異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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4話 俺の決意

 俺は境界壁(シールド)を解除した。俺を取り囲むのは、ズタズタに刻まれた三首獣(ケルベロス)の死骸。鼻の先にツンとくるような生臭さが尋常ではない。

 

鼻を強く押さえながらセシリーに目を向ける。

 

「随分と盛大に殺ったな‥‥‥」

 

「ヒロト様が戦えないのが悪いのです」

 

目を瞑りながらプイとそっぽを向くセシリー。

 

「俺のせいなの‥‥‥?」

 

 かく言うが恐らく今のは、俺に自分の実力を見せるためにやったのだろう。"私はあなたよりできる子です"っていうアピール。そんな事しなくたって、セシリーが俺より強いことは分かり切っていたというのに。

 

 とにもかくにも、俺が戦闘系の獲得技能(アッドスキル)を会得できる可能性がないことは分かってもらえただろう。セシリーがこちらを見てきたので、俺は自慢気に腕を組んだ。

 

「‥‥‥ええ分かりました。獲得技能(アッドスキル)の会得は諦めましょう」

 

 セシリーは呆れ顔だった。

 

「賢明な判断、どうもありがとう。それに、セシリーほど強い従者(メイド)が二人も居れば、ここは安全みたいだし」

 

 俺は笑むが、セシリーは首を横に振った。

 

「私の自然技能(ユニークスキル)は《狂想曲(キリングリズム)》。一定範囲を酷く刻む荒業ですが、何にでも強力という訳ではありません。これはティアナも同様です」

 

 俺は首を傾げた。それのどこが強力じゃないと言うのだろうか。攻めてくる相手といえば、勇者を筆頭とする人間が普通だろう。刻まれたら堪ったものじゃない。ティアナだってすごい自然技能(ユニークスキル)獲得技能(アッドスキル)を持っているはずだ。

 

「くれぐれも油断なさらないよう、お願い致します」

 

ふざけているとは到底思えない真剣な表情のセシリー。

 

「お、おう‥‥‥」

 

 俺が油断しようがしまいが、変わることじゃないのだろうけれど、反射的に反応してしまった。

 

「帰りましょう、お夕食の準備がございますので」

 

「‥‥‥ああ、そうだな」

 

 こうして俺たちは、屋敷に戻るのであった。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 俺は驚いた。なぜなら――

 

「お帰りなさいませ」

 

 ティアナが出発時と全く同じように、玄関に行儀良く立っていたからだ。それも、笑顔を絶やさずに。

 

「お前‥‥‥、今の今までずっとそこに立っていたのか?」

 

「まさか。鑑定技能(スキル)でヒロト様のお帰りを感知致しましたのでお出迎えをと。私奴(わたくしめ)が仕える幹部様にご不快を与えないよう尽くすのが従者(メイド)の務めですので、お許しください」

 

機械なのかってくらい綺麗に頭を下げるティアナ。

 

「あ、あぁ‥‥‥」

 

 忠誠心に対するその笑顔が少し怖くも感じたが、その一方で俺は感心した。ティアナの言う鑑定技能(スキル)というのは、獲得技能(アッドスキル)のことなのだろう。自らが仕える幹部のためにわざわざ会得したのだろうか? そうならば、自分の身ごと主に捧げているということだ。

 

 そうでないにしても、会得している獲得技能(アッドスキル)を日常の中に器用に組み込んでいることになる。傲っていないのが何よりの証拠だろう。

 

 敵対する人間であり、あまつさえ何もできない俺が空席となった幹部に就任させられて、こいつらは相当不満のはずだ。それでも(おの)が役目を全うしている。行動が完璧だ。

 

 セシリーは"魔王様の命令だから"と言っていた。魔王が命令すれば、あの従者(メイド)らは死ぬことだってきっと厭わないのだろう。忠義が半端ではない。

 

 魔王軍幹部‥‥‥。俺には想像以上に疲れる役職みたいだ。

 

「私どもはお夕食の準備に取りかかりますので、ヒロト様はごゆっくりお待ちください」

 

 ティアナは俺を居間へと促した。俺は頭を掻きながら、それに従った――。

 

 

 ――キッチンにて。調理をするティアナとセシリー。

 

「それでセシリー。ヒロト様のご様子は如何だったの?」

 

「ええ、本当に守りしかできていませんでした。筋力も低いです。戦闘系の獲得技能(アッドスキル)を会得するのは困難でしょう」

 

 セシリーはため息をついた。

 

「そう落ち込むことはないわ。きっとヒロト様にはすごい力があるのよ」

 

「あの方のステータスを鑑定してみましたが、本当に自然技能(ユニークスキル)しか持っていなかったのですよ?」

 

「魔王様が何のお考えもなしに、人間を幹部として務めさせるはずがないでしょう?」

 

 その言葉にセシリーはしばらく黙った。確かに、これは魔王様のご命令だ。あの日、あのようなことがあって、悪しき人間を幹部として据えることなどあり得ない。何か理由があるのだろうが、ヒロトはあまりに弱すぎる。

 

「そうですけど‥‥‥、(にわか)には信じられませんね」

 

 

 

 

 ――俺はまた、ソファーに寝転がっていた。やはりこれが一番だ。前世の当時は、もうこれほどのんびりする日は来ないだろうと思っていた。だが俺は今、居間でのんびりしている。あ、ダジャレのつもりで言った訳じゃないからね? シンプルに素直な気持ちね。

 

 異世界に来てからの三年間だって、まぁワクワクしてたのは確かだよ? でも、さすがに疲れてしまった。修学旅行だって三泊四日程度なのだから、三年間なんて飽きてもおかしくない。そりゃあ、こういうのんびりを求めるさ。

 

「ヒロト様、お夕食の準備が整いました」

 

 ティアナが俺を呼んだ。俺はゆっくりと起き上がって食卓へ向かう。

 

――すると待っていたのは、あまりに豪華なdinnerだった。

 

 皿が数えて二十枚くらいありそうだ。サラダにスープに肉にケーキに‥‥‥。あれ? 宴でも始まるんですかねこれ?

 

「今日って何かの記念日だっけ?」

 

「ごく普通のお夕食にございます」

 

 淡々と答えるセシリー。俺は苦笑い。これが日常なのか。やはりかなり疲れそうだが‥‥‥ダラダラできればそれで良い。

 

 異世界転生から三年。人間だけど、俺は魔王軍幹部としてダラダラしてやる!!

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