異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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19話 ババ抜きで今度こそ! その二

 セシリーはヒロトの手札をじっくり睨んだ。カードが多い上にジョーカーまで持っているのだから状況はとても芳しくない。しかしセシリーは捉え方を変えた。今、ジョーカーを持っているのは自分であり、相手の手札を恐れる必要はない。枚数が多いので、ペアが揃う確率も高いはずである。逆転なら十分に可能だ。

 

 セシリーの目つきが戻った。冷静さを取り戻したのだ。状況が一つも変わらない中でのそれだったのでヒロトは、セシリーが何かしらの策を思いついたのだろうか、と考えた。

 

 セシリーはヒロトのカードを無作為に選び取った。

 

「同じ数字です。除外します」

 

 セシリーの手札から二枚が抜き取られた。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 しばらくが経った。セシリーとティアナは元々の手札が多かったこともあり、カードを引くたびに同じ数字を当て、カードを減らしていた。

 

 あれ、おかしいな‥‥‥。ヒロトはそう感じていた。彼の手札は、四枚。ゲーム開始から一枚として減っていないのである。

 

 しかし彼はまだ諦めていない。いや、諦めるどころか、依然として勝てると考えている!

 

 ――大丈夫だ。セシリーとティアナのカードが減っていくのは、元の手札が多かったから当然のこと。自分の手札が減らないのは元の手札が少なかったから当然のこと。何も慌てることはないじゃないか。現時点で、セシリーやティアナとの枚数差はようやく近しくなっている。ここまで盤面が整ってから初めて、戦いの幕は切って落とされるのである。そして――

 

「ヒロト様、どうかなさいましたか?」

 

「えっ」

 

 思案に耽っていたヒロトに、ティアナが声をかけた。

 

「い、いや。なんでもないが」

 

「ヒロト様の番でございます」

 

 ヒロトは自分の順番であることを忘れるほど、思案に必死だった。実のところ彼は焦っている。また負けるのではないか? と。その不安を払拭するために、自らを説得し続けていた。

 

 心配することはない。大丈夫だ、大丈夫だ。ヒロトは自分に言い聞かせる。

 

 そして固唾を呑み込み、ティアナの手札からカードを一枚、掴んだ。

 

 大丈夫、大丈夫だ。何より俺は、敗北条件であるジョーカーを持っていないじゃないか!

 

 それに気づくと、ヒロトは安堵してティアナから取ったカードをめくって見た。

 

 ――彼の考える通り、カードの枚数が近くなったこれからが、勝負の始まりであり、ましてやヒロトが負ける根拠などどこにもない。それでもヒロトが敗北を危惧する理由。それは――

 

 ヒロトは目を丸くした。

 

 

 

 彼が引いたカードは、ジョーカーだった。

 

 

 

 彼が敗北を危惧する理由。それは――――――――この世界がテンプレに忠実だから。"散々に傲っていたヒロトが負ける"というシナリオが、不覚にも彼の脳裏を(よぎ)っていた。

 

 

 その後もヒロトのカードは一向に減らず。なんとかセシリーにジョーカーを取らせようと試みるが、手札の中でジョーカーだけを少し突出させても、手札の端に配置しても、セシリーがジョーカーを選ぶことは決してなかった。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 ――終盤である。セシリーは極めて慎重にカードを選んでいた。彼女の勝利に対する執着心は凄まじい。この戦いをヒロトからの試練だと勘違いし続けているのだ。勝てばより高度な指導をしてもらえる。そのために彼女はババ抜きに必死になっている。‥‥‥無論、ヒロトにそのような意図はない。

 

 セシリーの手札は残り一枚。次の一手で終わらせなければ、ティアナに抜け駆けされる可能性が高い。

 

 セシリーはヒロトの手札を一枚一枚丁寧に見ていった。それでどのカードがどの数字であるかなど分かるはずもない。しかし、一つだけカードを特定できている。それはジョーカーである。セシリーは最初にジョーカーを手札に持って以来、ジョーカーの位置を正確に捉え続けていたのだ。

 

 セシリーにとってこの一手は、今後のヒロトへの印象を大きく左右する(と勘違いしている)。故に、運頼みだとしても慎重であった。

 

 一方、ヒロトはいかにしてジョーカーを取らせるかを思案していた。セシリーはどういう強運の持ち主なのか、四分の一の確率で引き当てるはずのジョーカーを一度も引いていない。

 

 なのでヒロトは、あえて別のカードを突出させ、ジョーカーには何も施さなかった。この一手にかかっている。

 

 二人はいよいよ覚悟を決めた。

 

 セシリーは一思いにヒロトの手札に手を伸ばした。そして、一枚のカード――運命を決めるカードを、手にした――――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やった‥‥‥!」

 

 その可愛らしい声は、セシリーのものだった。セシリーは手に握った二枚のカードをテーブルに置いた。セシリーの勝利である。

 

 ヒロトの目は死んでいた。口から魂が抜け出しそうな脱力の具合である。

 

「――ヒロト様、次は私の番です」

 

 ティアナの優しい声。まだ戦いは終わっていないと、ヒロトの中の一つの意思が訴える。それが、彼の目に再び光を宿した。

 

「そうだ、勝負はこれからだ!!」

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

「これで私も手札がなくなりました。終了でしょうか」

 

 ヒロトは負けた。神経衰弱に続き、またも最下位である。

 

「ま、まだだ‥‥‥」

 

 彼はボサッと呟いた。セシリーとティアナは首を傾げた。

 

「トランプをマスターしたというにはまだ早いぞ。――スピードだ。‥‥‥スピードで決着を着けようじゃないか!!!!」

 

 スピード。場にカードを指定枚数置き、隣り合う数字のカードを次々と重ねていくゲーム。瞬発力と判断力を必要とするこのゲームは、純粋な記憶力や高度な思考で勝てるものではない。その名の通りスピードを求められるこのルールであれば――――!!

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 ヒロトは普通に負けた。

 

 

 

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥トランプなんて止めた止めた! ダラダラしておくのが一番なんだ!」

 

 ヒロトはカードをテーブルに投げ置き、ソファーにダイブした。

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