異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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86話 黒歴史

「記憶の旅はどうだった?」

 

「‥‥‥最悪な気分だな」

 

 カタストロの質問に、俺の口が自然とそう答えた。

 

 軽く頭痛がある。今と過去との記憶がぐちゃぐちゃだ。頭の中を泡立て器か何かで激しくかき混ぜられたような感じ。メレンゲもびっくりの泡立ち具合。

 

 目から涙がほろほろと溢れ出てくる。ああ、感情もぐちゃぐちゃになってるみたいだ。

 

 俺は一つ深呼吸をし、手で頬の涙を取り払った。カタストロが言う。

 

「あなたの記憶の片鱗を見せてもらったわ」

 

 ――思い出した。そういえば俺はカタストロの自然技能(ユニークスキル)を食らったんだった。

 

「‥‥‥俺、死んでないのか?」

 

「ヒロトって、随分と早とちりよね」

 

「お前の説明が足りな過ぎるんだよ」

 

 俺の言葉にピンと来ていない様子のカタストロ。飽くまでも俺に非があると思っているらしい。命があるだけ良かったと考えるべきなのだろうか。

 

「そんなことよりそこの‥‥‥えっと、セス‥‥‥セリ――」

 

「セシリーです」

 

 全然名前覚えないのな。

 

「そう、セシリー。しばらく席を外してくれる? ヒロトと二人で話したいの」

 

 俺の指摘を"そんなこと"呼ばわりでさておくカタストロ。果たして何を言い出すかと思えば、セシリーを追い出そうとするではないか。

 

「二人で話って‥‥‥、他人に聞かれたくない相談でもあるのか?」

 

「良いから。さぁセシリー、少しの間だけ屋外に出てて」

 

 カタストロは俺のジョークに全く取り合わず、セシリーに催促する。魔王軍幹部の命令なので逆らえないのだろうが、セシリーは心配そうに俺を一瞥した。

 

 ‥‥‥あれ? セシリーを覆っていたはずの境界壁(シールド)がなくなっている。俺が意識を失ったから解除されたのか。まぁ、カタストロの初見の技能(スキル)は回避できたはずなので問題ないだろう。

 

 さて、俺もカタストロの技能(スキル)から解放されたばかりで状況がよく呑み込めていないが、カタストロがこの期に及んで何か悪事を働くとは考え難い。

 

 俺は大丈夫だとセシリーに頷いてみせた。それを受けてセシリーも頷き返し、「失礼致します」と一礼して退室した。

 

「――で、カタストロ。お前の技能(スキル)の進化とやらに俺は何か貢献できたのか?」

 

 首を振るカタストロ。

 

「いいえ全く。それに関しては何も成果を得られなかったわ」

 

 俺は目と口をあんぐり開けて「は?」と一言。

 

「俺にしかできないことがあると煽てて、半ば強制的に技能(スキル)を発動しておきながら、"全く成果なし"はないだろ」

 

「あなたが悪い訳じゃないわ。原因はあなただけど」

 

「どっちなんだよ」

 

技能(スキル)がどうとか言ってる場合じゃなくなったのよ」

 

 カタストロの要領を得ない言い様に俺は首を傾げる。するとカタストロはそれまでにない鋭い目つきで俺を睨みつけた。

 

「――ヒロト、あんた一体何者なの?」

 

 俺の目は点になった。

 

「‥‥‥急にどうした?」

 

「あんたの従者(メイド)は知らないみたいだけど、他に誰がその事実を知っているの?」

 

「"その事実"がどの事実なのかピンと来ていないんだが。おれの記憶のどの部分を指して言っている?」

 

「それはあんたが――」

 

 ――知らないはずの俺の過去を、カタストロはすらすらと言い当ててしまった。俺が魔王軍幹部になった経緯も、レグリス王国で冒険者をやっていた時のことも、シエルとの関係も。それはもう、あんなことからこんなことまで何もかも。

 

「‥‥‥疑ってた訳じゃないが、ここまで全て正確に言い当てられると身の毛が弥立つな」

 

「本来は記憶を盗み見るための技能(スキル)じゃない。進化の過程でそこまで能力の解釈が広がったのよ」

 

「ああ、お前の技能(スキル)の凄さはよく分かった。‥‥‥けどな、"人生初のクエストで俺がチビったこと"とか"俺のギャグが通じなくて酒場の空気を凍らせたこと"とかそんな過去まで晒すのは流石に酷いだろ」

 

「私の技能(スキル)の効果が本物だと信じてもらうために言っただけよ」

 

「言わなくても充分信じるわ!!」

 

 羞恥心に赤面している俺を、カタストロは不可解そうに見ていた。ヤバい、どんどん羞恥心が高まっていく。

 

「どうしてそんなに怒っているの? 今ここには、記憶を見た私とその記憶の持ち主であるあなたしかいない。従者(メイド)も退室させた。私たちが互いに知っていることを確認しただけじゃない」

 

「そりゃそうだけど! わざわざ改めて言う必要ないだろって話だよ!! 恥ずかしい!! ああああああ!!!!」

 

 俺は羞恥心でしばらく落ち着きを失っていた――。

 

 

 

「――良い加減、気が済んだかしら?」

 

「‥‥‥ああ。だいぶ落ち着いたよ」

 

 俺は散々に叫び散らかして羞恥心を発散したのだった。まさか魔王軍に入ってから俺の黒歴史を掘り出されることになるとは全く思わなんだ。

 

 カタストロ、ある意味で(・・・・・)本当に恐ろしい奴だ。

 

「今日のところは帰るとするわ」

 

 神妙な面持ちで少し考えてから、カタストロはそう言った。

 

「もう良いのか?」

 

「何も良くない。寧ろやる事が増えた。だからそっちに取り掛かるのよ」

 

「‥‥‥よく分からないけど、大変そうだな」

 

「ヒロトのせいよ」

 

「えぇ‥‥‥?」

 

 結局カタストロが何をしたかったのか、終始分からなかったな。まぁ、何事もなく帰ってくれるんなら万事オーケーだけどね。

 

 俺は玄関口でカタストロを見送る。カタストロは去り際でこちらを振り返り、こう言い残した。

 

「また近い内に来るから、楽しみにしてなさい!」

 

 ‥‥‥俺は無言で手を振っていた。

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