異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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56話 セシリーVSターギー

 "ここが一番稼ぎやすい"

 

 ターギーはそういう認識だったようだ。まぁ、別にどうという訳じゃないけど。人をリラックス(※悪くいえばダラダラ)させる才能があるだけに、少し残念に感じてしまった。

 

 ダラダラできるヤツに悪いヤツはいないはずなのだ。

 

 ――えっ? それは違うだろうって? いや違わないとも。ダラダラできるってのは、つまり落ち着きがあるってことで、心に余裕があるってことだ。さらにいえば、ダラダラできるその環境は穏和で、平和であるとも捉えられる。

 

 そんなヤツの性根が悪いはずがない。‥‥‥ほら、これ聞いたらなんだかそれっぽく思えてきたろう? いや実際そうなんだけど。

 

 ましてやそのダラダラを他人に催促できるターギーなんて、どれだけ良いヤツかと、正直なところ少し期待していたのだ。

 

 その期待を裏切られた気持ちが、他の誰に伝わるはずもなく‥‥‥。俺は一人で勝手に凹んだ。

 

 それを他所(よそ)に、セシリーが行動を起こす。

 

「ターギーさん。あなたはヒロト様にダラダラを提供すると言いましたが、それは本来我々の役目です。我々の能力を上回らない限り、あなたが我々に取って代わることなどできません」

 

 セシリーもまた、ターギーに威圧的な口調であった。

 

「ああ。その通りだ」

 

 それに対して、ターギーは依然として落ち着いている。

 

 そしてその対話を聞いてる俺の気まずさよ。確かにターギーを勝手に雇った俺にも非はあるだろうが。まさかこんなに対立的になるとは思わなんだ。

 

 なにせこいつら、揃って人間を忌み嫌っているのだから。何か通ずるところがあるのではと思えばこれである。そんなに他種族を嫌って、果たしてこいつらに親しい種族などいるのかと疑念を抱くほどだ。

 

「以前の借りは別途としてお礼をさせていただくつもりですが、自分の役目を大人しく譲る訳にはいきません。――しかし、もしあなたに我々以上の実力があるのであれば仕方がないでしょう」

 

「おう!」

 

「ですので、どちらがヒロト様をダラダラさせるのに相応しいか確かめましょう」

 

 ‥‥‥‥‥‥そう来たか。

 

 つまりセシリーは、ターギーに勝負を所望した。さてターギーはどう答えるか。

 

「それは良い! ぜひやろう!」

 

 なんと二つ返事で応じた。‥‥‥つーか、勝負って何するの?

 

 セシリーは俺をソファーへと促した。俺は言われるままにソファーに腰かけた。

 

 そして俺の前に二人が立つ。

 

「ルールは極めて単純です。ヒロト様をよりダラダラさせた方を勝者とします。判定基準はヒロト様の感性によるものとしましょう」

 

「ああ、実に単純で、理にかなっている! 異存はない」

 

 俺が審判かよ‥‥‥。まぁ、でも俺をダラダラさせるというのだから、当たり前か。たっぷりダラダラさせてもらおうじゃないか。

 

 こうして、ティアナが笑顔で見守る中、セシリーとターギーの勝負は幕を開けた――。

 

「では私から!」

 

 先制攻撃を仕掛けるのはセシリー。セシリーはソファーの周りで目にも止まらぬほどの高速移動を始めた!

 

 一体何をしようとしているんだ‥‥‥?

 

 そう考える頃には、もう彼女の行動は終わっていた。そしてさっきまでソファーに腰かけていたはずの俺は――

 

 

 いつの間にかソファーに横たわっているではないか!?

 

 しかもそれは、いつも俺がするような何気ない寝転がり方。俺の何の意図もなしに、しかしだからこそ生み出された究極に自然で楽な姿勢だ。

 

 これをセシリーは寸分の狂いもなく再現してみせた。俺は自分の姿勢が変わる間、僅かな違和感だって感じなかった。あの刹那に、俺の身体の細胞全てが動かされている事実に気づかないほどの自然な動かし方をしたのだ。

 

 これは普段の俺のダラダラ生活を注視していたとしても難しい大技だろう。さすがセシリーだ。

 

「ならば俺は、肩もみをしよう!」

 

 ターギーが言った。

 

 肩もみか。確かに悪くない選択だ。だが、肩もみ程度では先ほどのセシリーの能力は上回れないぞ。それに今の俺の姿勢。とてもじゃないが、肩もみをするには少し厄介だろう。一度俺を起こすとなれば、減点対象になり兼ねない。さすがに俺をより知っているセシリーの方が有利か?

 

「失礼つかまつる!」

 

 ターギーは俺を起こさず、そのまま限られた隙間に手を差し込んだ。

 

「‥‥‥ッ!! 何だこれは!?」

 

 俺は思わず声を上げてしまった。あまりの快楽故の不可抗力。これは‥‥‥肩もみなどではない!

 

 がっちりとした手をしていながら、決して力は強くない。むしろ優しい。俺の意思じゃない。強制的に身体がダラダラモードに切り替えられてしまった。もう脱力し切って身体に力が入らない。

 

「ヒロト様の表情が‥‥‥かつてないほどに緩んでいる!? 肩もみしただけだというのに!」

 

 セシリーが戦慄している。

 

 なんてヤツだ、ターギー。俺はとんでもない才能の持ち主を雇ってしまったらしい。これは‥‥‥勝負ありか‥‥‥?

 

「ま、まだです!! あなたが肩をほぐすなら、私は全身をほぐします!!!」

 

 躍起になって言うセシリー。全身をほぐす? どうやってそんなことを――

 

「《殺傷空間(キリングフィールド)》!」

 

「待て待て待て待て待て待て!!!!」

 

 セシリーは技能(スキル)の発動を止めた。

 

「なぜお止めするのですか!?」

 

「お前は俺を殺す気か!? 俺人間だからね!!」

 

 人間が耐え兼ねる行動はしないようにしっかり注意を行って、勝負は再開した。そしてそれはますます激しさを増していった――。

 

 

「――ここでは満足に勝負できません。場所を変えましょう」

 

 はい?

 

「同感だ! そうしよう!」

 

 話が勝手に進んでいく。

 

「あの‥‥‥、場所を変えるってどういう――」

 

「ヒロト様は黙っていてください! これは私とターギーさんの勝負です!!」

 

 えぇ‥‥‥? 俺、審判なんだけど‥‥‥。

 

 ヤツらは俺を置き去りにして外に行ってしまった。

 

「俺をダラダラさせるんじゃなかったのか‥‥‥??」

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 ――屋敷の庭にて。

 

「やはり直接拳を交える方が早かったようだ!」

 

「ええ、決着をつけましょう」

 

 

 

 ‥‥‥俺は二人が外でドンパチやってるのを聞きながら、ソファーで一人ダラダラしたとさ。

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