異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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87話 ユンナ大陸

「さて‥‥‥。セシリー、居るかー?」

 

「はい」

 

 屋敷に入ってから俺がそう呼びかけるや否や、セシリーはどこからともなく現れた。忍者かこいつ。

 

「カタストロはやることが増えたからって帰ったよ。ティアナたちを呼び戻さないとな」

 

「承知致しました、連絡しておきます。――あの、ヒロト様」

 

「ん、どうした?」

 

「‥‥‥‥‥‥いえ、何でもございません」

 

 セシリーは浮かない表情で何かを言おうとして、しかしそうしなかった。俺に頭を下げてから踵を返すセシリー。俺はその背中を少し見つめた。

 

「‥‥‥まぁ、いっか」

 

 本人が何でもないと言っているんだ。何を言おうとしたのか気にはなるが、こちらから詮索するのは止めておこう。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 クーゲラス大陸に隣り合うユンナ大陸。そこはとある所以により、大陸の北部と南部で分たれていた。

 

大陸南部には締めて十七の国と村があり、人間たちで賑わっていた。しかし大陸北部に人間の国は一切なく、また近寄る人間も居なかった。

 

 北部のどの地帯にも強力な魔獣が棲みついており、魔素に満ちたどんよりとした空気が蔓延っていた。人間たちの間でこの大陸北部は"魔の領域"と呼ばれている。

 

 そんなユンナ大陸の最北端に、その城はあった。

 

 人間が領土を拡大できず、そこが魔獣で溢れている最大の要因。ユンナ大陸の大半をたった一人で支配し、人間は愚か、同族の者でさえ恐れ慄く存在。

 

「お帰りなさいませ」

 

 深く頭を下げる従者(メイド)のアリエル。その先に立っているのは、魔王軍幹部が一人――カタストロ。

 

「ただいま」

 

 ヒロトの屋敷を出てから三十分と経たない内に自分の城まで帰り着いていた。

 

「新任の幹部様は如何でしたか?」

 

 アリエルの質問にカタストロはニヤリと笑んだ。

 

「面白いヤツだった!」

 

 アリエルは両眼を失明しているため、カタストロの表情を視ることができない。だが、その声音や呼吸の調子からおよそ理解することができる。

 

「左様でございましたか。それは何よりでございます」

 

 アリエルはカタストロが嬉しそうだと分かった。しかし、どうやらそれだけではないらしいことも同時に分かった。

 

「――例の件はどうなってる?」

 

「はい、"剣聖アルフラウドによる魔獣狩り"は徐々にその猛威を増しているようです」

 

 ――二月ほど前、魔の領域に踏み入った集団が現れた。

 

 剣聖アルフラウド率いる兵士団。ユンナ大陸のどの国の所属でもないらしく、他の大陸から海を渡って来たと推察される謎の兵士団。

 

 魔の領域に生息する魔獣は魔素を蓄えただけの普通の魔獣ではない。カタストロの実験によって飛躍的に凶暴化しており、それまで人間では討伐不可能とされていた。

 

 その兵士団は魔獣の討伐に成功したのだ。兵士たちの戦力もさることながら、剣聖アルフラウドが常軌を逸した強さだった。

 

 アリエルが調査を行ったところ、何体かの魔獣はたった一太刀で両断されており、その断面は火に炙ったかのように肉が焼け爛れていた。

 

 剣聖アルフラウドによる魔獣狩りは徐々に猛威を増し、二月を経ていよいよ看過できないレベルにまで達していた。

 

「大陸北部において、既におよそ二割の魔獣が討伐されています。勢いが留まる気配はなく、或いはカタストロ様を狙っている可能性も」

 

「ええ。でもヒロトのおかげで、その剣聖とやらの素性は分かったわ。えっと、アルラ‥‥‥アリド‥‥‥」

 

「アルフラウドです」

 

「そう、アルフラウド。そいつは隣の大陸の人間よ」

 

 カタストロはヒロトの記憶の中でアルフラウドを見た。

 

 剣聖アルフラウド。レグリス王国における王国兵士団の団長(トップ)にして、最強の剣士。

 

 ヒロトと直接的な関わりはほとんどないが、そんなヒロトの記憶にも名が残っているほどの人物。

 

「何故、わざわざ海を渡ってこちらへ攻めてくるのでしょうか?」

 

「さぁ。そんなの知ったことじゃないけど‥‥‥‥‥‥これ以上私の領地を土足で踏み荒らすというのなら――」

 

 何かを察したアリエルは瞬時に後退した。

 

 風が立ち、カタストロの周囲に渦巻く。地が響き、草葉や砂利を踊らせる。そしてカタストロは、オッドアイを煌めかせていた。

 

「私が直接手を下すしかないわね」

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