異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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40話 万能な獣人

 

 

 

 

 ――――しばらくの沈黙。‥‥‥正確には、彼の言葉に俺が反応できていないだけなのだが。

 

「‥‥‥は?」

 

 ‥‥‥すまない。これだけのシンキングタイムを挟んでも、俺にはこの疑問符を浮かべることしかできなかった。

 

「ここで働かせてくれ!!」

 

「そうじゃないっ! 聞こえなかったんじゃなくて、意味が理解できなかったって言ってんの!」

 

 もしかしたら俺、このターギーとやらのキャラクター分かってきたかも。

 

 ――それはともかく。新任幹部を見に来たでも、攻略しに来たでもなくて安心した。しかし‥‥‥

 

「ここで働きたいってどういうことだよ? 魔族でもないのに、魔王軍として働くってのか?」

 

「そう! 俺はここで働きまくりたい!」

 

 両手を掲げて叫ぶターギー。意味が分からない。

 

「ずいぶんと変わった奴だな‥‥‥」

 

 他種族の元で働く勇気があるとは。けど、そういえば俺も魔族じゃなかったわ。どうにもやる気満々なのは間違いないようなんだが。

 

「何か目的があるんだろう?」

 

 そう問うと、ターギーは急に穏やかな表情になって、視線を落とした。

 

「‥‥‥まぁな」

 

 どうやら深い事情があるらしいな。わざわざ魔王軍幹部の元で働く覚悟をするくらいだ。相手は魔王軍。余程強い思いがあるに違いない。何の考えもなしにここを訪れる奴なんざ、ヘルブラムだけだろう。

 

「で、お前の目的ってのは一体――」

 

「金」

 

 

 

 

 

 

 ん?

 

 

 

 

 

 

「お前の目的は――」

 

「金」

 

 

 

 

 

 

「目て――」

 

「金。‥‥‥俺はとにかく金が必要なんだ。一生遊んで暮らせるような大金を、なるべく早く手に入れたいと思っている!」

 

 ‥‥‥‥‥‥どうやら今回も例外なく、とんでもなく変な奴がここに導かれたらしい。

 

 俺は一つため息をついて、状況を冷静に把握し直した。ターギーはここで働きたいと言っている。しかしどう考えても普通の思考は持ち合わせていない。

 

 なので、結論としては丁重にお断りしたい。

 

「‥‥‥金を受け取るってことは、それ相応の働きが必要ってことになる」

 

「ああ」

 

「ウチにはかなり優秀な従者(メイド)が二人も居る。半端な能力ではお前の居場所は保障できない」

 

「もちろん」

 

 という訳で。

 

「これから君の実力を確かめさせてもらおう」

 

 お手並み拝見ってヤツだな。これで適当に相手して、理由をつけて追い返せば事は済む。俺のダライフを(おびや)かす輩をここに置いておく訳にはいかない。それに、これ以上変なキャラクターを許容できるほど、俺の心は広くないのでな。

 

「望むところだ!」

 

 さて、ターギーには気の毒だが、まぁ頑張ってもらおうか。そして言い渡そう。不合格を――――

 

 

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 

 

「――合格! 最高だよターギー君!! 君こそこの屋敷に必要な存在だ!!!!」

 

「ああ、精一杯働かせていただこう!!」

 

 なんとターギーはいとも容易く俺を満足させてしまった。

 

 煩くない環境、ダラダラするのに適切な温度調整、一切監視を行わないストレスフリーな振る舞い。そして俺の時々の要望にも完璧に対応してくれる。獣人にこんな才能があったなんて知らなかった。

 

 彼が居れば、ダライフを邪魔する理不尽な神が相手でも、俺は戦うことができる!!

 

 そんなこんなで俺は、あっという間に数時間を過ごしてしまっていた。

 

「本来時間が長く感じるはずのダラダラを、あまりに快適過ぎて短く錯覚させる実力。もはや恐ろしいな‥‥‥」

 

 ターギーは爽やかに微笑んだ。

 

「金のためさ!」

 

 爽やかに言うことかね、それ‥‥‥。

 

 ――――あれ? 俺はふと、懐中時計を確認した。そういえばティアナたち、ずいぶんと遅いな。そう時間はかからないとは言ってたんだが‥‥‥。何かあったのだろうか。

 

 まぁ不死兵(アンデッド)はそんなに強くないらしいし、あいつらはとても強いので心配は‥‥‥ないか。

 

「表情が暗いけど、どうかしたのか?」

 

 ターギーが尋ねた。どうやら観察力も鋭いらしい。

 

「あぁ、まあ。従者(メイド)が外に出てるんだが、帰りがやけに遅くてな‥‥‥」

 

 何だろう。少し、イヤな予感がする。

 

「それなら、俺が様子を見てこよう」

 

 ターギーはさらっとそんなことを言った。

 

「"見てくる"って‥‥‥、明確にどこかは分からないし、そんなに近くもないと思うぞ?」

 

 俺の言葉に、ターギーはガッツポーズで応えた。

 

「俺は獣人。力や体力には自信があるんだ! どうか任せてくれ!」

 

 なんでもできるヤツなんだなぁ。これは心強い。‥‥‥と、感心してる場合じゃないよな。

 

 どうにもよく分からない、モヤモヤした懸念が残っているが、あまりのダラダラっぷりに感覚が麻痺しているのだろう。ここはターギーに任せるとするか。

 

「じゃあ、ターギー。頼んでも良いか?」

 

「お安い御用だ!」

 

 俺はターギーにティアナたちが向かった方角を伝えた。

 

従者(メイド)たちは、こっちに進軍してるっていう不死兵(アンデッド)を掃討しに行っている。名前はティアナとセシリー」

 

「ティアナとセシリーだな。よし、把握した!」

 

 今日出会ったばかりだってのに、すごく協力的な獣人だ。それに能力値もかなり高い。この仕事も完璧にこなして戻ってきてくれるだろう。

 

 ターギーが、玄関のその向こうへ歩いていく。

 

 ――――その瞬間、いくつもの思考が頭を(よぎ)った。

 

 "不死兵(アンデッド)が進軍している""何らかの原因がある""俺が狙われてる可能性は否めない""生命を無差別に攻撃し、繁殖していく""森の生態系を崩しかねない"

 

 突然、"凄まじい何か"に不安を煽られた。悪寒が走る、というのだろうか。とにかく俺の本能が、このままではまずいと脳に訴えた。

 

「ちょっと待ってくれ」

 

 俺はターギーを止めた。何事かと、ターギーがこちらを振り向いた。

 

「俺も一緒に行く」

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