異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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62話 会議開始

「えっ! うそ!? 人間君じゃない! すっごく可愛い!!」

 

 ヒロトの方を見るや否や、両手を口元に添えて歓喜の叫び声を上げる女性。魔王軍幹部の一人、名をカトレイヌ。露出度が高く、カラフルで奇抜なデザインの衣装。ヒロトは、自分の前世でいうところの"アイドル"という言葉を想起してピンと来た。

 

 しかし、まさか常識も歴史も全く異なるはずの異世界に"アイドル"という概念が存在するはずがない。ましてや、魔王軍ならなおのことである。

 

 ヒロトは辺りを見渡して幹部たちを眺めた。見てくれが既に個性で満ち溢れている。キャラクターの見分けがしやすいという点では、これもまたテンプレ通りだなぁ、と呆れ気味に感じる。

 

「私カトレイヌっていうの。ねぇねぇ! 隣空いてるから、おいでよ!! 私とおしゃべりしよ!!」

 

 ヒロトの方へ、白く艶のある腕を伸ばして手招きするカトレイヌ。その漂う色気と相反する無邪気そうな口調に、ヒロトは身の毛がよだち、咄嗟に視線を逸らす。

 

 空いてる席は連なった二つ。一方はカトレイヌの隣。そしてもう一方は、ヘルブラムの隣であった。

 

「なぁカタストロ。席、選んでいいか?」

 

「私はどっちでもいいわ」

 

 カタストロのどうでもよさそうな返答を聞いて、ヒロトは迷わずヘルブラムの隣の席に腰かけた。そして透かさず自分の周りを境界壁(シールド)で覆った。

 

 まさか積極的にヘルブラムの隣に行くことになろうとは‥‥‥。ヒロトはある意味で魔王軍幹部の恐ろしさを実感する。

 

 それからカタストロも席に着いた。カトレイヌは残念そうに前へ向き直った。

 

「お前、カタストロと知り合いなのか?」

 

 ヘルブラムが小声で語りかける。ヒロトがカタストロと話していたので、疑問に思っていたのだ。

 

「まさか。さっき会ったばかり」

 

 ヒロトの返答にヘルブラムは目を丸くし、小声のまま言った。

 

「お前よく生きてたな!」

 

「まぁ、何も攻撃とかされてないしな」

 

カタストロ(あいつ)は攻撃するとかしないとか、そういう次元じゃないぞ‥‥‥」

 

 ヘルブラムの言葉の意味が分からないヒロト。それをヘルブラムに尋ねようとしたところで、一人の幹部が立ち上がった。

 

「幹部が揃ったので会議を始める」

 

 黒いスーツのような衣装。キリッとした顔立ち。整えられた短髪。名をエンドール。幹部の中では一等真面目そうな佇まいの男性である。

 

「まず魔王様についてだが、今回はお見えにならないそうだ」

 

エンドールは二枚折りになっている資料を開きながら言った。

 

「えっ、マジか」

 

 エンドールの言葉に、ヒロトは素直に感嘆した。他の幹部は全く動揺していない。珍しくないことなのだろうか、とヒロトは辺りを見渡す。

 

「何か所以があるのだろう? あのお方に限って理由もなく出席なさらないなどあり得ぬ。ヴァウラではないのだから」

 

 煽るような発言。日本でいう十二単のような、華奢な身の丈に余る大層な着物を纏った、和を感じずにはいられない落ち着いた雰囲気の女性。名をヨシノ。

 

「――ふん」

 

 それに対して冷たくあしらう男性――ヴァウラ。高身長かつ強靭な肉体。腕を組み、目を瞑ったままでいる。幹部の内でも一層増して威風を帯びている。

 

 エンドールは話を続ける。

 

「理由はこれからの議題に関している。なので順を追って会議を進める。まず――――」

 

 エンドールは少し間を置いた。ヒロトは息を呑んで言葉を待つ。魔王が出席しない理由と、このエンドールが置いた"間"に、何か重大なことを秘めているのではないかという疑念を漠然と抱いていた。事実的な"間"と不確定的なヒロトの憶測が創造する僅かな時間――異様な空間をヒロトだけが感じていた。

 

「――――魔王軍内に別組織の間者がいる」

 

 エンドールはそう言った。

 

 ヒロトは目を丸くする。これには他の幹部らも少なからず反応を見せた。

 

「間者か‥‥‥。ここに忍ぶってことは、ある程度腕が立つんだろうなぁ‥‥‥」

 

 ゆったりとした口調で話す男性――というより少年といった方が外見に合っている。名をアーク。透き通るように薄い青髪、二十歳にも満たないような若い顔つき。身長は百六十センチもないようである。

 

「ソれハ‥‥‥イちダイじ、でスネ‥‥‥」

 

 生き物とは到底思えない、いくつかの音が重なったような、震えているような神秘的な声。ヒロトは一瞬、誰が喋ったのか分からなかった。それもそのはず、話者は一切姿を見せていなかったのだから。

 

 名をフランシール。全身が植物の枝葉で覆われており、性別すら判然としない。

 

「エンドール、魔王様は他に何か言及されているの?」

 

 カトレイヌが尋ねた。

 

「ああ。魔王様によれば、間者の特定はほぼ済んでいるとのことだ。だがアークも言った通り、ある程度の実力が見込まれる故、ことを慎重に運びたいとお考えだ」

 

「それで情報を必要以上に広めないために、会議に従者(メイド)を同行させなかったのね」

 

 カタストロが納得したように言った。ヒロトはそれに首を傾げる。

 

「今回は魔王様が結界を張れないから従者(メイド)架け橋(ブリッジ)を守らせたんじゃなかったのか?」

 

 ヒロトの疑問にカタストロは呆れたように答えた。

 

「あのお方が結界を張れないなんてことはあり得ないわ。従者(メイド)に事態を悟らせないための口実よ」

 

「そうなのか‥‥‥なるほど」

 

 ようやくヒロトも合点がいった。

 

「そんな奴さっさとボコボコにして組織ごと潰してやりたいとこなんだがな‥‥‥」

 

 ヘルブラムが炎を(たぎ)らせて言う。

 

「魔王様が仰る以上、下手に行動を起こす訳にはいかないな」

 

 ヘルブラムを横目に、ヨシノは呟くように言った。

 

「‥‥‥お前ら何をそんなにトロトロしてんだぁ?」

 

 痺れを切らした男性が口を開いた。

 

 あちこちに髪が飛びはねた奇抜な頭髪。特徴的なつり目。破れた箇所が多く上半身をほとんど露出した衣装。そして、耳元まで裂けた口。名をギルシュ。

 

「何が言いたい、ギルシュ」

 

 ヴァウラが片目を開いてギルシュに訊く。「クハッ‥‥‥!」とギルシュは思わず笑みをこぼす。

 

「誰が間者かなんざ、考えるまでもねぇだろ」

 

 そしてある方を指差して言った。

 

「ここでこいつを始末すれば済む話じゃねぇか」

 

 ギルシュが指差していたのは――――――――ヒロトだった。

 

「‥‥‥‥‥‥俺!?」

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