異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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第7章 少しの平穏
53話 平和が一番


 赤く、薄い壁に覆われた屋敷。一人のやせ形の男が、それを眺めていた。やる気のないような半目の男は呟いた。

 

「これが例の"境界壁(シールド)"ってやつか」

 

 男は(おもむろ)境界壁(シールド)に手を当てた。男の手は青く燃えていた。しかし境界壁(シールド)には一切影響が及ばない。

 

 しばらくすると男は手を下ろした。

 

「ふむ、確かに丈夫な壁らしい。‥‥‥閉じ込められたら詰み(・・)そうだな」

 

 ふと、男は気配を感じた。誰かがこの屋敷に近づいてくる気配である。今、誰かに見つかるのはあまり良いことではない。男はため息をつくと、どこかへ去っていった。

 

 

 

 

「――ん? なんだこりゃ」

 

 ヒロトの屋敷を見てヘルブラムが呟いた。一歩前に出て屋敷を見渡したレベリアが言う。

 

「これはヒロト様の自然技能(ユニークスキル)ですね。屋敷を完全に覆っているということは‥‥‥留守にしているのでしょう」

 

 それを聞いたヘルブラムはつまらなそうに舌打ちをした。

 

「なんだよ居ないのかよ。せっかく従者(メイド)ちゃんを鍛えてやろうと思ったのによ」

 

「それにしても賢いですね、ヒロト様は。こうして屋敷を守っておけば、架け橋(ブリッジ)を制されることはありません」

 

 ――架け橋(ブリッジ)とは、人界と魔界とを繋ぐ中継である。

 

 十人の魔王軍幹部は、魔王城を囲う形で配置されている訳ではない。その世界に点々と配置されており、各々が土地を支配下としている。

 

 そして架け橋(ブリッジ)を使うことで、魔界へと赴くことができるのだ。

 

 架け橋(ブリッジ)は各幹部の屋敷で管理されており、そこを攻め落とされない限り、第三者によって魔界へ通ずる道が開かれることはない。

 

 ヘルブラムが項垂れる一方で、レベリアは感心していた。なにせ、最近のヘルブラムはヒロトに会うために度々屋敷を留守にしているのだから。

 

 人が近寄らないとはいえ、無防備な状態なのである。

 

「如何なさいますか?」

 

「しょうがねえ。待つなんて面倒はごめんだ。今日は帰るしかねえな」

 

「それが賢明でしょう」

 

 ヘルブラムらもまた、ヒロトの屋敷を去った。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 ――――驚くほどの静けさ。

 

「終わったのか‥‥‥?」

 

 ハーレが消えてしまった後で、少女は呟いた。俺は立ち上がり、答えた。

 

「ああ、終わった」

 

 少女は明後日の方角を眺めた。

 

「何だか呆気なかったな。無数の不死兵(アンデッド)が現れ、一時はどうなるかと恐れてさえいたのが、あの心の優しそうな青年によるものだったとは」

 

「原因は王国の――人間たちのやり方にある!」

 

 憤りを隠せないターギーは全身の毛を逆立てて言った。

 

 確かに俺が住んでた頃から、あの国の王は自己中心的なところがある。己がために人を動かすやり方はいただけない。結果として、ハーレという一人の人間が命を落とした。

 

 この世界における"死"というのは、俺が元居た世界のそれよりもずっと身近かなものだ。この世界で俺が人の死に立ち会うのは、これが初めてではなかった。――そうと分かっていても納得できない。

 

 戦いが終わった今、とても清々しい気にはなれやしない。"根源"は何も解決していないのだから。王国の政治はどうなっているのか? そしてハーレの身には一体、何が起こっていたというのか?

 

「まぁそう不安がることはない、幹部殿」

 

 少女が言った。

 

「青年の呪印は確かに記憶したので、こちらで調べてみる。王国に戻ったら王のやり方についても政府に進言しておこう。奴らを嫌うウチとしても好都合だ」

 

「それは助かる。‥‥‥って、(かたき)同士だってのに協力してもらうばかりですまないな」

 

「礼には及ばぬよ。協力してもらったのはウチも同じだ。それに、個人的に魔王軍への恨みはない。まぁ、そちらの従者らは人間を忌み嫌っているようだが。‥‥‥なぜ貴殿が王国の人間と関わりがあったのかは疑問だが、それもウチにはどうでもいい」

 

「はは‥‥‥」

 

 俺は苦笑した。この少女、何かと王国に対して反発的だ。彼女にとっては魔王軍よりも王国の方が敵なのかもしれないな。

 

 何はともあれ、ここまで協力してくれているので、俗に言う"良いヤツ"であることに間違いはないだろう。

 

「そういえば、君の名前を聞いても良いか?」

 

 俺は少女に尋ねた。少女は首を傾げる。

 

「ウチの名を知ったところで、貴殿に利益はないと思うが?」

 

「いやいや、利益とかじゃなくて」

 

 うーん、堅苦しい。

 

「基本的に俺達は敵対関係にある訳で、接触すれば戦闘は免れないだろう。――それでも、もし今後君の名前を聞くことがあれば、少なくとも俺達は真っ先に攻撃しないようにしたい。お互いの無意味な被害を減らしたいし、あわよくば対話で解決したいと考えている」

 

 ハーレの人生を狂わせたことに魔王軍が関わっているというのも事実だ。数百年という俺の知らない歴史があった上で、今すぐ人間と魔王軍とで仲良くしましょうなんてことは求めない。ただ、俺のできる範囲でも被害は減らしておきたいのだ。

 

 少女は目を丸くしたが、すぐにフッと鼻で笑った。

 

「なんとも平和主義な魔王軍幹部だな。しかし実に合理的だ。ウチはアズサ。‥‥‥といっても、滅多に研究室から出ることはないので名前を聞くことはごく稀だと思うが」

 

「いいさ。ほんの少しだって世界を平和に――即ちダラダラライフに近づけることができるならな! 俺の名前はヒロトだ」

 

「微妙に目的が変わっている気もするが‥‥‥ヒロト殿、覚えておく」

 

 

 ――その後、アズサは徐々にではあるが魔力が回復してきたらしく、何やら魔法陣を描いてその上に立つとそのまま一瞬で消え去ってしまった。転移魔法だ。

 

 すごい魔法使いだったな‥‥‥。

 

 セシリーとターギーが良い例だが、人間とその他の種族は互いに嫌い合っているところがある。彼女のように協力的な人間が今後、多種族間のコミュニケーションなどで役に立ってくれると嬉しいものだ。

 

 なるべく無意味な争いは減らしたいのだ。

 

 ――いや、"俺がダラダラしたいから"とか、決して利己的な意味ではないよ? 俺はただ、世界平和を望んでいるのだ。そう、世界平和を。多種族で争う理由なんてないはずだろう?

 

 ‥‥‥そうやって人間に贔屓してるんじゃないかって? 止めてくれよそういう冗談。俺そんな強キャラポジションじゃないから。

 

「ヒロト様」

 

 背後で俺を呼んだのは――――重傷を負っていたはずのティアナだった。

 

 既にどこにも傷が見当たらず、当たり前のように綺麗な姿勢で立っていた。

 

「なっ!! もう治癒しきったってのか!?」

 

 驚かずにはいられまい。以前セシリーが重傷を負った時は回復に半日ほど時間がかかったというのに、ティアナは数時間となく全快してしまったのだから。

 

「はい。治癒系の技能(スキル)を用いて回復を促進させました」

 

 平然と言うティアナ。どんだけ技能(スキル)持ってるんだよ。今日一日で散々感じたよ。‥‥‥魔族も獣人ももはや、何でもありだってことをね。

 

 ――さて。

 

「まだ整理しなきゃいけない話はいくつか残ってるが、ひとまず帰るとするか!」

 

「「はい」」

「おう!」

 

 よーし、帰ってダラダラ――――いやいや、分かってます分かってます。ターギーのこととか、話すべきことはちゃんと話すから。

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