異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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42話 目的の一致

 アズサは全身が緊張するのを感じていた。

 

 以前、この森でユリウスが対峙した魔王軍幹部の一人。映像越しでしか見ていないアズサには、ヒロトがどんな能力を持っているのか分からない。ユリウスは"弱すぎる"と言ったが、自信過剰な彼の言葉を信じることなどできない。

 

 もし仮に自分より弱かったとしても、今の状態では戦闘するどころか、逃げることすらできないだろう。

 

「お前、何者だ?」

 

 ターギーが問うた。アズサは額に汗を流す。

 

 適当に嘘をついて、場を乗り切るか。本当のことを話して、見逃してもらうか。とにかく、"魔王軍幹部を攻撃する意志はない"ということだけは伝えなければならない。

 

「‥‥‥ウチが何者かは論点じゃないはずだ。知りたいのは目的だろう?」

 

 アズサはあくまで冷静に振る舞おうとした。動揺を見せて疑われてしまうことを避けるためだった。

 

 ターギーの表情は険しくなった。

 

「自分の現状を弁えてないようだな。お前はここで――」

 

「ちょっと待てターギー」

 

 ヒロトがターギーを止めた。

 

「相手はいかにもか弱そうな女の子だぞ? 少し当たりが強すぎるんじゃないか?」

 

「だが人間は魔術や剣術を使う。老若男女では判断できない!」

 

 ターギーは、少し自棄(やけ)になっていた。ヒロトはそれを察しつつ、説得しようとした。

 

「まぁでも既に彼女ヘトヘトみたいだし、大したことはできないだろう。それに、ここら辺で人間っていえば、レグリス王国くらいだ。特定する必要はない」

 

 ターギーは黙った。

 

 アズサには口を挟む有余などなかった。下手なことをすれば最悪、殺されることすらあり得るからだ。

 

 魔王軍幹部がどうするのか‥‥‥。

 

「なぁ、ここに来た目的だけ教えてくれ。俺達も今暇って訳じゃなくてな。お互いに害がなければ、それが一番だろ?」

 

 ヒロトは尋ねた。

 

 どうやら幹部の方に敵意はないらしい。それに目的を告げれば、怪しまれることもなくなるだろう。

 

 アズサはヒロトの質問に正直に答えた。

 

「この森に、不死兵(アンデッド)が近づいている。それを阻止するために来た」

 

 これを聞いたヒロトは目を見開いた。

 

不死兵(アンデッド)だと!? おい、不死兵(アンデッド)のこと何か知ってるのか!?」

 

 突然ヒロトが形相を変えて前のめりになるので、アズサは思わず後退りした。何かまずいことを言ってしまったのだろうか。自分の言葉を振り返るが、心当たりはない。

 

 すぐにヒロトは我に返った。

 

「‥‥‥すまない、取り乱した。今、俺の従者が不死兵(アンデッド)と戦っている。なぜ不死兵(アンデッド)の軍勢がこっちに進軍しているのか分からない状況だ。もし何か知ってることがあるなら教えてほしい」

 

 それでもヒロトは必死のようだった。それでアズサは理解した。

 

 魔王軍幹部も不死兵(アンデッド)と対峙している。現在、アズサと幹部の目的は重なっているということ。

 

 アズサは、自分の考察をヒロトに話した。

 

 

「――なるほど、大体分かった。俺を狙ったその何者かが上位不死兵(アンデッド)とやらを故意に作れるほど繊細な操作(コントロール)が可能なら、ティアナたちが手こずるのも頷ける」

 

 ヒロトは自分の懸念に合点がいった。

 

「だから奴らが融合する前に、事を‥‥‥終わら、せなければ‥‥‥」

 

 アズサは言い終える前に倒れてしまった。先ほどの激しい緊張で体力を余計に消耗してしまったのだ。ヒロトは即座に駆け寄った。

 

「おい! どうした!?」

 

 ヒロトがアズサの上体を抱えようとするが、アズサは脱力し切っていた。ターギーはそれを黙って見ていた。

 

「ここに来るまでに魔力を使いすぎた‥‥‥。しかし、ここで倒れる訳には‥‥‥!」

 

 自分にはまだやることがある。森を攻める不死兵(アンデッド)を倒し、王国へ戻り、ユリウスたちや兵士らを助けなければならない。こんなところで大人しく眠っている暇など――

 

「‥‥‥お前も何かと大変そうだな」

 

 ヒロトはアズサの焦燥の眼差しを見て言った。

 

「王国の方にも不死兵(アンデッド)は進軍してるみたいだし、(こっち)のことは俺らに任せて、あんたは王国に戻った方が良い」

 

「けど奴らの数は‥‥‥!」

 

「大丈夫大丈夫、何とかする。自己紹介が遅れたけど、こう見えて俺は魔王軍幹部なんだ」

 

 ヒロトの言葉を聞いたアズサは、何か妙な感覚を覚えた。それが何かを理解する前にヒロトは立ち上がった。

 

「よし行くぞ、ターギー」

 

「‥‥‥ああ」

 

 そうして魔王軍幹部はあっさりと去ってしまった。アズサの身体中を走っていた緊張が一気にほどけた。

 

 それにしてもこのなだらかな感覚は、一体‥‥‥。

 

「‥‥‥と、というか! ウチはか弱い女の子などではない!」

 

 アズサは今さらそんなことを言っていた――。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 少女の話を聞いた俺達は、ティアナらの元へ急いでいた。

 

 不死兵(アンデッド)を操る者、ね‥‥‥。俺のことが目的である可能性が高いらしいけど、俺って何か不死兵(アンデッド)の恨み買うことしたっけ? あ、いや、"不死兵(アンデッド)を操る者"の恨みか。

 

 まだ幹部に成り立てだってのに、忙しない世の中だよ。

 

「そういえばターギー。さっきはずいぶん機嫌が悪かったみたいだが、何かあったのか?」

 

 俺は先ほどのターギーの態度について尋ねた。それまでは明るい元気な感じだったのに、少女を前にした瞬間から表情が険しかったのだ。

 

「まぁ、ちょっとな‥‥‥。けど、今は関係ないことだし、事態が収まったら改めて話すよ」

 

「‥‥‥そうか」

 

 これは、何か事情がありそうだ。

 

「おっと、暗くなってる場合じゃないな! さぁ、不死兵(アンデッド)を倒して、従者たちを助けよう!! これも労働、金のため!!」

 

 ターギーは急に叫び出した。

 

 ‥‥‥まぁ、ターギーのことは追々考えよう。今はティアナたちを見つけること、そして事態を終息させることが急務だ。

 

「ああ、先を急ぐぞ!」

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