異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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第2章 従者改革
11話 自業自得


 翌朝のこと。セシリーは目覚めた。朝と言ってもまだ陽が昇る前である。あまり良い目覚めではない。昨日、あのようなことがあったので無理もない。

 

 セシリーは頭を抱えた。気怠さがある。その中に、何かが思い返される。

 

 "‥‥‥な。――ごめんな‥‥‥"

 

 誰かに謝られている? いつの記憶だろうか。古すぎるのか、よく思い出せない。

 

 セシリーは首を二、三度振り、ベッドを離れた。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 午前八時。俺はソファーに寝転がっていた。一件が落着した翌日なので、もうダラダラする他にやることなどない。従者(メイド)にもきちんと言い聞かせたので、俺を注意する者など居ない。これぞ楽園、夢の国ぞ!

 

「――ヒロト様」

 

 悦に入る俺の愉快な心は、その一声で一気に現実に引き戻された。

 

 早いって。俺の夢滅びるの早い!! 俺まだ状況説明しただけだよね!? "あんなことがあったけど従者(メイド)が俺を注意する日常は続きます"ってか? そんな『ほのぼの、時々シリアス』作品のテンプレは求めてない!

 

「あのなぁ、何度も言うが俺は役目――」

 

 ソファーから起き上がって見ると、俺の目の前に立っているのはセシリーで、俺の名前を呼んだのもまた、そうらしかった。

 

 彼女はあまりに従者(メイド)らしくそこに居た。昨日の重傷が一切見当たらない。

 

「お前、昨日の傷は!? まだ半日も経ってないぞ!?」

 

「もう大丈夫です。昨日はご迷惑をおかけし、申し訳ありませんでした」

 

 深々と頭を下げるセシリー。

 

 もう大丈夫‥‥‥だと? え、そうなの?? ティアナは時間かかるって言ってたけど。半日足らずで完治するのって、時間がかかってることになるの‥‥‥?

 

 それに、いつもは散々俺を注意するセシリーが、今日は大人しい。

 

 いや、待てよ。やることはきちんとやるあいつのことだ。「謝罪は致しました。さぁ、役目をお果たしください」ってな感じの展開になるはずだ。そうはさせんぞ。オチに予め気づければ、落ちることなどない!

 

「お前さては、ここできちんと謝って昨日の件をチャラにしてから、また俺を注意しまくる算段だな?」

 

 ふっ。フラグは回収どころか、立てることすらさせない。お生憎様、俺は知能の高い人間という種族でね。魔族に俺のダラダラライフ、略してダライフは邪魔させないぜ。

 

「滅相もございません。私に貴方様を注意する権限などありません」

 

 セシリーは俺を注意するどころか、その権利を自ら否定した。‥‥‥ど、どういうことだ。まさか、俺は平和を手に入れたというのか?

 

 だって、注意されなければもう‥‥‥俺は‥‥‥自由じゃないか‥‥‥‥‥‥。

 

「ヒロト様」

 

「な、何だ?」

 

 自由になったという確証もない結論から俺の思考は停止しており、もうフラグやオチを読むことは不可能な状態だった。

 

「戦闘のご指導をお願いします」

 

 注意されること以外の、別の可能性を否んでいた。

 

「‥‥‥今、何と?」

 

 思考が停止していたのでよく聞き取れなかった。いや、或いは――

 

「戦闘のご指導をお願いします」

 

 その言葉を認めたくなかったのかもしれない。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 ――屋敷前の庭。

 

「という訳です」

 

「どういう訳だよ」

 

 俺は半ば強制的に庭に駆り出されていた。え? セシリーが口も聞かずにそんな無理強いをするはずがないって? それは真面目と従順とを履き違えてるぜ。

 

 セシリーからの要望。無論、俺は断った。だが彼奴(きゃつ)は何を勘違いしたのか。「取るに足らない、ということですね。ならば僭越ながら、認めていただけるまで攻撃を仕掛けさせていただきます」とか言って指揮の構えに入ったものだから。大慌てで屋敷を飛び出した次第である。

 

「貴方様は人間でありながら、他の幹部を凌いでおられました。私は貴方様をお守りするため、より強く在らねばなりません。ヒロト様、どうか私奴(わたくしめ)にご指導の程、よろしくお願い致します」

 

 はぁ、何ということだ。"俺が先の一件を落着させた"というのは、従者(メイド)らの在り方を変えるための脅し文句だったというのに。まさかそれで奮起させてしまうとは。

 

 セシリーのことだ。理由もなく断れば、あいつの謎解釈によって再び俺は命の危機に瀕することになるだろう。

 

 "俺は弱いから"というのは断る理由にできない。ダラダラするための従者(メイド)への脅し文句が有効であり続けるには、"俺が強い"という表面上の事実が不可欠なのだ。

 

 つまり俺はセシリーの要望を断ることができず、結果的に自らの手でダライフから遠ざかってしまったという訳だ。

 

 従者(メイド)の指導などできるのか、というのはこの際問題ではない。この身を完全防御できる以上、俺が怪我をする心配はないからだ。

 

 防御するのみで魔族相手に指導などできるのか、だって? 愚問である。なぜなら、俺はただ第三者の視点でコメントしていれば良いのだから。

 

 例えばテレビゲームをするとしよう。スポーツでも良い。他人がプレイしているのを見て、「そっちガラ空きじゃん」とか「そこはこうすれば良いのに」などと思った経験はないだろうか?

 

 岡目八目というヤツである。見ているだけなら実際に操作を行う必要がないので、その分の余力を使って、当事者よりも広い視野で状況を見極めやすいのだ。実際にやってみると難しい! という経験だってあるのではないだろうか?

 

 俺は境界壁(シールド)を展開して終わりなので、何もしなくていいのだ。第三者と何も変わらず、状況を見極めることができる。

 

 まぁそういう訳で、指導することに関しては大して問題ないのである。なので、つまり‥‥‥

 

「‥‥‥分かった分かった、ご指導ね。はいはい承りますとも。――但し時間を定める。それは厳守してもらうからな」

 

「あ、ありがとうございます‥‥‥!」

 

 ――どうやら神は、俺にダラダラさせる気など毛頭ないらしい。全くやれやれだぜ(言いたいだけ)。

 

 それにしてもセシリーの表情、なんか前より明るくなってないか? ‥‥‥いや、気のせいか。

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