異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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63話 議論

 ヒロトは話の急展開に脳の整理が追いついていなかった。魔王軍内に別組織の間者の存在が判明した、という話題だったはずである。

 

 それがどうして、"ヒロトを殺す"という発言に繋がったのか‥‥‥。この因果に疑問を呈するのはヒロトだけではなかった。

 

「ちょっと! その子が間者な訳ないでしょ~! 何を根拠に言ってるの!!」

 

 カトレイヌが頬を膨らませてギルシュに言った。ギルシュは言い返す。

 

「そいつぁ人間だろ? 魔王軍と相反する種族が協力する訳ねぇじゃねーか」

 

 ヒロトはギルシュが自分を間者だと疑う理由を理解した。しかし種族云々での判断は半ば言いがかりのように思える。ヒロトは世の中が認識しているほど魔族と人間の対立を実感していなかった。

 

「俺はカトレイヌに賛成だな! ヒロトは悪いヤツじゃねえ!」

 

 ヘルブラムが力強く言い放つ。カトレイヌは目を輝かせた。ヒロトもヘルブラムに期待をかける。しかし――

 

「脳筋は黙ってろ」

 

 ギルシュは取り合わなかった。

 

「オイこらッ!! 誰が脳筋だ!?」

 

「――私はヒロトが間者だとは思わないわ」

 

 そう言ったのはカタストロだった。「そう、そうなのよ!!」とカトレイヌが小声で喜ぶ一方、ギルシュはカタストロを睨む。

 

「なんでだ?」

 

 カタストロは胸を張って自信に満ちた表情で言った。

 

「こいつは面白いヤツだからよ!!」

 

 その発言で、幹部らがカタストロに注目した。ヒロトは自分の味方をしてくれていることにありがたく思いつつも、やはり根拠になっていない言い分に呆れている。

 

「久々に明るい表情をしておるな、カタストロ。お前がそこまで買っているとは‥‥‥。其方(そち)、見所があるぞ」

 

 ヨシノは笑みながら呟くように言った。ヒロトは自分が褒められたことに気づかず、呆然としている。

 

「どっちもどっちって感じだなぁー」

 

 アークが口を開いた。

 

「確かに人間ってことを考えたらヒロトのことは疑って然りだけど。彼を幹部として起用したのは魔王様だよね。そんなヒロトが間者だったなんて、あのお方に限ってそんな抜かりがあるとは思いたくないよ」

 

 しばらく沈黙が流れた。確信的な証拠が出ないために、議論が詰まっている。ヒロトは下手な言い様は疑惑を深めるので、何も言わないでいる。とはいえ、大人しく殺されるつもりも毛頭ないのだが‥‥‥。

 

「――ヒロトが間者かどうかの議論はひとまず置いておこう。今はそれ以上に重要な、魔王様からのお言葉がある」

 

 話題を転換したのはエンドールだった。

 

「おい待てやエンドール! 間者かも知れねぇこいつを放って魔王様からのお言葉だと? 頭沸いてんのか!? 魔王軍(こっち)の情報ダダ漏れだろうが!!」

 

 ギルシュはついに怒りを見せた。しかしエンドールに取り乱す様子は一切窺えない。

 

「頭を沸かせているのはお前の方だ」

 

「‥‥‥なんだと?」

 

「もしヒロトが別組織の間者だと確定したなら、この会議が終わった後に逃がさず始末すればいいだけだ。間者である疑いが高い場合も、監禁するなり拷問するなり手はある。それを決めるのは後からでも良い。今は魔王様のお言葉を優先する」

 

 エンドールの考えは至極真っ当だった。ギルシュは怒りが収まらないながらも、舌打ちをして黙り込んだ。

 

 ヒロトが間者であるかの議論は後回しになった。

 

「良かったな、ヒロト」

 

 ヘルブラムが笑ってヒロトに言った。

 

「何も良かねぇよ‥‥‥。なんで俺殺されそうになってる訳? 話後回しになっただけで何も解決してないよね??」

 

 突然間者の疑いをかけられたヒロトには全く遺憾であった。

 

 いよいよエンドールは話題を進める。

 

「先ほどカタストロの言った通り、魔王様は必要以上に情報が広まるのを防ぐために我々幹部に従者(メイド)を同行させないよう指示をなさった。従者(メイド)は各々で架け橋(ブリッジ)を守護するよう命じられている」

 

「サスが、マおうサマ‥‥‥てキカクなごハンダん」

 

 フランシールは感心しているようだった。その緩急のない声音からは感情を窺いにくい。

 

「間者本人にこちらの注意を感知されては、組織が新たに手を打つ恐れがあるので、現段階では我々にもこれ以上の情報はお伝えにならないそうだ」

 

 魔王の行動は極めて慎重であった。それはすなわち、それだけ間者を送った組織を警戒しているということに他ならない。数百年領土を支配し、その世界の均衡を保ってきた魔王の態度がそれなので、敵戦力が尋常でないということは幹部らの想像に難くなかった。

 

「俺らが間者の情報を持ってても、それを口にしなければ良いんじゃないのか?」

 

 ヘルブラムが言った。それをヨシノが否定する。

 

「相手にこちらの思考を読む類いの自然技能(ユニークスキル)持ちが居るということだろう。そうでなくともその可能性をあのお方は危惧されている」

 

 ヨシノの発言には、"魔王は幹部を信用していないのではない"という意味も孕まれていた。エンドールは続けた。

 

「そして、魔王様から我々にご命令だ」

 

 ――エンドールは、二枚折りの資料を読みながら会議を進めてきた。魔王は、"伝えるべき魔王の言葉"に会議進行者の主観的意見が介入することのないよう、会議が始まってからでないと資料が開かないように魔力を込めている。エンドールはその資料を事前に確認することはできない。

 

 つまり、彼は他の幹部と同様に会議の進行の最中で初めて魔王からの言葉を認識していた。

 

「これは‥‥‥どういう‥‥‥」

 

 エンドールは魔王の命令に戸惑った。

 

「どうした」

 

 ヴァウラは問うた。

 

「‥‥‥そのまま読み上げる。"今宵、間者を送った組織が行動を起こすと予期した。魔王軍幹部に告げる。侵入者を退けよ"」

 

 その瞬間、幹部らが居る一室の扉は破壊された――――。

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