東方廻現想   作:リーグルー

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第五話投稿です。
何時もより少し長いです。



05; 月夜―――2

「………少しお待たせしました。初めまして、妖怪さん」

 

 

 

丁度ライラの歩幅で五歩の距離。

その位置まで歩いてから歩みを止めたライラは、軽く笑みを浮かべながらそんな言葉を目の前の妖怪に向かって言ってみる。

勿論の事、目の前の妖怪に言葉が通じるとはライラも思っていないし、相手が話し合いをするような知能を持ち合わせていない事も十二分に理解している。

 

 

 

「さて、最初に一つ確認しておきたいことがあるんですが。………今日はこのまま素直に帰ってくれませんか?そうすれば私は手を出しません。………どうでしょう?」

 

 

 

――――邪魔だ!邪魔だ!ジャマだ!ジャマダ!キエロ!

 

 

 

にこりと笑顔を浮かべながらライラがそんなことを提案した直後、ライラの頭の中に、そんな声が響き渡る。

………その声の正体を、ライラは知っていた。

これは、願い。目の前の妖怪が抱く、感情であり、願望であり、欲望であるもの。

それを聞いたライラは、やっぱりね、と一人呟いて、一つ溜め息を吐いた。

 

 

 

「分かってた事ですけど、やっぱり大人しく帰ってはくれませんよね。………仕方ありませんね」

 

 

 

ライラはそう言って、静かに足を一歩だけ踏み出す。

それに気圧されるように、妖怪はその巨体を動かして、数歩分後退する。

………その低い知能でも分かる程に、本能が叫んでいたのだ。あれは、自分にとって良くないものだ、と。

 

 

 

―――来るな、来るなクルナクルナクルナクルナクルナ!

 

 

 

「あはは。安心してください。抵抗しないなら痛みはありません。きっと、あなたは自分が消えた事にも気付きませんよ」

 

 

 

そう言って、目の前の少女は純粋な、綺麗な、全てを受け入れるような笑顔を浮かべる。

何処までも完璧なその笑顔はしかし、その妖怪にとっては、嫌悪と、禁忌に塗り固められたものにしか見えなかった。

 

 

 

「――――――――!!」

 

 

 

………気が付けば、妖怪はほとんど本能的に口を開き、巨大な大蛇を解き放っていた。

ライラはそれを見ても、変わらぬ笑顔のまま、ただ少し、ひょいと跳んだだけ。

それだけでライラは、妖怪も大蛇自身も気付かないうちに、大蛇の上に飛び乗っていた。

 

 

 

「すみません、暴れられると、痛くないままは難しいので………少し、痛い目を見てもらいますね?」

 

 

 

ライラはそんなことを少しだけ申し訳なさそうに言ってから、ようやく自分の上に標的が乗っている、ということを理解した大蛇の頭をどんっ、と強く踏みつけ、その反動を利用して本体の方へと体を飛ばす。

まるで弾丸のような速さで撃ち出された体。

ライラはその速度を、妖怪の丁度頭の上で片側だけ翼を広げることで、完全に横に回転するエネルギーに変えてしまう。

直後、ライラが放った裏拳によって、妖怪はまるで地面が陥没したような音と共に、地面に叩き伏せられた。

 

 

 

「………っとと、よし、っと。此処かな?」

 

 

 

とん、と妖怪の頭の上に危なげなく着地したライラは、そんなことを言いながら、掌に魔力の釘のようなものを作り上げ、それを妖怪の頭の中心から、少しだけずれた所に撃ち込む。

と、そこで、ようやく地面に叩き伏せられていた妖怪が、ライラが自身の頭の上に居ることを理解して、それを振り落とそうと、体に力を込めようとする。

 

 

 

「―――――――?」

 

 

 

自身の体に起こった異変には、すぐに気付いた。

体が、動かないのだ。

どうしても、どれだけ動かそうと努力してみても、体は力を失ったままで、思い通りには全く動かない。

―――そして、『その時』はやって来た。

 

 

 

「………はい、これで終わりです」

 

 

 

ライラはそう言って、妖怪の体に掌を当て、軽く目を閉じる。

――――イメージは円。丁度綺麗に二つに別れるような、陰陽道で言う『両儀』の形を想像する。

それが分けているのは、現実と幻想。決して交わることのない、二つのもの。

現実の側にはたった今、手を触れている妖怪を。

幻想の側には、この妖怪の存在に見合うだけの魔力を。

それぞれをそれぞれの位置に嵌め込んで、

 

 

 

「――――『廻環』」

 

 

 

その一言で、能力を起動させる。

かちん、とライラの中で、鍵を開く音が聞こえる。

――――現実を、幻想へ。幻想を、現実へ。

円はぐるりと半回転して、元の形を廻らせて、反転させる。

そして………ライラが再び目を開けた時には、先程まで倒れていた妖怪は、何の痕跡も残さずに、綺麗に消えていた。

残ったのは、ライラが元から持っていた量よりも、それなりに増えた魔力だけ。

 

 

 

「さて、と。終わったし、あの子を送ってから、アリスさんに心配される前に帰ろっと」

 

 

 

ライラは、そんなことを独り言のように呟いて、少しだけ背伸びをしてから、くるりといまだに地面にへたり込んでいる少女へと向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 

「………ちっ、一体何処に行ったんだ?」

 

 

 

長く白い白髪に、それを結ぶいくつものリボン。そして、この幻想郷ではあまり着ている者のいないもんぺを着た特徴的な少女――――藤原妹紅は、そう呟いて一つ舌打ちをしながら、人里の外を飛んで移動していた。

何時もはこんな時間に外を出歩くようなことはしていない。

なら、何故今日は外に出ているか、と言われれば、人探しをしているからだ。

聞いた話によれば、今日、深夜になって、人里から一人の子供が居なくなったらしい。

更に、生憎、今日は満月であり、妹紅の知り合いの、こういう時には真っ先に動くであろう人物も、とある事情であまり外に出ない方がいい状況にある。

なので、必然的に、妖怪に襲われたとしても何とか出来る実力のある妹紅自身が人里の外に出てその少女を探しているのだ。

 

 

 

「…………ん?」

 

 

 

と、そこで、妹紅の耳にある音が入ってくる。

少女の、どこか笑い声にも聞こえる声。

その声の元を追って視線を走らせた妹紅の視界に映ったのは、

 

 

 

「………あれ、妖怪、か?」

 

 

 

暗いせいではっきりとは見えないが、妖怪のように見える影だった。

人の形を取るにしては、少しだけおかしな形に、その両脇から翼のようなものが生えている。

明らかに遠目に見て滑稽だが、問題はその妖怪のような影が、人里へ向けてゆっくりと、しかし真っ直ぐに移動している、ということ。

それを理解した妹紅は、慌ててその影の方へ飛んでいって、

 

 

 

「うわぁ~~!!ふわふわ、もこもこしてる!!」

 

 

 

「あはは………」

 

 

 

「…………何だ、これ」

 

 

 

目の前の光景に、ついそんな声を上げてしまった。

人形にしては形がおかしかったのは、片方がもう片方を背負っていたから。

背負われた方は背負った方の背中から伸びている翼を満面の笑みで弄り続けていて、背負った方はそれに、くすぐったそうな、少し困ったような顔をしながらも、背負われた方を止めようとしていない。

そんな光景を見て、妹紅は一気に体から力が抜けていくのを感じた。

…………と、言うより、少しでもこれを警戒していた自分が馬鹿に思えて仕方がない。

と、そこで、背負われた方、村で見たことがある人間の少女の方が、妹紅の事を視界に納めた。

 

 

 

「………あ!妹紅兄ちゃんだ!」

 

 

 

「姉ちゃんだ!」

 

 

 

少女の言葉に反射的に言い返してから、妹紅は地面に降り立つ。

それを見て、背負っていた方の、どう見ても妖怪の少女は、ひょいと背中から人間の少女を下ろす。人間の少女は少しだけ名残惜しそうに妖怪の少女の翼を見てから、妹紅の方へと駆け寄った。

 

 

 

「………はい、ここまで確かに届けました。後は任せてもいいですか?えっと………」

 

 

 

「妹紅。藤原妹紅だよ。」

 

 

 

「じゃあ妹紅さんで。私はライラです。ただの通りすがりの吸血鬼です」

 

 

 

確認をするように声をかけてきたライラの丁寧な自己紹介に、妹紅は少しだけ警戒を強めてライラを睨み付ける。

警戒を強めたのは、ライラが吸血鬼だ、と言ったから。

吸血鬼と言えば、つい最近、幻想郷に攻め込んできて、大混乱を巻き起こした種族である。

いくら今、ライラから敵意が感じ取れないとしても、そんな種族に警戒するな、という方が土台無理な話だ。

 

 

 

「あはは。妖怪が嫌いなのは分かりますし、警戒は当然の事だと思います。けど、今は安心してもいいですよ。こんな綺麗な月が出ているんです、私はこの景色を汚すなんて、無粋なことはする気がありませんから。………それに、人間も好きですし」

 

 

 

ライラはそんなことを言って、にこりと笑顔を浮かべて見せる。

妹紅には、ライラのその笑顔が、真実を言っているように見えた。

 

 

 

「………あーはいはい、分かったよ。確かにあんたは、何もしなさそうだ。………っていうか、人間が好きとか、変わり者だな、あんた」

 

 

 

「そうでもないですよ。悪魔は皆、それなりに人が好きですから。………確かに、ちょっと私はその度合いが大きいんですけど」

 

 

 

「………ふーん、まぁ良いや。ほら、行くぞ。心の準備はしておけよ、皆に怒られるだろうからな」

 

 

 

ライラの言葉を聞き流すように聞いた妹紅は、人間の少女の手を取ると、そんなことを言いながら人里へ向けて歩き始める。

少女はそれに、「うぅ………やっぱりそうだよね」等と言いながら、憂鬱そうに、しかし素直に付いていく。自業自得である自覚はあるらしい。

 

 

 

「………さて、と。私もそろそろ戻ろうかな?十分月も楽しんだし」

 

 

 

そんな二人を見て、ライラは楽しそうに笑顔を浮かべると、そんなことを言ってからアリスの家の方へと向けて、飛び立ったのだった。

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