結城家の隣人転生者、気づけばハーレムに…。   作:射蓄労働者

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期間空いた分普段より文字は倍です


11話 学園祭

学園祭当日の朝。

校内は、いつもより少しだけ騒がしかった。

廊下には装飾が施され、普段は無機質な壁にも色がある。

人の流れも多く、どこからか呼び込みの声や、試運転中の音楽が聞こえてきた。

 

そんな中を、俺は――

 

古手川唯 と並んで歩いていた。

 

「……少し羽目を外しすぎな人達多くないかしら?」

 

小さく、吐息混じりの声。

古手川は周囲を見回しながら、肩をすくめる。

 

「さすがにあれくらいは許してあげなよ。」

 

「ええ。こういう時くらいは仕方ないって分かってるけど……。」

 

そう言いながら、それらの一団を横目に歩いていく。

完全に駄目、というわけでもないらしい。

 

「でも、準備してる人たちを見るのは嫌いじゃないわ。普段と違う顔が見えるから。」

 

こういう場でもあくまで真面目な感想。

 

「相変わらずだねぇ。」

 

その真面目さに少し笑いながら感想を述べる。

 

 

事務的なやり取りから始まった会話は、少しずつ柔らいでいく。

無理に盛り上げようとしなくていい、その距離感がちょうどいい。

そんな風に歩いていると――

人混みの向こうから、視線を感じた。

 

「……あら。」

 

すれ違いざまに聞こえた、余裕のある声。振り向くと、そこにいたのは天条院沙姫 だった。

 

いつもの三人組ではなく、今は一人でいるらしい。

彼女もやはり一段と美人なので周囲の視線を集めているのだが、本人はまるで意に介していない。

 

「ご機嫌よう。楽しんでいらっしゃるの?」

 

視線は一瞬で、俺と古手川の並びを捉える。けれど、眉ひとつ動かさない。

 

「まあ、それなりには…。」

 

「そう。なら何よりですわ。」

 

それだけ言って、軽く微笑む。

探るでもなく、絡むでもない。

 

「……では、また。」

 

踵を返す背中は、どこか余裕があった。

 

「……今の人、知り合い?」

 

古手川が小さく首を傾げる。

 

「少し話す程度の関係だよ。」

 

それ以上は話さない。

古手川も、深くは聞いてこなかった。

 

 

Aクラスの前まで来ると、廊下の空気が一段階変わった。

甘ったるい匂いと、ざわめき。

教室の入口には、手書きの装飾と一緒に大きく《アニマル喫茶》の文字。

 

「……これは……。」

 

古手川が、思わず足を止める。

扉の向こうから見えたのは、布面積の意味を問い直したくなるような衣装だった。

様々な動物の柄を基調にした、耳と尻尾付きのコスチューム。胸元は大胆に開き、腰回りも危うい。少し屈むだけでも色々と見えてしまいそうだ。

どう見ても“可愛い”より先に“刺激的”が来る。

 

「……なぜこれが許されてるのかしら…。」

 

あまりの刺激に一周周って古手川は落ち着いてしまっている。

 

「まああの校長だから…。」

 

そう答えた直後、声が飛んできた。

 

「いらっしゃーい! あ、梶羅君じゃん!」

 

籾岡里紗だった。

猫耳をつけ、体のラインがはっきり出る衣装で、トレイを片手にこちらへ近づいてくる。

 

――近い。

 

思ったより、距離がない。

一歩分どころか、半歩もない位置まで詰めてくる。

 

「ご案内しまーす。」

 

籾岡は逃がすまいと俺の腕にしがみつき席へと案内する。腕に柔らかいものが押し付けられている。

だというのに、籾岡はまるで気にした様子もない。流石籾岡である。

 

「……はっ、破廉恥です!」

 

一瞬フリーズした古手川だが、我に返ったかと思うと即座にそう言った。

 

「えー? 学園祭じゃん? サービス、サービス♪」

 

籾岡は笑いながら、さらに身を密着させてくる。

胸元の布が心許なく揺れ、視線の置き場に困る。

その後ろから、今度は沢田未央がひょこっと顔を出した。

 

「おー、ほんとだ。梶羅君じゃん。相変わらず真面目そうな顔してるね。」

 

彼女もまた、似た系統の衣装だが、動くたびに尻尾が揺れるせいで妙に目立つ。

会話の流れで、自然に俺の肩に手を置き、距離を詰めてくる。

 

「今日は誰と回ってんの?」

 

その視線が、古手川に向く。

 

「……風紀委員として、同行しているだけです。」

 

きっぱり言い切る古手川に、籾岡は一瞬だけ目を瞬かせてから、にやりと笑った。

 

「へぇ。」

 

含みがあるその顔は何かからかい先を見つけたような顔をしていた。

 

 

その時、教室の奥から聞き慣れた声がする。

 

「楽しいねー! 地球の学園祭!」

 

ララだった。耳付きの衣装を完璧に着こなし、尻尾まで自然に馴染んでいるのが逆に恐ろしい。

 

「あー、ソウだ! 見て見て、これ! かわいいでしょ?」

 

「……めっちゃ似合ってるよ。流石ララ。」

 

どうだ、と言わんばかりに衣装を見せつけてくるララをちゃんと褒める。

 

「えへへー♪」

 

無邪気に笑うララの向こうで、忙しそうに走り回る男子生徒たちが見える。

結城リトの姿は、今はいないらしい。

 

「ちなみにリトは今どこへ?」

 

「用事だってー。すぐどっか行っちゃった!」

 

相変わらずだな、と思う。

その一連のやり取りを、古手川は少し距離を取った位置から見ていた。

視線は厳しいが、完全に目を逸らすわけでもない。

 

「……学園祭、とはいえ……。」

 

小さく呟いて、もう一度だけ衣装に視線を向ける。

露出の多さ。

距離の近さ。

それを“当たり前”として受け入れている空気。

彼女にとっては、まだ慣れない世界だ。

 

あまりの破廉恥の情報量に頭が回っていないらしい。

そんな古手川にララが視線を向ける。

ララがこちらを指差すように首を傾げる。

 

「ソウ。それよりもこの子はだれ?」

 

Aクラスのララにとって古手川は初めて見る顔である。

 

問いかけは無邪気で、悪気は一切ない。

だが、その距離感と声量は、古手川にとって少しだけ唐突だった。

 

「……Bクラスの古手川唯です。今日は、学園祭の巡回を兼ねて同行しています。」

 

簡潔で、感情を挟まない自己紹介。

風紀委員としてのそれに徹している。

 

「へー! Bクラスなんだー!それでソウと一緒にまわってるんだ!」

 

ララはぱっと表情を明るくし、何の躊躇もなく一歩近づく。

その動きに、古手川はほんの一瞬だけ身構えたが、すぐに姿勢を正した。

 

「よろしくね!」

 

「……ええ。」

 

返事は短い。

視線は逸らさないが、距離も詰めない。

その様子を、籾岡と沢田は面白そうに眺めていた。

 

「へぇ〜、同じクラスなんだぁ。」

「でもさぁ…」

 

籾岡がにやりと笑い、俺と古手川を見比べる。

 

「そう言いながら、梶羅君と二人で学園祭まわってるんでしょ?それってもうデートじゃない?」

 

「ち、違います!」

 

反射的に、古手川が即座に否定する。

 

「これはあくまで巡回で――」

「へー、そうなんだー!」

 

そこへ、ララが被せるように声を上げた。

 

「でも一緒にまわってるってことは、仲良しなんだね!」

 

悪気のない笑顔。

純粋な疑問を、そのまま言葉にしただけ。

 

「……っ!」

 

古手川の言葉が詰まる。

一瞬だけ視線が泳ぎ、頬にわずかな熱が滲んだ。

 

「そ、そういう意味では……ありません!」

 

強めに言い切るが、説得力は薄い。

籾岡と沢田が、揃って口元を押さえる。

 

「……ふーん?」

 

「ふふ、かわいー」

 

「かわっ……!?」

 

古手川は完全に調子を崩し、咳払いで誤魔化す。

 

「話は、それだけですか。でしたら、私たちはこれで。」

 

逃げるようにそう言い、こちらを見る。

その視線には、わずかに助けを求める色が混じっていた。

俺は小さく肩をすくめ、応じるように一歩引く。

古手川の真面目さとララの無邪気さ。

そして、それを面白がる者たち。

その全てが、短い時間の中で交差していた。

 

 

 

 

 

 

少し離れた場所。

人混みの向こうで、西連寺春菜 は足を止めていた。少しクラスの出し物の休憩をもらってから戻ってきた時だった。

視線の先にあるのは、ララさん達と二人の男女。

 

……古手川さん……。

名前は知っている。

Bクラスの風紀委員。

真面目で、少し近寄りがたい印象の子。

その彼女が、今は梶羅創のすぐ隣に立っていた。

 

距離は近すぎず、離れすぎず。

けれど並び方は自然で、まるで最初から一緒にいるのが当たり前のようだった。

その時、明るい声が響く。

 

 

「でも一緒にまわってるってことは、仲良しなんだね!」

 

 

ララさんの、いつもの無邪気な声音。

悪気なんて、どこにもない。

 

「……っ!」

 

古手川が小さく息を詰めるのが見えた。

それを見て、籾岡さんたちが面白そうに笑う。

春菜の胸が、きゅっと小さく縮む。

 

……一緒に、まわってるんだ……。

 

視線は、自然と主人公へ向く。

最近――ちゃんと話せていない。

学園祭の準備で忙しくて、すれ違うことも多くて。

 

私は……一緒にまわれてないのに。

 

ララさんは続ける。

 

「いいなぁ。私はリトと全然まわれてないよー。リト気がつけばどっか行っちゃうし。だから今日はあんまりお話もできてないんだー。」

 

明るい口調のまま。

でも、どこか少しだけ拗ねたように。

 

「だからさ、ちょっと羨ましいかも!」

 

その言葉が、春菜の中で、静かに反響する。

否定も、言い訳も、浮かばない。

胸の奥に残ったのは――

古手川が、あまりにも自然に彼の隣に立っている光景だった。

 

……二人…お似合いだなあ…

 

すっとそんな気持ちが出てきた。認めさせられる。

 

…でも、やっぱり私は……

 

春菜は小さく息を整え、視線を切った。

今は、声をかけるタイミングじゃない。

そう自分に言い聞かせて、人混みの中へと、そっと戻っていった。

 

 

 

 

 

学園祭も、そろそろ終盤だ。

喧騒から少し離れた場所。

校舎裏の通路脇に置かれた古いベンチは、人の流れもなく驚くほど静かだった。

 

「……ここまで来ると、さすがに静かね。」

 

古手川がそう言って、軽く息を吐く。

その声には、張り詰めていた緊張が少しだけ混じっている。

 

「疲れた?」

 

「……ええ、まあ。」

 

否定はしない。

けれど、弱音を吐くほどでもない――そんな言い方。

俺がベンチに腰掛けると、少し迷ってから、古手川も隣に座った。

間隔は、拳ひとつ分くらい。

近すぎず、離れすぎず。

 

「学園祭って、もっと楽しいものだと思ってたわ。」

 

ぽつりと零れた言葉。

 

「嫌だった?」

 

「嫌、というわけじゃないわ。」

 

すぐに首を振る。

 

「……ただ、人が多すぎるし。ああいう格好とか、距離感とか……正直、慣れないだけ。」

 

思い出すように、Aクラスの方向へ視線を向ける。

さっきまでの光景が、頭に残っているのだろう。

 

「風紀委員としては、目を逸らしたくなる場面も多かったわ。」

 

「だろうね。」

 

「でも――」

 

一拍、間を置く。

 

「あなたと一緒に回る分には……悪くなかった。」

 

視線は前を向いたまま。

その唐突なデレに俺は構えることができずにクリティカルをくらう。

 

「じゃあ来年は古手川さんがあの衣装で俺のこと給仕してほしいな。」

 

その内心をごまかすように俺は彼女をからかった。

 

「なっ……、何言ってるのよ!」

 

古手川は顔を赤面させる。

 

「あなたは、無理に騒がないし余計なことを言わないし……、と思ってたのに…破廉恥な!」

 

早口でそう言い切る。

 

いつもの古手川へ戻ったが、今の俺にはそのほうが心臓に悪くない…。しおらしく古手川は破壊力しかない。

 

「……でもその…、今日は楽しかったわよ。」

 

また急にしおらしくなる。

その言葉の端には、確かな安心が混じっていた。

 

「ならよかった。」

 

少し恥じらいながら言う古手川に俺は

それだけ答える。

 

古手川は一瞬、こちらを横目で見て、すぐに視線を戻す。

 

「……それにしても、彼女達との距離感は流石にどうかと思うのだけど?」

 

うん…、それは俺も思う。でも俺は不可抗力だ。

 

「俺からじゃないからどうにも……。」

 

苦笑しつつ答える。

 

「……不可抗力っていいたいのね。」

 

古手川は小さく眉を寄せる。

納得していないのが、声を荒げなくても分かる。

 

「籾岡さんや沢田さんはともかく……あの、ララさん。」

 

名前を出す時だけ、ほんの一瞬、言葉が慎重になる。

 

「距離が近いとか、そういう次元じゃなかったでしょう。しかも狙ってないのが余計に……。あれはもう……その……。」

 

言い淀み、視線を逸らす。

 

「……見ている側が落ち着かないわ。」

 

「うん、それは本当にそう思う。」

 

古手川の意見はごもっともである。無邪気さと自分のナイスボディがズレまくり思春期男子には猛毒でしかない。

 

 

即答すると、古手川は少しだけ拍子抜けしたような顔をする。

 

「否定しないのね。」

 

「事実だし。」

 

そう言うと、彼女は一瞬だけこちらを見る。何か言いたそうで、でも言葉を探しているような視線。

 

「……あなたは、平気なの?」

 

「何が?」

 

「……ああいう距離。」

 

一拍の沈黙。

古手川は無意識に、拳ひとつ分の間隔を確認するように、ほんの少しだけ身を引いた。

 

「正直、慣れてはない。」

 

そう答えると、彼女の肩がわずかに緩む。

 

「……そう。」

 

短い相槌。

でも、どこか安堵が混じっている。

 

「誤解しないでほしいのだけど。」

 

前置きをしてから、続ける。

 

「私は、あなたが誰と話そうが、誰と一緒にいようが……口出しする立場じゃないわ。」

 

きっぱりとした言い方。

風紀委員としての線引きでもあり、彼女自身の距離感でもある。

 

「ただ――」

 

少しだけ、声が小さくなる。

 

「……今日みたいな距離感はあまりしない方がいいと思うの。特に人前では。」

 

言葉が、そこで一度止まる。

顔は前を向いたまま。

耳まで赤くなっているのが、夕焼けのせいだけじゃないと分かる。

 

「そうだよなあ。」

 

「人前」という言葉に含みがあったが…、まあ場所は弁えたほうがいいのは事実。ただどうにもならないのも事実。

 

「……忠告よ。」

 

 

考え込んでいる俺に彼女は再度釘を指す。

 

「善処する。」

 

そう返すと、古手川は小さく息を吐いた。

 

「……本当に、あなたといると調子が狂うわ。」

 

呟くように言って、ベンチの背もたれに軽く寄りかかる。

 

はぁ…

 

一拍。

 

「今日はありがと。」

 

それ以上は言わない。

 

「ん?」

 

ボソッと何か彼女はいうが俺の耳には届かなかった。

そう聞くと、古手川は一瞬だけこちらを睨み――

 

「……なんでもないわよ。」

 

そう言いながらも、声は柔らかい。

沈黙が落ちる。でも、さっきまでとは違う静けさだった。

誰かに見せるためでも、意味づけするためでもない。

ただ、隣に座っているという事実だけが、そこにある。

 

何も約束はしていないのに、離れる理由も見つからないまま、二人は同じ静けさを共有していた。

 

 

 




春菜に頑張ってほしいのに…、古手川が止まらない。
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