異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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78話 思い違い

 ‥‥‥おい、カタストロは今、何と言った?

 

 精神を閉じ込める? 精神崩壊で死ぬ? 発動条件は目を合わせること??

 

 俺は今、カタストロと目を合わせている。それはもう、完璧に見つめ合っている。

 

 技能(スキル)の発動条件が、整っているじゃないか。

 

 ――いや、いやいや大丈夫だ。そう、俺には空間を隔てる境界壁(シールド)がある。境界壁(シールド)で隔てられた二つの空間は互いに干渉できない別空間となる。カタストロの技能(スキル)も例外でないはずだ。

 

 そうか、そうかそうか。最初にカタストロと会った時、カタストロは俺がまともに話せるのかと感激していた。それは彼女の初見殺しのチート技能(スキル)境界壁(シールド)で防いだことで、俺が何ら影響を受けていなかったからだ。

 

 良かった。どうやら俺はまだ死なないらしい。何せ、カタストロの技能(スキル)を防ぐことができる境界壁(シールド)で全身を覆って――――――――――――ん?

 

 全身を‥‥‥境界壁(シールド)で‥‥‥。

 

 俺は自らの行動を振り返る。それは、架け橋(ブリッジ)で魔界と人界を跨いだ直後のこと。

 

 新鮮な空気を取り込むためと、境界壁(シールド)を解除して深呼吸する俺の姿が脳裏に光る。

 

 

 ――――境界壁(シールド)、展開してないじゃん――――。

 

 

 途端に俺は青ざめて、即座に頭を伏せて両目を手で覆う。おいおいおい待て待て。

 

 カタストロ(こいつ)、俺と目を合わせてから技能(スキル)の発動条件の話をしたのか?? "目を合わせることだ"って?

 

 ‥‥‥いや、いやいやいやいや!

 

「それは目を合わせる前に説明しないとダメだろ!!!!」

 

 俺は顔を伏せたまま怒鳴った。

 

「何をそんなに慌てているのよ?」

 

 暗闇の中で、カタストロの声がする。えらく平然とした声音じゃないか。どんな面持ちで言っているのだろうか。

 

「これから精神を閉じ込められて死ぬってのに、慌てずにいられるか」

 

 そうは言いながらも、俺の声はもはや諦めの念で落ち着きを取り戻しつつあった。なんと皮肉なことか。

 

「‥‥‥言っている意味が分からないわ? どうしてヒロトが精神を閉じ込められることになるの?」

 

 尋ねるカタストロ。――本気で訊いているのか? 自分が技能(スキル)を発動させたのだと気づいていないのか? そんなはずないだろう。

 

 俺が事切れた後で「あ~っ! うっかり殺しちゃった!! てへぺろっ!」と笑うカタストロの姿が脳内で勝手に想像される。

 

 俺は生を諦めたはずだが、腹の底からむくむくと怒りが込み上げてきた。もう我慢ならない!

 

 俺は目を覆っていた手を離し、カタストロを指差しながら睨んだ。

 

「惚けるのも大概にしろよ!? 人の命を何だと思っ‥‥‥‥‥‥ん?」

 

 違和感。俺は自分の両手を見つめて結んだり開いたりしてみる。何故俺は未だに普通に動けている? カタストロの自然技能(ユニークスキル)の効果を受けているのに。

 

 本来なら、俺の精神は俺の記憶を改変して作り出された空間にあるはずだ。しかし、辺りは森林が広がり、目の前には怪しげに俺を見つめるカタストロ。――俺の目に映る景色には何も変化が見受けられていない。

 

 それとも、既にこの景色がカタストロの技能(スキル)で作り出された空間なのか?

 

 カタストロは言っていた。"精神を崩壊させるために相手の記憶を残酷に改変して見せる"と。

 

 考えてみれば確かに残酷な話だ。カタストロは不意に殺してしまい、俺は不意に殺されてしまうというのだから。

 

 ‥‥‥にしても、こんなに新しい記憶を媒体にするとは思わなんだ。もっと、相手の昔のトラウマとかを一層改悪して絶望させる感じだと思ってた。

 

 カタストロがこちらに歩み寄ってくる。――リアルだ。"精神を閉じ込められる"というイメージしがたい事象なので抽象的な分かりにくい映像かと思っていたが、リアルだ。

 

 カタストロの足の爪先から頭の髪の毛一本一本までよく見える。リアルだ。

 

 カタストロが細目でこちらを睨む。リアルだ。頬を若干赤らめているような? リアルだ。そしてカタストロの両手がこちらに伸びてくる。リア――――

 

「いつまで目を丸くしてぼーっとしてんのよ~!」

 

「痛っ!? いでででででで‥‥‥‥!!!!」

 

 俺は思わずカタストロの腕を振り払う。激痛が頬に残っていたので手を添えてみると、それはもう、どんぐりを精一杯咥えたリスの如く膨らんでいた。俺はカタストロに頬をつねられていたのだ。

 

 ――って、痛みを感じるってことは‥‥‥?

 

「ひゅえ(夢)‥‥‥ふゃない(じゃない)?」

 

 頬が腫れ過ぎてまともに喋れない。が、やはり何もかもがリアルだ。カタストロがため息をつく。

 

「そういうことね。やっと理解できたわ。‥‥‥大丈夫、ヒロトに私の技能(スキル)は発動してないわ」

 

 カタストロはそう言うが、俺は納得できない。

 

「へろ(けど)、うぇをあわふぇたら(目を合わせたら)はふどうひゅうっふぇ(発動するって)」

 

「確かに発動条件は目を合わせることだけど、私の意図もなくポンポン発動する訳じゃないから」

 

 ‥‥‥どうもカタストロが嘘をついているようには見えない。というか、嘘をつく理由も見当たらない。つまり、どうやらこれは、完全に俺の思い違いだったらしい。

 

 腫れが引き始めて、まともに喋れるくらいにはなった。全然まだまだ痛いけど。

 

「‥‥‥はぁ。さすがにびっくりした。カタストロのうっかりで死ぬことになるかと思った」

 

「私がそんな間抜けなことする訳ないでしょう? まぁ初見の相手には発動するけど」

 

「そうだよな。魔王軍幹部様だもんな。はははは‥‥‥って、え?」

 

「え?」

 

 少し沈黙が流れる。

 

「初見の相手には否応なく発動するのか?」

 

「ええ。ヒロトはそれを防ぐことができた。だからもう目を合わせただけでは私の技能(スキル)は発動しないってこと」

 

「えぇ‥‥‥」

 

 初見殺しなんてレベルじゃないだろ。俺やっぱり死んでたかもしれないじゃん。怖すぎるんだが。改めまして、こんなヤバい奴と一緒に居て俺は無事で済まされるのか? 

 

 俺、人間だからね?

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