『オィ!!! 人の気配がするぞッ.....そっちはどうだッ!?!?』
『私には分からない。』
『チッ………そうかよッ!!!』
次第に声が強まってきている。語気の強く荒々しい喋り方、それと対照的なのが、冷たくそして感情という感情の類を感じさせないような平坦で抑揚のない返事のそれ。
……………なんだろう。
違う………
なんだろうじゃない。
レイチェル達だ………
まさに寝ようとしていたときだった…………
えぇ……と、まずはカボチャを被り直して
…その前に目が充血してるから………
目薬を差して……
あぁ、ツーンとする。
こよカボチャの被り物がなかったら、私はさぞ滑稽な姿になってしまったのだろう。キャラ立ち要素くらいにしか期待していなかったが、意外と役に立ってくれるもんだ。
『ぁあ?んだよ、その被り物はよぉ!?!?』
『確かに先鋭的なセンスだと、思う。』
慌てている私を見られたら、こう言われる光景が想像つく。少し笑ってしまう。
でも、2人とも本編ではそんな場合じゃなかったんだっけ。
こちらを向かってくる2人と目が合った。
『ァア!?お前かァ???ここのボスはよぉ.......?』
『…………』
レイチェルは私の被り物について気になってるみたいだ。
本編ではこんな初対面じゃなかったからなんだかシュールだ。戦闘状態だったらもっと殺伐としてる。
にしても、こちらに向ける視線は敵意に満ちている。ごく自然な反応なのだろう。
もし私のセンスを疑っているなら、先ほどから墓の中で気絶している少年に言ってほしい。
ん……
いや思ったより警戒しているな
……なんでだろう。
私は自分の今の格好を確認する。それ自体は本編と変わらないはず。
だが、服全体に広がる血は………
2人にしてみれば今の私は
血まみれだ。
私が墓の掃除をしていた時に付着したものだろう。
乾いた血が付着するなど考えにくい。
掃除中に乾いていた血に水分を含んだことで、そう見えるだけだ。
実態はただの錯覚。
この血の要因そのものは恐らくあの少年、エディの仕業だろう。墓に血がこびりついているものがあった。過去にここで誰かと争ったのだろうか。
『やあ、君がレイチェルかい...........?隣にいるザックの方はお邪魔だけど・・・レイチェル……?…君なら僕のお墓に入ってくれるよね……!!』
エディについてはあんまり印象に残っていない。
本編で特に印象深かったのはダニーだ。
マッドサイエンティストっぽさがあるキャラというのは定番だけどホラー系では色褪せない魅力がある。
人間としては理解し難いがキャラとしては好きだった。
今頃は........
ザックに返り討ちを受けたことで気絶している頃合いだろうか。
仕掛けておいた監視カメラはどうなってるだろう。確認しておこうか。死角に配置してあるから、流石に問題なく見られる状態のままだと思うんだけどな。
『お墓……???』
レイチェルには私の意図が伝わっていない。
『ァア? この薄気味悪いコイツラのことかッ?』
ジロリと墓の方を見渡してザックは不機嫌そうに反応する。
それで、どうしようか。
時間を稼ぎつつ、考える。
『気味が悪いなんて………ザック、君は酷いことを言うんだね。
………ねえ!!!
レイチェルは気に入ってくれたよね………』
そろそろだろうか……???
突然、フロアの電気がきれた。真っ暗闇だ。
『レイチェル?どこにいるんだい………???』
これは僕………というかエディが仕組んでいたものだ。
墓掃除をしていたときにフロアの点検をしていた。そのときに時限式にバッテリーが落ちる仕掛けを施されていた。
今の状況では好都合。利用させてもらうことにしようか。
2人はどこにいるだろうか。彷徨っていてほしいが……
レイチェルの位置だが、暗視ゴーグルによってなんとなくだが追えている。
ただこれからどうするかだ……
上手くやらないと本編と同様ザックに殺される。本物でも殺されてるんだ。偽物なんだから本物以上に上手くやらないと確実にそうなるに決まっている。
結果として、かなり長い戦いになってしまった。
原因は明らかだ。
まともな戦い方なんて知らないから逃げ続けていたというだけ。何か使えそうなものを探していた。不意打ちならできそうだけど、その間にも僕が見えてない筈のザックには鎌で斬りつけられそうになった。ザックに対応しないといけないので、レイチェルは途中から見失った。
つまり、逃げ続けていたのだ。
そして..........気づくと私はザックに斬られる一歩手前にいた。
『分かった、ザック、レイチェル、僕がこの先を先導しよう。それで手打ちにしようじゃないか。』
賭け………か?
『なぜ心変わりしたのか聞きたいっていう顔だね、ザック?』
『別に理由なんてどうでもいいッ!!!どうせ意味分かんねェこと言い出すに決まってるだろうがッ!!!いいからとっととテメェが墓に入り………』
『待って、ザックっ!!!!!』
あと少し遅れていたら死んでいたかもしれない。
催涙スプレーの予備があるので数秒は稼いで、大勢を立て直せたか。ただザックに効くのかという問題がある。
『待って、この人達が言ってるのは本当だと思う。ザックみたいにフロアボス達が情報を共有しているのなら、私たちが知らないことも知っているかもしれない。』
『(ああっ!?んだよ、コイツが嘘ついてたらどうするんだよ』)
『(そうだとしても、ザックの情報からしてこのフロアから共に出た時点でザックみたいに敵対的扱いを受けるんだよね?もし命乞いのための嘘だとしても私たちにとっては不利益より利益の方が大きいはず。)』
『(..........チッ、わーぁったよ、オメェがそういうんだからそうなんだろう、そうしりゃあいいんだろッ!?)』
『(ありがとう………)』
さっきから会話が全部聞こえているんだけどな。
既に距離が縮まってるのだろうか?
距離が離れてるから大丈夫だろうと思うのかもしれないが、戦闘しているさきほどの状態ならまだしも今は話の内容も耳で追える。
『おいっ、案内しやがれッ!!!気が変わった、そんなことはどうでもいい。………言っておくがお前を信じたわけじゃねェ、少しでも可笑しなことをしてみろ。一瞬で後悔させてやる。』
『怖いねぇ、ザック。ねぇ、レイチェル?こんな乱暴な男はここに置き去りにして僕と一緒に進む方がいいと思うよ?』
『ごめんなさい。ザックには私を殺してもらうっていう約束をしたから………』
そうだったな。
その約束は絶えず呪文のように繰り返されていたのを知っている。
『ふーん、まぁ、いいや。はやく行こうよ。なんだか最近は他の奴らの価値観が僕に合わなくなってきたみたいだからさ......レイチェルに無理強いはしないでおくよ。』
『…………』
そうして、私こと偽エディはレイチェルの手を引っ張っていく。
『おいッ、待ちやがれ………!!!!オレを置いていくつもりか!?!?』
『…………』
無言。
流石に耐えられなくなりそうだ。
何か喋ってくれないかなあ……レイチェル。
僕の会話ストックも無限じゃないよ..........