異世界転生から3年。人間だけど、魔王軍幹部としてダラダラしてます   作:ラハズ みゝ

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90話 大きな差

 "魔王軍に復讐を果たすため"。ミェルが冒険者になる理由を、コニーは当時から知っていた。

 

 ミェルは一年前に、魔王軍幹部の襲撃によって姉を失っている。

 

 個人(ソロ)五位のAクラス冒険者となった今、彼女はいよいよ本気で魔王軍と戦うつもりなのだとコニーは不安になった。

 

「‥‥‥魔王軍に対するミェルちゃんの怒りはよく分かるよ。でも、危険すぎる。もっと冷静に考えるべきだよ」

 

「ちゃんと考えました。闇雲に敵陣に乗り込むつもりはありません。冒険者として魔王軍の情報を集めて、確実に姉を殺した本人を特定します」

 

「そういうことじゃなくて‥‥‥。魔王軍は何百年もの歴史がある、とてつもなく強大な組織だ。不用意に関わるべきじゃない」

 

 一年前の魔王軍幹部襲撃は、コニーも同様に経験しており、その恐ろしさを身を以て理解している。どうにかミェルを説得しようと試みるが、ミェルの決意が揺らぐ気配はなく。

 

「魔王軍がとても強いのは分かっています。でも、だからって諦める訳にはいきません。姉を殺したこと、私は絶対に許さない」

 

 寧ろミェルの怒りが増幅していく。

 

「ミェルちゃん、この国には勇者一党がいる。魔王軍と第一線で戦う人たちだ。きっと彼らがお姉さんの仇を取ってくれる。ミェルちゃんがその戦線に立つ必要はないんだよ」

 

「私の手で仇を取りたいんです。私がやらなきゃ駄目なんです」

 

 コニーは顔をしかめた。ミェルは頑なに考えを変えようとしない。一体、何が彼女をこうも執念深くしているのか?

 

「‥‥‥だったら、せめてパーティーを組むべきだ。仲間を探さないと」

 

「他人に迷惑をかけたくないんです」

 

「一人なんてあまりに無謀だよ。せっかくミェルちゃんは強いんだから、募集すれば人は集まるはず。魔王軍と戦うことにだって、きっと協力してくれる人がいる」

 

 ミェルは首を横に振った。コニーはさらに言葉をかけようとするが、ミェルの言葉の方が早かった。

 

「協力してもらえるかどうかじゃないんです。これは私の問題なんです。"勇者に任せる"とか、"他の冒険者を頼る"じゃ意味がないんです。私が姉の復讐を誓ったんだから、私がやらなきゃ駄目なんです!」

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

 あの時のミェルの言葉で受けた衝撃を、コニーは未だに忘れられないでいた。

 

 物思いに耽るあまり、コニーは気づかぬ内に集団の最後尾をゆっくり走っていた。視線はずっと自分の足元から離れず、ひた悩む。

 

 ――あの時、自分とミェルとの間にある大きな"差"を目に見えるほど実感した。

 

 彼女は主体的なのだ。

 

 いくら肉親を殺されたとはいえ相手が魔王軍では、自分なら復讐心よりも恐怖心が勝ってしまう。自分より強い勇者がいるんだから彼らを頼めば良いと思ってしまう。

 

 ミェルは自分で決心し、自分の力でそれを成し遂げようとしている。なぜ、そこまで主体的に行動できるのか‥‥‥?

 

 彼女が強いから? 彼女に冒険者としてのセンスがあるから?

 

 コニーにはその理由がまだ分からない。

 

「――次のメニューに移る! 全員集合だ!!」

 

 指南役のかけ声でコニーの思案は中断され、兵士らはランニングをやめて指南役の方へ向かう。

 

 

 *  *  *  *  *

 

 

「ティアナとターギー、ただいま戻りました」

「ご無事か!? セシリー!! ヒロト様!!」

 

 凄まじい轟音とともに二人は忽然と屋敷前に現れ、口々にそう言った。俺はソファーベッドに寝転がりながら、窓越しにターギーがティアナを背負っているのが分かった。

 

 バイクにでも乗ってたのかってスピード感で帰ってきたな。ターギーの身体能力は底が知れない。‥‥‥もう驚かないけど。

 

 セシリーが玄関の鍵を開け、二人を迎え入れる。

 

「セシリー、無事だったみたいね」

「何も被害はなかったか!? 屋敷を破壊されてはいないか!?」

「はい、大丈夫です。お二人の方こそ、何事もないようで安心しました」

 

 玄関からそんなやり取りが聞こえてくる。ティアナたちもやはりカタストロのことを相当に警戒していたらしい。

 

 俺はソファーベッドに寝転がったまま、一人で感心していた。セシリーたちは互いの身の上を案じ、そして無事を喜んでいる。

 

 主人を最優先とした自己犠牲な考え方がすっかり消えている。ターギーもちゃんと仲間想いな奴だ。本人は金のためとか言いそうだが‥‥‥、雇ったことは間違いじゃなかったな。

 

 さて。魔王軍会議も無事に終わったことだし、のんびりダラダラするとしよう。

 

 "謎組織の間者"とか"技能(スキル)の進化"とか、ここ最近は舞い込んでくる情報量が多過ぎて頭がパンクしそうだ。

 

 休養は大切。今後の職務に支障をきたさないよう、今の内にダラダラしておくのだ。

 

 ――え? お前は会議中も何もせずダラけてただろうって? 二十四時間ずっと休養しかしてないだろうって?

 

 心外だな! 今回ばかりは俺も頑張ってただろう!? 今までで一番まともに魔王軍幹部として働いてたと思うぞ!? 少しくらい休ませてくれよ。明日から――いや、明後日‥‥‥来週! 来週からまたちゃんと頑張るから。

 

 

 

 うーん、やっぱり来月から頑張ることにしよう! 休養は大切だからな! それじゃ、おやすみ!!

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