に命じられた以上、どんなことであろうとただ忠実にこなせば良い。

文句や意見を持つ為には、それなりの知識が必要である。

逆に言えば、ただ言われた命令をこなすだけなら、余計な知識は無い方が効率的である。

ならば、主人から命じられた従者は、主人が必要無いと判断して伝えなかった詳細を調べるのは明らかに無駄なのだ。

だからこそ、妖夢はこの件に関しては一切の疑問を持つことは無い。

…………まぁ、恐らく、自身の主人に今回の動機や詳細を聞いたところで、「暇だったから」や「面白そうだったから」等と返答されて、やる気が一気に無くなる事が目に見えている、というのが最大の理由だったりするのだが。

 

 

 

「…………これで何往復しましたっけ?何時になったらこの桜は咲くんでしょう?」

 

 

 

桜並木の中を抜けて、その最奥。

そこには、たった一つだけ、これだけ春が溢れている中で、枯れたように花を着けない、一際巨大な桜の木がある。

その木の名は西行妖。

主人が言うには、こんな形でも一体の妖怪であるらしい。

妖夢の主人――――西行寺幽々子の目的は、これを咲かせることらしい。

そのために妖夢に春を集めさせ、妖夢もそれに従って両手でも足りないだけの数、此処と顕界を往復しているのだが、目の前の妖様はその程度ではまだ足りないらしく、一向に花が咲く気配が無い。

これには流石の妖夢も溜め息を吐きながら、それでも今回回収してきた『春』を西行妖へと向けて解き放つ。

何の因果か桜の花びらに近い形状、色を持つ『春』はふわりふわりと舞いながら、西行妖に吸い込まれていく。

妖夢はそれを見届けてから、まだ咲かないか、と小さく溜め息を吐き、もう一度往復するために踵を返して、

 

 

 

「…………なっ!」

 

 

 

シャン、という軽い音と共に、冥界の入り口部分に張られていた結界が破られたのを感じとる。

侵入者。妖夢はそう理解するのと同時に、全速力で結界が破られた方向へと向かっていく。

内心、少しだけ、面倒な事になった、と、そう思いながら。

 

 

 

 

 

 

「また、派手に壊しちゃいましたね、結界。中に居る相手全員に誰か来たのが伝わっちゃったと思うんですけど」

 

 

 

「良いじゃない、その位。どうせ叩きのめすんだから、集まって来てくれた方が早いでしょ?」

 

 

 

ライラ達が冥界の入り口――――結界で区切られたその入り口に辿り着いてから約数分。

彼女達はすでに、結界の中へと侵入し、長い階段の上を飛んでいた。

………いや、侵入した、というのは誤りかもしれない。

何せ、霊夢は、そこに結界が張られているのを確認するなり、力ずくで結界を破壊してさっさと中に入るという手法を取ったからである。

直接関わってはいないとはいえ、そんな霊夢を止めることもせず、破壊された結界をそのままにして霊夢に付いてきたライラ達も勿論同罪であり、そんな霊夢達のとった手法は、『侵入』ではなく『突破』や『侵略』のような言葉が相応しいだろう。

…………それは兎も角。

そんな派手な突破をした霊夢対して、苦笑しながら言葉を掛けたライラに、霊夢は飛びながら器用に肩を竦めて答える。

その返答に、ライラは軽く笑いながら、少しだけ諌める様に言葉を返す。

 

 

 

「それはそうなんですけど。あまり油断はしないでくださいね?私達の位置はもうばれてると思いますし、今すぐにでも不意打ちされる可能性はそれなりに高いんですから。気を抜くとすぐにズドン、ですよ」

 

 

 

「はいはい、言われなくても分かってるわ、そんなこと」

 

 

 

「………そうか。なら、試してみるか?」

 

 

 

ライラの言葉に面倒そうに答えた霊夢の耳に、全く聞き覚えの無い低い声が聞こえる。

反射的に、自身の勘に従い、体を捻って大きく動いた霊夢の耳に、先程まで自身の身体があった場所から幾つもの金属同士がぶつかり合うような音が鳴り響く。

一拍遅れて音がした方を向いた霊夢は、腰に挿していた刀を抜いたライラと、それに向かい合う様に立つ、ライラと同じく刀を持ち、和装をした、青年、と言っても差し支えないであろう男の姿が視界に入った。

 

 

 

「………言うだけはあるね。俺の不意打ちを避けるなんて、そこの馬鹿弟子位しか出来ないもんだと踏んでたんだが」

 

 

 

「誰が馬鹿弟子ですか、誰が。基本脳筋の師匠と比べたら、私でも天才クラスになれますよ」

 

 

 

にやりと笑いながら霊夢へと言葉を掛けた男に、呆れた様な口調でライラがそれなりに辛辣な言葉を投げつける。

その二人の言葉のある部分に疑問を持った霊夢は、それを無意識に呟いた。

 

 

 

「………師匠?弟子?」

 

 

 

「はい、まぁ、簡単に言えば、私の剣術の師匠なんですよ、この人。完全に人外ですけど、種族的には普通に人間だったので、もう死んでると思ってはいたんですけど…………まさか化けて出てくるとは思ってませんでした」

 

 

 

「言うじゃねぇか、ライラ。死者の領域に足を踏み入れたのはそっちだろ?俺はただ、何か知らねぇけど死んだ後にちょいちょい現れる鎌持った奴等を適当に追い返してたら、そいつらの上司に此処で大人しくしてろ、とか言われて連れて来られただけだっつーの。変な所に連れてこられた上、変な結界で閉じ込められてる。むしろ俺が同情されるべきだろ、これ」

 

 

 

ライラの言葉に、男は肩を竦めながらそんな言葉を平然と返す。

…………この男、幽霊の癖に死神を追い返す、等というふざけたことをやり続けた結果、こんな所にいるらしい。

 

 

 

「………いや、被害者みたいな顔してますけど、どう見ても自業自得ですから。閻魔様に手に負えない相手認識されてますよ、師匠。大体、随分楽しそうじゃないですか?」

 

 

 

「お~、やっぱ分かるか?此処の主の従者の、庭師兼剣術指南役、とか言う嬢ちゃんが何とも弄りやすい奴でな?たまにからかってるとそれなりに暇は潰せるし、まぁ、それなりに楽しいな」

 

 

 

「………やっぱりそんなこと思ってたんですか!ジンさん!」

 

 

 

ライラと男の軽口に割り込むようにして、そんな声が響く。

ライラが声のする方向へと顔を向けると、そこには銀髪の少女が息を切らしながら男―――ジンを睨み付けていた。

 

 

 

「おう、妖夢。やっと来たか。待ってたぞ。ほれ、そこのそいつはお前さんの相手だ。俺は終わるまで観戦しててやる」

 

 

 

「一応門番扱いなんですから、働いてください!ジンさんの言った通り、この人は私が何とかしますから、ジンさんは後ろで黙ってる四人の相手をお願いします!」

 

 

 

「あ~、その事なんだがな?」

 

 

 

すでに殆ど第三者の立場の視点から指示を飛ばしているジンに、妖夢は半分キレながら言葉を返す。

しかし、それに対してジンはあー、と微妙に何かをやらかしたような表情をして頭を掻いてから、ふっとその場で刀を振るう。

当然の様に飛んだ斬撃は、当たり前の様に先程から黙って浮いていた霊夢の首を跳ね飛ばして、同時に霊夢の姿そのものが消え去った。

 

 

 

「悪ぃ、どうやらもう通しちまってたらしい」

 

 

 

「…………なっ!」

 

 

 

ジンの言葉に妖夢は驚き、ライラの後ろにいる三人にも目を向ける。

その三人も、全員目が虚ろで、妖夢が此処に来てから、一言も喋る様子が無い。

明らかに違和感しかない姿。

どうしてこれを、私は気付かずに…………?

 

 

 

「いえ、気付かなかった訳ではありません。あなた達が、気付いた事を『無意識』に見逃してくれたんですよ?」

 

 

 

妖夢の声に出さない疑問に答える様に、ライラがふわり、と笑顔を浮かべながらそんな言葉を妖夢達に掛ける。

それを聞いて、ジンは楽しそうに笑い始めた。

 

 

 

「成る程。あの帽子を被った嬢ちゃんか。最初からどうにも気配が無いとは思ってたが、まさか人の無意識に干渉してたとはな。そりゃ見逃すはずだ。………馬鹿弟子も昔より性格が悪くなってるし、一体誰に似たんだか」

 

 

 

「鏡でも見てくださいよ、師匠。間違い無くあなたです」

 

 

 

ライラの言葉に違いない、と笑うジンに、妖夢は咎めるような視線を向ける。

大方、さっさと追え、とでも言いたいのだろう。

ライラもそれを察したのか、軽く笑うと、掌を上にして手を差し出す。

同時に、その少し上に魔法陣が展開され、一本の瓶と杯が姿を現した。

ライラはそれを掴むと、ジンの方へと放ってから、口を開いた。

 

 

 

「師匠、それなりに良いお酒です。此処には桜も有って、私達が賑やかしまでやるんですから、まさか此処から離れる、なんて事言いませんよね?」

 

 

 

「………あぁ、くそー、まさかこんな手を使ってくるなんてー。これじゃあ暫くは動けないなー」

 

 

 

「………もうやだこの人」

 

 

 

ライラの言葉を聞いて、手元の酒瓶とライラに視線を何度も往復させた後、最早誤魔化す気が欠片も無い棒読みでサボり宣言をしたジンに、遂に妖夢は怒りを通り越して、頭を抱えて呟く。

そのままその状態で固まっていたが、少ししてから顔を上げた。

その表情は、決心した、というよりは、自棄糞、といった感じではあったが。

 

 

 

「………ええい、こうなったらもうさっさと終わらせて私が何とかします!白玉楼庭師兼剣術指南役、魂魄妖夢!参ります!」

 

 

 

そう名乗りをあげてから、妖夢は背中に挿していた刀を抜き、ライラへと向かっていった。




オリキャラ解説


ジン

ライラの剣術の師匠であり、現在白玉楼にて門番をしている幽霊。
この作品のの中でも、確実に五本指の中には入っている強キャラ。
というか、この作品のバグキャラ四天王の一人。
完全物理特化で、弾幕は一切撃てないが、それを補って余りある剣術の使い手。
簡単に言えば、何でも斬れる人。
概念だろうと能力だろうと幽霊だろうと、認識さえしてしまえば全部斬り捨て御免。
青年時代(既に剣術はバグっていた)に、家を追い出され、行き倒れていたライラを気紛れで拾い、剣術と一般常識、サバイバル技術を教えた。
簡単に言えば、ライラにとっては二人目の恩人であり、頭が上がらない人の一人でもある。
ライラの割と容赦の無い敬語での軽口は、親しみと敬意の合わさった結果だったりする。
性格はとにかく軽く、気紛れで適当。
しかし、例え気紛れでも、何だかんだで拾ったら最後まで面倒を見てしまうお人好しだったりするが、初対面で敵と判断するか、面倒そうだと思ってしまうと容赦が無くなる。
余談だが、白玉楼に住み着いた理由は、桜が綺麗だったから。
気に入らないなら結界を即斬捨て御免して出ていっていたらしい。
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