異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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第3章 トランプをしよう!
16話 まずは神経衰弱! その一


「ふあぁぁっ‥‥‥」

 

 あくびをして、背伸びして。俺は木々の間隙から漏れる朝日に照らされる。ほどよく風が吹く。うん、気持ちいい朝だ。

 

「今日もダラダラ日和だな!」

 

 さて今日は何をしようか、と屋敷の方に踵を返すと、屋敷の窓の奥にセシリーが見えた。今日も今日とて屋敷の掃除に勤しんでいるようだった。

 

 確かにいつもピカピカだ。埃なんて欠片もない。けど、あれはやはり重労働な気もする。もっとのんびりしても良いと思うが、彼女らはそうしないだろう。せめて、何か息抜きでもさせてやれれば良いのだが。

 

「あいつら、学校を出てから遊んだこととかあんのかな‥‥‥」

 

 ふとそんなことを呟いた。従者(メイド)育成学校を訪れた時、生徒らは間違いなく無邪気に笑っていた。遊んで楽しくないはずがない。ティアナとセシリーに、そんな時間があっても悪くないのではないか。

 

 ――そうだ、そうしよう! ティアナたちに遊びを教えて、無邪気なかつてを思い出させよう。それであいつらの心の負担を少しでも軽減できるかもしれない。あいつらの明るい思い出作りになるかもしれない。そして何より――

 

「俺のダライフに、より磨きがかかる!」

 

 期待に胸を踊らせ、俺は屋敷の扉を開けた。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 俺たちはリビングのテーブルを囲っていた。セシリーが厚紙を手に持って、尋ねる。

 

「厚紙をご用意致しました。一体何をなさるのですか?」

 

「良い質問だ。これからやること、それはトランプだ!」

 

 ――俺が手始めに教える遊びはトランプだ。

 

 それさえあれば簡単にできて盛り上がるテーブルゲームの定番だ! 俺もガキの頃はしょっちゅうやってたなぁ。あぁ、懐かしい、あの世界の思い出の一つ。これを今、ここによみがえらせる!

 

 この世界に来てからトランプという言葉は一切聞いていなかったが、案の定、セシリーたちもトランプを知らないようで、首を傾げている。

 

 良いぞ良いぞ。元居た世界の今どきの子供たちは最新型のゲーム機ばかりでトランプなんか見向きもしないだろうなぁ。だが遊びを知らない奴からしてみれば、トランプなんて画期的すぎる。セシリーたちの反応が楽しみだ。

 

「とりあえず、これくらいの大きさに切り分けてくれ」

 

 俺は厚紙を指でなぞりながら示した。するとティアナはポケットから紙に包まれた何かを取り出し、その紙を剥いだ。

 

「では私が」

 

 そうして笑顔で、高速で手を動かした。軽く風が起こる程度の速さだったか。そして気づけば、厚紙がきれいに切り分けられていた。手に持っていたのはナイフだったのだ。

 

「さ、さすがだな‥‥‥」

 

「痛み入ります」

 

 先ほどまで厚紙の上にあった指が震える。ティアナの器用さはすごいけど怖いわ‥‥‥。

 

 俺は筆を握ると、真っ白なカードの一枚にスペードのマークとアルファベットの"A"を書き入れた。見慣れないであろうセシリーは目を丸くしていた。想像以上のリアクションだ。

 

「まさか‥‥‥、禁忌の術式を完成させるのですか?」

 

「何その恐ろしい言葉。初耳なんだけど」

 

 こいつは俺が何をすると予想したのだろうか。世界征服?

 

「こんな感じでどんどんカードに書き込んでくれ」

 

 スペード、クローバー、ハート、ダイヤの形を見せ、すべてのカードに書き入れるよう指示した。この世界も数字とアルファベットは同じものを使う――というよりは、俺がこの世界の言語を理解できるのと同じように、文字なども脳に届くまでに変換されているのだ。俺の文字の情報は、セシリーたちにはこの世界の文字に置換されている。

 

 異世界から来た俺は異端な存在で、強制的に理に合わせられているのだ。実に都合が良い。

 

 そうして、俺たちはトランプを作っていった。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 さすがにセシリーたちは手際が良く、すぐにジョーカーを含めた五十四枚のカード――トランプが完成した!

 

「ではどこから攻め落としましょうか」

 

「違うからね? 術式じゃないからね?」

 

 セシリーは俺のことを破壊神か何かと勘違いしているようだ。それはさておき、まずは何をしようか。

 

 あまり凝った内容のものは難しいだろうから、シンプルなのが良いな。とすると‥‥‥

 

「神経衰弱からやってみるか」

 

「なるほど。相手を精神から朽ち果てさせるのですね。素晴らしいお考えと存じます」

 

「俺が獲得技能(アッドスキル)持ってないことを知ってて馬鹿にしてるのか」

 

「滅相もございません」

 

 セシリーは無表情で頭を下げた。セシリーってこんなに鋭いボケをするキャラクターだったっけ? それとも本当に勘違いしているのか。頭の中が戦闘でいっぱいなのかもしれない。待ってろ、俺がトランプという遊びでお前を楽にしてあげるから。

 

「して、その神経衰弱というのは、どのようなものなのですか?」

 

 ティアナが訊いてくれた。さすがに彼女は大人びている。何かと空気を読むのが上手い奴である。

 

「まずは、カードを裏返しにしてこういう風に散らすんだ」

 

 俺はトランプを裏返しでテーブルの上にばらまいた。

 

「で、二枚のカードを選び、数字を確認する。それが同じ数字ならそれらのカードを回収し、また新しく二枚を選ぶ。違う数字なら、裏返しにして元に戻し、他の人に順番が回る。最後にカードを一番多く持っていた人が優勝だ!」

 

 さぁ盛り上げていくか!!

 

「‥‥‥それで、何ですか?」

 

「えっ‥‥‥」

 

「「‥‥‥」」

 

 

 

 ――あれ、何この空気。冷たっ‥‥‥。俺はゲームの内容を一通り伝えたはずなのだが‥‥‥。セシリーはそれで何なのか、と問うた。俺は何か伝え損ねているのだろうか。

 

 あぁ、そうだ。大事なことを伝えていなかったな。これからやるトランプってのは――

 

「トランプってのは遊びだ!」

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