異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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38話 抜かずの剣士

 -アーベル一行-

 

 兵士らを待たずに進んでいたアーベルは、ようやく足を止めた。不死兵(アンデッド)の群れがこちらに近づいてくるのを確認したからである。

 

 足元は依然として鋭く尖った岩で覆われていた。不死兵(アンデッド)はそれをどうしようということもなく、掻き分けながらゆっくりと進んでいた。彼らはないはずの(まなこ)で、アーベルではなくどこか遠くを眺めていた。

 

 カラカラと鳴り響く不死兵(アンデッド)の骨の音が聞こえながら、アーベルは考えた。

 

 やはり何者かがこの不死兵(アンデッド)の軍勢を動かしているのか。しかし、だとすれば敵は相当な手練れであることが窺える。これだけの数の不死兵(アンデッド)を操れる者など、そう居ないはず。

 

「だが‥‥‥まあ。だからどうということはない」

 

 アーベルはそう呟いた。

 

 そして、兵士らがアーベルに追いつくことができた。

 

不死兵(アンデッド)の軍勢だ!」

「よーし戦闘だ、アーベルさんよ!」

 

 兵士らは岩に絡まり不格好ながらも、不死兵(アンデッド)の軍勢に気づくや否や一同に剣を抜いて剣先を不死兵(アンデッド)の軍勢に向けた。

 

 ところが、アーベルは臨戦態勢に入ってはいなかった。ただ鋭い岩の頂点に足を置いて直立していた。なので兵士らはざわつき出した。

 

「何突っ立ってるんだアーベルさん!」

「どうして剣を抜かないんだ!?」

 

 そんな疑問が飛び交っていた。

 

「この程度なら、俺が出向く必要はない」

 

 このアーベルの答えに、兵士らは一瞬静まり、しかしまた一層に煩くなった。

 

「あんたそれでも勇者一党の剣士かよ!」

「団結力のないやつなんざ放っておこう!」

 

 兵士らはアーベルを他所(よそ)に、不死兵(アンデッド)の群れに向かっていった。アーベルはため息をついた。

 

「黙ってついてきたり騒いで勝手に行ったり‥‥‥。忙しい奴らだ」

 

 勇者に頼らず自分たちで不死兵(アンデッド)を討伐しようとする兵士らだが、アーベルにとって、今はその方が都合が良い。緊急時のことを考えれば、今のうちに兵士らに頑張ってもらうのが一番だった。

 

 無論、アーベルは意図して兵士らを騒がせた訳ではない。

 

 ――兵士らは不死兵(アンデッド)の軍勢と戦闘を開始した。

 

 不死兵(アンデッド)の焦点は全く兵士らに合っていない。しかし、操り人形のように兵士らを攻撃していた。鎧をまとっている兵士らは、それを物ともせずに剣で不死兵(アンデッド)を斬りつける。

 

 骸骨の大部分を斬られた不死兵(アンデッド)はいよいよ絶命していく。生半可なダメージでは不死兵(アンデッド)は倒せないので、兵士らには攻撃し続ける体力と精神が求められる。

 

 そういう点でも、兵士らが躍起になって不死兵(アンデッド)を討伐しようとするモチベーションはとても効果的であった。

 

 戦闘の様子を眺めるアーベルは、ようやく動き出した。

 

地図展開(マッピング)

 

 アーベルの目の前に、岩山一帯のマップが立体的に表示された。

 

「《索敵(サーチ)》、"不死兵(アンデッド)"」

 

 マップ上に、大量の赤い点が現れた。獲得技能(アッドスキル)、《索敵(サーチ)》。対象の位置を大まかに探ることができる技能(スキル)である。アーベルは《地図展開(マッピング)》と組み合わせることで、索敵の具体性を向上させた。

 

「これは俺の戦いじゃない。‥‥‥《威嚇(スケア)》」

 

 アーベルは何か自分に言い聞かせるように呟くと、また獲得技能(アッドスキル)を唱えた。途端に不死兵(アンデッド)の動きが鈍くなった。《威嚇(スケア)》は、使用者より戦闘力が低い対象のステータスを僅かに低下させる獲得技能(アッドスキル)である。兵士らは気がついていないようだった。

 

 このまま何事も起こらなければ、後は兵士らの体力勝負だ。そんなことを思いながら、アーベルはマップを眺めていた。

 

「――おりゃあ!」

「くたばれぇ!」

 

 兵士らは声を張り上げながら剣を振るっていた。だんだんと岩山の環境に適応してきた兵士らは、不死兵(アンデッド)より有利に戦えていた。彼らには会話する余裕すらあった。

 

「あの男、本当に剣士か?」

 

「それもただの剣士じゃない。"王国最強"との称号すらあるらしいが‥‥‥とても信じがたいな」

 

 兵士らの話題は、アーベルのことであった。

 

 王国最強の剣士、アーベル。彼はユリウスが勇者となる以前から勇者一党に属しており、当初より市民からは"最強"と謳われていた。

 

「だがそれは曰く付きだろう? 皆が最強と謳うその剣を、誰も見たことがないと聞くじゃないか」

 

「確かに。今回だって戦っていないしな」

 

「さてはそういうことか‥‥‥」

 

「うん? どういうことだ?」

 

 一人の兵士が、ある考察にたどり着いた。

 

「あの男、親のコネか何かで勇者一党の一員となったんだろう!」

 

「――なるほど! それで弱いのでとても戦えないということか。ただのインチキ野郎じゃないか!」

 

 アーベルの素性を確信した兵士らは、"無能に従わされている"ことへの怒りも相まって、さらにモチベーションが上がったようだった。

 

「あんなヤツの力なんか借りずとも、不死兵(アンデッド)を撃退してやるぞ!!」

 

「「おぉ!!」」

 

「我らの勇ましさこそ正義だ!!」

 

「「おぉ!!!!」」

 

「剣を抜けない剣士など、剣士にあらず!!!!」

 

「「「うおぉぉぉ!!!!!!」」」

 

 

 

 "剣を抜けない剣士など、剣士にあらず"

 

 アーベルには兵士らの声がよく聞こえていた。

 

「剣士にあらず、か。ずいぶんと飛躍した思考だが、戦えるのであればそれでいい。俺はやるべき時にやるだけだ」

 

 アーベルは鋭く尖った岩の頂点に、一人立ち続けていた。

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