異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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85話 目覚め

「こちらがクエスト達成の報酬金となります。お疲れ様でした」

 

「どうもありがとう」

 

 ギルドの受付にてクエスト達成の報告と報酬受取を済ませたシエルとヒロト。ずっしりと重みのある巾着袋を抱えて二人は酒場の席に向かった。

 

「うん、かなり稼げたね」

 

 ジョッキの隣に並ぶ巾着袋を眺めながら、シエルが微笑んだ。ヒロトもまた、ジョッキを片手にそれを半目で見つめていた。

 

「‥‥‥シエル、良かったのか? "雷神の鱗"は最高レアリティの希少アイテム。それを換金してしまって」

 

「良いんだよ。私たちは向上心こそあれど、冒険がしたい訳じゃない。生活するために、もう今はお金の方が大切でしょう?」

 

「そりゃそうだが‥‥‥」

 

 ヒロトはため息をついてジョッキを口元へ運んだ。

 

「どうしてヒロトが呆れているの? 私をパーティーに誘ってくれたのは君だろう?」

 

 シエルの言葉にヒロトは少し固まった。どうして自分はシエルとパーティーを組むことになったのだろうか? そんな疑問が()ぎるも、すぐに脳内でその記憶が掘り起こされた。

 

「‥‥‥そうだな。ああ、そうだった」

 

 確かに自分がシエルをパーティーに誘った記憶があった。じゃあ、それより以前はどうだったのか。どうして冒険者になったのか。どうやってシエルと知り合ったのか――

 

「ねえねえ聞いてよ。この間、久々に実家に帰ってさ。そしたら妹がこんなに大きくなってたんだ!」

 

 ヒロトの中にぶくぶくとあふれる疑問を、かき消すようにシエルが話題を変えた。そちらに視線を向けると、ちょうどシエルが両手を使ったジェスチャーで大きさを表現しているところだった。

 

 ヒロトはシエルに一人の妹がいることを思い出した。会ったことはないが、確かシエルと一回りほど歳が離れていると聞いた記憶がある。

 

「へぇ、若者の成長ってのは著しいものなんだな」

 

「私たちだってまだまだ若者だよ。もっともっと成長しようね」

 

「おう、任せた」

 

「もう‥‥‥君は本当に相変わらずだなぁ」

 

 二人はそれから食事を取り、ゆったりと酒場での時間を過ごした。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 辺りはすっかり暗くなり、空に星が煌めく時分。シエルとヒロトは酒場を出た。

 

「それじゃあ私は帰るよ。今日もありがとう、ヒロト」

 

 少し暖かくなった顔色でシエルは微笑んだ。

 

「おう。お疲れ」

 

 ヒロトはこう一言だけ返し、シエルに背を向けて歩き出す。どうということのないいつものこと。

 

 一歩、二歩、三歩‥‥‥。何故かその足取りは重い。妙に胸騒ぎがする。

 

 頭に痛みが上ってきた。ヒロトの頭の中で様々な記憶が飛び交い、錯綜する。まるで何かを探しているような、何かを訴えようとしているような。

 

 "このままではいけない"

 

 誰かの声が脳に響いた。必死そうな声。何か分からないのに、その焦燥は手に取るように理解できた。このままではいけない――。

 

「シエル」

 

 気づけばヒロトは踵を返し、反対側に歩いていくシエルを呼び止めていた。

 

「ヒロト? ‥‥‥何か言っておくことでもあった?」

 

「いや、別に‥‥‥。その‥‥‥家の前まで一緒に行くよ」

 

 ヒロトは思いがけずそんなことを口走っていた。そしてそれはシエルにとっても思いがけないことだった。

 

「‥‥‥それは、冗談か何かかな? ヒロトお得意の"ジョーク"ってやつ?」

 

 理由もはっきりしないまま言い出してしまったために、ヒロトは返答に困ってしまった。自分は何が懸念でこんな言動に出てしまったのか。

 

 酒に酔ったシエルが心配だったのだろうか? いや、シエルは自分が心配するほど間抜けな女じゃない。

 

 ‥‥‥的確な返答が思い浮かばない。ヒロトは考えるのを止めた。

 

「冗談でもジョークでもない。‥‥‥たまには良いだろ」

 

 このヒロトの反応はシエルにはとても珍しいもので、しばらくキョトンとヒロトを見つめていたが。

 

 とても珍しく、同時にとても嬉しいことだった。

 

「‥‥‥うん!」

 

 その帰路、シエルは終始幸せそうにしていた――。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 ヒロトはシエルを家まで送り届けた。これで大丈夫。ヒロトも帰路に就く。

 

 ――ところが胸騒ぎは依然として治っていなかった。また記憶の錯綜が始まった。頭痛が強くなる。

 

 "このままではいけない"

 

 ヒロトは頭を押さえて、その場に屈み込んでしまった。

 

「おいおい‥‥‥何だよこれ。洒落にならんぞ‥‥‥!」

 

 ただ事ではない。頭の中で何かが暴走している。何が起こっているのか全く分からない。

 

 意識が遠退いていく。‥‥‥逆らえない。

 

 ヒロトは路上に倒れ、意識を失った――。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

「――おかえり」

 

 その声で俺は目覚める。声の主は――――カタストロ。辺りを見渡す。見慣れた風景、セシリーも居る。

 

 そこは俺の屋敷だった。

 

 そして俺はどういう訳か‥‥‥‥‥‥涙を流していた。

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