隣のクラスのルーザー 作:1ヘッドライト
「羽沢君って、面白いのね」
鈴の鳴るような声が聞こえた。
クラスの一軍の女子、喜多さんに褒められて、僕は舞い上がってしまった。
「あ、えと、そうかな」
照れて鼻をかく。
「うん。今の、思わず笑っちゃった」
今ではもう、どんな冗談を僕が言ったのか覚えていないけれど、そんな些細な一言で、僕は喜多さんに好意を抱いてしまった。
喜多さんの良いところは、他人を茶化さないことだ。
彼女が「面白いわ」と言った時、それは本当に面白く感じたってことで、裏で小ばかにしたりしない。
彼女のそんな素直なところが眩しくて、僕は無意識に目を細めた。
僕は、小さい頃からどこか抜けたところがあって、よく人から笑われることがある。
自分ではよくわからないけれど、たぶんちょっとした仕草や、勘違いや、失敗が、他人には間抜けに見えるのだろう。
それはそれで構わない。
僕がピエロとして他人が楽しんでもらえるなら、それはそれで長所になるわけだし。
いくら笑われたってかまわない。
けれど……。
「お前さ、調子乗ってね?」
クラスメイトの竹中君とあと数名に、昼休みに呼び出された。
「別に、調子に乗ってなんか」
「いや乗ってんだろ」
断定的に決めつけてくる。
「お前さ、笑ってもらって、自分がうまく面白いことやったとか思ってんだろ」
彼らが、喜多さんのことを指しているのは明らかだった。
「何にも面白くねーからな。気を遣われて優しくされてるっての、よく理解しとけよ」
そこまで言われると僕も腹が立ってくる。
「いや、別に、本当にわざと笑わせようとしたわけでもないから」
「あぁ? お前、先週、宿題忘れてきて、〝間違えて国語のノート持ってきました〟とか言い訳してたよな。あれとかもわざとだろ」
は?
と思った。
確かに、僕は自分が抜けていて、横にあったノートを間違えて持ってきたのだ。
その時も、喜多さんはくすくす楽しそうに笑っていたっけ。
僕は、単に恥ずかしかったけど。
「いや、わざとなんかじゃないよ。本当に間違えたんだ。持ってきていない以上、持ってくるのを忘れたという以外にないだろ」
「嘘つくなよ! 面白くねーんだよ」
竹中が、吐き捨てるように言った。
「もういいよ、お前、まじうぜー」
不当な言いがかりにすごく腹が立ったが、言い返せば言い返すだけ、さらに何か嫌がらせをされるかもしれない。
僕は、ぐっとこらえた。
僕が黙っていると、竹中たちは舌打ちしてどこかへ行ってしまった。
※
高校に上がってから、どうにもクラスに馴染めないでいる。
最初に述べたように、僕は昔からどこか抜けたところがあって、中学生の頃のクラスメイト達は、それを笑って許してくれていた。
ところが、高校のクラスメイト達は、なぜか、僕のちょっとした間違いが、癪に触ってしょうがないらしい。
間違いに対して、とんまだとか間抜けだとか言われる分には、事実だししょうがないのだが、先ほどのように、勝手な言いがかりをつけられることがある。
竹中君とか、一部の人間が主導しているのだと思うんだけど、声の大きい人が僕のことを、「わざと天然ぶって人気を取ろうとしているヤツ」と決めつけると、クラスの大半がその空気に従ってしまうのだ。
そういう意味では、僕のことを素直に笑ってくれる喜多さんは、ありがたい存在だけど、彼女が人気者であるがゆえに、僕がさらにやっかまれて周囲から逆恨みされてしまう。
「まったく、困った状況だ……」
僕は、ため息をついた。
高校生になって、親に無理やり頼み込んでようやく手に入れた自室のベッドに寝ころび、読み飽きた漫画のページをぱらぱらとめくる。
人気の日常アニメの原作漫画は、みんな仲が良くてキラキラしていて、現実と大違いだ。
中学時代は、そういうのに無邪気にハマっていたけど、最近はなんか、読んでいて馬鹿らしくなってしまう。
自分が体験している現実と違いすぎるからか、冷めた目で見てしまうのだ。
漫画を閉じ、ゲーム機をちらっと見たが、プレイする気にもならず。
ヘッドフォンで、音楽を聴いた。
90年代のオルタナティヴロック。
最近、そういうのを聞くと、妙にしっくりとくる。
汚い普段着の服装、歪んでひずんだギター、ヘヴィだけどメタルみたいに直線的じゃないひねくれた音像。
今の僕の気分に共感してくれているみたいに感じる。
クラスで、そういう話ができる友達もいないけれど。
※
そんな折、隣のクラスに、後藤さんって変な女の子がいることを知った。
なんか、ギターをもって学校に来たり、インディバンドのツアーTシャツを着てきたりするらしい。
へぇ、と思った僕は、少し興味を惹かれたけれど、女の子と話す機会なんてそうそうないし、クラスが違えばなおさらだ。
どんな子なんだろうな、とは思うけど……まぁ、接点はないに等しい。
※
「あっ」
か細い、虫が鳴くような声。
「え?」
思わず振り返ると、そこには、ピンク髪の女の子が。
少しうつむき気味で、顔が暗いけど、結構可愛い。
下校中だし、同じ学校の子だよな?
どうしたんだろう?
「あ、えと、そのっ」
なんかあたふたしている。
「な、なんでもありません」
思わずずっこけそうになった。
「そっちから声かけといて何にもないの?」
「あ、や、その」
ん?
「あ……スマッシングパンプキンズだなって」
「あぁ……」
驚いた。
僕がカバンにつけているキーホルダーが、サイアミーズドリームのあの天使のキーホルダーだったのだ。
「好きなの? スマパン」
「あ、いえ別に」
違うんかい。
「ただ、一応一通りいろいろ聞いてるので」
マジか。
すごいな。
「へぇ、スマパン知ってる子、初めてだよ」
「え、そ、そうですか?」
「うん。すごいね、好きでもなくてもいろいろ聞いてるなんて」
「いや、へへへ、それほどでも」
卑屈なのかドヤ顔なのかよくわからない謎な笑い方をする。
なんだろう、厄介なオタクを煎じ詰めたような雰囲気の女の子だな、顔は可愛いのに。
「え、えと、アリスインチェインズとか、レディオヘッドとかも一応聞きますよ」
おぉ、急に他にも洋楽知ってるアピールしてきた。
でもまぁ、その辺は僕も好きだ。
「いいね。僕は、REMとブライトアイズとBeckが特に好きだよ」
なんか、適当に洋楽の話をしながら下校した。
女の子は、後藤さんというらしい。
洋楽が好きというよりは、邦楽の流行りものを中心に、なんでも網羅的に聴いているみたいだ。
ってか、後藤?
「あ、もしかして君って」
「え、な、なんでしょうか」
「あ、いや」
奇行でちょっと有名な?とは言えないしなぁ。
僕がそう言われていたら、人から聞くと傷つくし。
「まぁ、その……ちょっと有名な?」
適当に濁していく。
「そ、そうでしょうか!?」
後藤さんが目を輝かせた。
有名になりたい欲でもあるんだろうか。
僕は苦笑した。
なんだかんだ言って、なつかれたというか、仲良くなった。
(たぶん続く)