東方廻現想   作:リーグルー

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はい、久しぶりの投稿です。
漸く私用が終わったので、これからはもっと短いペースで更新できると思います。
………多分。


07; 風暖かく、スキマ湧く春

その日、ライラは何時もよりも高いテンションを維持したまま、魔法の森の中を歩いていた。

腰にはアリスが見つけてくれていた刀と、冬の間に自分で作った木刀の二本を挿しており、手にはどこから持ってきたのか、革製の鞄を持っている。

目的地は魔法の森の中ほどにある、木の生えていない、それなりに広いスペースが存在する場所。

目的は簡単で、そこに色々と素材を持ってきて、自身の住居を造る事だった。

………因みに、それを聞いたアリスは、「別にずっと自分の家に居ても良い」と言ってくれていた。

しかし、ライラとしては、自身の恩人でもあるアリスの好意に何時までも甘えている、というのは流石に、プライド云々以前の問題だと思った上に、造ろうと思っていたのは住居だけでは無い、という理由から、アリスの提案を断っていたのだった。

………と、それはともかくとして。

繰り返して言うが、その日のライラは、本当に機嫌が良かった。

――――地面に突然開いた裂け目をひょいと一足で飛び越し、続いてすぐ後ろに開いた裂け目から伸びてきた腕を少しだけ身体を傾けて回避し、最後に足を捕らえようと伸ばされた腕を適当に踏んで、そのまま何事も無かったかのように歩き去ろうとしてしまう程には。

 

 

 

「――――待ちなさい!」

 

 

 

痺れを切らした様な、何か別の何かが切れたような声がライラの耳に入るのと同時に、ライラの目の前に両端がリボンで結ばれた裂け目が広がっていき、中から傘を持ち、リボンの付いた独特の帽子を被った金髪の女性が現れる。

流石にそれには反応したライラは、とん、と軽く地面を蹴って一歩分後ろに下がると、鞄を持ち変えて、腰に挿していた木刀に触れてから、何時ものように相手に笑顔を向ける。

 

 

 

「………見た所、とても強い力を持った妖怪に見えますけど、あなたは?」

 

 

 

「あら、『人に名前を聞く時はまず自分から』と、親に習わなかったのかしら?」

 

 

 

ライラの問い掛けにそう返した金髪の女性に、ライラはあはは、と笑って返す。

何も馬鹿にしている訳ではなく、『親に習わなかったのか』という言葉に対してそう返すしかなかったからだ。

 

 

 

「あははは………私、嫌われものでしたから、親に教えて貰ったことって殆ど無いんですよね~。………でも、そうですね。失礼しました。初めまして。私はライラと言います。種族は、まあ、吸血鬼です」

 

 

 

「ええ、礼節を知っている妖怪は嫌いではないわ。初めまして。私は八雲紫。『神隠しの元凶』や、『スキマ妖怪』なんて呼ばれているわ」

 

 

 

「はい、よろしくお願いします、紫さん。………それはそうと、紫さんが、あの有名な『妖怪の賢者』さんが私に何か用でしょうか?」

 

 

 

ライラの簡潔な自己紹介に返すようにして自己紹介をした紫に、ライラは何時ものように笑顔を浮かべながら用件を聞く。

紫はそれに、「あら、思ってたよりせっかちなのね」と口の端を微かに吊り上げてから、口を開いた。

 

 

 

「用件は簡単。私が冬眠している間に、いつの間にか幻想郷に入ってきていた吸血鬼さんが、幻想郷に害を及ばさないか。それを見に来ただけですわ」

 

 

 

「あはは。それはご苦労様です。それで、どうでしょう?」

 

 

 

紫の言葉に、さらに重ねて問い掛けるライラ。

紫はそれに、わざとらしく困ったように頬に手を当てて首を傾げて見せる。

 

 

 

「困ったわ。これだけじゃあ判断材料が少なすぎるもの。でも、幻想郷に害を与えた後だったりすると色々遅いし………そうね、こういうのはどうかしら?」

 

 

 

紫がそう口にするのと殆ど同時に、紫の背後に先程紫が出てきたものと同じ裂け目が幾つも開く。

それを背にしながら、紫はゆっくりと、どこからか取り出した扇子で口元を隠しながら、目を鋭くさせてライラを睨み付ける。

 

 

 

「私と戦って、貴女が勝ったら見逃してあげる。その代わり、私が勝ったら私に隷属しなさい」

 

 

 

「拒否権は………無さそうですね。分かりました。まともにやって勝てる相手には見えませんけど、出来る限り抵抗はさせてもらいます」

 

 

 

はぁ、という溜め息と共にライラがそう返したのとほぼ同時に、紫の背後に展開された裂け目から、丸い円盤の付いた長い棒の様な何かが幾つも飛び出してくる。

ライラはそれを、最小限の動きだけでひょいひょいと避けると、どん、と強く地面を蹴って、たった一歩で6メートル近い距離を詰め、居合いの要領で木刀を横なぎに振るう。

紫は振るわれた木刀を後ろに跳ぶことで避け、少しだけ目を細める。

 

 

 

「あらら、避けちゃいました?当たってたら、後は口だけで私が勝ったことに出来たんですけど」

 

 

 

「中々面白いことを言ってくれるわね。………さっきの台詞といい、木刀を使ってきた事といい、貴女、ふざけてるのかしら?」

 

 

 

おどけたように言葉を発したライラに、紫は半分本気でそんなことを問い掛ける。

圧倒的に不利な条件を押し付けられていて、更に本人が勝てない、と口にしているというのに、先程からライラは本気になっているようには見えないからだ。

 

 

 

「いたって真面目にやってますよ。普通に戦っても勝てないのは解ってるんですから、どうにかして有利な点を作って、そこから勝ちに繋げる、っていうのは正しい戦法だと思っています。仮にも悪魔ですから、口で相手を唆すのは得意分野ですし。………あと、木刀の方は勘弁してください。刀(こっち)は確実に相手を殺す時にだけ使うもので、殺す必要の無い相手には絶対に使わない様にしているんです。………それに、武器の話で言ったら、道路標識を使ってる紫さんに何かを言う資格は無いと思います」

 

 

 

紫の問い掛けに、ライラは笑いながら自分の後ろに突き刺さっている道路標識を指差してそう答える。

紫自身も、多少はふざけたものを使った、という自覚はあったのか、ライラの返答に対して何も言い返してこない。

ライラはそれを見てから、さて、と気合いを入れ直すように声を出してから、

 

 

 

「でも、確かにこのままじゃ勝てませんから、今度は本気でやらせて貰いますね?」

 

 

 

そう言って、それまで持っていた鞄を地面に放る。

鞄が地面に付くのと同時に、ライラはとんとん、と足で二回、地面を打ち鳴らす。

 

 

 

「湧け、『惑迷煙(わくめいえん)』」

 

 

 

そう小さく呟くのと同時に、ライラの足元を中心として、半径二メートル程の魔法陣が展開され、そこから一気に白煙が溢れ出してくる。

煙はすぐに辺りの景色全てを覆い隠し、紫の視界からライラの姿を消し去ってしまう。

 

 

 

「ふぅん、成る程、煙幕、ね。単純ですけど、確かに良い手ではありますわ」

 

 

 

紫はすっと目を細めながら、そんな評価を下す。

そのまま、少しだけ動かずに辺りの様子を見回してから、ゆっくりと片腕を上げる。

そしてそのまま、

 

 

 

「ただし、そこらの中級妖怪程度が相手なら、ですが」

 

 

 

そう呟いて、ぐっと伸ばした手を、何かを掴むように握り締める。

伸ばされていた腕は二の腕の辺りから裂け目の中に消え、その先は、自身の背後へ。

握り締められた手は、ライラの首を的確に捉えていた。

 

 

 

「………あ、ぐ……ぁ………!?」

 

 

 

「視界を潰しただけで真っ直ぐに来るなんて、………正直に言って期待外れね。もう少し頭が回ると思っていたのだけど………まぁ、いいわ。そこも含めて、後で教育してあげる。取り敢えず、今は眠りなさい」

 

 

 

紫は少しだけ残念そうにそう言って、ライラの首を絞めている手に、首の骨が折ってしまうほどに強く力を入れる。

勿論、殺す気はない。ただ、吸血鬼程の再生能力があれば、それ位しても問題ないだろう、という判断の元の行動だった。

しかし、紫の予想に反して、ライラの首は殆ど何の抵抗もなくぐしゃり、と潰れて、同時に、ライラの体が、数百、数千枚にも及ぶ紙へと姿を変えた。

 

 

 

「………え?」

 

 

 

ライラだった紙達は、意思を持ったように飛び回って、呆けた様な声を上げる紫を拘束する。

一息遅れて何をされたのか理解した紫は、拘束を解こうとして、そこで自分の首に突き付けられている木刀に気が付いた。

 

 

 

「はい、これで詰み、ということにして貰えると助かります。流石にこれ以上やったら、本当に勝算が無くなってしまいますから。どうでしょうか?紫さん」

 

 

 

ライラは、紫の首に木刀を突き付けながらそう言うと、そのままぱちん、と指を鳴らす。

同時に、視界を塞いでいた煙は消え去り、紫を拘束していた紙達も拘束を解き、先程ライラが放り捨てた鞄に入っていく。

そこまで見て紫は、ライラが何をしたのかをようやく理解した。

先程の紙達は、ただの紙ではなく、呪符か何かであり、ライラが煙幕によって隠したかったのは、ライラ自身というよりも、むしろ鞄の方。

本気になる、と言ってから鞄を投げ捨てたのも、戦闘に邪魔になるように見せて、鞄から意識を逸らさせるため。

更に、恐らくは………

 

 

 

「………さっきの言葉も、全てが私を油断させるためのもの。そう捉えても良いのかしら?」

 

 

 

呟いた紫に、すっと首に突き付けていた木刀を引いたライラは、少しだけ悪戯がばれた子供のような表情を見せる。

 

 

 

「あははは、そこまでばれちゃってると、次は本当に勝てる気がしませんね。………と、言うわけで、どうでしょう?今回は私の勝ち、ということにして、見逃してくれませんか?信頼は出来ないかもしれませんけど、幻想郷を壊す気も、害を与える気もありませんから」

 

 

 

笑顔を向けながら言われたその言葉に、紫は少しだけ考えるように俯いてから、はぁ、と溜め息を吐いてライラの方を向く。

 

 

 

「………良いでしょう。ご安心なさい、今回は貴女の勝ちですわ。そして、幻想郷は貴女を歓迎します」

 

 

 

「ありがとうございます。………そうだ、紫さん。私、今度から人里で何でも屋をやろうと思ってるんですけど、幻想郷的に何か受けちゃ駄目な依頼とか有るんですか?」

 

 

 

「何でも屋?不思議な事を考える吸血鬼さんね。………そうね、『妖怪退治』と『異変解決』、この二つは博麗の巫女の仕事。だから、その二つの依頼はされても受けないようにしなさい」

 

 

 

紫の返答にライラは頷く。

『博麗の巫女』とは、この幻想郷における絶対の調整者の名称である。

立場としては完全に中立。

人里に入り込んで人を襲う妖怪の退治や、妖怪の起こす異変の解決、そして、幻想郷に張られている外の世界と幻想郷とを区切る結界、『博麗大結界』の維持などを生業としている。

逆に言ってしまえば、その役割を誰かが代わりにやってしまうと、『博麗の巫女』は絶対の調整者ではいられなくなってしまう。

それは、幻想郷にとって大きな不利益だ。

 

 

 

「ああ、後、これから誰かと争う時は、『スペルカードルール』で争いなさい」

 

 

 

「『スペルカードルール』、ですか?」

 

 

 

紫の言葉の中の聞き慣れない言葉をそのまま抜き出して聞き出したライラに紫は頷いて『スペルカードルール』、もしくは『弾幕ごっこ』等という名前の決闘方法についての説明を簡潔にする。

曰く、『スペルカード』と言われる物を使って行う、『魅せる』闘い。

『スペルカード』とは、一種の技のようなもので、使う前には必ず宣言をする。

スペルカードに込められたものや通常の弾幕は、一撃で人を殺傷するようなもの、避ける隙間が無いようなものではなく、必ず相手が避けられる様な隙間を作り、更に、美しさを第一に作り上げるものとする。

 

 

 

「………『魅せる』決闘、ですか。それ、凄く面白そうですね。――――分かりました、これからはそれを使わせて貰います。後、その『スペルカードルール』を出来るだけ広めれば良いんですね?」

 

 

 

「ふふ、貴女の物分かりが良くて助かるわ。最近出来たばかりで、まだ殆どの人妖が知らないの。貴女も言った通り、出来るだけ広めて貰えれば助かります」

 

 

 

紫はライラにそう返すと、背後に現れた裂け目の中に姿を消した。

ライラは裂け目が閉じるまで見送ってから、地面に放っていた鞄を拾い上げてぽんぽん、と軽く土を払ってから、

 

 

 

「………もうこんな時間。今日はアリスさんに泊めてもらって、家を作るのは明日にしよっと」

 

 

 

すっかり赤く染まった空を見てそんなことを言ってから、アリスの家へと向けて歩き始めた。




………八雲紫の話し方がよく分からなくなってきた今日この頃。
………え?隙間妖怪はこんなに弱くない、ですか?その通りだと思います。
今回は、様子見の上に油断と慢心が重なっていたのでこんな結果になっただけです。
本気なんて出された日には、まず今のライラに勝ち目はありません。
というか、基本的にライラは頭脳・技術タイプですから、あらゆるものの境界を操る、何てどれだけ策を労しても無駄そうなチート、よっぽど準備を万全にして、更に自分が選んだ場所で戦いでもしない限り、まず勝てません。
因みに、夜のライラの身体能力の基本スペックは、レミリアより少し下くらいです。
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