異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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79話 カタストロ、来る

 クーゲラス森林から遥か東。海を跨いでクーゲラス大陸に隣り合う大陸――ユンナ大陸に佇むとある城。その玄関口に一人の女性。高身長で黒の長髪、両眼を眼帯で覆っており、魔王軍の従者(メイド)の制服を着ている。

 

 彼女の名はアリエル。魔王軍幹部であるカタストロに仕える従者(メイド)。今はカタストロの帰りを待っているところだった。

 

 待ちながら、カタストロの言葉を思い出す。

 

 "会議のついでに新任幹部のヒロロトと話してくるわ! もしそいつが面白いヤツだったら、帰り遅くなるからよろしく!!"

 

 ――まさかそんなことはないだろうと思っていた。

 

 カタストロには獲得技能(アッドスキル)初見殺し(ファーストキル)》がある。あの最強の不意打ちを防げる者はそうは居ない。

 

 従者育成学校を首席で卒業した自分だって、カタストロに仕えると決まってから両の眼を斬った。人間の新任幹部など一言交わす暇もなく命を終えるに決まっている。

 

 もうじき帰ってくるはずだ。期待外れだったと落胆するカタストロの表情‥‥‥、想像に難くない。

 

 それからアリエルは玄関口に数時間立ち尽くしたのだった――。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 おっ、そろそろ屋敷が近いな‥‥‥。俺は変わり映えしないはずの森の景色から、何となくそう感じた。

 

 気づかない内に屋敷周辺の景観を記憶しているんだろう。これもまた、俺が魔王軍幹部としての生活に馴染んできていることの証拠に他ならない。

 

 ――ほら、屋敷が見えてきた。

 

「あれね! ヒロトの屋敷!」

 

 カタストロは俺の屋敷を目に入れるや否やウキウキの様子だ。

 

「えぇえぇその通りでございますよ、カタストロお嬢様ー」

 

「何? その改まった言い方」

 

「‥‥‥何でもない」

 

 さて、お転婆な魔王軍幹部様のお成りだ。丁重にお迎えしよう。くれぐれも粗相のないように。くれぐれも殺されることがないようにね。‥‥‥はぁ。

 

 屋敷の玄関まで来て、俺はドアベルを鳴らす。間もなくドアの向こうに人影が現れた。この影は‥‥‥セシリーのようだ。

 

「帰ったぞー」

 

 鍵が開くのを待つ俺。カタストロは俺の後ろで仁王立ちしている。

 

 ‥‥‥‥‥‥あれ、反応がないな。俺は試しにドアノブを引いてみるが、やはり鍵がかかっている。

 

「セシリー? 鍵を開けてくれ」

 

 ‥‥‥‥‥‥返事が返ってこない。

 

「おーい、聞こえてるんだろう? ‥‥‥セシリーってば!」

 

「‥‥‥‥‥‥貴方は、ヒロト様なのですか?」

 

 ようやく返事がきたかと思ったが、俺は違和感を覚えた。声は確かにセシリーのものだ。間違いない。

 

 ところがその声は、酷く震えていたのだ。

 

「急にどうしたんだよ? 俺がヒロトじゃないなら、一体誰だって言うのさ」

 

「信じられません‥‥‥」

 

 うーん、やはりセシリーの様子がおかしい。なんだか怯えているように窺える。

 

「とりあえず、鍵を開けてくれよ。何があったのか、話聞くからさ」

 

「話を聞きたいのは‥‥‥私の方です」

 

「‥‥‥は?」

 

「貴方が正真正銘のヒロト様であるならば‥‥‥、その後ろに居られる方(・・・・・・・・)は、どう説明がつくと言うのですか」

 

 俺の後ろ‥‥‥? カタストロのことか。

 

「お客さんだよ。俺と同じ魔王軍幹部のカタスト――」

 

「そんなことは疾うに分かっています。分からないはずがない‥‥‥。何故、カタストロ様がヒロト様と一緒に居られるのですか」

 

 ‥‥‥どうやら、セシリーはカタストロに対して怯えているようだ。まぁ無理もないか。カタストロの技能(スキル)は確かに恐ろしい。

 

 とはいえだな‥‥‥。

 

「お前、誰からも怖がられてるんだな‥‥‥」

 

 俺はジト目でカタストロの方へ振り返った。するとカタストロは自慢げに「フフン!」と鼻を鳴らした。

 

 はぁ‥‥‥。説明が必要なのは、確かに俺の方らしい。

 

「カタストロ、悪いが少しここで待っててくれないか?」

 

「‥‥‥ええ、急に押しかけているんだもの。少しくらい待ってあげる」

 

 カタストロはそう言うと、くるりと踵を返して俺に背中を向けた。

 

 やはりヘルブラムよりずっと話が通じる。安心した。

 

「すまないな。すぐに準備を済ませるから」

 

 セシリーに鍵を開けてもらい、俺は屋敷に入った。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 ――一時間ほど前。屋敷で家事をしていたティアナは血相を変えた。

 

「セシリー」

 

「はい、私も感じました」

 

 鑑定技能(スキル)で、北の方から凄まじい魔力反応を感知(キャッチ)。これにはターギーも気づいたらしく、全身の毛を逆立てて警戒していた。

 

従者(メイド)のお二人、この近づいてくる膨大な魔力は何だ? ‥‥‥敵じゃないだろうな」

 

 決して近くはない。ただ魔力が大き過ぎるために、ヒロトの屋敷にまでその波が及んでいるのだ。

 

「崇高なる魔王軍幹部が一人、カタストロ様の魔力よ」

 

「立場だけで言えば私たちの味方――ですが、さすがに怪しい。ヒロト様の身に何かあったのかもしれません」

 

 ティアナとセシリーは口々にそう言った。

 

「それで、もし敵対する場合はどうする? 三人がかりで迎え撃つのか?」

 

 ターギーは既に戦闘の準備が整っていたが、セシリーは首を横に振った。

 

「いいえ。その場合、こちらに勝機はありません」

 

「気取られる前に屋敷を離れるのが一番安全だけど、それだと魔王様のご命令に背くことになるわ」

 

「‥‥‥ならばどうするんだ? その身勝手な幹部様のために大人しく朽ち果てろと?」

 

 セシリーは少し考えた。どうするのが最善の行動か。こんな時、ヒロトならどうするのか――。

 

「――私が屋敷に残ります。二人はすぐにここを離れてください」

 

 顔をしかめるターギー。

 

「‥‥‥良いの?」

 

 セシリーが考えてから発言していることを分かった上で、ティアナは改めて確認した。これにセシリーは頷いた。

 

「魔王様のご命令により、誰かはここに残らなければなりません。気取られずに逃げることを考えれば、身体能力の高いターギーさんと錯乱に長けた技能(スキル)を持つティアナが適任です」

 

「待て! それでは君を見捨てて生き延びろと言われているようなものだ! 誰かが残るというのなら、俺も――」

 

「駄目です。命を投げ出す行為は認めません」

 

「‥‥‥おかしな話だ。どうして俺は駄目で、君は良いのさ?」

 

「私は魔王軍幹部であるヒロト様に仕える正当な従者(メイド)です。屋敷を守護する義務がある。あなたはそうではない。あなたがここに残ることに――あなたがこれに命をかけることに、何ら意味を成さないのです。そういうのを自己満足と言います」

 

 そしてヒロトの言葉を思い出しながら、セシリーは優しい笑みを浮かべて言う。

 

「もっと楽に、自分のために生きてください」

 

 その言葉を受けてから、ターギーは反論することをやめた。

 

 

 間もなく、ティアナとターギーは屋敷を出た。カタストロの魔力反応がなくなるまでは何があっても屋敷に近づかないようにと約束して。

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