高校生時代の先生とノアがデートする話です!

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「かつての貴方と」

 晴れた日の午前、仕事の息抜きでコーヒーを片手に窓の外を眺めていた。

 

 キヴォトス。私が元々いた世界とは全く違う別世界だ。多くの生徒達が銃火器を所持していて、これまで銃とは無縁の人生を送ってきた私にとってはかなり殺伐とした場所だ。

 

 しかし、裏を見ればみんなも年頃の学生。その歳特有の悩みや葛藤を抱いたりしている。

 

 みんなの事を考えていると学生時代のことを思い出した。

 

 シッテムの箱とは別のタブレットを開いて,ダウンロードしていた昔の写真を見た。

 

 高校時代、友人達と肩を組んで、映っている過去の自分だ。

 

「こいつら元気にやってるかなぁ」

懐かしさに思わず、口角が上がった。現実に引き戻すようにインターホンが鳴った。ああ、そう言えば黒服からおすすめの薬が送られてきたんだった。

 

予想通り、黒服から私宛にダンボールが届いていた。ダンボールを開けると緑色の液体が入った瓶が入っていた。ラベルには『滋養強壮、疲労回復あり。効果持続時間は二十四時間』と書かれていた。

 

「どれ。頂こう」

 瓶を開けて,中身を喉に流し込んだ。途端に体から力が抜けて、その場に倒れた。

 

 

 

 

 いつもより早足でシャーレに向かっていた。

 今日はユウカちゃんが当番のはずでしたが、急用で来れなくなったので、私が代わりにシャーレで先生のお仕事の手伝いをする事になりました。

 

 先生がいるオフィスの扉が見えてきた。少し立ち止まって近くの窓で髪型を軽く整える。

 

 するとオフィスの中から大きな音が聞こえた。先生に何かあったと思い、駆け足で向かった。

 

「先生! 私です! 生塩ノアです! どうしましたか!?」

返事はない。不安感に駆られて、ドアノブに手をかけると開いた。

 

「失礼します」

 扉を開けて、オフィスの中に入った。

 

 

 先生が倒れていた。近くには緑色の液体が入った瓶が転がっている。おそらくこれを飲んだせいだろう。急いで先生の元に駆け寄った。

 

 そして、驚愕した。先生が若返っていたのだ。先生も年齢的にはまだ若者の方ですがそれ以上、私やユウカちゃんと同じくらいの見た目になっていた。

 

 目の前の光景に動揺していると、先生が目を覚ました。

 

「先生! 大丈夫ですか!?」

 

「先生? 俺の事? てかあんた誰? ここどこ? 確か学校の帰りだったような」

 先生は記憶を失っていた。いや、若返った事により、記憶まで巻き戻されていたのだ。

 

「私の名前は生塩ノアと言います。普段、先生にはとてもお世話になってまして,今回もその一環でここにきました」

 

「さっきから先生って何よ。俺はあんたらの教師でもやってんのか?」

 

「ええ。◯◯先生」

 

「俺の名前なんで知ってるんだよ」

 

「私達の先生ですから」

 

「先生って言われてもなぁ」

 先生は頭をかきながら、眉間に皺を寄せる。

 

 困惑する先生に私はこれまで経緯と詳細を説明する事にした。

 

「つまりここはキヴォトスっていう俺が住んでいた場所とは違うところでこの時代の俺はあんたらの先生。それでこの薬を飲んで、こうなっちまったってわけか」

 

「はい。おそらく」

 瓶をよく見ると、効能が二十四時間と書いてあった。つまり効果が切れるまでほぼ、一日先生はこの姿という事になる。

 

先生が腕を組んで、眉間に皺を寄せた。無理もない。突然、呼び出されたにも等しいのだから。

 

「まぁ、悩んでも仕方ないか」

先生は立ち上がって、窓の方に向かった。

 

「てか未来の俺。こんなすげーところで働いているんだな。出世したなー」

 

「いつも業務に追われていますけどね」

 

「社畜かよ」

 先生がため息を溢しながら、肩を落とした。

 

「なぁ!よかったら案内してくれよ! キヴォトス!」

 

「えっ?」

 

「いいだろ?」

 先生が手を合わせて、頼み込むような素振りを見せる。本来なら業務に集中していただかなければいけませんが、今の先生の状態では難しそうです。私は先生の提案を飲む事にした。

 

 

 

「はぇー でっけぇな」

 先生が立ち並ぶビルに目を輝かせながら、ズボンに手を入れて、歩いている。私たちの知っている先生なら決してしない行動だった。

 

 そして、もう一つ気になることがあった。先生の一人称が「俺」だった事だ。普段、私達に対して非常に丁寧な口調の先生がかつてはこのような話し方だった事に内心、驚いていた。

 

「ところで生塩って何歳?」

 

「高校二年の十六歳です」

 聞きなれない呼ばれ方に少し、困惑した。生塩。先生からこれまで一度も呼ばれことがなかった。

 

「マジ? タメじゃん! いいよ。タメ語で」

 

「いえ、誰に対してもこうなので」

 

「でも先生って言われても俺そんな自覚ないしな」

 

「じゃあ◯◯君で」

 

「おう。そんじゃあそれで」

 ◯◯君が白い歯を見せて笑った。笑った顔はいつもの先生だ。

 

「ところで生塩さ。さっきから何書いてんの?」

 

「これは記録です。私はセミナーの書記なので日間として」

 

「セミナー ああ、生塩が通ってる学校の集まりか」

 

「ええ。ですからまぁルーティンみたいなものです」

 

「はえー 大変なんだな」

 

「いえ、好きでやってることなので」

 今日はいつもよりも書くことが多いのか、不思議と筆がのっていた。今の先生は他の誰も知らない。ユウカちゃんも。学生時代の先生を知っているのは私だけ。この少し棘のある話し方をする先生を知っているのは私だけ。そう理解した瞬間、口角が少し上向いた。

 

 そこから私はキヴォトスの街を先生に案内した。先生は子供のように目を輝かせながら、時に私の手を引いて、いろいろ見て回っていた。少し強めに引っ張る言動は普段の先生からは見られないものだった。

 

 しばらく歩いた後、私達は街の隅にあるこぢんまりとしたカフェに足を運んだ。

「ありがとうな。色々なところに連れて行ってくれて」

 

「いえ、これくらいは」

 

「生塩は友達と出かけたりとかすんの?」

 

「ええ。とても仲の良い子が一人いまして、その子とはよく。◯◯君もご友人がいらっしゃるのですか?」

 

「ああ、どうしようもない馬鹿どもがいるよ」

そう言って屈託のない笑顔を作りながら、ご友人達の話を始めた。初めは楽しく聞いていたその話も聞くたびに胸の奥に針で刺されたような小さな痛みが走り始めた。分かっている。これは嫉妬だ。特別感を抱いているはずなのにさらなる存在に嫉妬心を抱いてしまっている自分がいるのだ。

 

 私達の知る先生もきっとご友人の前ではこんな砕けた口調なのでしょうね。

 

「どうした?」

 

「あ、いえ。なんでもありま--」

自分の言葉に蓋をしようとしたが、口が止まった。私はそのまま言葉を吐いた。

 

「すみません。◯◯君のご学友に嫉妬心を抱いてしまいまして」

 

「嫉妬?」

 

「◯◯君は、先生は私達生徒にとても優しく接してくれます。でもそれはあくまで生徒という線引きがあるからで、ご学友の前にいる先生がきっと本当の顔なんだなって」

 

「マジかよ。未来の俺って結構薄情?」

 

「いえ、決してそんな事は」

 私の言葉に◯◯君は眉間を顰めて、顎に手を添える。

 

「多分だけどよ。未来の俺。生塩達の事を雑に扱えないほど綺麗なものとして見てんだと思う」

 

「綺麗なもの」

 

「ほら、野郎同士なんて多少、雑なくらいがちょうどいいんだよ。その方が腹割って話せるし。でも年下の異性ってなると変わってくるんじゃねぇのかな? それに表面上の対応違うからって大切に思う気持ちが嘘ってことはないだろ?」

 

「それはそうですが」

 

「態度が違えど想う気持ちは同じだと思うぜ。じゃねぇと未来の俺が生塩にここまで好かれてる理由が見当たらねぇ。だからまぁ気にすんな」

 ◯◯君が私の肩を軽く叩いた。優しい言葉と配慮。先生はやはり先生だ。

 

「普段の先生なら頭を撫でてくれますよ?」

 

「おっ、お前な」

 

「ふふ,冗談です」

 ◯◯君が頬を赤くしながら、バツの悪そうな顔を作った。その顔はまさに私が知る先生そのものだった。

 

 

 

 日が暮れて、シャーレに向かって歩いていた。◯◯君は行きと同じく、ズボンに手を入れて歩いている。最初は動揺したその風体も今では板について見える。

 

 あと少しでこの人との時間が終わる。明日には元の先生に戻っている。嬉しいはずなのに心が晴れない。先生と◯◯君は同一人物だ。

 

 だけど同い年というだけでここまで距離を近くに感じれる。先生をもっと鮮明に記録出来る。◯◯君が同じ学園にいたのなら。先生が同じ教室にいたのなら。そんな不毛な考えが頭の中を巡る。

 

「あっ! そうだ」

 ◯◯君が何かを思いついたように目を見開いた。

 

「どうしたんですか?」

 私が尋ねると◯◯君が携帯端末を取り出した。

 

「写真撮ろうぜ」

 そう言って、◯◯君が私の肩に腕を回して、ピースサインを作った。普段の先生ならしないであろう行動との差もあってか、思わず笑みが溢れた瞬間、シャッター音が鳴った。

 

「これでもっと記録出来るだろ?」 

 

「はい。これでもう◯◯君の事を完全に記録しました」

 

「そっか!」

 私の言葉に◯◯君が白い歯を見せて笑った。 

 

 気がつくと私たちはシャーレに着いた。既に辺りの陽は落ちていた。

 

「そんじゃあ、生塩! またな!」

 

「はい! ◯◯君。また」

 手を振る彼に私は手を振り返した。彼はさよならは言わなかった。だから私も言わなかった。『またな』という言葉は会える可能性を匂わせる言葉だ。◯◯君は先生だから、間違ってはいない。

 

 でも、なんでこんなに虚しいんでしょう。胸に穴が空いたような気持ちを抱えながら、街頭が照らす帰り道を進んだ。

 

 

 

 

 

 

  一週間後、私とユウカちゃんはシャーレで先生の仕事を手伝っていた。先生の顔を見るたびに◯◯君の事が頭に過ぎる。

 

「◯◯君。少しお聞きしたいことが」

 

「えっ?」

 

「えっ?」

周囲の空気が固まった。同時に自分の失言に気付いた。

 

「しっ、失礼しました!」

 

「い、いいよ! ちょっとびっくりしただけ」

 いけない。私としたことが。

 

「ねぇノア。私が急用でいけなくなったあの日、何かあった?」

 ユウカちゃんが訝しげな表情で私を見る。

 

「い、いえ。何もありませんでしたよ」

 

「えー! 怪しい!」

 

「まあまぁ、二人とも」

 先生が私とユウカちゃんの間に入って、仲裁してくれた。

 

「絶対怪しいと思うんだけどなぁ」

 

「ノアだって疲れる時もあるよ」

 

「そ、そうですね」

ユウカちゃんが可愛い顔に眉間を寄せながら、席に戻っていく。先生も仲裁を終えて、私の横を通り過ぎて、席に戻ろうしていた。

 

 

 

 

「この前はありがとうな。生塩」

 

「えっ」

 

「さっ! もう一仕事頑張るか!」

先生が両腕を上げて、席に戻った。

 

 その日は全然、仕事に身が入りませんでした。

 


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